医学界新聞

連載

2011.11.07

「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.11] 英語は「ツール」

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

How did you learn English so well?
(どうやって,英語の勉強したの?)

We didn't have medical textbooks other than English in India.
(インドでは,医学のテキストは英語以外手に入らないんだ。)

 今回のReal Hospitalist,テーマは「英語」である。今まであえて避けていたテーマ。しかし,インターネットが浸透し,国と国との距離が縮まった「国際化」のこの時代,日本にいようが渡米しようが,避けては通れない話題がコレだろう。深呼吸をしつつ,始めてみたい。

 まずは,英語の重要性について。多くの人が声をそろえて重要性を説く。私自身,そういった声にあおられて英語を勉強し,そして留学を志したクチである。しかしちまたで言われるほど,本当に重要なのだろうか。また重要だとしても,それは誰にとって,何のために重要なのか。その観点が,抜け落ちていはいないだろうか。

 本連載の読者は研修医と,若い臨床医の先生方であろう。(少なくとも医学界のこの読者層にとっては)日本で仕事に取り組む限り,現時点で「どうしても」必要とされる英語の能力は限られるだろう。英語論文を読めることは重要だが,翻訳された良書が手に入る日本にいる限り,バイタルなことではないと思う(ただし,ここまでインターネットが発達して各国間の距離が縮まったボーダーレス社会,近い将来において,この前提が変わる可能性は,大いにある)。そしてまた,日本の医師免許を取得できるだけの教育を受けた先生方であれば,すでにある程度の読み書きは,できるのではないだろうか。

 10年前,漠然と英語の勉強を始めた自分の立場から今振り返ると,少なくとも「強迫観念に駆られてまで」勉強する必要はないなと,正直思う。ただ一方で,使えないと「もったいない」と思うのも事実である。英語を使うことで獲得できるもの,それは「多国籍の人々との意思の疎通」であり,「英語圏からの良質な情報」であり,そして「ネイティブスピーカーの作り出す,あるいは英語原文の醸し出す,生の感動」である。

 私はここで,「使う」と表現した。つまるところ英語はツールであり,その習得のポイントは「習うより慣れろ」である。「勉強」や「教科」では決してない。そして,使わないと「もったいない」。英語を学ぶことそれ自体を,目的化させる必要はないと思う。

 さて,次にあくまで経験則であるが,英語を「使う」ためのポイントを3つ,挙げてみたい。それは,

(1)英語をとにかく聴くこと
(2)英英辞典を使うこと
(3)日本語で意味を考えないこと

の3点である。特に(3)は重要だ。日本語の意味を考えず,とにかく聴き続ける。その際,意味はわからなくて構わない。そして,言葉の意味も英語で調べ,英語で覚える。耳と脳とを「チューニング」するイメージである。英語の脳細胞を「仕込む」ことが大切だ。

 ではここで,英語習得に関するお薦めの著書と,聴き続けるのにお薦めの英語講演をひとつずつ紹介したい。

(1)『英語は絶対,勉強するな!』(サンマーク出版)
(2)Steve JobsによるStanford Universityの卒業式での講演(YouTubeからアクセス可能)

 特に(2)は,ぜひ英語で味わうことをお勧めする。これがまさに,先ほど挙げた「ネイティブスピーカーの作り出す生の感動」のひとつである。講演を聴いて背筋が震えたのは,私自身初めての経験だった。この感動は,生の英語でないと決して味わえないと思う。

I want to learn Japanese.
(日本語を学びたいの。)

Why?
(何でまた?)

I LOVE Japanese Manga!!
(日本のマンガ,大好きなの!!)

 病院に勤める,ケアパートナー(介護職)の女の子との会話である。こちらのアニメファンやマンガファンは,そのためだけに日本語を学びたがっている。マンガを用いた日本語の教科書まである。つまるところ,こういった単純なインセンティブが,一番大切かと思う。先ほど挙げたSteve Jobsの講演は,その意味でも絶対のお薦めである。これを英語で理解することを,ぜひ目標のひとつにしていただきたい。

 以上,英語の習得は,実は(少なくとも医学界において)それほど切羽詰まったものではないという前提で,ここまで述べてきた。ただ,一方で臨床留学を経験した身としてひとつ。

 本文最初の会話のように,インドからの臨床留学生は多い。教科書の翻訳が手に入らないインドで,彼らは英語での臨床教育を受けてきており,また,英語が完全に第二母国語となっている。そしてまた,あれだけの人口を持ち,身分制度のある国から渡米してくる人たちというのは,身分の点でも,能力の点でも,選ばれた人たちなのだろう。私の同僚,レジデント時代の仲間,そして当時のアテンディング。インド出身のドクターたちは,皆そろって優秀であった。そして,こういった人たちが,将来のインドを支えるのだと思われる。

 アメリカのシステムが何でも優れているとは思わない。しかし,少なくとも現在の経済,科学,そして医学の中心がアメリカである限り,やはり学ぶことは多いだろう。そして,国家のレベルや長期のスパンで見たとき,語学の壁が大きい日本の現状は,やはり深刻だと言わざるを得ない。最初に述べた前提とやや矛盾するようであるが,これもまた,現在の正直な感想なのである。

Real Hospitalist虎の巻

英語習得,そのポイントは?
英語は「ツール」であり,使えないと「もったいない」。ポイントは,とにかく聴くこと,英英辞典を使うこと,そして,日本語で考えないこと。長期的なスパン,国としてのレベルでは,やはり日本の英語教育の現状は深刻だと思える。

追記:この原稿を編集室に送ったその2日後の10月5日,Steve Jobs死去のニュースが入りました。いちMacファンとして,また本文中述べたとおり,彼の講演に何度も励まされた身として,心よりご冥福をお祈りします。

今回は久々,わがSt. Mary's Health Centerの診療風景から2枚。写真左はICUにて,私と仲の良い集中治療医が,レスピレーターのセッティングで悩んでいるらしいところをパチリ。写真右は,病棟の美人(!)看護師3人組。ディスカッションの途中をこれまたパチリ。英語ができると,彼女たちともお話ができます(笑)。

つづく

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