医学界新聞

連載

2013.06.10

外来診療
次の一手

第15回(最終回)】「3日前から,右胸が痛いんです……」

前野哲博(筑波大学附属病院 総合診療科教授)=監修
小曽根早知子(筑波大学附属病院 総合診療科)=執筆


3026号よりつづく

 本連載では,「情報を集めながら考える」外来特有の思考ロジックを体験してもらうため,病歴のオープニングに当たる短い情報のみを提示します。限られた情報からどこまで診断に迫れるか,そして最も効率的な「次の一手」は何か,ぜひ皆さんも考えてみてください。


【症例】Oさん 38歳女性

Oさん 「3日前から,右胸が痛いんです」
Dr. M 「どんな感じの痛みですか?」
Oさん 「ズキズキというか,ジンジンするというか……」
Dr. M 「どんなときに痛みますか?」
Oさん 「ずっと痛いのですが,深呼吸するとさらに痛みが強くなります」

バイタルサイン:体温36.3℃,血圧108/62 mmHg,脈拍74回/分(整),呼吸数12回/分。

⇒次の一手は?

■読み取る

この病歴から言えることは?

 30代女性の片側性の胸痛の症例である。3日前からの症状であり,冠動脈病変が原因だとすれば経過が長い。「ズキズキ,ジンジンする」という痛みの性状だけでは原因を絞りにくい。痛みは持続性に加えて深呼吸で悪化しており,何らかの解剖学的変化が関与していると思われる。バイタルサインに大きな異常はなさそうだ。

■考える

鑑別診断:「本命」と「対抗」に何を挙げる?

 「本命」気胸などの胸膜性病変。健康成人に発症する可能性があり,深呼吸で症状が悪化する点は合致する。

 「対抗」筋骨格系病変。肋軟骨炎などに代表される筋骨格系病変は体動で悪化する痛みの典型例である。骨折の初期であれば持続性の安静時痛を伴ってもおかしくはない。なお,同じ筋骨格系の痛みでも,筋肉痛では安静時痛があることは考えにくい。

 「大穴」帯状疱疹,Mondor病など皮膚・皮下病変。片側性の痛みでは,帯状疱疹は必ず鑑別に挙げる必要がある。ただし,体動により悪化する痛みというよりは感覚過敏を伴うような電撃痛が典型的である。

■作戦

ズバッと診断に迫るために,次の一手は?

「痛みの部位がどこか,実際に見せてもらえますか?」

 詳細な病歴聴取ももちろん必要だが,服を脱がせて痛みの部位を確認することは必須である。肋軟骨炎や肋骨骨折であれば,痛みは病変部上に限局する。胸膜性病変であれば,それよりは痛みの範囲は比較的漠然としているはずである。帯状疱疹は,痛みに一致して帯状に疱疹を認めれば確定である。疱疹がなくても,痛みがデルマトームに一致して帯状に分布していればその可能性が高い。Mondor病は,痛みの部位に一致して索状物があれば診断できる。頻度は高くないが,安静時痛と体動で悪化する痛みという点では今回の症状に合致する。

その後

 患者の痛みは右胸部に縦に分布し,同部位には索状物を認め,Mondor病の診断となった。

■POINT

痛みの部位は,必ず服を脱がせて確認する!

(了)

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