医学界新聞

寄稿

2012.12.10

【寄稿】

「ごちゃまぜ」で医療・介護に
顔の見える関係をつくろう

吉村 学(揖斐郡北西部地域医療センター・センター長)


 高齢化が進み,在宅医療が増え多死社会になりつつあるなか,医療と介護との連携(多職種協働,Interprofessional Work:IPW)の重要性が今日ほど叫ばれている時はない。今でこそ,卒前教育での多職種連携教育(IPE)が盛んになってきているが,従来はそのような教育はなく,医療・介護職には医師を頂点としたピラミッド型のヒエラルキーが暗黙の了解としてあった。そこでは,医師以外の医療・介護職が医師との連携を図る際,「心理的な壁」ができてしまい真の連携ができにくい状況にあると思われる1)。それは多忙な開業医とケアマネジャーの連携においてより顕著であり,筆者が赴任している地域でも同様の傾向を従来から感じていた。

 同様に感じていたのは筆者だけではないようで,親しいケアマネジャーや地域包括支援センターのスタッフから,「医師との連携をもっと広げられないか」との相談を受けることもあった。当センターでは2009年から地域の医療機関で多職種の研修生を「ごちゃまぜ」にしたIPEワークショップを開催し,直接の教育対象である研修生のみならずオブザーバーの現職スタッフへの一定の成果と手ごたえを感じていた2)。そこで,この教育手法を,保健医療福祉関係者の現職にも適用できるのではないかと考え,実行に移してみることとした。

揖斐郡という一地域で,「ごちゃまぜ」IPEを仕掛けた

 2011年秋に,揖斐川町地域包括支援センターの主任ケアマネジャーA氏から,町内のケアマネジャーと揖斐郡医師会員を対象にした合同研修会の講師を依頼された。

 当初は講演の依頼だったが,私は"それでは今ひとつ"と返事をし,「できるだけ多くの職種の皆さんを『ごちゃまぜ』にしたグループワークを基本として,実際の事例を基にしたロールプレイ(寸劇)とその後に共同作業と振り返りを行う形式」を提案した。当初A氏からは,「グループワークでは,医師の皆さんに負担になるのではないか。どんな反応があるか心配」と反対された。しかし,医師への対応や当日の司会も筆者がすべて引き受けると説得し,なんとか不安を解消してもらうことができたことで同年12月の合同研修会開催にこぎ着けた。

教育介入の実際と苦労,工夫と効果

 まずもって行ったことは,医師の参加者を募ることだった。医師に参加してもらわないことには始まらない。そこで,事前の告知と根回しを手分けして行った。A氏は知り合いの訪問看護ステーションの所長と二人で医師会員のもとを行脚して,本研修会の意義を説明した。また私とA氏で,郡医師会長のところへあいさつへ行き,趣旨を説明して賛同を得ることができた。

 開催時刻は,平日の診療終了時間に合わせ19時30分とした。医師会員やケアマネジャーを対象にした事前アンケートも実施,それぞれの職種のニーズを調査した。その結果,医師との連携に困難を感じているといったケアマネジャーの感想や,「ケアマネの顔と名前が一致しない」といった医師側の意見も得られた。しかしながら,「医師がロールプレイに取り組んでくれるのか」といった不安は,直前まで拭い去ることはできなかった。

 事前のアナウンスと声掛けにより当日は60人が参加した。参加者は医師,ケアマネジャー,病棟看護師,事務職のほか,当センターにきている研修医,医学生にも参加してもらい,職種が「ごちゃまぜ」になるよう,8人1グループとして分けた。寸劇のシナリオは「91歳の高齢女性で転倒により大腿骨頸部骨折で入院。手術後順調に経過して退院目前で現在も入院中。在宅に復帰して今後はかかりつけの医師に再びかかる予定で,退院前調整会議に関係者が呼ばれた」というもの。自分の職種以外の役割を選択して演じることをルールとし,各グループ内で病院医師役から患者本人役まで民主的に配役を決めて,合計8グループで一斉に寸劇(退院調整会議の再現の10分間)を開始した。

 事前の予想に反し,皆必死に演じて笑いあり緊張ありの寸劇となり盛り上がった。10分後に各グループの結論を聞くと,「スムーズに退院」「施設へ行く」「退院延期」とばらばらの結論になった点は興味深かった。その後,寸劇を振り返って感想を一人ずつ述べ模造紙に記載し,その内容を皆で共有した。

 この時間が最も重要で,お互いの職種へのリスペクトが生まれたり,自らの専門性について考える機会になる。筆者はIPEとIPWについてのミニレクチャーを行い,実際の事例の一部始終を紹介。さらにグループ内で今回の研修会についての感想と明日からの自分なりの作戦について述べてもらった。最後にメンバーの健闘を称え,お互いに握手をして終了とした。

 また当日のサプライズとして町内の全ケアマネジャーの顔写真付き名簿(事前に関係者で自主作成)を最後に配布した。参加した医師からは「こういう資料が欲しかった」との好意的な意見が多く寄せられた。

他職種への理解が在宅導入につながった

 参加者アンケートの結果(回答率91.6%,N=55)からは,「ケアマネジャーという職種への理解が進んだ」「他職種への理解も進んだ」と概ね良好な反応が得られた。また10か月後の2012年9月時点で追跡調査を実施したところ,23人(回答率38%)より返事が得られ,回答者の約7割で「その後に変化があった」とのことだった()。顔見知りになったこと,心理的な距離が小さくなったことから,実際の在宅導入に至るまでの変化が見られたことは驚きであった。

表 10か月後の追跡調査結果より(N=23,回答率38%)
・顔がわかった,顔見知りになった(6)
・医師から返信がくるようになった(3)
・医師との距離感が小さくなった(2)
・医師が時間をとってくれるようになった(2)
・担当者会議に医師が参加してくれるようになった(1)
・医師からケアマネとして認識してもらえた(1)
・在宅復帰(病院・施設から),在宅移行が増えた(1)
カッコ内の数字は,回答者数。

 今回の研修では,郡医師会長にも参加してもらえたため,その楽しさや地域での多職種連携の重要性を医師会長自身にも理解してもらうことができた。その結果,2012年9月の第2回の本研修開催へ強力なサポートを得ることができ,第2回では全体参加者も100人になるなど大きなうねりを感じている。

 研修会を経て,ケアマネジャー(特に福祉系出身の方)からは,「医師への緊張や堅いイメージがとれて声を掛けやすくなった」との声が多く寄せられている。A氏は,「(寸劇などを通じて)お互いに心から笑う時間や空間が一緒にできたことで,自分から近寄っていく勇気が持てるようになったことが壁を崩せた要因の一つと思います」と振り返っていた。

都市部での短期集中型研修の試み

 前述の研修会とは別に都市部での試みを,社会福祉法人新生会と協働で2年前から始めている3)。現職3-4人の少人数の多職種を集めて3日間にわたって「ごちゃまぜ」になり,医療福祉施設をワンフロアに集めた岐阜市中心部の岐阜シティ・タワー43の3階「サンサンタウン」の実際の利用者にかかわるというIPEも現在進行中である。

あきらめないこと,勇気を持つこと

 IPEが医療・介護においてよい成果をもたらすことは,多くのエビデンスで報告されている。だからこそ,後はいかに自分たちの地域で実践し,仕掛けていくかが重要になる。その時の阻害因子は,「この地域では連携は無理だ」とか「医師は恐い,怒られる」といった,自分たちが作っている先入観・心理的な壁が大きいように思う。

 揖斐郡での実践によって地域のケアマネジャーたちがあきらめの境地から再び希望を持てるようになったように,われわれのような試みで医療・介護の関係が変わる可能性はどの地域でもあると思う4)。その際の具体的な手法がIPEであり,地域の中にいる仲間と力を合わせること,一歩踏み出す勇気を持つこと,仲間を励ますこと,そして「地域全体をケアする地域医」として黒子役・仕掛け人を演じる覚悟を持つことが,これからの医師,特に家庭医には求められていると確信している。

参考文献・URL
1)吉村学:なぜ今,Interprofessional educationなのか.月刊地域医学.2012;26(4):296-300.
2)小林修,他:地域の診療所・複合施設での取り組み.月刊地域医学.2012;26(4):329-32.
3)http://www.fukushimura.jp/gakkou/inform/index.html
4)岐阜へき地医療ipe研究会


吉村学氏
1991年宮崎医大卒。卒後,自治医大地域医療学講座で学び,群馬・栃木の診療所勤務を経て,岐阜県揖斐川町(旧久瀬村)に家庭医として着任して15年が経つ。現在,地域での医学生・研修医教育に力を入れ,これまでに国内外の600人超を受け入れている。また理学療法学生,看護学生と医学生・研修医をごちゃまぜにしたIPEにも3年前から取り組み,地域からの情報発信を続けている。

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