医学界新聞

2013.03.25

第5回日本医療教授システム学会開催


 第5回日本医療教授システム学会が,3月7-9日,学術総合センター(東京都千代田区)にて浅香えみ子会長(獨協医大越谷病院)のもと開催された。基礎教育においては,2009年度のカリキュラム改正により看護実践能力強化や臨床現場へのスムーズな適応が図られ,卒後教育においては10年度に新人看護職員の臨床研修が努力義務化されるなど,看護教育は今,大きな転換点を迎えている。本会では「基礎教育と卒後教育のScaffolding」をテーマに,看護基礎教育から臨床教育への"足場(Scaffolding)"となる,より継続性の高く効率的な教育システムについて議論された。


浅香えみ子会長
 特別講演「基礎教育と継続教育の将来展望」では日看協の看護研修学校教育研究部長を務める渋谷美香氏が登壇。実地指導者・教育担当者を病棟全体でサポートする新人教育体制の構築のためには,指導環境の整備や,「何をもって"できた"とするか」という評価基準の再検討が求められるとした。また,少子高齢・多死社会の到来による医療ニーズの増大・多様化,チーム医療の推進などの潮流を踏まえた上で,「ジェネラリストの能力開発支援が必要」と強調。その内容については,フィジカルアセスメントや看取りなど,在宅を含めたあらゆる看護の場において,看護実践ができる基盤を形成することが重要との見解を示した。

 最後に氏は,人生設計を想定したキャリアパスに言及。「看護師としてのキャリアのゴールを考え,組織資源を活用しながら自らデザインしてほしい」と語り,キャリアパスに応じた能力開発を支援する観点が継続教育には必要であると助言した。

基礎から卒後に教育をつなぐ

 パネルディスカッション「ScaffoldingとFD」(座長=浅香氏)では,看護基礎教育と卒後臨床教育の現場からの報告,および2つの教育現場をつなぐ教材について提案がなされた。

 まず石井恵利佳氏(獨協医大越谷病院)が,同院での教育支援担当者育成の取り組みを発表した。基礎教育終了時の能力と,臨床現場で求められる能力の差に悩み離職する新卒看護師が多いなか,学習者と組織,双方のニーズを満たす教育システムを構築できる人材育成をめざし,集中研修や年間を通じた教育支援活動を実施。組織全体の理念や求められる看護師像を意識しつつ,各部署の教育計画の立案を行ったという。今後の課題として氏は,ラダーレベルの連動やOJTの積極的な実施,振り返りの充実などを挙げ,臨床での教育力向上と,より学びやすい環境づくりに意欲を見せた。

 基礎教育の立場からは平尾明美氏(神戸市看護大)が登壇した。氏は,職場や社会で活躍するためには,基礎学力や仕事の専門知識,コミュニケーション力などはもとより,根本にある人間性や基本的な生活習慣を整えることが必要と主張。看護の中核概念であるケアリングでも,正確な技術と知識に加え「患者を気に掛けること」が求められているとして,感情を揺さぶる体験などで豊かな人間性を育む一方,シミュレーション実習などでスキルを向上させるなど,基礎教育における両面からのアプローチの必要性を示唆した。

 佐伯街子氏(名大大学院)は,卒前・卒後教育をつなぐスマートフォン対応教材アプリの作成に取り組んでいる。教材は,看護師国家試験の過去問をベースに,新人看護師の主人公が「看護技術」「フィジカルアセスメント」「コミュニケーション」「先輩に相談」といったスキルを活用し,患者や家族の健康問題を解決していくストーリー仕立てのもの。氏は国試対策と同時に,臨床現場で役立つ学びを得られる教材にしたいと抱負を語った。

 総合討論では「臨床現場での人間関係の構築能力を高めるには?」という問いに対し,基礎教育では「双方向の演習などで交渉術を学ばせる」,臨床現場では「自己表現力に乏しい新人も多い。よく話をして人となりの把握に努める」などの助言がなされた。

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