医学界新聞

2013.07.15

患者にも医療者にも幸せな緩和ケア

第18回日本緩和医療学会開催


 第18回日本緩和医療学会(会長=藤田保衛大・東口高志氏)が,6月21-22日,「いきいきと生き,幸せに逝く」をテーマに,パシフィコ横浜(横浜市)で開催された。本紙では,せん妄の重症化予防と適切なケアについて論じたシンポジウムと,がん以外の疾患に対する緩和ケアの実践や最新の研究結果を紹介したシンポジウムのもようを報告する。


せん妄ケアはどこまで進んだか

東口高志会長
 シンポジウム「せん妄のケア,マネジメントの進歩と問題点」(座長=名市大大学院・明智龍雄氏,国立がん研究センター東病院・木下寛也氏)では,術後や終末期に生じるせん妄について,患者・家族および医療者の負担を軽減するケアの在り方が論じられた。

 看護師には,患者に最も近い医療者として,せん妄の発見・経過のモニタリングと,促進因子への関与が求められる。山内典子氏は,女子医大病院にて精神科医,麻酔科医,精神・がん等の専門看護師によるチーム「T-MAD」を結成,せん妄ケアの実践力向上に取り組む。氏は,教育プログラムにより看護師の早期発見能力が向上したとしつつ,早期対応にはいまだ課題が残ると指摘。患者の視点を理解し,環境要因の排除や,“気がかり”を解決する介入で,“安楽・安心”を確保することが,“安全”なケアにもつながると主張した。

 小川朝生氏(国立がん研究センター東病院)は,がん治療中に発症するせん妄に対し,(1)気付く力を高める,(2)確定診断前のハイリスク状態に対応できる,(3)医療者間のコミュニケーションツールの開発,を目標に介入プログラムを作成。多職種による予防的介入がせん妄の発症率を低下させることから,本年度より同院の全職員を対象にワークショップを行うとともに,協力施設も募集しているという。

 終末期のせん妄ケアにおいて患者家族が求めるのは“患者の不穏を緩和しつつ,コミュニケーションを取り続けられること”と報告したのは森田達也氏(聖隷浜松病院)。医療者には,発症原因を明確に説明すること,せん妄から生じる言動を否定的にとらえないこと,意識が混濁する前に別離の準備を勧めること,などが求められるという。また,せん妄のケアについてまとめたリーフレットを患者家族向けに作成したことで,知識レベルの改善が図られ,今後の経過予測や,他の家族への容態説明などに役立った例も示した。

 不眠症治療薬として発売されているラメルテオンの適応外使用による,がん患者のせん妄への有用性を論じたのは上村恵一氏(市立札幌病院)。終末期のがん患者は,メラトニン分泌が日中に亢進,夜間に低下することで概日リズム障害が生じ,低活動型せん妄を発症すると推測される。氏は自院での同薬の使用例を後方視的に調査し,使用によってより長くコミュニケーションを維持できる可能性を示唆。今後の研究の進展に期待を寄せた。

 総合討論では「職種や診療科によってせん妄の定義が異なり,連携を難しくしている」「安全確保のための拘束と,ケアとの折り合いをどうつけるか」などの課題が示されるとともに,せん妄ケアの目標が「眠らせることでなく,コミュニケーションを取れること」であるとあらためて確認された。

非がん緩和ケアの充実・拡大を

 シンポジウム「非がん患者に対する緩和ケア」(座長=帝京大・江口研二氏,北里大・荻野美恵子氏)では,緩和ケアをがん疾患だけではなく,神経難病や心不全,認知症など非がん疾患の患者にも拡大すべく取り組まれている活動や研究の最新動向が報告された。

 WHOが2002年に示した緩和ケアの定義では,緩和ケアの対象はすべての疾患とされているが,現在の日本では,緩和ケアの概念は主にがんを対象にしか広まっていない。緩和ケア病棟の多くが受け入れ対象をがんもしくはHIV/AIDS患者のみとしていることや,苦痛除去を目的としたオピオイド処方の保険適用が主にがんのみであることが,対象の拡大を妨げているという。神経内科医の荻野氏は,ALS患者に対する疼痛管理を目的としたモルヒネ投与の保険適用を求めて6年間活動し,最終的には審査上の保険適用が厚労省から認められた経緯を報告。非がん疾患にも治療中や終末期に苦痛を伴うものがあり,緩和ケアを必要としている患者は多く存在することを訴えた。

 村瀬樹太郎氏(川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター)と西川満則氏(国立長寿医療研究センター)は,それぞれの施設での非がん患者を対象とした緩和ケアチームの活動を紹介。西川氏は同センターでのチーム活動を振り返り,非がん患者への緩和ケアでは,特に意思決定支援が求められていることを指摘し,患者や家族の意向に沿った意思決定支援を促した。

 「小児専門病院においても,疾患にかかわらず緩和ケアチームが必要」と主張したのは,静岡県立子ども病院の天野功二氏。緩和ケアを必要とする小児の絶対数は,成人と比較すると少ないが,疼痛管理だけではなく,発達面や親・きょうだいへのケア等のニーズが高く,小児特有の緩和ケアを充実させる必要性を訴えた。

 終末期の非がん患者は,がん患者よりも時間をかけてADLが低下するため,予後予測が立てにくいという問題点を指摘したのは斎藤信也氏(岡山大大学院)。在宅診療医を対象に行った調査では,半数以上が予後予測の困難さを感じながらも,予測と実際の転帰との差は小さく,また,予後予測に重要なのは訪問看護師との情報共有であることを明らかにした。

 間質性肺炎終末期における呼吸困難に対する塩酸モルヒネ持続注射の有効性を検討した松田能宣氏(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター)は,投与開始後2時間,4時間の時点で患者の呼吸困難NRSを有意に低下させる結果を提示。適切な量であれば呼吸抑制をきたす可能性も少ないと考察した。さらに,呼吸困難を改善することで,臨終間際の時間を家族と穏やかに過ごせた症例を紹介し,オピオイドの使用が質の高い臨終を実現させる可能性を示した。

いのちはめぐる――『葉っぱの四季 フレディ』

フィナーレには日野原氏も登場。手話で“いのちの循環”を訴える
 今学会では,NPO法人キャトル・リーフによる音楽劇『葉っぱの四季 フレディ』(原作=レオ・バスカーリア『葉っぱのフレディ』,原案・脚本=聖路加国際病院名誉院長・日野原重明氏)が上演された。

 同法人は,病院や福祉施設にてミュージカルを上演するボランティア団体で,学会プログラムの一環としての上演は初の試み。ある大きな樹の葉っぱ「フレディ」の一生を通し“すべてのいのちに生まれてきた意味がある”“誰にでも訪れる死を恐れない”というメッセージがクラシックの名曲に乗せて伝えられ,満員の会場は静かな感動に包まれた。

 なお,この日のもようは『病院』誌(医学書院)9月号にて紹介される予定。

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