医学界新聞

連載

2013.05.27

なかなか教えてもらえない
看護研究発表の「キホン」と「コツ」!

【第8回】
研究発表よりも難しい質疑応答
質問してみれば,どう回答すれば良いかがわかる

新美 三由紀(佐久総合病院看護部)


3024号よりつづく

この連載では,みなさんに「研究発表してみたいな」とか「もっと研究発表してもいいかな」と少しでも思ってもらえるように,研究発表のキホンとコツをギュッと凝縮してすぐに使えるノウハウを解説します。


 研究発表の後,「質問がこなくてよかったねー!」とニコニコ話している場面を時々目にします。本当にそうでしょうか?

 質問がこなかった理由をあらためて考えてみましょう。完璧すぎて質問する隙もない(本当でしょうか?),つまらなかった,何を言っているかよくわからなかった,そもそも聞いてなかった……。これらの理由で質問がこなかったのだとしたら,演者として寂しくなりませんか? 私ならとてもがっかりします。

質問は質疑応答の第一歩!

 質問に適切に答えることは大切なことですが,質疑応答の基本は,「質問すること」。まず質問してみると,どう答えてほしいかがわかるからです。

 しかし,質問するのは簡単なようでいて,実はとても難しい。見よう見まねで覚える人も多いかと思いますが,テキストにも書かれている一般的な質問の流れは以下のとおりです。

1)素早くマイクの前に移動し,挙手をします。会場の大きさや自分の座っている席によっては,挙手をしてからマイクの前に移動することもあります。
2)座長に指名されてから話します。勝手に話し始めてはいけません。
3)所属と名前を述べてから内容に入ります。座長や演者と顔見知りであっても,きちんと名乗りましょう。
4)まず,質問なのかコメントなのかを伝えます。
5)複数の質問をする場合,最初に質問がいくつあるかを述べ,1つ目,2つ目,と区切って質問します。
6)回答を得たら,お礼を述べて席に戻ります。

 4)と5)については,質問を受ける演者の立場になってみると,そのありがたさがよくわかります。質問者の中には,自分の経験や考えをダラダラと述べる人がおり,演者が一生懸命聞き取ろうとしても,いったいいつ質問が始まるのか(終わるのか)さえわからないこともあります。最終的に何も質問されずに終わり,「えっ,コメントだったの?」と思うこともあります。

 また,多くの質問をいくつもまとめて受けると,覚えているのが大変だということは容易に想像がつきます。もちろん,質問者の顔を見ながら質問内容を書き取れる演者もいますが,書き取ることに真剣になれば,なかなか相手を見ることができなくなる演者がいるのも仕方のないことでしょう。そうした状況を無視して,ただやみくもに質問していては,演者とのコミュニケーションは成立しません。

 研究発表はコミュニケーションの一つですから,質問者も回答者も,互いに相手を見て,相手が何を聞きたい・話したいと思っているのかを理解することで,適切な質疑応答ができると思います。ただ回答の練習だけをするのではなく,"質問者"としてのトレーニングが,"良い回答"へとつながるのです。

スマートに回答するには

 では,演者として質問を受けた場合には,どのような回答をすれば良いでしょうか。質問の仕方と同様,回答にも一般的な流れがあります。

1)質問者がマイクの前に立ったら,質問者を見ます。顔だけでなく,身体もそちらに向けると「あなたの質問を受けます」という気持ちが相手に伝わるでしょう。
2)質問が終わったら話し始めます。質問の途中で答え始めてはいけませんが,もし質問者が意図的に質問を区切って回答を待っている場合は,1つ目の回答を始めて構いません。
3)回答は結論から先に言い,その後に詳細や理由を述べます。できる限り,短い文章で端的に話すように心掛けましょう。
4)複数の質問を受けた場合,「1つ目の○○ですが,……」,「2つ目は……」,と区切って回答します。
5)座長が質疑応答の終了を告げたら,一礼して演台から離れます。

 「回答する際に,発表に使ったスライドをもう一度出してもらうことは可能ですか?」と聞かれることがありますが,原則としてスライドの再映写は困難と考えたほうが良いでしょう。小さな研究会やシンポジウムなら多少の融通が利くかもしれませんが,大きな学会会場では質疑応答の時間は裏方も次の発表準備に入っています。可能な限り,口頭で説明しましょう。座長が「後ほど個別に」と助け船を出してくれることもあります。

 また,よく見かけるのが,せっかくの質問に対して,演者がむきになって回答している場面です。もしかしたら,中には意地悪な質問を投げる人もいるかもしれませんが,聴衆のほとんどはあなたの発表に興味があり,もっと知りたいと思って質問してくれる人たちです。「私の研究に興味を持ってくれてありがとう」。そんな気持ちで受け答えをしてみてください。きっと,とてもスマートな回答ができると思います。

「質疑応答」のワンポイントアドバイス

<質問者として>
(1) ☑ 質問した後,その場で答えを聞いている人と席に戻る人がいて,どちらが良いかわからない。
(2) ☑ 質問に対してこちらが求めていた回答が得られなかった。

<回答者として>
(3) ☑ 会場が大きく薄暗いため,質問者がよく見えない。
(4) ☑ 質問を受けている間,メモを取ったほうが良いのか,相手を見ていたほうが良いのかわからない。
(5) ☑ 「ご質問ありがとうございます」と,質問者にまずはお礼を述べたほうが良いと言う人と,一つ覚えのように述べるのはおかしいと言う人がいる。
(6) ☑ 質問が聞き取れなかった,あるいは,何を聞かれたのかよく理解できなかった。
(7) ☑ 答えられない質問を受けてしまった。

チェックが付いたときの対処

〈質問者として〉
(1) 基本的には回答が終わるまでその場所で聞きましょう。せっかく演者が一生懸命回答しているのに,お尻を向けて席に戻ってしまっては,演者との間にコミュニケーションは生まれません。
(2) 回答中に相手の話を遮ってはいけませんが,質問の意図が誤解されているのなら,さりげなく言葉を変えて質問し直してみましょう。しかし,何度も繰り返して質疑応答の時間を一人で使い過ぎてはいけません。ほどほどのところで終了し,残りはセッション後に個別に質問しましょう。

〈回答者として〉
(3) 会場にいる相手からは壇上のあなたがしっかり見えていますから,できる限り視線を合わせるようにしてみましょう。
(4) 明快な質問であれば覚えていられるでしょうが,難しい質問や複数質問される場合もあるので,簡単なメモは取っても構いません。しかし,質問者を一度も見ずに下を向いてメモを取るなど,必死になり過ぎないよう気をつけましょう。
(5) 「ご質問ありがとうございます」というセリフは必須ではありません。ただし,本当にこの言葉を言いたいような場面(「その質問を待っていたの!」と思ったとき)や,舞い上がって拙速に回答してしまいそうで少し間を取りたい場面でなら,言っても構いません。
(6) ありがちなことで,恥ずかしいことではありません。質問者の側に問題があることもしばしばです。「○○はどうか,というご質問ですね?」のように,相手の質問を簡単に確認してから回答を始めましょう。
(7) これもよくあることです。無理に回答しようとせず,「○○については,今回は検討しておりません」のように素直に答えましょう。

COLUMN 有意義な質疑応答は座長の腕次第

 質疑応答は,研究発表における最大のコミュニケーションの場です。時には全く質問が出ないこともあり,そのときは座長が自ら質問することも必要でしょう。ただし,あらかじめ準備してきた質問を読み上げると,当日の発表とはズレた学習発表会のような質疑となってしまうこともあるので,座長であっても実際の発表を聞いて疑問に思ったことなどを質問したいものです。実は,会場も同じ疑問を持っているかもしれません。また,会場に質問したそうな人がいるのに,自分の経験や意見ばかりを話す座長も見たことがあります。座長の役を引き受けたからには,上手に会場から質問やコメントを導き出して,活発なコミュニケーションが生まれる質疑応答の場を作りたいですね。

つづく

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