医学界新聞

2013.03.18

Medical Library 書評・新刊案内


小児から高齢者までの姿勢保持
工学的視点を臨床に活かす 第2版

日本リハビリテーション工学協会SIG姿勢保持 編

《評 者》樫本 修(宮城県リハビリテーション支援センター)

姿勢保持の理論を学ぶ幅広い職種に役立つ書

 障害の有無にかかわらず姿勢を良くすることは,健康,教育,活動,就労,生活,コミュニケーション,余暇などすべての面で基本となる。座位姿勢を改善する効能が現場のリハスタッフはもちろんのこと,介護スタッフにも浸透しつつあり,補装具の判定現場では,姿勢改善や快適性を図る機能を有した車椅子や座位保持装置の支給件数が年々増えている。数年前,姿勢保持の理論をわかりやすく解説した本を求めていたときに出会ったのが本書の初版である。そしてここに,待望の第2版が刊行された。

 本書は「日本リハビリテーション工学協会SIG姿勢保持」のグループが編集し,2007年に初版が,5年目となる2012年の同じく8月15日に第2版が刊行された。SIGの代表である繁成剛氏が初版の序文で述べている「長年,姿勢保持装置の製作や適合作業に携わってきたエンジニアとセラピストが中心となって,これらの姿勢保持に関する支援技術を,初心者でも理解しやすい内容に集大成したもの」という表現が,第2版ではさらに納得ができるものとなっている。姿勢保持のチェックポイントが工学的な視点はもとより,実際に現場での苦労や処方に創意工夫をめぐらした,筆者たちの経験から出た生の声が随所に記載されている。読み手の経験に応じて教えられること,共感できること,納得できることなどがたくさん見つかるに違いない。

 姿勢保持に初心者の方は,第1章の姿勢保持の概要,歴史,装置の概要,押さえておきたいポイントまでを読むだけでも,姿勢保持の歴史を知り,基本的な考え方を学ぶことができる。そこには,単なる理論だけでなく,実際の処方現場で押さえておくべき基本姿勢が説いてある。「対象者を知り尽くした上でないと姿勢保持はできない」「子どもは基本を大切に,成人は応用と融通を利かせることが大切」「身体状況が同じように見えても原因によって支持方法は変わる」「使ってもらえる装置にする」「安定した楽な受け入れられる姿勢を見つけ出したい」など,本文中の随所に同感できる考え方が述べられている。姿勢保持の押さえておきたいポイントでは,どうしてこうするのかという考え方の基本が詰まっている。

 応用編ともいえる小児,高齢者の章では,疾患別特異性や年齢特性に基づいた姿勢保持の問題点とチェックポイントから始まっており,実践に役立てることができる。教育,療育の場,日常生活,介護施設において姿勢保持の援助方法や装置の実際,車椅子の工夫などを,豊富な図・写真を通して学ぶことができる。リハビリテーションの最終目標である生活支援と姿勢保持の章では,さまざまな活動場面や余暇での姿勢保持が紹介されている。さらに,最後に最近目まぐるしく変化した補装具費の支給制度が詳しく掲載されているのもうれしい。

 本書は,姿勢保持の教科書,入門書として,実際の処方現場での実践書としてなど,活用の仕方はさまざまである。これから姿勢保持を学ぼうという初心者からベテランのセラピスト,製作業者,医師や介護職など幅広い層に役立つ本書をぜひとも傍らに置いていただきたい。

B5・頁256 定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01541-7


ブルガダ三兄弟の心電図リーディング・メソッド82

野上 昭彦,小林 義典,鵜野 起久也,蜂谷 仁 訳
Josep Brugada,Pedro Brugada,Ramon Brugada 著

《評 者》大江 透(心臓病センター榊原病院研究部長)

従来の教科書では体験できない斬新な不整脈の解読メソッド

 Josep,Pedro,Ramonの三兄弟全員がそろって不整脈の世界的権威であることは,不整脈の歴史上まれなことである。また,研究面では臨床電気生理,分子生物学,臨床不整脈と異なる分野で活躍しているが,三人とも皆よき臨床家であり,教育にも非常に熱心であることは驚異である。私は同じ不整脈を専門としている関係で,三人全員と知り合うチャンスがあり,兄弟三人がお互いに異なる個性を持ちながらも非常に仲の良い兄弟であるということに感心している。

 このたび,ブルガダ三兄弟が協力してそれぞれが経験したたくさんの不整脈症例から,非常に興味がある症例や教育的に有用な82症例をまとめて『Our Most Beloved Electrocardiograms』(原書)と題して出版したことは,不整脈の教育や治療に携わっている者には大変な朗報である。また,この本が『ブルガダ三兄弟の心電図リーディング・メソッド82』として日本語に翻訳されたことは,日本の医師にとって大変喜ばしいことである。

 この本は,wide QRS tachycardia, narrow QRS tachycardiaおよび難解な12誘導心電図に読者が遭遇した状況を想定して,おのおのの心電図から診断の鍵となるポイントを読み取るコツ,特にP波・QRS波の形状,T波・QRS波に隠れているP波の同定,P波とQRS波の関係などを注意深く調べることの大切さを教えてくれる。さらに,これらの所見からどのように正確な診断に導くかの思考過程を詳しく解説してくれる。その意味では,日本語の題名である「心電図リーディング・メソッド」を文字通り実践してくれる。このような斬新な不整脈の解読のメソッドにより,従来の教科書からでは体験できない勉強ができる。実際,提示された心電図を自分で考え,次にその解説を読んでいくと,まるでブルガダ三兄弟が直接説明してくれるような気になる。また,一つひとつの症例にユーモアに富む題が付いているが,これも解説を読むと題の意味が理解される。

 この『Our Most Beloved Electrocardiograms』の日本語訳を担当した4人は,私と同様にブルガダ三兄弟と親交がある。日本で開催されている心電図判読コースをブルガダ三兄弟と一緒に支えてきた先生方なので,ブルガダ三兄弟が伝えたい意図を読者に正確に伝えてくれている。

 この本は,前期・後期研修医はもとより,不整脈に出合う機会が多い救急医療や循環器治療に携わっている医師,さらに不整脈の教育を担当している先生にとって楽しく勉強できる本である。

B5横・頁232 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01544-8


アナトミー・トレイン [DVD付]
徒手運動療法のための筋筋膜経線 第2版

トーマス・W・マイヤース 著
板場 英行,石井 慎一郎 訳

《評 者》藤縄 理(埼玉県立大教授・理学療法学/リハビリテーション学)

神経筋骨格系機能異常の評価治療に,新たな発展の可能性を提示する

 『アナトミー・トレイン(原題Anatomy Train――Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapists)』は筋筋膜の構造を臨床的および解剖的知見からまとめ上げた書である。筋膜(fascia)は運動の力や張力を伝達するすべての結合組織性の構造物を指し,筋筋膜(myofascia)は筋組織(筋)とそれに付随する結合組織網(筋膜)と結束して分離不可能な性質のものを示している(本文より)。本書は筋筋膜の連続体を「アナトミー・トレイン」と名付けた12本の筋筋膜経線(myofascial meridian)の体系として述べている。著者のThomas W. Myersは米国の免許を持つマッサージセラピストで,マッサージとボディーワークセラピストの認定を受けている。彼は,Ida Rolf博士が体系付けた筋筋膜に対する徒手療法であるRolf法の認定療法士であり,長年にわたって臨床と教育に携わっている。

 従来の解剖学は,人体を細分化し,骨格系,筋系,神経系,消化器系,呼吸器系,循環器系,泌尿器系,感覚器系などに分けている。一般的な解剖学の教育は人体の構造を学習するのに,各系について部分から全体を学ぶように行われている。その過程で「全身の複合体」である筋膜系は教育されていない。本書は筋骨格系を骨格とそれを結び付けて支えるゴム紐のような張力材からなる,テンセグリティー〔緊張(tension)と統合(integrity)を合わせた造語〕構造としてとらえている。骨格をはじめとするあらゆる臓器を張力材として結び付けているものが,全身に連続して分布している筋筋膜であり,12の筋筋膜経線(アナトミー・トレイン)からなる。各トレインは姿勢機能と運動機能に関連しており,本書ではそれらの異常を評価し治療する方法がトレインごとに具体的に述べられている。さらに,「運行中のアナトミー・トレイン」として姿勢や動作の分析方法を紹介し,「構造分析」として,全体的姿勢評価法について述べられている。付録のDVDには「アナトミー・トレイン」の概念,解剖により剖出した各トレインとその説明,姿勢機能と運動機能の評価法と治療手技についての動画と静止画が収載されており,書籍のページにはDVD参照マークが示されている。

 理学療法士は運動機能を評価し,その機能異常や障害の原因を見いだし,治療したり自己治療法などを指導したりする専門職である。その臨床推論過程では,骨関節系,筋筋膜系,神経系などのように系別に分析し,それらの機能異常や障害を分析し,統合していくというアプローチをとっている。しかし,筋筋膜の徒手療法を研鑽しているセラピストを除けば,連続体としての筋筋膜の機能とその異常というとらえ方はしていなかったように思う。本書は神経筋骨格系機能異常の評価治療において,新たな発展の可能性を提示している。

A4・頁332 定価6,825円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01558-5


Medicine
医学を変えた70の発見

William Bynum,Helen Bynum 編
鈴木 晃仁,鈴木 実佳 訳

《評 者》市野川 容孝(東大大学院教授・社会学)

豊富な図版とテーマ別の章立てで読み進めやすい歴史書

 テレビ・シリーズの『大草原の小さな家』に,たしかこんなシーンがあった。ローラが学校から家に帰ってくると,姉のメアリーが本を読んでいる。ローラが「何,読んでるの?」と尋ね,メアリーが「歴史の本よ」と答えると,ローラは次のように言って,そそくさと外に遊びに行ってしまう。「そんな死んだ人たちの話なんか読んで,何が面白いの。ぞっとしちゃう」。

 勉強しないで遊びに行くことを正当化するために,たぶんローラはそう言ったのだが,ローラのこの言葉はなかなか本質をついている。人間は今を大切に生きるべきであって,その今を昔のために費やすことに一体,何の意味があるのか。ローラに歴史の本を読ませるのは大変だ。今の自分につながる歴史の本でなければ,ローラは決して読んでくれないだろう。

 本書は医学の歴史に関する本である。ローラはこの本を読んでくれるだろうか。絶対に読んでくれると私は思う。それもきっとワクワクしながら。医療の歴史社会学というものを手がけてきたので,私も医学史の本はいくつか読んできたが,それらの多くは年代順に,誰がいつ何を発見したという具合に進む。多分,ローラなら途中で投げ出すだろう。しかし,本書は違う。医学が人の身体をどうとらえてきたか(第1章),病気にどう向き合ってきたか(第2章),どんな道具を用いてきたか(第3章),どんな病気とどういうふうに戦ってきたか(第4章),どんな薬がつくられてきたか(第5章),どんな手術法がどうやって生み出されたか(第6章)といったことが,年代順ではなく,テーマ別に書かれている。まずは医学について自分が知っていることを手がかりに,どこからでも読み始められる形になっている。ローラもこれなら手に取ってくれるはずだ。

 本書のもう一つの魅力は,豊富なカラー図版である。「一体,これは何の絵だろう」とまずは図版に目を通しながら,その後,本文を解説として読むという読み方もできる。この女の子は,なぜ左の写真ではこんなにやせているのに,右の写真ではローラみたいに健康なのか(本書270ページ)。それはインスリンという薬を投与されたから。なぜその薬が必要だったのか。糖尿病という病気にかかっていたから。じゃあ,糖尿病って何? 本書をそのように読み進めていくのも一案だろう。

 そのインスリンについて,本書は「善にも悪にも使える力をもった物質」と記し,1型糖尿病で1920年代にインスリンを投与された若者たちがその後,失明したり,腎臓障害になったことを「不愉快であるが認めなければならない真実」と伝えている。理由は全く違うが,姉のメアリーが後に失明するローラにとって,これは人ごとではないはずだ。本書の第三の特徴は,医学の歴史のそうした影の部分にもちゃんと光を当てていることである。私たちはそういった事実も本書から一つひとつ学びながら,今の医学を理解すべきだろう。

A4変・頁304 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01518-9


運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学

工藤 慎太郎 編著

《評 者》吉尾 雅春(千里リハビリテーション病院副院長)

理学療法士のための実践的な臨床解剖学的解説書

 『運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学』。なかなかいいネーミングの著書だと思う。

 解剖学書にはいろいろなものがあるが,臨床でみられるさまざまな問題の「なぜ?」に答えてくれることはあまりない。特に理学療法士が臨床で抱く疑問に対して,具体的に答えてくれることは稀有なことかもしれない。

 近年,視覚的に訴える解剖学書が多くなった。相対的位置的関係性を学ぶには都合がよいが,文字による解説があまりないため,「なぜ?」を考えることは難しい。そして何よりも問題に感じているのは,それらの解剖学書が医学モデルで医師の立場で書かれているということである。医師が臨床で課題にしていることと,理学療法士が課題にしていることとは,異なる点も多い。理学療法士が参考にする解剖学書で大切なことは,理学療法モデルで記されているということである。残念ながら,そのような解剖学書はこれまで存在していなかった。

 本書は,理学療法士によってまとめられた,理学療法士のための解剖学書,いや実践的な臨床解剖学的解説書と言ってよい。

 内容は胸郭出口症候群,腱板損傷,肩関節周囲炎,大腿骨頸部骨折,変形性膝関節症などの代表的な運動器疾患を20項目取り上げて,それぞれ3-5つの疑問に解説を加えている。例えば「第2章 腱板損傷」では,16歳の野球の右投手を症例として提示した上で,「左手で支えれば上がるのに,なぜ右だけでは手を上げられないのか?」「なぜ関節包側の腱板が損傷したのか?」「筋力低下を伴う棘下筋の萎縮はなぜ生じたのか?」「腱板縫合術後,肩甲骨面での挙上位で固定するのはなぜか?」という疑問を設定し,回答している。各項の末尾にはそれぞれの疑問に対する解説が簡潔にまとめられている。

 まず,三角筋や回旋腱板筋の構造や機能,検査法について述べ,腱板損傷のメカニズムを,解剖学的特徴と投球動作の両面から具体的に解説している。棘下筋に萎縮が観察されやすいのはなぜかに関する解説は,既存の解剖学書からだけでは不可能であろうと思える内容になっている。いくつかの論文を参考にしながらも,著者自身による肉眼的な解剖が意図的かつ詳細になされたことで可能な解説である。それは腱板縫合術後の固定に関する説明でも同様である。

 このような解説は,20章すべてにおいて随所に見られ,臨床家たる理学療法士の疑問に答えている。臨床とはすなわち具体的場面であるが,各章に配置されたコラムは非常に具体的で,その疾患に限らず問題を検討する際に有効な解剖学的ヒントになっている。

 できることならば,対象疾患を広げ,個別の疾患に限らずヒト全体に共通して言えることについてもまとめてほしいと思う。また,肉眼解剖で見た固定遺体には個別性があり,関節などの構造体は柔らかさや動きを犠牲にしている。そのため,解剖者が想像を巡らせて臨床課題の答えを求めざるを得ないことも多く,本書でもその点が散見されている。さらに突っ込んだ検証がなされ,理学療法士たちにとってより有効な著書となるよう,今後の発展にも期待したい書である。

B5・頁232 定価4,830円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01498-4

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