医学界新聞

連載

2013.07.22

なかなか教えてもらえない
看護研究発表の「キホン」と「コツ」!

【第10回】(最終回)
「研究」は臨床現場からの新しい情報の発信
小さな発表からはじめてみよう!

新美 三由紀(佐久総合病院看護部)


3032号よりつづく

この連載では,みなさんに「研究発表してみたいな」とか「もっと研究発表してもいいかな」と少しでも思ってもらえるように,研究発表のキホンとコツをギュッと凝縮してすぐに使えるノウハウを解説します。


 10回シリーズで,研究発表のキホンとコツをお話ししてきました。限られた紙面の中で詳細に解説することは難しいため,臨床現場の看護師向けに,キホンとコツに絞って書いてきましたが,参考になりましたでしょうか。

 本連載で一番お伝えしたかったことは,「発表の仕方によって,研究で得られた情報の伝わり方は変わる」ということです。さまざまな学会に参加して思うことは,看護師の研究も医師の研究も,臨床に根差した研究はとても面白いし,重要な情報が含まれている。にもかかわらず,その情報がきちんと伝わっていない発表が多く,もったいないと感じたことから,本連載がスタートしました。

患者さんのご協力に応える研究をするために

 当院では,毎年地域のお祭りが行われる日に合わせて,病院祭を行っています。治療・疾病予防・介護・訪問診療等についての活動を地域住民に紹介し,交流する場として開催しており,今年は約1万7,400人が来場しました。この病院祭で,私は看護研究を含めた臨床研究・疫学研究について説明する機会をいただきました(写真)。看護研究は,たとえカルテに書かれた情報のみを用いる観察研究や症例報告であっても,患者さんやそのご家族,地域の方々の同意や協力なしには成り立ちません。多くの患者さんやご家族にお話しできるこのような機会に,少しでも研究を身近に感じてもらい,研究とはいったい何なのか,なぜ研究が必要なのかを知っていただくのは,とても大切なこと。そして,私たちにとっても,研究をするにあたって患者さんのご協力を無駄にせず,意味のある研究をしようと,あらためて思い直す機会となります。

写真 当院の病院祭で地域住民向けに発表したポスター「研究・けんきゅう・KenQって…なに?」。看護研究とは何か,という問いに答えるのは,難しい仕事ですが,研究は患者さんからの理解があってこそ。患者さんや一般の方々に説明する機会があれば,ぜひ挑戦してみてください。

 研究をうまく伝えられるようになったなら,もう一度基本に立ち返り,研究の意義でもある「知識を臨床で利用してもらうこと」についてもしっかり考えたいですね。最終回の本稿では,研究で得られた知識を価値(意味)あるものにする方法についてお話ししたいと思います。

あなたの研究は"業務報告"になっていませんか?

 日々の実践を通して,臨床看護師はクリニカルクエスチョン(臨床の疑問)をたくさん持っています。それをうまく看護研究のテーマやリサーチクエスチョン(研究仮説)として取り上げれば,非常に有益な知識が得られることでしょう。しかし,せっかく得られた知識の価値を損ねてしまうピットフォールがあるのです。それは,「業務報告で終わってしまう」ことです。

 業務報告とは,看護師個人やチームの看護経験を振り返るだけのものや,各病院での取り組みを報告するだけのもの,個人的な反省や感想が盛り込まれたものです。もちろん,反省を次に生かし,院内で同じ問題を繰り返さないためには報告は必要ですから,院内で発表するのはとても大切です。しかし,研究的な要素は少ないでしょう。

 業務報告と臨床研究が異なる点は2つあります。1つ目は,新規性の有無です。研究というものは,先行研究との関係を明確にした上で,その研究活動によって得られた"新しい情報"を含んでいなければなりません。一方,業務報告でも,優れた看護ケアや看護理論を取り上げて自らの事例で検討したり,考察したりすることはあると思いますが,こうした理論はすでに確立されているものです。そこから新しい情報や知識はほとんど得ることは極めて難しいと言えるでしょう。

 このように説明すると,新しい知見を発見するなんて私にはできない,と諦めてしまう人も多いかもしれません。しかし,実は少し視点を変えれば,世の中にはわからないこと,まだはっきりしないことがたくさんあります。例えば,学会などの研究結果を見て,「当たり前の結果だよね」と反応する人がいますが,多くの看護師が心の中で当たり前と思っていたとしても,分析データから得られた結果として示されていなければ,それは明らかとは言えません。むしろ,計画に沿って研究を実施し,"当たり前"を明らかにしたのであれば,素晴らしい研究成果と言えます。すでに自明のようなテーマでも,実は明らかにされていないことは多いのです。

 臨床現場で何か疑問に思うことがあれば,まずは過去に誰かが研究した課題かどうかを,医学中央雑誌(医中誌)などの論文情報の検索サービスを使って調べてみましょう。そのクリニカルクエスチョンも,実はまだ解決されていないかもしれません。

他の医療者に利用され,普遍化される研究発表を

 もう一つの異なる点は,普遍性の有無です。学会では,その施設や病棟の場合にしか当てはまらないような限局的な報告がしばしば発表されていますが,こうした内容も業務報告となってしまう可能性が高いと言えます。

 臨床研究を行う上で必要な知識が系統的に書かれている教科書が,米国国立衛生研究所(National Institute of Health)から出版されています()。これによると,「"臨床研究"とは,人を対象とし,人の健康と福祉を改善させるために計画され,普遍化できる知識を増大させる行為」と説明されています。つまり,手順に則って得られた知識が,ただ発表されるだけではなく,新しい情報として他の看護師や医療者に伝えられ,利用され,普遍化されることこそが,臨床研究における大切な意義なのです。

 では,研究を業務報告のような限局的なものにしてしまわないためには,何に気を付ければよいのでしょうか。重要なことは,どの部分が他の病院でも使えるか,普遍化・一般化できる情報や知識になり得るのかを,計画時点から意識することです。

 例えば,対象を自施設に限ったとしても,他の病院にも当てはめられるような結果(エビデンス)を導き出したり,自施設で作った新しい仕組み(体制やプログラム等)から他施設でも導入可能なモデルを提示したりすることができれば,普遍性という点で意味が生じます。

 "業務報告"になってしまっている発表では,そもそもリサーチクエスチョンを提示する「目的」部分と,その答えを明示しているはずの「結論」部分とが対応していないものが,しばしば見られます。研究のどの部分が普遍化・一般化できるのかを,他人が読み取ることは容易ではないので,きちんと明示するのがよいでしょう。皆さんも,計画時点ではリサーチクエスチョンを,発表時には目的と結論の論理性をもう一度見直してみてください。

 「研究とは何か」を知れば知るほど,研究が難しく感じられて,臨床看護師はどんどん研究から遠ざかってしまうかもしれません。でも,小さな発見,小さな情報であっても,意味のある新しい情報が得られたのであれば,それはとても価値のある研究に違いありません。学会には,情報共有・情報交換という重要な目的があります。単に人の研究発表を聞くためだけではなく,皆さんから積極的に情報発信をしていただきたいのです。

 研究は面倒,発表は苦手,と決めつけないで,小さな発表からはじめてみてください。特に初めての方は,地方会や小さな研究会で,肩肘を張らずに,研究のエビデンスレベルにこだわらずに,日常臨床で苦労した看護について情報や意見の交換をしてみてください。院内だけに留まらず,院外で発表し,情報交換することが重要なのです。そうしたら,きっと看護研究・臨床研究を本格的にやってみたいと思えるときがくるのではないでしょうか。

(了)

: Gallin JI. Principles and Practice of Clinical Research, Third Edition. Academic Press; 2002.(井村裕夫監修.NIH 臨床研究の基本と実際.丸善; 2004.)

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