医学界新聞

2012.01.09

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


レジデントのための
血液透析患者マネジメント

門川 俊明 著

《評 者》藤田 芳郎(中部ろうさい病院副院長/リウマチ・膠原病科部長)

実践的でわかりやすく読みやすい待望の書

 私事で恐縮だが,私が透析医療にかかわり始めた25年前には慢性血液透析を受けている方は7万人余りであった。しかし,その後うなぎ登りに増加し,現在は30万人近くとなった。慢性血液透析患者さんとかかわっている医療者は,専門,非専門にかかわらずますます増加していると考えられる。さらに,血液透析機器は慢性以外にも用いられ,今日も全国のICUで使用されているであろう。

 もしあなたが初めて透析室の当番医を頼まれたとしたらどうすればよいだろうか? 本書を前もって読むことをぜひお勧めしたい。実践的でわかりやすく読みやすい待望の書である。

 除水量と透析量の考え方(pp. 1-20),抗凝固薬の使い方(pp. 36-41),へパリン起因性血小板減少症(HIT)患者での透析時のアルガトロバンの使い方(p. 40),維持透析の管理の仕方(第3章),HF(血液濾過)やHDF(血液濾過透析)やCHDF(持続的血液濾過透析)とは何か(pp. 30-32,pp. 144-150),そして血漿交換(第5章)まで,幅広く決して詳しすぎず,困ったときにすぐに実践にうつせるように過不足なく記述されている。「Kt/V」などと技師に言われてさっぱりわからないというとき,「安定した維持透析患者の至適透析量はKt/V 1.2(URR 65%)」などという略語やポイントの意味がわからないとき,本書をひも解けば1時間もしないうちにわかるようになっている。いや,わかるのみではなく,至適透析量を達成するにはどうしたらよいか実践できるように具体的に指南されている。

 本書には「わかりやすい」ということと同時に「きめ細かさ」も同居している。血液透析中のアナフィラキシー様ショックは,透析膜でも(p. 26),抗凝固薬でも(p. 38)起こり得る。透析患者の薬剤の投与の仕方について,ジギタリス製剤(p. 113)の処方の工夫,特に注意すべき薬(p. 114),長期にだらだらと処方されかねないH2ブロッカーの副作用(pp. 114-115),またAST,ALT(p. 121),β-D-グルカン(p. 123)などの透析患者における検査値の見方など,わかりやすく記載されている。

 「レジデントのための」と銘打ってあるが,透析医療に携わって25年にもなる私にとっても日常診療の見直しを本書によって促された。恥ずかしながら,かなり技師さん看護師さん任せにしながらあっという間に25年たってしまった現在,薬剤だけに限ったとしても,ビタミンD,エリスロポエチン,リン吸着製剤,シナカルセト,ナルフラフィン(レミッチ®)などの薬があれよあれよと発売されて置いてきぼりになりそうな自分がある。また,ひと口に血液透析といっても地域によって個々の透析室によってかなりやり方が違う。本書では,現時点での血液透析に関する標準的考え方がすっきりと書かれている。自分たちの「独自」かもしれないやり方を本書によってあらためて見直すきっかけにもなる。慢性維持血液透析患者のヘモグロビンの至適目標はいくつか,糖尿病患者と非糖尿病者,若年者と高齢者でその目標は同じでよいのか,心房細動におけるワルファリンの使い方はどうか,Ca,Pの目標設定はそれぞれの絶対値を重視すべきかそれともCa×P積なのかはたまたintact PTHを重視すべきか,など,まだまだ明確になっていないことが多すぎるが,本書によって問題点をあらためて整理するきっかけにもなる。血液透析に携わるすべての医療者,研修医の皆さん(研修医は必ずICUに勤務すると思われる)に本書をお薦めする。

A5・頁200 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01387-1


早期胃癌アトラス

細井 董三,馬場 保昌,杉野 吉則 著

《評 者》斉藤 裕輔(市立旭川病院副院長/消化器病センター長)

消化管画像診断学の歴史そのものとも言える一冊

 現在,消化器内科医にとって,早期胃癌における治療の興味はESD,診断の興味は内視鏡,とりわけ拡大内視鏡,NBIであり,X線造影検査に興味を示す若い医師はごく少数の時代である。確かに近年の内視鏡診断・治療機器の進歩は著しいものがあり,X線造影検査機器の進歩に比較して飛躍的といっても過言ではない。しかしながら,早期胃癌診断におけるX線造影検査は既に不要となってしまったのであろうか? この早期胃癌診断アトラスを熟読した後には上述した不要論を唱える者は皆無となるであろう。

 消化管造影検査の中で胃は最も一般的に行われているが,実際,本当の意味での精密検査となると,大腸や小腸と比較して胃は圧倒的に難しい。被検者の体格や胃の形,病変の存在部位などに撮影技術が勝てず,満足な病変の描出に失敗した経験が小生にも山ほどある。本アトラスにはこれまでの日本の早期胃癌の最も美しいX線像が選りすぐって掲載されており,ぜひご覧いただきたい。本アトラスの造影所見は鳥肌が立つほどの画質である。国宝級の芸術といっても過言ではない。これほどの美しいX線造影像を一同に見られることに喜びすら感じる。また,本アトラスの造影所見から概観撮影としてのX線のすごさをあらためて感じる。X線,内視鏡検査のゴールは病理の肉眼像であるが,本アトラスのX線像とマクロ像を対比していただきたい。本アトラスに掲載されているX線像が病理の肉眼像を凌駕していることがわかる。すなわち,われわれのゴールの域を超えて病変の微細所見が描出されているのである。今後も造影検査を行うときには目標とされるべき画像である。さらに,画像のみならず,総論および各論のそれぞれの初めの部分にコンパクトにエッセンスがまとめられているが,そのひと言ひと言には3先生,その他大勢の先人の消化器医の膨大な汗と努力の結晶がつづられている。

 本書はまさに日本の消化管画像診断学の歴史そのものといっても過言ではなく,白壁一門のX線診断学の正統的伝承者である細井董三先生,馬場保昌先生,杉野吉則先生の3先生の人生そのものの集大成である。内視鏡像から時代を感じる症例もあるが,それはまさに内視鏡写真は機器の進歩に医師がようやくついていっており,撮影された像はどうしても機械が撮影した感が否めまい。一方,X線は機械ではなく,いかにも人間(術者)が撮影した,という実感がわく検査であり,美しい像が撮影できたときの喜び,快感は内視鏡の比ではない。本書を通じて消化管診断におけるX線造影検査のすばらしさを再認識していただけると確信する。

 本アトラスは拡大内視鏡/NBI診断,ESD治療をリードしている,携わっている専門医,そしてこれから専門医をめざすすべての消化器医に見ていただきたい一冊である。本アトラスの総論を繰り返し熟読し,X線像を頭に焼き付けることで拡大内視鏡/NBI診断にもfeedbackされ,一層診断能の向上と正しい診断に基づいた内視鏡治療成績の向上が期待される。そして,序文でも述べられているように,本アトラスが日本のすばらしい診断技術を後生にきっちり伝えるための一冊になることを期待する。

A4・頁480 定価21,000円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00152-6


ことばもクスリ
患者と話せる医師になる

山内 常男 編

《評 者》箕輪 良行(聖マリアンナ医大教授・救急医学)

日本の現実に即した医療コミュニケーションの新しいテキスト

 1990年代以降に医学教育を受けたOSCE世代と呼ばれる医師は「私は○○科のミノワです」と自己紹介でき,最後に「ほかに何か言い残したことはありませんか」とドアノブ質問ができる,という筆者らの観察は,評者もアンケート調査で実証してきた。また,評者らが開発したコミュニケーションスキル訓練コースを受講した,地域で高い評価を受けているベテラン医師が受講後にみせた行動変容は唯一,ドアノブ質問の使用増加であった。

 本書は,若い医師たちをこのように見ていながらも,日ごろ,目にして耳にする患者からのクレームをもとにどうしても伝えたい「言葉」の話を医療従事者に向けてまとめた書物である。クレーム実例から出発しているのでリアルであり,しんな語りかけである。この領域で二冊のテキスト(『医療現場のコミュニケーション』『コミュニケーションスキル・トレーニング』,ともに医学書院)を執筆している評者にとっても,このような語りかけがどうしてもかくあるべしの理想論になりがちで非常に難しいのがわかるだけに,クレームからのアプローチは執筆の抑制を保つ上でうまい戦略だと感心させられた。

 なかでも本書のハイライトは第5章「臨終・終末期の言葉」で,筆者らと患者との会話の実際や,徳永進・柏木哲夫両医師の文献を駆使して直ちに現場で役立つ内容が整理されて記述されている。また,現状の医学知識と臨床レベルを担保した「言葉」の問題点と対策,心構えが個条書きで書かれていて,未解決の第一線の疑問も文中に10か所ほど明示されている。引用文献の充実は本書の大きな特徴であり,評者も全く知らなかった作品も多く,ジャンルを問わない社会的,文学的な視点から患者ニーズを把握しようとしていることがよくわかる。

 資格を有する「風の人」として地域に受け入れられる技術者をめざしてきた評者には,武谷三男・川上武両医師の人権と安全性の論理を第1,7章でしっかりと押さえた本書が,孤高であっても正統をいくすがすがしさに感服した。特に評者は「一の言葉」(徳永)から構成されるマニュアルを導入して,臨床では普段から「二の言葉」をつむいで人間的な力量をもって診療できる臨床医を生み出せるようになればと願っているので,本書のチャレンジに心からエールを送りたい。

 臨床の「言葉」の教育を卒前学部教育に落とし込めればという思いは誰もが抱く当然の帰結である。唯一,評者が筆者らにお願いしたいのは医学教育の現状と本書の視点からの検討である。病歴聴取と身体診察は最も大切なコミュニケーション訓練の場であり,ますます強化される卒前のBSL(bed side learning)では学習必須となる。本書に書かれている「二の言葉」を使える臨床医は一朝一夕に生まれるものではなく,教育的な配慮がなされた臨床教育の充実こそがその実現の王道である。患者解釈モデル,医療面接3軸モデル,NBM(narrative based medicine)を開発してきた英国,北米の現状をみても,それは医学部教育の責務でもある。国内においてもアカデミックな領域で業績が生まれているが,残念ながら本書の文献には言及されていない。

 診療現場の言葉にはお金や制度の限界が影を落とすことがあり,その辺も筆者らは適切に扱っている。医療コミュニケーション領域に日本の現実に即した新しいテキストが登場した。本書は従来にない,言葉の真の意味において原則的でありカゲキな作品である。知的な挑戦に自らを晒したいと考えている,本物の臨床力アップをめざす研修医たちにぜひとも勧めたい。

A5・頁232 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01383-3


病態のしくみがわかる 免疫学

関 修司,安保 徹 編

《評 者》佐藤 譲(岩手医大教授/糖尿病・代謝内科)

読みやすく,身近に感じる免疫学書

 免疫学の教科書を久しぶりに手にして,まず手ごろな大きさと重さに親しみを感じた。関修司先生と安保徹先生が編集された『病態のしくみがわかる 免疫学』である。

 目次に目を通し,ページをパラパラとめくると30余年前の世界が鮮やかによみがえってきた。昨年亡くなられた恩師・熊谷勝男先生(東北大学名誉教授)の研究室(歯学部微生物学講座)である。当時,熊谷先生の元には学内外から免疫学と熊谷先生の洒洒落落しゃしゃらくらくで明るいお人柄に引かれて,多くの若手研究者が集まり熱気にあふれていた。後年その中から10数名の教授が誕生した。安保先生は熊谷教室の創生期からのメンバーである。安保先生がアメリカ留学から帰国した後,関先生も加わった。毎晩,酒を片手にNKTや胸腺外分化Tリンパ球をさかなにした熱い議論が夜半まで続いた。時に大発見を祝い,時に落胆したシーンが思い出される。安保先生と大学の同期の私は,当時,自己免疫性糖尿病(1型糖尿病)モデルのNODマウスの研究のために内科学教室から熊谷研究室に通っていた。安保・関グループが連発する大発見の祝杯を何度楽しませてもらったことか。

 安保先生と関先生のオリジナルな発想と研究成果を骨子に構成,編集されたのが本書である。当時の熱気がそのまま伝わってくる。膨大な体系に取り付く島のなさを感じる現代免疫学であるが,本書では基礎免疫学から臨床免疫学や先端的な話題まで学生や初心者を意識して,単なる知識の羅列ではなくストーリー性を重視して書かれている。そのためにまず感じるのが読みやすさとわかりやすさである。

 I章の「免疫の基礎と全体像」では免疫システムと,免疫に関与する細胞やサイトカインが解説され,その知識を基に次に「臓器,疾患や病態にかかわる免疫(臨床と免疫)」が登場する。詳しすぎず,飽きずに臨床免疫の全体像を理解させてくれる。1型糖尿病の項目がなかったのが私には心残りである。終章であるIV章「生理機能の変化と免疫」では安保先生の真骨頂が登場する。「E.自律神経と免疫」に掲載されている「ヒト白血球の日内リズム」の図は,私を含む熊谷教室研究員が集団で大学の同窓会館に泊まり,朝まで経時的に採血されてできたデータである。30数年前からの安保先生の情熱があらためて伝わってきた。

 座右に置き,生体における免疫の意味を理解するにも,知識の補強にも利用できる。身近に感じる免疫学書である。ぜひ一読をお勧めしたい。

B5・頁296 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00997-3


双極性障害 第2版
病態の理解から治療戦略まで

加藤 忠史 著

《評 者》山脇 成人(広島大大学院教授・精神神経医科学)

研修医,専門医,研究者にとってバイブル的存在価値のある書籍

 双極性障害(躁うつ病)について評価の高かった初版が出版され12年を経過した。その間に社会情勢の変化や脳科学の進歩に伴い双極性障害に関する認識や知識も大きく変化し,改訂が望まれていた。初版当時は,双極性障害という病名に違和感を覚えていた精神科医は少なくなかったが,今では一般にも浸透しつつある。評者は,著者が精神科医になったときから個人的に懇意にさせていただいているが,当初から双極性障害に強い関心を持ち,臨床および病態研究に情熱を注いでこられたわが国におけるこの領域の第一人者である。

 今回の全面改訂では,膨大な文献に基づいて双極性障害の疫学,疾病概念,診断,治療,病態に関して実にわかりやすくかみ砕いてまとめてあり,研修医にとっても読破することは不可能でないであろう。

 一方で,記載されている内容はキャリアを積んだ精神科専門医や研究者にとっても大変有用な内容がふんだんに盛り込まれている。この種の専門書では,ともすると欧米の文献の紹介に終始する傾向があるが,本書は日本の論文も多く引用し,わが国の実際の臨床に役立つ実践書でもあることが特徴である。

 著者は,現在は理化学研究所という研究機関で双極性障害の病態研究に全力を注ぎ,ゲノム解析,モデル動物,死後脳解析などの分子病態研究を展開し,インパクトの高い多数の論文を発表しているが,一方で双極性障害の患者さんや家族とも直接触れ合い,そのニーズを謙虚に受け止め,研究成果を患者さんに還元することを常に念頭に置きつつ研究を展開されている点が尊敬に値する。

 本書の最後に記載されている双極性障害のミトコンドリア機能異常仮説は,著者が提唱したオリジナルの仮説である。当初は,あまり話題になることはなかったが,ハーバード大学の研究グループが行った死後脳研究によりミトコンドリア関連遺伝子の変化が報じられてから一躍注目を浴びるようになった。ミトコンドリア病の治療薬を双極性障害に応用する臨床研究も展開されるなど,著者の仮説は国際的に高く評価され,いまや多くの国際学会での招待講演,国際雑誌での総説依頼を受けるなど,日本の精神医学の国際的プレゼンス向上に大きく貢献している。

 双極性障害は,著名な芸術家,科学者,実業家が罹患しており,知的レベルの高い人々を脅かす疾患であり,その社会的影響は甚大であるため,この疾患の病態解明とそれに基づく治療法の開発は急務である。本書はこうした社会的要請に応えるべく生まれた,研修医,一般臨床医,精神科専門医,研究者のバイブル的存在価値のある著書といっても過言ではない。

A5・頁352 定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01329-1


ここからはじめる研究入門
医療をこころざすあなたへ

Stuart Porter 著
武田 裕子 訳

《評 者》北村 聖(東大医学教育国際協力研究センター主任/教授)

研究者をめざす者が最初に読んでおきたい好書

 2004年の臨床研修必修化によりほとんどの医学生が,臨床研修から専門研修へ進み,基礎医学の研究者になる人が減ったとされる。その一方で,学部教育のガイドラインである「医学教育モデル・コア・カリキュラム(2010年度改訂版)」において,医学教育の大きな柱の一つに「基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養」がうたわれている。すなわち,「進展著しい生命科学や医療技術の成果を生涯を通じて学び,常に自らの診断・治療技術などを検証し磨き続けるとともに(中略)背景となる基礎的課題を解明するなどの研究マインドの涵養」が教育目標の一つとされている。

 医師にとって基礎医学の研究のみならず,臨床の実践者になるにしても常に向上心を持って学び続けることが重要で,その中には常に研究課題(リサーチクエスチョン)を発見し持ち続けることや,それを解決する能力を身につけることなどが含まれる。しかし,実際の医学教育の現場では,なかなかこのような研究心の涵養を教育することは難しいのが現状である。多くの大学では,一定期間,実際の研究室に配属されて研究室の課題の一部を担ってみることが行われているが,自ら研究課題を見つけるといったことはほとんど教育されない。また,研究方法についても系統だった教育は少ない。

 このような状況の下,前・三重大学教授で現在ロンドン大学大学院に留学中の武田裕子先生が訳された本書は,まさに時宜を得た好書である。

 本書の特徴を挙げると,まず具体的であることがある。第1章は「最初の一歩」で,第2章は「研究者はどう考えるのか」と続く。学生や院生が研究に取り掛かるときの視点で具体的に書かれている。第二の特徴は読みやすいということである。この種の本は,研究者が読んでわかるものが多く,研究者を志すもの(まだ研究者ではない)が読んでわかりやすいものは少ない。その点,本書はもともと三重大学の学生グループ(翻訳友の会)が自分たちにも理解しやすいものを作ることを目標に翻訳に参加したため,極めて理解しやすい表現で述べられている。

 そして最後の特徴は,研究の指南書でありながら,研究の周辺の重要なことがかゆいところに手が届くように記載されていることである。第4章のデータベースの使い方,第5章の研究の倫理などがそれに相当する。従来の類書ではあまり述べられていなかったものと思う。これらに加えて,賛辞に追補が許されるかは不明だが,本書の第8章「質的研究」についてひと言加えたい。医学生にとって質的研究という用語は聞き慣れないかもしれないが,社会科学の研究手法として重要であり,社会医学や医学教育の分野で盛んに行われている。この質的研究を取り上げていることに加え,極めてわかりやすい説明がなされていることにさらなる賛辞を送りたい。

 本書は小ぶりながら,研究者をめざすものが最初に読む本として,すべての医学生に強く薦めたい。

B6・頁256 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01181-5


ICUエラーブック
Avoiding Common ICU Errors
福家 伸夫 監訳

外科エラーブック
Avoiding Common Surgical Errors
須崎 紳一郎 監訳

麻酔科エラーブック
Avoiding Common Anesthesia Errors
有澤 創志,出田 眞一郎,井出 雅洋,岩谷 全亮,内海 潤,加藤 洋海,篠村 徹太郎,下薗 崇弘,進藤 一男,都竹 正信,内藤 嘉之,藤田 啓起,馬屋原 拓,美馬 裕之 訳

《評 者》岩田 充永(名古屋掖済会病院救命救急センター)

失敗から導かれた先輩医師の熱き教訓。全世代の医師がきっと感ずることあり!!

 「1日の終わりに患者の顔を思い出して,10分でよいから患者のために教科書を読みなさい」。これは,研修医時代に「日々の研修で効率よく学ぶためにはどうしたらよいですか?」と質問した際に指導教授からいただいた答えです。この実践により,自分の失敗に気付き,どうして誤ってしまったのか,どのような点に留意すれば次は同じ失敗を繰り返さないで済むのかを考えることができました。

 失敗することの数少ない意義は,そこから学び,「どうしたら同じ失敗を繰り返さないで済むのか」教訓を得ることにあります。ICU・麻酔・外科のエラーブックシリーズは「古き(良き)時代の指導法にエビデンスを加味してグローバルに書籍化する」ことを狙ったもので,「先輩の失敗から学ぶ」というメッセージを強く感じます。

 若手医師は各書の目次を見てもピンとこないかもしれませんが,心配御無用。時と場所を選ばず世界中の先輩たちはこんな失敗の危険にさらされて学んできたのです。同じような場面に備えて,先輩たちによる教訓をぜひ学んでみてください。中堅以上の医師であれば,目次に経験したことがある項目が並んでいることに気付き,「自分もこんな経験して汗かいたよなあ~」とうなずくことと思います(もしそうでなければ,特別優秀な研修時代であったか,経験が足りなかったのかのどちらかでしょう……)。私も「意識下挿管を拷問にしてはいけない(麻酔科エラーブック5)」「足背のII度熱傷は入院加療せよ(外科エラーブック21)」「くも膜下出血患者で新たに心電図変化がみられたら,再出血の徴候の可能性がある(ICUエラーブック203)」などは,病棟で,時には深夜の居酒屋や3軒目のラーメン屋で,先輩から厳しく,温かく指導を受けたことを思い出します。当時は,先輩にくっついていなければ決して教えてもらえなかったクリニカルパールが,今は書籍になっていつでも参照できるなんて幸せな時代になったものです。

 老いも若きも退屈せず読むことができ,自分の医師としての成長とともに読後の感想が変化してゆく……。そんな不思議な魅力を持ったシリーズとして強くお薦めします。

A5変・頁816 定価7,350円(税5%込)MEDSI
A5変・頁432 定価5,775円(税5%込)MEDSI
A5変・頁776 定価7,350円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

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