医学界新聞

寄稿

2013.06.03

【寄稿】

プライマリ・ケア医や開業医も知っておきたい
患者さんが腎移植に抱く3つの誤解

今井 直彦(聖マリアンナ医科大学病院腎臓・高血圧内科)


 移植外来に紹介いただいた患者さんとお話しすると,腎移植に関していくつか誤解されている方が散見されます。慢性腎不全の患者さんのなかには,間違った思い込みのために,最初から腎移植を諦めてしまっている方もいるのではないでしょうか。

 本稿では,腎移植に関して患者さんに持たれがちな誤解について触れ,腎移植の最新情報を紹介いたします。

海外諸国に比べ,腎移植の少ない日本

 まず,日本と世界の腎移植の現状を見てみましょう。日本では,まだ腎移植が“特殊な医療である”という印象を持っている方が多いようです。しかし,日本の腎臓病診療を考える上で腎移植の選択肢は今後不可欠なものになると思われます。

 現在,腎代替療法は,血液透析や腹膜透析などの透析療法が主流となっています。その結果,透析患者の総数は30万人となり,2010年には新たに約3万8000人が透析を導入しています。一方,日本の腎移植は,10年ほど前よりその総数は年々増えており,2006年に年間1000例を超え,2011年には約1600例となっています()。

 わが国の透析患者および腎移植数の推移(文献1より作成)

 しかし海外と比較すると,日本の腎移植数は決して多くないと言わざるを得ません。国民人口約3億人の米国では毎年1万5000例前後も行われており,人口当たりに換算すると日本の約5倍の腎移植が行われていることになります(表1)。米国だけでなく,韓国と比べてもなお,腎代替療法に占める腎移植の割合は少ないのが現状です。

表1 2008年の日米の腎移植件数の比較(文献23より作成)

腎移植にまつわる3つの誤解

 なぜ日本では腎移植が少ないのでしょうか。腎移植の選択肢が選ばれない理由には,患者さんの間で信じられているいくつかの誤解が影響しているように思います。その誤解を解き明かしていきましょう。

◆誤解(1)

「血液型が異なると移植を受けられない」
 かつては,ドナーとレシピエントの血液型が一致していないと腎移植を受けられない時代が確かにありました。しかし現在では,どんな血液型の組み合わせでも腎移植が受けられるようになっています。輸血が不可能な組み合わせ(例;A型からB型,AB型からA型・B型・O型など)であっても,腎移植は可能なのです。

 この「血液型不適合腎移植」は,実は日本がパイオニアの役割を果たしてきました。年々,血液型不適合腎移植の数も増えており,今や国内腎移植患者の約25%を占めるようになっています。移植先進国と言われる米国でさえ,血液型不適合腎移植はほとんどなされていないことを考えると,「生体腎移植のドナーが親族に限られている」という日本の特殊な事情があるにせよ,先進的なことだと思います。

◆誤解(2)

「腎移植はお金がかかる」
 先述したとおり,日本では腎代替療法として透析(血液透析)が主流となっていますが,この透析医療が医療費を圧迫していることはよく知られているところです。

 医療経済の面から腎移植と血液透析を比較すると,初年度こそ腎移植は血液透析よりも医療費がかかってしまいますが,維持期になると血液透析よりも安くなります(表2)。最終的には,移植後,数年経過すると,医療費総額は腎移植のほうが下回るようになるのです。腎移植が,透析と比較して医療費抑制の面で優れている点はもっと強調されてよいと思われます。

表2 生体腎移植,血液透析にかかる医療費の比較(文献4より作成)

 では,実際に患者さんにはどのぐらいの負担がかかるのでしょうか。確かに医療費の1-3割を自己負担とすると,かなり高額となってしまうことになります。しかし,透析患者さんの多くは身体障害者1級を持っており,重度心身障害者医療費助成制度の適応となっています。これと同様に,腎移植も補助が受けられるので,本来高額の費用がかかるところ,せいぜい数万円の自己負担額で済むことになります。なお,これは後述する「先行的腎移植」を受けられる患者さんも同様です。

◆誤解(3)

「腎移植は透析患者しか受けられない」
 腎移植というと,「すでに透析を導入している患者さんが受ける治療」と思われている方が多いです。しかし,最近は透析を経ないで腎移植を実施することが推奨されています。この「透析を経ないで行われる腎移植」のことを,「先行的腎移植」といいます。

 この先行的腎移植が推奨されるようになった背景には,先行的腎移植のほうが,透析を経てからの腎移植と比較して,移植腎の生着率や移植患者の生存率が良好であるとわかってきたことがあります。しかし,日本は先行的腎移植患者の割合は全体の15%前後と,欧米と比較するとまだ少ないのが現状です。

 先行的腎移植を行う適切な時期は,慢性腎不全の第5期とされています。その後に必要な準備のことを考慮すると,先行的腎移植の候補となり得る患者の推定糸球体濾過量(eGFR)が20mL/分/1.73m2になった段階で移植施設へ一度ご紹介いただくよう,われわれの施設ではお願いしています。

 慢性腎不全の患者さんを診ているプライマリ・ケアや開業医の先生方には,患者さんの誤解を正していただき,一人でも多くの患者さんが腎移植を積極的に考えていただけるよう導いてほしいと思います。

文献
1)日本移植学会.臓器移植ファクトブック2011.
2)日本移植学会.臓器移植ファクトブック2009.
3)UNITED STATES RENAL DATA SYSTEM.Annual Data Report 2009.
4)仲谷達也,他.各臓器移植分野における医療経済:腎臓移植の医療経済.移植.2009:44(1):18-25.


今井直彦氏
1999年慶大医学部卒。同大病院にて研修後,東京歯大市川病院,慶大腎臓高血圧内科を経て,米国ニューヨークとミネソタで腎臓内科の臨床に携わる。日本食が恋しくなり,2010年に日本へ帰国。11年より現職。

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