医学界新聞

2012.11.26

Medical Library 書評・新刊案内


脳卒中の下肢装具 第2版
病態に対応した装具の選択法

渡邉 英夫 著

《評 者》浅見 豊子(佐賀大病院教授・リハビリテーション学)

下肢装具の詳細な機能が理解できるわかりやすい実用書

 私の恩師である渡邉英夫先生の著書『脳卒中の下肢装具 病態に対応した装具の選択法』の初版が発刊されたのは2007年11 月で,本書は約4年半ぶりの改訂版となる。初版は脳卒中に使用される多くの下肢装具について,渡邉先生が描かれた装具のイラストと共に,その特徴と適応が解説されている大変わかりやすい実用書として好評を博した。初版は,茶色の表紙が印象的な1冊だったが,今回の第2版はさらなる進化を遂げた本になっている。まずサイズが一回り大きくなったため,より見やすく使いやすくなっていることは読者としては大変嬉しいことである。また,装具のイラストに加え,実物写真が初版よりも多用されている点も臨床医にとってはありがたい。目次上も初版の21章から28章へと大幅なボリュームアップが図られているが,特に各種継手一覧はカラー写真で実際的である。さらに,2011年に行われた脳卒中短下肢装具についての全国アンケート調査まで掲載されており,より臨床的なデータも入った広範で多角的な本となっている。表紙の色はこれまでとは全く異なるベージュがベースで,グリーンの差し色が入った上品な出来上がりになっているのも素敵である。

 さて,リハビリテーション医療において脳卒中症例は日々の臨床でかかわる疾患である。そのため,装具療法の対象としても脳卒中片麻痺の下肢障害に対して下肢装具を処方する例は多く,特に最近,脳卒中下肢装具の重要性が見直されてきていると感じる。しかし,脳卒中は時期により病態が変化したり,処方する時期で装具の支給制度が異なっていたり,そもそも下肢装具の種類や価格が多種多様である。したがって,症例に最適な下肢装具のタイプを1種類に絞って選択し処方することは非常に難しく,装具の選択決定時に選択の適正について誰しもが多少不安を感じていることも事実である。

 脳卒中下肢装具の処方内容に悩む際にこの本を手にすれば,多数の下肢装具の詳細な機能が理解できるため,その中から処方対象の病態にあった機能の装具を見つけやすい。最終的に適した装具処方内容に自然に導いてくれ,処方時の不安を解消してくれるように思う。もちろん処方する医師以外にも,脳卒中の下肢装具に日常的にかかわっている理学療法士,作業療法士,義肢装具士,看護師,ソーシャルワーカー,介護保険関連職種などの方々において,本書は臨床の場での心の拠り所になるはずである。ぜひ本書を診療の場の手の届く所に1冊置くことをお薦めしたい。

A5・頁200 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01535-6


内科救急 見逃し症例カンファレンス
M&Mでエラーを防ぐ

長谷川 耕平,岩田 充永 著

《評 者》萩原 佑亮(都立小児総合医療センター救命・集中治療部救命救急科)

臨床的にも教育的にも大きな価値を与えてくれる名著

 この本は紙上にてM&Mカンファレンスを再現した一冊である。

 M&Mカンファレンスという言葉を聞いたことがあるが,それが実際にどういう風に行われるのか知っている,または体験したことがある者は少ないのではないだろうか。体験したことがある人の中には,魔女狩り的なカンファレンスとして,記憶の片隅に嫌な思い出として残っている場合もあるかもしれない。「多くの事故は一つの致命的なミスから発生するのではなく,システムの中で小さなミスが積み重なったときに発生する」というスイスチーズモデルという概念がある。M&Mカンファレンスの役割は,体系的にこれらのチーズの穴を見つけ出して穴を埋め,またはチーズを多層化することで今後の事故を防ぐことにある。つまり,人間は誰しも間違える存在であることを前提とし,それら失敗から学び,次の失敗を回避する方法を見つけ出すことこそが目的であり,決して個人の責任追及の場ではないのである。

 救急外来という現場で日々戦っている人であればあるほど,救急外来という現場の怖さを実感していることだろう。時間の流れが早く,混雑した騒がしい救急外来で,われわれ救急医は常に冷静な判断を求められる。ときに判断を間違い,他科の医師などに怒られることもあるが,それだけならまだ良い。それが最終的な患者の予後に影響を与えることだけは誰しも避けたいはずである。しかし,誰しもが救急外来での苦い経験も持ち,あのときああしていれば良かったかもしれない,と後悔の念を持ち続けていることだろう。そして,その経験は個人の中では生かされているが,実は同じ過ちがいつの時代にも誰にでも起こる可能性があり,実際に起こっているのである。多くの過ちは,個人の能力の問題だけではなく,共通したパターンから起こっているのだから。どうしたらその失敗を最大限に生かし,共有化できるのか。

 この本に登場する21症例は決して珍しい症例集ではない。臨床経験が豊かな者であれば,正しい診断に至ることは大して難しくはないだろう。経験によって,陥りやすい過ちのパターンを認識して自然と回避しているからである。正しい診断からそれていく過程や原因について体系的に言及し,論理的に解説しているこの本は,そういった豊かな臨床経験のある者にこそ価値があると思われる。自身でも気付いていなかった脳内の思考過程やパターンが言葉として示され,今までアートであった領域がサイエンスに変わる瞬間に気付く。臨床的にも教育的にも大きな価値を与えてくれる名著であると断言できるので,ぜひ一読をお薦めしたい。

B5・頁192 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01517-2


今日の小児治療指針 第15版

大関 武彦,古川 漸,横田 俊一郎,水口 雅 総編集

《評 者》内山 聖(新潟大病院院長)

さまざまな目的に応じて使えるタフな構成

 『今日の小児治療指針』が5年ぶりに改訂され,第15版が出版された。第一線で活躍されている657名の医師たちが713項目を執筆し,小児科における最新の治療法を具体的かつ実践的に解説している。

 小児科医が臨床の現場で遭遇する,ほぼすべての疾患が網羅されているといっても過言ではない。一生のうちに診る機会がないのではという希少疾患さえ含まれるが,いざというときのために,これほどの安心はない。また,小児を診療する際は,疾患の病態や重症度を理解し,見極めた上で治療を行うことが肝要であり,個々の症例を大切にし,そのような経験を積み重ねていくことが小児科医としての力量となる。本書では,各項目ともまず病態について,項目によっては治療よりも詳しく説明されており,病態と重症度に応じた具体的かつ詳細な治療法がわかりやすく示されている。初期臨床研修医からベテラン小児科医まで,小児科を専門としない他科の医師,小児科医としてのスタート,専門医試験の準備,最新の知識の確認など,それぞれに応じて,それぞれの目的で使ってもらえる,幅広いタフな構成である。各章末ごとに外科治療の現状についても記載されており,どのような症例や場面にも対応できる強みがある。

 処方例の記載も懇切丁寧である。具体的な商品名や剤形とともに,小児に薬剤を使用する際の用量の考え方(投与量)のほか,投与回数や投与経路を示した実践的な内容となっており,さらに巻末の付録として小児の薬用量も載っているので,本書一冊で杞憂なく治療に専念できる。付録として,ほかに「脳死判定と脳死下臓器提供」が掲載されている。脳死下臓器提供は,たいていの場合,かなり短時間に状況を整えることが求められるので,本書の巻末に記載があることを念頭に置いておくだけで,いざというとき心強い。

 小児科学の治療の進歩と小児医療を取り巻く社会の変化に対応すべく,「第3章 小児診療にあたって」や「第20章 思春期医療」など,現場で求められる現代のニーズに合った新たな章や項目が設けられたことも注目される。小児の治療に関する出版物はこれまでにも多くみられるが,本書の「小児診療にあたって」のように,小児診療に関わる社会的な問題やクリニックマネジメントにまで踏み込んだ書籍はあまり見当たらない。本書は,日常診療で必要に応じて開くことが多いと思うが,小児科医として,勤務形態にかかわりなく知っておきたい知識と情報の整理のために,まずこの章の一読を勧めたい。「思春期医療」では,自殺,暴力,性,喫煙,薬物など現代社会ならではの問題を取り上げている。逆に,小児科医の守備範囲の広さと,社会的な立ち位置を改めて認識させてくれる新たな章といえ,編集の先生方の見識に感服する。

 今回からハンディサイズとなり,書棚を出て日常診療の傍らにと,さらに身近な存在になった。小児を診るすべての医師に薦めたい,小児診療のハンディなエンサイクロペディアといえる。

A5・頁1028 定価16,800円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01231-7


ステップアップ内視鏡外科手術[DVD付]

若林 剛 監修
佐々木 章 編

《評 者》北島 政樹(国際医療福祉大学長/前日本内視鏡外科学会理事長)

"未来のための今"の真髄を示す書

 ある日,突然『ステップアップ内視鏡外科手術』(監修:若林剛,編集:佐々木章)が医学書院から送られてきた。

 本書を手にしてまず考えたことは1991年慶應義塾大学医学部外科学教室で現在,隆盛を誇る内視鏡外科手術が産声を上げたことである。いみじくも佐々木准教授の"刊行にあたって"の中で私と初期からともに内視鏡外科を手掛けた故大上正裕君と若林剛君(現岩手医科大学教授)が岩手の地で開催された第1回岩手内視鏡外科研究会(1998年)で講演し,情報交換会で二人がトロッカーのサイズで激論を交わしたと記載されている。

 この激論に至ったのは外科学教室の内視鏡下手術,移植医療および外科腫瘍学が三本柱であり,特に内視鏡下手術に関しては,医・工・産学連携によりロボット手術を含めて推進してきた種々のエビデンスや思い入れがあったことによると思われた。

 これらの内視鏡外科に関する推移を若林剛教授は自らよく理解しており,どうしたら教室員が一丸となって岩手医科大学が内視鏡外科における日本の先導者になれるかを熟慮した結果,誕生した一冊と理解した訳である。本書を読んでいるうちに益々,本書のすばらしさを実感することができた。

 まず若林教授のリーダーシップでそれぞれの手技に明確に岩手医科大学外科の内視鏡下手術の理念が浸透していることである。次に内視鏡下手術の将来像,すなわちチーム医療を見越すかのようにメディカルスタッフにも心配りをされており,外科医のみならず多くの専門職の必読・必見の書になるだろうとチーム医療を推進する私にとって喜びさえ感じた。

 本書の最大の特色は一外科学教室がすべての内視鏡下手術の技術を網羅し,長年培ってきた知識と理念を集大成したことである。過去に素晴らしい内視鏡外科手術書を拝見したことはあるが,個々の施設における技であり,本書の如く,教室内で技に対する多くの議論が積み重ねてこられたと思われるが終始一貫して横断的にまとめられた成書は初めての経験である。

 さらに興味深いことは現在の若手外科医が何を望んでいるかを見透かす如く,技術の向上をめざし,成書の内容とマッチングした動画をDVDで解説している点である。

 今後は単なる教科書としてではなく,読者の視野に強く訴える本書の形が主流をなしてくるのではないかと期待している。

 今回,若林剛教授,佐々木章准教授の見事なリーダーシップでチームを構成し,若手外科医のみならず,内視鏡下手術に関係するメディカルスタッフの視点からも素晴らしい成書を出版したことに敬意を表すと同時に,今後も継続して岩手医科大学から,本邦のみならず欧米に対しても発信することを大いに期待する次第である。まさしく本書は私が第100回日本外科学会で発信した福沢諭吉先生の"未来を見据えよ,いまのための今でなく未来のための今(Act now for the future)"の真髄を示している。

B5・頁260 定価14,700円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01542-4


救急救命士によるファーストコンタクト 第2版
病院前救護の観察トレーニング

郡山 一明 著

《評 者》坂本 哲也(帝京大教授・救急医学)

救急医療の真髄を伝える「目からうろこ」の一冊

 まさに「目からうろこ」の一冊に出会いました。昨今のマニュアル本が氾濫する世の中で本書はこれらと一線を画し,ことの本質をとらえた上で,わかりやすいたとえを駆使して読者に救急医療の真髄を伝える内容です。

 著者は,麻酔科指導医,救急科専門医としての豊富な臨床経験を生かして,現在は救急救命九州研修所で教鞭をとられている郡山一明教授です。副題に『病院前救護の観察トレーニング』とありますが,本書は救急救命士だけでなく,救急患者に接する可能性のあるあらゆる医療従事者に役立つ内容です。

 私たちは救急患者の診療の際にもついつい画像診断や血液検査に依存してしまいますが,そのファーストコンタクトでは五感を駆使して緊急度を判断し,患者の問題がどこにあるのかをあぶり出すことが最も重要であることは同じです。

 著者はまず,救急救命士の存在価値から説き起こし,それによりいわゆる特定行為に偏重している世間の誤解を正して,救急病態の観察と判断こそが本質であると喝破しています。これは,消防法の改正により救急活動として明確に位置付けられた観察に基づく医療機関選定につながります。

 そして問題解決能力こそがプロフェッショナルたるゆえんであり,いかにすればこの能力に熟達することができるかを論じています。いわく,手順に従って典型例に対応するのがアマチュアであるのに対し,複雑な状況下でも患者の命を救うという目標に向けて多様な対応ができるのがプロフェッショナルであると。これは医療従事者を育てる上での肝といえます。

 その上で,具体的な内容は,生命の維持に不可欠なoxygen deliveryをキーワードに展開されていきます。日常,何気なく診ている呼吸や循環について,その異常が生じるメカニズムと見抜き方を豊富な例えと一目瞭然の写真で理解させてくれます。

 本文中では,心臓をマヨネーズのチューブに見立て,酸素運搬を回転寿司に例え,心電図を影絵に例えるなど,他に例を見ないユニークな解説に,なるほどと思わず膝頭を叩きたくなります。われわれがつい陥りがちな罠についての心理学のトリビアを駆使した説明や,医学とは一見無関係に見えますが示唆に富む比喩には,著者の並々ならぬ知識と機知がうかがえます。

 重ねて,救急患者に対応する救急救命士,医師,看護師だけでなく,その教育に当たる人,そして自分のアイデアを人に伝えるためにはどのように書いたらよいのかを知りたい人のすべてに本書を一読することをお勧めします。

B5・頁144 定価2,730円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01479-3

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