医学界新聞

連載

2013.01.14

「型」が身につくカルテの書き方

【第7講】病棟編(3) 生涯学習と連携に役立つ退院時要約

佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)


3005号よりつづく

「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。

本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。


カルテ記載例

【現病歴】78歳男性。1か月前から食思不振と体重減少,1週間前から黒色便を認め,内視鏡検査にて胃潰瘍と診断され入院となった。
【既往歴】【身体所見】【検査結果】(省略)(1)
【問題リスト】(2)   転帰
#1.胃潰瘍[11.1]→胃癌[11.6]→胃癌(cStageIIA)[11.12]→転院[11.14]
#2.悲観的言動[11.6]→適応障害[11.7]→軽快[11.14]
【入院後経過】
 内視鏡所見から胃潰瘍と診断し(初期評価),内科病棟入院し絶食補液・PPI静注での治療を開始した(初期計画)。(3)
 入院後は心窩部痛なく経過し,経口摂取も再開でき早期退院可能と考えていた(実際の経過・D)(4)が,入院後胃内視鏡検査時に行った潰瘍部の生検でGroup5・分化型腺癌が検出され(所見の再評価・S)(5),#1を「胃癌」と診断を修正し(プロブレム名の更新・A)(6),本人への告知と進行度・耐術能評価のための検査を追加した(計画の修正・P)(7)。しかし,告知後に検査の拒否や悲観的言動が見られ(D),精神科医と連携し適応障害として(S・A)支持的・共感的に対応(P)することで落ち着き,予定の検査を終えることができた(D)。諸検査の結果(後述(8))(S)からStageIIAの胃癌と診断し(A),手術目的で他院外科へ転院となった(P)。
【退院時病状】
 胃癌StageIIA→疼痛・倦怠感なし,経口摂取可能,体重+1 kg。
 適応障害→支持的対応で悲観的発言なく手術に前向き。
 退院時処方:オメプラゾール20mg1×,……(省略)
 退院後方針:○○病院消化器外科にて手術・化学療法予定。別紙紹介状あり。精神面のケア等は看護添書も参照。
【考察】
 本症例は当初良性疾患と判断され楽観的な見通しを持っていたが,途中で悪性疾患と診断されたことにより患者が精神的に動揺し,その後の診療に支障を来した。今後も同様のケースは想定されるため,「がん患者における適応障害」について考察する(9)。文献的にはがん患者の○割に適応障害が発生し,その危険因子は……,対応としては……とされる(参考文献:○○)(10)。本症例はこの危険因子を複数有しており,適応障害の発症は十分に予測できた(11)。今後も同様の症例では心理的反応を予測しながら先を読んだ対応を心がけるべきと考える(12)。

(1)第5講参照。未聴取だった既往歴などを入院後に追加聴取した場合,入院後経過内でなくここに追記しておいたほうが情報を探しやすい。
(2)第6講参照。日付を付けてプロブレム名の経過をまとめておくと,入院の全体像を簡単に把握しやすい。
(3)最初に入院時記録の「初期評価と計画」を記載する。
(4)予定している「計画:P」と「実際の経過:D」は別モノなので分けて記載する。
(5)症状変化や追加検査結果(S)は,医師の判断や行動に影響を与えるものに絞り記載する。
(6)Sを根拠にプロブレム名を更新する。
(7)新しいプロブレム名に合わせて修正された計画を記載する。
(8)まとまった量の検査結果は入院後経過の文中には書かず,後にまとめて記載したほうが読みやすい(今回は紙面の都合で省略)。
(9)「起」:症例の特徴を簡潔にまとめ,いちばんの問題点,考察すべきポイントを明示する。
(10)「承」:問題設定を受け,関連する文献をひとつ選び,その内容から症例に関係する部分だけ簡潔に引用する。
(11)「転」:文献情報を「この事例に当てはめる」と何が言えるのか。最も重要。
(12)「結」:ここまでを踏まえて,この患者に対して,もしくは医師としての自分が今後どうするかを具体的に述べる。


 病棟編の最終回は「退院時要約」の書き方を解説します。患者をたくさん担当してバリバリ働くほどたまっていくサマリー。記載する法的根拠はありませんが,診療録管理体制加算取得や特定機能病院では必須のため,事務から記載を迫られることが多いかもしれません。一方で医師によっては「できれば書きたくない面倒なもの」という認識の方も多く,ましてや適切な書き方について指導できる医師も少ない印象です。書かざるを得ない以上,せっかくなら担当患者の経過を適切に整理し,今後の診療に役立つサマリーを書けるようになりましょう。

■どんな目的で書くのか?

 後日必要な情報を抽出できるデータベースとして機能し,内科認定医試験などのレポート作成や臨床研究・診療の質評価のデータ抽出にも活用できます。また,特に重要な視点ですが,退院後に診療する医療職にとって有用な情報源となり,病棟と他部署(外来や救急など)との連携を円滑にするツールでもあります。したがって,「入院中の情報」(入院時記録+入院後経過)に加え,退院後の診療に役立つ「退院時の病状」(最終診断名や病状)と,「今後の方針」(退院後の課題)といった,退院“後”に目を向けた記載が重要になります。

 退院後に読むのは医師だけに限らず看護師やケアマネジャーという場合もあるので,院内でしか通用しない専門用語・略語はできるだけ避けてわかりやすく記載することも重要です。また,退院後の切れ目のないケアに備えたり急変時に活用するためには,「退院と同時」に出来上がっていることが理想であり,いつも同じ形式で記載し,あまり時間や頭を使いすぎずに書く習慣を身につけたほうがよいでしょう。

■記載のポイント

 表紙/1号紙と言われる指定された書式の埋め方や,現病歴から入院時評価・計画までについては紙面の都合で触れません。1)入院後経過,2)退院時病状,3)考察の書き方を順に解説します。

1)入院後経過
 入院後の経過が長期化したり複雑化してきた場合に冗長な記述になりやすいですが,こういうときこそ「一定の型に沿った記載」が重要です。基本的に「By problem形式」でプロブレムごとに記載しますが,分割困難,または1つのプロブレムが主でほかはそれに組み込まれるような場合は「SOAP一括形式」でまとめて書いてもよいでしょう。

 筆者の場合の具体的な書き方は,品質管理の「PDSAサイクル」を参考に,カルテ記載になじむようにアレンジして活用しています。入院時記録の時点で立てた初期評価と計画の後に,それをどのように「実行:Do」したのか,実際の経過を記載し,その結果生じた病状(症状・所見等)の変化を「再評価:Study」し,より適切に更新されたプロブレム名「改善:Act」に合わせて「計画:Plan」を修正して……という順番で記載します。再評価の結果,入院の必要性がなくなれば退院が確定し,そのときの更新されたプロブレム名が「退院時病名」に,計画が「退院後計画」となります。

 退院と同時に書き上げるためのコツとしては,入院中に病状の変化(診断確定,合併症出現,治療方針変更等)があればその都度そこまでのPDSAセットを書き足しておくと楽です。退院後にまとめて書くと,途中の変遷が省略もしくは誤解され実際の診療からかけ離れた内容になってしまいがちで,何より記憶やカルテから全経過を拾い直すのは時間がかかり苦痛です。

2)退院時病状・退院後計画
 入院時の病状は詳しいが退院時の病状(自覚症状や最終検査結果等)が明記されておらず,急変時の救急外来で「退院時と今を比較して何がどれくらい悪化しているのかの評価」ができないケースは多いです。また退院後,外来で入院主治医と別の医師が担当する際にも,退院時病状や退院後当面の注意点が記載されておらず,どのように引き継げばいいか困惑することもあります。

 こういった事態を避けるためにも,「退院時最終診断名(病期や重症度,合併症なども併記)」と「病状(各疾患のパラメーターとなる症状・所見の最終データと,特に高齢者では認知機能やADLなどの心身機能の情報)」を必ず記載し,「退院時処方」「退院後方針(今後注意すべき症状や定期検査項目など)」も明記します。退院後のかかりつけ医への申し送りのつもりで具体的に記載しますが,診療情報提供書など別の書類があればその存在を明記し,退院時要約内では簡潔な記載に留めます。

3)考察
 忙しい日々のなか退院した患者に割ける時間は少ないため,考察まで書けない研修医が多いです。たまに書かれている研修医の考察を読んでも,学生時代のレポートのような「患者の疾患について教科書的知識をただ記載する」レベルにとどまっていることがほとんどです。

 本来は「最新の医学的知識をもとに,患者の病態や今回行った治療の妥当性や今後に向けた改善策を考える」ことによって,「単なる症例経験」を「自らの診療能力や患者ケアの質向上」に活かすような書き方が望ましいでしょう。起承転結をベースにした四段構成での書き方は,初学者にお勧めです(カルテ例参照)。

 複数の問題点があっても,通常は最も重要な点に絞って「1サマリー,1テーマ」で記述します。また,考察を書くためだけに原著論文レベルの文献検索まで行う必要はなく,患者のケアの向上のために入院初期に学んだ研修医向けマニュアルやUpToDate®などの二次資料で得た知識をもとに書けば十分です。もちろん,退院時に疑問点が残り入院中に得た知識だけではすっきりしない場合は追加の文献学習を要しますが,初期研修医のうちは「全症例で,日常的に,文献的考察を続ける」という習慣を身につけることが何より重要と考えています。

 今回で「病棟編」は終わり。次回からは「外来編」の解説を行う予定です。

つづく

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