医学界新聞

連載

2012.12.03

外来診療
次の一手

第9回】「風邪をひいたみたいで……」

前野哲博(筑波大学附属病院 総合診療科教授)=監修
小曽根早知子(筑波大学附属病院 総合診療科)=執筆


3001号よりつづく

 本連載では,「情報を集めながら考える」外来特有の思考ロジックを体験してもらうため,病歴のオープニングに当たる短い情報のみを提示します。限られた情報からどこまで診断に迫れるか,そして最も効率的な「次の一手」は何か,ぜひ皆さんも考えてみてください。


【症例】Iさん 26歳男性

Iさん 「風邪をひいたみたいで……」
Dr. M 「いつから,どんな感じですか?」
Iさん 「昨日からだんだん喉が痛くなってきて,今日は物を飲み込むのもつらいんです」

バイタルサイン:体温37.6℃,血圧130/78 mmHg,脈拍96回/分(整),呼吸数18回/分。

⇒次の一手は?

■読み取る

この病歴から言えることは?

 若い男性が「風邪」といって受診した症例である。「昨日から」と急性の発熱を伴う経過であり,感染症が最も考えやすい。具体的な症状として咽頭痛を挙げており,「飲み込むのもつらい」というと症状は比較的強そうだ。悪化傾向にあり,まだ症状のピークを見ていない可能性があるため安心はできない。バイタルサインには,発熱以外には大きな異常はなさそうだ。

■考える

鑑別診断:「本命」と「対抗」に何を挙げる?

 「本命=急性上気道炎」。基礎疾患のない若年者の発熱で,頻度が最も高い点からは最も可能性が高い。  「対抗=急性咽頭炎」。強い咽頭痛を訴えており,溶連菌性咽頭炎など細菌感染症が鑑別に挙がる。  「大穴=扁桃周囲膿瘍,急性喉頭蓋炎」。頻度は高くないが緊急度・重篤度ともに高く,強い咽頭痛を訴える場合には鑑別に挙げておく必要がある。

■作戦

ズバッと診断に迫るために,次の一手は?

「鼻汁や咳はありますか?」

 風邪症候群はウイルス感染症であり,多部位に症状を呈し得る。一方,細菌感染症は感染した局所のみの症状を呈することが多い。したがって,「咽頭痛」「鼻汁」「咳」のうち2つ以上の症状を認めれば,ウイルス性の急性上気道炎の可能性が高い。

 一方,咽頭痛のみである場合には,溶連菌性咽頭炎のほか,扁桃周囲膿瘍など周囲の組織への波及を伴う細菌感染症を疑う必要がある。また,流涎,開口障害,呼吸困難などを伴う場合には,急性喉頭蓋炎の可能性がある。気道閉塞を来し得るため緊急性が高く,頸部X線での評価も考慮する。

その後

 患者には鼻汁,咳は認めず,流涎,開口障害,呼吸困難などの症状も認めなかった。急性咽頭炎,扁桃周囲膿瘍などを疑い注意深く咽頭の診察を行うと,片側の軟口蓋の発赤と腫大,わずかに口蓋垂の対側への偏移を認めた。耳鼻咽喉科に紹介,切開にて排膿を認め,扁桃周囲膿瘍の診断となった。

■POINT

 風邪症候群の診断には,「咽頭痛」「鼻汁」「咳」の2つ以上があることを確認する!

つづく

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