医学界新聞

2012.02.27

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


緩和ケアエッセンシャルドラッグ 第2版

恒藤 暁,岡本 禎晃 著

《評 者》加賀谷 肇(済生会横浜市南部病院診療支援部長・薬剤部長)

永遠の名車のような輝きを放つ緩和ケア領域の好著

 恒藤暁先生,岡本禎晃先生の執筆による待望の新版が上梓された。

 本書は,言うまでもなく,わが国の緩和医療の第一人者である医師の恒藤先生と,緩和薬物療法認定薬剤師の第一号である岡本先生の共著である。私は日ごろから,医学と薬学は薬物治療における車の両輪と思っている。このお二人の息の合った合作は,永遠の名車のような輝きを放っている。

 2008年の初版本を私はグリーンブックと呼び,座右の書として愛用してきた。このたび,装丁をオレンジに変えて登場したので,今度はオレンジブックと呼称を変更しようと思う。

 白衣のポケットにいつも忍ばせておけば,緩和医療の現場で患者の症状マネジメントを行う際に,専門知識と安心感を与え続けてくれる,緩和ケア領域のベストセラー書である。

 今回の改訂版を手に取って気付いたことを,以下に列記してみたい。

・がんの症状マネジメントと緩和ケア薬剤情報が有機的にまとめられたクイックリファレンスであり,とても使い勝手がよい。
・裏表紙を1枚めくったところに,IV章「症状マネジメントの概説」とV章「エッセンシャルドラッグ」の一覧が掲載され,よりすばやく目的の項目にたどりつけるようになった。
・がん症状のマネジメントに必須の薬剤情報および薬剤学的特徴が,最新かつ一層充実した内容に変更されている。
・疼痛,倦怠感,悪心・嘔吐など,18症状の概念・アセスメント・マネジメントとケアなどの情報が簡潔に記されているが,これらは初版の内容より大幅に改訂されている。
・10薬剤[アゾセミド・クエチアピン・セレコキシブ・デュロキセチン・トラマドール・ドンペリドン・フェンタニル経皮吸収型製剤(1日貼付型)・プレガバリン・ミルタザピン・リドカイン]の解説が新たに追加された。
・情報量が増えているにもかかわらず不思議なくらいコンパクトサイズで,しかも必要な情報を見つけやすいレイアウトになっている。
・ポイントがより明確になった。例えば,フェンタニル経皮吸収型製剤の1日貼付型製剤と3日貼付型製剤の換算などは実に覚えやすく記載されている。デュロテップ®MTパッチの含有量(2.1 mg)の下1桁の数字がフェントステープにおける含有量(1mg)であることや,デュロテップ®MTパッチの含有量の40%がワンデュロ®パッチの含有量(2.1 mg×40%=0.84 mg)であることなどは,とてもわかりやすい。

 著者のお二人は,症状マネジメントが緩和ケアの出発点というコンセプトのもと,症状マネジメントの必須薬が本書に収載されているエッセンシャルドラッグであり,これを習得することが緩和ケア実践の近道であると述べている。

 緩和医療に携わる医師・薬剤師・看護師はもちろんのこと,これから緩和ケアにかかわる医学生,薬学生,看護学生にも,臨床で必携の一冊としてお薦めしたい。

三五変・頁328 定価2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01409-0


《神経心理学コレクション》
精神医学再考
神経心理学の立場から

大東 祥孝 著
山鳥 重,河村 満,池田 学 シリーズ編集

《評 者》笠原 嘉(名大名誉教授・精神医学/桜クリニック名誉院長)

精神医学への果たし状?

 久しぶりに読みごたえのある書物に出会った,というのが読後の第一印象である。

 その上,神経心理学コレクションという名の知れたシリーズの一巻として出版された本書は,こともあろうに『精神医学再考』と銘打たれている。いってみれば神経(心理)学サイドから精神医学サイドへ投げられた質問状,いや果たし状かもしれない。事実,著者は後書きの中で「率直にいえばかなり挑発的に書き上げた」と告白している。精神科医としては一読しないわけにはいかない。

 神経心理学という名称は後期高齢者に入った私にはなつかしい。秋元波留夫の『失行症』(金原商店)は1935年と早い。大橋博司の大著『失語・失行・失認』(医学書院,1960),その増補版『臨床脳病理学』(医学書院,1965)は当時の日本の水準を示して燦然としていた。この学問は「脳に局在する精神心理症状」を選択的に扱う。大脳右半球の機能の特徴,左半球のそれとの違い,さらには前頭葉の底面(すなわち眼窩脳)に特徴的な心理症状など,そういう視点の研究だった。

 私事で恥ずかしいが,私も当時の精神科の雰囲気に染まって,故岡田幸男氏(元近畿大学精神科教授)に教えを請いながら,脳幹出血の人の身体図式障害について初歩論文を二つ書いたことを思い出す。他方で,統合失調症の精神療法研究に苦闘しながらだった。当時の精神病理学と神経心理学の距離はその程度のものだった。

 ところが,神経心理学の重心はいつの間にか神経内科学へ移った。多分,1965年前後に日本精神神経学会から日本神経学会が分離独立したことと関係している。そして今や(といってもほんのこの十年くらいだが)他者理解,自己理解,社会脳といった新しいコンセプトとともにパラダイム・シフトが起こり,医学の枠を超えて学際的になった。著者の言葉では社会認知神経心理学になった。

 「社会」という言葉が神経学の中に入るこの変化を私は好ましいものに思った。というのも,1965年以降の精神医学がいつのまにか生物学的精神医学と心理学社会学的精神医学の二大政党(?)に分かれて,両者が互いを排除し合うかのような状態にあることを案じ,両者の共通部分として「社会性」をキーワードにお互いが接近の努力を払えないものか,その仲介は神経心理学の役割ではないか,などと書いたことがあった(精神神経学雑誌.96巻,1994)。「神経心理学者の失笑を買うことを覚悟していえば,失語,失行,失認ならぬ失社会性中枢という機能が脳のどこかに局在しないか。そこが機能回復すれば心的エネルギー水準が回復する。そういう中枢があるなら生物学派と心理学派を繋ぐことができる」。遅ればせながら2004年に神庭重信先生の論文で「社会脳」という新語を発見したとき,私が感激したのはそういう経緯があったからである。

 自然科学的手法からともすれば離れがちになるわれわれにとって,神経学の陣中にあるとはいえ神経心理学は最も親しい旧友である。残念ながら今日の神経心理学会の中には精神病にまで臨床経験のある精神科医は少ないらしい。著者は数少ない一人で,しかも浜中淑彦,故田邉敬貴らとともに上記大橋の高弟である。巻末をみると精神科医の目に触れにくい雑誌にも多数の投稿がある。

 前置きが長くなったついでに,もうひと言お許しあれ。

 本書をひもとけば,冒頭からアンリ・エー(Henri Ey,1900-1977)が出てくることに気付かれよう。この仏人を私も二十世紀において精神医学の思想を作った唯一の人,と評価する。一例を挙げると,彼の「器質力動論」(オルガノダイナミズム)はわれわれの薬物療法重視の営為を説明してあまりある。軽いケースにさえ脳に働く抗精神病薬を躊躇なく使い,他方で小精神療法として患者-医師関係にも一定の注意を払いつつ,長い経過を追う。日本の健康保険下でないとできない営為である。

 その上,1974年の「意識野の解体」と「人格の解体」という分類は(本書のp.63),DSM的公衆衛生学分類の時代にあっても,平行して考えるに値する臨床的実用性を持つ。私も本書に刺激されてエーの日本における再評価を願わずにはいられない。

 本書はとても読みやすいから,これ以上の解説は不要と思う。

 神経心理学にあまり詳しくない人なら第12章「臨床病態の諸相」から読まれるのをお勧めする。ここには平素あまり出会わない次のような病態が自家例を基にわかりやすく述べられている。1)全生活史健忘,2)失声(転換性障害)と解離性健忘,3)妄想知覚,4)アスペルガー障害,5)病態失認-身体図式と身体意識の区別など。どれも平均的な精神科医の神経学的教養を高めるのに役に立つ。

 エーを知りたい方は第13章がよいだろう。「意識の病理」と「人格の病理」の二系列の要を得た解説に加えて,わが国の非定型精神病(満田)概念,鳩谷竜のてんかんから統合失調症に至る内因性精神病全体の鳥観図(p.164)もある。

 その前の第9章「『心因』という虚構について」を読み飛ばすわけにはいかない。ここは結構きつい精神医学批判だから。エーに心酔する私はほとんど同意できるが読者によってはどうだろう。ご自分の使う心因概念の再考を求められることは確かだろう。

 第10章「『自己』という虚焦点について」はラカンを論じる精神病理学者二人の説を引用しながらの説明で,新味があってわかりやすい。著者の眼はこの辺りにも届いている。

 最後に本書への反論を,と考えていたが残念ながら紙数が尽きた。

 一つだけにしたい。かねてから神経学には長期経過への関心が精神医学に比して薄いと感じていたが,本書にも同様の印象を持った。お人好しにすぎるかと思いつつ,精神科医たちは病人に人格の成長とか成熟を期待する。神経心理学はこれをどう扱うのだろう。レジリアンス(回復力)といった既設の装置の発動だけで説明するしかないのか。脳から心への通路の逆,心から脳へという通路は全く考えられないのか。

 いずれにしろ,近来まれな好著の諸兄姉のご一読をお願いする。

A5・頁208 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01404-5


認知行動療法トレーニングブック
短時間の外来診療編 [DVD付]

大野 裕 訳
Jesse H. Wright,Donna M. Sudak,Douglas Turkington, Michael E. Thase 著

《評 者》坪井 康次(東邦大教授・心療内科)

一般臨床現場で行うブリーフセッション認知行動療法の神髄

 今や認知行動療法は一般にもよく知られるようになり,その適応疾患はうつ病だけでなく,各種の精神疾患にも適応が広げられ,さらに一般身体疾患の管理の問題にも応用され効果を上げている。また認知行動療法は,薬物療法と併用されると,より良好な経過や再発予防効果が得られることもわかってきている。

 一方で,認知行動療法に習熟した治療者が不足しており,誰でもがこの治療を受けられる状況にはない。このことはわが国ばかりでなく欧米においても同様で,英国などでも治療者の養成が計画されている。より多くの患者さんに本治療の効果を届ける方法についての検討が課題となっている。

 本書は,『認知行動療法トレーニングブック』シリーズの3冊目であり,上述のような状況の中,比較的時間の余裕のない外来診療の中で,薬物療法を行いつつ認知行動療法的な手法をどのように活用するかについて詳細に述べられている。

 著者らによれば,1回15-30分程度のブリーフセッションであっても,認知行動療法の手法をうまく用いることにより,良好な予後をもたらすことができ,アドヒアランスを促進し,主症状と併発ないしは併存する症状のコントロールを助け,再発の予防にも効果があるという。

 確かに通常の診療場面を振り返ってみても,薬を患者さんに“はい”と言って手渡すだけでは,よい結果は得られない。患者さんの話を聞き,つらいところに共感し,現実を見直し整理して,よりよい問題解決を手助けするプロセスが必要であり,治療者は自然のうちにこのような対応を行っている。認知行動療法は,これらをよりコンパクトに定型化し,治療者にも患者さんにもより明確に伝えることがその特徴である。

 本書の構成は,1,2章で,ブリーフセッションに役立つ認知行動療法の特徴,認知行動療法と薬物療法の併用,認知行動療法ブリーフセッションの適応と形式,ブリーフセッションにおける認知行動療法と薬物療法の併用の適応などに触れ,3,4章では,ブリーフセッションの効果を高めるための治療関係の活用,心理教育,症例の定式化と治療計画など基本的なところを振り返っているので,初めて認知行動療法に触れる人でも理解できるよう工夫されている。

 また本書は,一般身体科医にも大いに参考になる部分がある。例えば,薬物のアドヒアランスの向上,不眠症,ライフスタイルの改善,健康的な習慣の確立など,身体疾患の患者さんに対して有効な認知行動療法的介入なども取り上げられている。

 実際に読んでみると,単に本格的,伝統的と呼ばれる認知行動療法の簡易版というばかりでなく,より短時間でコンパクトに要領よくまとまっており,まさに英語版のタイトル通り“High-Yield”実りの多いものに仕上がっていることがよくわかる。また,これまでの本シリーズのトレーニングブックと同じようにDVDが付いており,動画により実際のセッションのニュアンス,介入のタイミングなどの詳細が手に取るようにわかる。

 精神科医・心療内科医のみならず生活習慣病などの領域を扱う身体科の医師にも参考にしていただきたい良書である。

A5・頁416 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01233-1


《神経心理学コレクション》
ふるえ [DVD付]

柴崎 浩,河村 満,中島 雅士 著
山鳥 重,河村 満,池田 学 シリーズ編集

《評 者》廣瀬 源二郎(浅ノ川総合病院脳神経センター常勤顧問/金沢医大名誉教授)

すべての臨床神経内科医にとっての必読書

 《神経心理学コレクション》シリーズとして出版された『ふるえ』は極めてユニークである。神経心理学とは大脳皮質の高次機能を脳の構築と関係付ける学問であり,医学書院のこの《神経心理学コレクション》も言語,行為,知覚から意識や記憶まで多岐にわたる人間の高次機能を新しい切り口でとらえ直すシリーズとして発刊されたものである。

 今回の『ふるえ』は振戦のみならず,ミオクローヌス,ジストニー,舞踏運動などいわゆる不随意運動について臨床神経生理学の第一人者である柴崎浩先生が経験された症例の動画を呈示して説明し,二人の聞き手が問いかけ,コメントする形でつくられている。多くは基底核,小脳の機能障害である不随意運動を神経心理学シリーズで取り上げた点は今までにない発想である。ただ不随意運動はすべて運動障害であり,その多くはどこに原因があろうと運動野を中心とする運動調節中枢が最終的に関与して脊髄前角細胞を発火させるfinal common pathを考えればこのユニークさも理解できる。

 不随意運動はその異常運動を観察して今までの分類に従い診断するのが一般的であるが,その病態生理は複雑であり,最近の電気生理学的検査法や画像診断を加えることでその発生機序をも解明できる時代となってきている。柴崎先生はjerk-locked averaging法を開発して皮質性および皮質反射性ミオクローヌスの病態生理を明らかにされた神経生理学者である。そのため,この本ではミオクローヌスはもちろんのこと,振戦や他の不随意運動についても,表面筋電図,脳波,脳磁図などから筋放電スペクトラムなどを記録して,多彩な臨床神経生理学的手法により解析している。それらのデータを駆使して,それぞれの不随意運動を動画による臨床症状だけでなく病態生理学を詳しく解説することで正確に診断できることを教えてくださっている。今までの神経心理学コレクションシリーズの読者にはやや異なるアプローチで解説されており,取っ付きにくいかもしれないが,不随意運動を持つ患者を診察する立場にある神経内科医には不随意運動を病態生理学にのっとり理解するには極めて優れた教科書である。内容は他にジストニー,アテトーゼ,舞踏運動,バリズム,ジスキネジーがあり,さらにrestless leg syndrome,末梢神経障害に合併する不随意運動にもおよび動画48例が同じアプローチで鼎談は延々と進んでいく。最後にこのシリーズ編集者の一人である河村満先生の肢節運動失行の2症例の動画も加えられている。

 この鼎談の導師である柴崎先生は,最近ではすべての不随意運動を無理やり既存の分類に当てはめようとはせずに,その臨床像を正確に記載することこそが肝要であると巻頭で述べられており,学会などでも同様の考えを話しておられる。まさにすべてを極めた臨床生理学者の述懐である。

 神経心理学に興味を持つ人だけでなく,むしろすべての臨床神経内科医必読の書であり,その刊行が神経心理学領域だけでなく広く知れ渡ることを願うものである。

A5・頁152 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01065-8

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