医学界新聞

2013.01.07

Medical Library 書評・新刊案内


Medicine
医学を変えた70の発見

William Bynum,Helen Bynum 編
鈴木 晃仁,鈴木 実佳 訳

《評 者》山本 和利(札医大教授・地域医療総合医学)

医学史を斬新な切り口で7つのテーマに分けて解説

 10年以上前から医学部1年生と一緒に医学史を学んでいる。24のテーマを私が設定してそれを学生が調べ,1回2テーマずつをパワーポイントにまとめて,1テーマにつき質疑応答を含めて45分間で発表する授業形式をとっている。学生たちは医学に関することに初めて触れる機会なので,皆,目を輝かせて発表を聴いている。開講当初は,数少ない医学史の本を探したり,関連書籍を図書館で借りたりしながら学生たちは課題をこなしていたが,最近ではもっぱらインターネットで探しているようだ。確かにカビ臭く小さな活字の漢字だらけの参考書籍は敬遠しがちになろう。そのため豊富な画像をカラーで掲載している書籍を待ち望んでいたところであるが,最近そのような要望に応えてくれる書籍が出版された。それが,『Medicine――医学を変えた70の発見』である。

 これまでの医学史の本は,時系列に沿った記述に終始しがちであったが,本書は,古代の医学(エジプト,中国,インドなど)における身体のとらえ方から,現代の最新医術までを医療機器,疫病,薬,外科技術,予防など7つの章(70項目)に分けてわかりやすく解説している。特徴は切り口が斬新なことである。その理由は,医学の長い歴史を,単に時系列によるのではなく,その多様なテーマを上手に7つに分けて,テーマごとに一連の流れをつくって描き出しているからである。それゆえ読者は,本書を読むことで7つの視点で7回医学の歴史を振り返ることができる。そして,何よりも幅広い時代・地域から集められた豊富な図版が382点もオールカラーで掲載されているのがうれしい。原書は美術書のように分厚くて重かったが,翻訳版の本書は薄い紙を使って表紙もソフトカバーになり,携帯しやすくなっている。

 ここで内容をいくつか紹介してみよう。第1章は「身体の発見」である。エジプト医学,中国医学,インド医学,イスラム医学の歴史や概念がそれらを象徴する貴重な図版とともに述べられている。「ヒポクラテスの伝統」では,体液と精気という4体液説の概念を解説し,古代のギリシャからガレノス主義への道程を,そして現代医学へどうつながるかを考察している。そして,解剖学,病理解剖学,細胞理論,ニューロン理論,分子という項目を設けて一気に現在にまで駆け上ってゆく。

 「商売道具」と冠した第3章はユニークである。聴診器,顕微鏡,皮下注射,体温計,X線,血圧計,除細動器,レーザー,内視鏡などの開発の歴史が述べられている。そこでは,最初の体温計,指輪を付けたキューリー夫人の手のX線像などの貴重な図版に触れることができる。

 最終章は「医学の勝利」である。ワクチン,ビタミン,インスリン,ヘリコバクター・ピロリなどの項目がある。インスリン療法を受ける前と後の1型糖尿病の少女の同一人物とは思えないほど変化した写真をみると,「医学の勝利」という言葉も頷ける。

 本書は,どの項目も図版を含めて見開き2ページまたは4ページに収まっているので,1項目であれば短時間で読むことができる。学生たちの医学史の資料としてのみならず,医師や一般の方々が就寝前などのちょっとした時間に読むのにもうってつけである。ぜひ,一読を勧めたい。

A4変・頁304 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01518-9


医療事故の舞台裏
25のケースから学ぶ日常診療の心得

長野 展久 著

《評 者》大野 喜久郎(東京医歯大副学長・理事・名誉教授)

医療事故を防ぎ,備える手がかりを与えてくれる本

 病気を治そうとして,不幸にも医療事故が起こった場合,医師は診療結果に失望し,同時に患者さんや家族との信頼関係が損なわれると,クレームの嵐に晒されることになる。一流の名医と言われる医師でも,人間である限り,医療事故は免れない。そうならないような備えと起こったときにどうするかが重要であり,本書はそのための手がかりを与えてくれる。

 まず,本書の「はじめに」を読むと著者が本書を著した意図がよくわかる。医学や医療の問題に深く切り込み,医師および患者の心理学,救急診断学に必要な医学的知識,そして救急診療のヒントなどが読みやすく書かれており,このような本は今までなかったように思う。著者のこれまでの経験に基づく優れた洞察力による研究書でもある。医師側および患者側の両者にとって不幸な事例に対し,何が問題であったのかを丁寧に解説し,同じことが起きないようにとの温かい配慮がなされている。これは著者自身の医師としての長い経験と多くの医療事故の分析に裏打ちされていることによるものと思う。日常診療において研修医だけでなく,経験を積んだ医師も気をつけなければならないことが書かれている。そして,時間外当直での診療,あるいは救急患者の診療には恐ろしい落とし穴がいくつもあるように感じる方も多いと思う。確かに,思い込みや忙しさからのミスは起こり得るので,いつも念頭に置く必要がある。

 ケースの詳細な記述と一つひとつの事例の教訓,11のコラムも役立つ記載となっている。25のケースでは診療上の注意あるいは説明義務違反が多いようであり,期待権の侵害や自己決定権の侵害が続く。自らが体験してからでは遅いので,すでに起こったことを学習して想像力を働かせることが重要である。「医療の不確実性」にもかかわらず「結果責任」という言葉は常について回る。医療を行う側にとっては極めて不本意で理不尽なものであるが,しばしば一人歩きする。

 本書で著者が述べているように,患者の診療に当たっては,特に救急医療においては鑑別診断を挙げて,常にその中で最も危険な疾病の可能性から順に考えていくことが重要と思う。また,こうであろうと考えても,常に急変する疾病や最悪の事態を引き起こす疾病を考慮しておくことが必要であろう。医師に必要な資質は,忍耐力であり,想像力であり,シャーロックホームズばりの推理力であり,またあるときはこれでよいのかという不安感(用心深さ)であると言えるかもしれない。

 臨床医であれば誰でも医療事故に巻き込まれる可能性はあるが,本書はその可能性をより小さくしてくれるであろう。そして,たとえそのような状況に陥っても,いつでも緊張を保ち,行うべきことを行って,真摯に患者およびその家族に接することにより,医療裁判へとつながる可能性も小さくなることが期待される。臨床医の皆さんにはぜひ一読していただきたい本である。

A5・頁272 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01663-6


CT・MRI実践の達人

聖路加国際病院放射線科レジデント 編

《評 者》渡邊 祐司(倉敷中央病院放射線科主任部長)

これまで解説書とは異なる新しいタイプの実践書

 この書は,これまでのCT,MRIの解説書とは異なる全く新しいタイプの実践書である。最大の特徴は,主眼を"目的疾患ごとに最適な画像所見を引き出すための検査プロトコール"を組み立てることに置いている点である。放射線科医はもちろん,検査をオーダーする他科の医師,検査オーダーを受ける診療放射線技師にとっても重宝する1冊である。

 MRIやCTの機器の進歩に伴い検査内容が多彩となり,どのような検査プロトコールにすれば最も効率よく診断に適する画像を提供できるのか,困惑することがしばしばである。臨床現場では追加スキャンなどについて検査依頼医師や担当放射線技師は放射線科専門医のアドバイスを待っている時間的余裕もない。また,放射線科専門医が不足している昨今,検査時にそもそも放射線科医が不在の状況も多々あると思われる。そのような状況を打開してくれるのがこの書である。あらかじめ,症状や疾患ごとに理想的な検査プロトコールを決めておけば,診断に最適な画像情報を迷うことなく手にすることができる。

 本書は,"はじめに""CT編""MRI編"の3部から構成されている。"はじめに"は基礎編で,初学者にもCT,MRIの原理が学べるように,わかりやすく解説している。MRI検査プロトコールの組み立て方を習得し,造影剤の使い方と腎機能障害における基本的な考え方を学ぶことができる。"CT編""MRI編"では検査部位ごとに「検査プロトコール」「目的・特徴」「基本画像」「追加作成画像」に分けて説明されている。CT編では,頭頸部,胸部,腹部・骨盤,血管系,骨格系に分類し,MRI編では,脳,眼窩,頸部,脊椎・脊髄,胸部,上腹部,骨盤部,骨・関節に分類し,その中で症状や疾患別に最適な検査プロトコールを提案している。「目的・特徴」の項目では検査を実施する上での基本となる考え方が書かれている。造影検査が必要な場合と不要な場合と,撮像時間が明確に示されている。さらに「追加検査」の項目では,通常のプロトコールでは不十分なときに追加すべきスキャンをどうすればよいかが書かれている。まさに"CT・MRI実践の達人"になれる書である。またCT,MRI,場合によってはUSの比較がされているので,特定の症状や疾患で適切に検査法を選択するのに役立つ。

 この書は最新の検査知識を集約している上に,このような特徴を備えているので,検査室に1冊常備しておくとよいと思われる。そしてレジデントだけでなく中堅,ベテランの医師でさえ一読するとよい1冊である。また検査オーダーを受ける放射線技師にとっても,臨床に必要な画像を得るためのプロトコール選択についての考え方を学ぶために大いに役立つと思われる。この本を読んで明日からあなたも検査の"実践の達人"になりましょう!

A5・頁224 定価3,780円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01475-5


成人期の自閉症スペクトラム診療実践
マニュアル

神尾 陽子 編

《評 者》内海 健(東京藝大保健管理センター准教授)

臨床的想像力を羽ばたかせるために

 編者の神尾陽子さんは,私にとって自閉症の師匠である。

 精神科の一般外来で「広汎性発達障害」という診断名を意識するようになったのは,ほんの10年ほど前である。それが見る間に主要な関心事となった。いわゆる「アスペルガー障害」はそのサブカテゴリーである。また発達障害の中にはADHDや学習障害も含まれる。いささか錯綜した分類であるが,最近では自閉症をコアとしたスペクトラムを「自閉症スペクトラム(ASD)」とすることによって,すっきりと整理された観がある。

 多くの精神科医がこの新しい病態を前にして戸惑いを覚えた。筆者も例外ではない。その戸惑いが,「発達障害」,あるいは「アスペルガー」という用語によって一挙に解消されたとき,それこそ腰を抜かすような感覚に見舞われた。そして,今後の精神科臨床は,こうした事例を理解できなければ立ち行かないことを痛感させられたのである。

 しかし困ったことに,私の周辺には専門家がいなかった。それゆえ,セカンドオピニオンを求めて小児精神科医にたびたび紹介をしてみたのだが,そのたびごとに期待は裏切られた。例えば「親が来られないなら診断できない」と門前払いをされたこともある。確かに発達歴をとらなければ,発達障害とは言えないだろう。しかし成人例の場合,親が同伴するわけにもいかない事情がしばしばある。専門家を標榜しているのなら,親からの情報がなくとも見立てるくらいの力量がないものだろうか。整然と問診や検査ができる条件が整っているなら,門外漢でも診断できるだろう。

 そんな中で神尾さんだけは,私の臨床的ニーズに応えてくれた。成人期に事例化するASDの場合,自閉症性の障害が軽いからといって,必ずしも本人の抱える問題が軽いわけではない。軽微な事例のほうがかえって適応が難しく,苦悩が深いことが多い。専門家の場合,小児のコアの事例に慣れ親しんでおり,成人例はかえって盲点となることがあるようである。

 また成人期のASDで問題となるのは,女性例である。しばしば見逃されていたり,境界性パーソナリティ障害などと誤診されていたりする。かつては自閉症といえば男性が定番であった。いまだに年配の専門家の中には,男女比が10:1であるとか,「女性はわかりませんな」などと言って平然としている方もいる。それに対して,神尾さんの女性例に対する感覚は群を抜いている。

 神尾さんはわが国を代表する自閉症の研究者であり,エヴィデンスというものを誠実に遵守するスタイルを貫いている。しかしエヴィデンスがない成人例に対しては,「ないなりにやらなければならない」という臨床家魂を持って当たっている。本書の冒頭近くで,『(ASD成人に対する)「専門医」はどこにも存在しないのである』と喝破されているのは実に痛快である。

 さらに付け加えるなら,自閉症にはまだ生物学的マーカーが存在しない。それゆえ,われわれは五感と想像力を駆使して立ち向かうよりないのである。本書はそのための格好の指針となるものであり,一読した後には,臨床的想像力を存分に羽ばたかせる舞台が与えられるだろう。現場の臨床家にぜひとも読んでもらいたい。

B5・頁208 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01546-2


大腸内視鏡挿入法
軸保持短縮法のすべて 第2版

工藤 進英 著

《評 者》吉田 茂昭(青森県立中央病院長)

初心者からベテランまで,技術の習得,評価に必読の書

 本書の初版は1997年に上梓され,第一級の教科書として君臨し続けている。「なのに,なぜ,今さら挿入法なのだろう?」というのが,本書を手に取った最初の思いであった。しかし,序にもあるように,大腸内視鏡はこの15年間にpit patternの診断からNBIや超拡大診断,治療領域ではpolypectomyからpiecemeal polypectomy,ESD等々,極めて多様な対応が求められてきており,挿入に手間取っているようでは大腸内視鏡医として与えられた使命を果たせないのである。著者の挿入例数はこの15年間に20万件に達したそうであるが,そのキャリアの大部分は自身が開発した拡大内視鏡によっている。本機器は先端硬性部が長く太径でもあり,一般に挿入が難しい。このスコープを自在に操っているうちに,挿入技術に一層の磨きがかかり,遂にはartの域に達したのであろう。本書はこうして完成した軸保持短縮法を何とか多くの内視鏡医に伝えたいという熱い思いにあふれている。

 これまでの挿入法はというと,one-man methodの創始者である新谷弘実先生のright-turn shortening(強いアングル操作で先端を粘膜ひだに引っかけ,右回旋しながら引き戻すことで腸管の直線化を図る)がよく知られている。これに対し,軸保持短縮法ではup-downのアングル操作を控え,可及的に先端硬性部を真っ直ぐに保ち,管腔の走行を的確に想定しながら,トルクを加えつつ順次スコープを挿入していくことを基本としている。筆者もUPDを用いた著者のライブデモンストレーションを見せていただいたことがあるが,確かに先端部を強く屈曲するようなシーンは一度もなかった。

 本書では,この軸保持短縮法を習熟するための基本操作とその応用について,大腸各部(RS,SD屈曲部,脾彎曲部,横行結腸,肝彎曲部,上行結腸から盲腸,Bauhin弁)の生体解剖学的な特性をわかりやすく解説しながら,それぞれを円滑に通過するための目印,個々の状況認識などについて,著者の豊富な経験を交えながら懇切丁寧に教えてくれる。あたかも実際に自分が挿入していると錯覚してしまうほどである。著者に言わせれば挿入技術はartであってscienceではないとのことであるが,教え方は極めてscientificである(おそらく基本操作を習熟した後にはartisticな創造力が不可欠だということなのであろう)。また,COLUMNの欄では,著者の博識ぶりに驚くと同時に楽しく読ませてもらえるが,特に「こんなときどうする?」は読者にとってありがたい示唆を与えてくれる。

 大腸がんは胃がんなどとは違い,国や人種を越えた代表的悪性腫瘍であり,その克服は世界的な課題と言える。このような中,わが国の内視鏡診断・治療成績は圧倒的に世界を凌駕している。しかし,明日を担う若い人達が挿入に困難を感じているようでは,今後のさらなる進歩,発展は望むべくもない。「より多くの大腸内視鏡医を育てなければ」という著者の強い使命感と情熱が,この第2版を出さずにはおかなかったのであろう。初心者からベテランまで,自らの挿入技術に正当な評価を与える上で,あるいは超えるべき課題を再確認する上で,正に必読の書と言えよう。

B5・頁164 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01314-7

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook