医学界新聞

2011.10.10

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


個人授業 心電図・不整脈
ホルター心電図でひもとく循環器診療

永井 良三 監修
杉山 裕章 執筆
今井 靖,前田 恵理子 執筆協力

《評 者》村川 裕二(帝京大溝口病院教授・第四内科)

さまざまな魅力の詰まったフトコロの深い名著

 つまらない本の書評を書くときは,披露宴で「人並みでもない新郎」を秀才と褒めるのと同じ努力を求められる。本書のかわいい表紙を眺めて,そんなことを思った。ベテラン医師が新米医師とやりとりして何かを学ぶ,よくあるタイプの本だ。

 ところが,二人の「ボケと突っ込み」は肩の力が抜けて,引き込む魅力がある。「なるほど,なるほど」などと相づちを繰り返すところなど笑える。書評を書くだけならパラパラめくれば話は済むだろうに,うっかり最初から最後まで読んでしまった。ムム,お見それしました。以下にそのワケを述べる。

 その1:今どきはやらぬ「ホルター心電図」という言葉を書名に入れて読者を油断させている。「ジミで退屈な雰囲気」を装いながら,トリックがある。副題の"ホルター心電図でひもとく循環器診療"が答えなのだが,ホルター心電図にこだわらず,何でもかんでも行き当たりばったりで,料理しまくっている。「思いつくまま書きました」という雰囲気が楽しい。

 CARTOシステムで描いたカラフルな三次元マッピングは,ホルター心電図のテキストにはたぶん初参入。さらに,トライアルのグラフ,カテーテル・アブレーションのときの透視像,肺静脈の病理とくれば欲張りにもほどがある。ともあれ,心電図そのものを勉強してもしようがない。心電図は最初に開くドアだが,ドアの勉強ばかりではつまらない。それはトステムに任せるべきだ。心電図波形に閉じ込もらないところが魅力の1。

 その2:AVRTとAVNRTの判別について,心拍数から"アタリをつける"といった表現は面白い。ホルター心電図と運動負荷試験の"虚血性心疾患検出の感度,特異度の比較"も興味深い。基本的な臨床情報を小難しいこと抜きでスパッとまとめている。そろそろ終わりかと思えば,ゲノム解析の意義にまで手を広げている。遺伝子多型の話をワルファリンの効果の個体差と関連付けているところまで読んで,「いったい何の本?」と思ってしまった。どういう情報が面白いか,ネタの選び方が魅力の2。

 その3:自分の頭でメッセージを考えている。自分の頭で考えることをやめて,ひたすら文献で武装した本が多い。ワクワクしないし,人間くさくなくて,寂しい。本書は誰も参考にすることのない文献を300個並べるなどというやぼなことはしていない。自分で考えて,自分でしゃべっている。ホルター心電図のレポートをどう書くか,どこまで書くか,初学者が引っかかるさまつなことまで,親切に教えてくれる。著者はしつこくも親切な性格なのだろうか。面倒見がよくて,後輩に教えるのが嫌いではないのだろう。かくして,懇切,親切が魅力の3。

 まとめ:天衣無縫に好きなことを書きまくったら,フトコロの深い本が出来上がった。外見と語り口はやさしくしてあるが,見た目より読者を選ぶ。他のホルター心電図の本が色あせて見える名著。

B5・頁344 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01335-2


臨床心臓構造学
不整脈診療に役立つ心臓解剖

井川 修 著

《評 者》副島 京子(川崎市立多摩病院・循環器科/聖マリアンナ医大講師)

不整脈学の基礎と臨床の懸け橋となる一冊

 規則正しく一日10万回も拍動し効率的に循環をつかさどる心臓は,勉強すればするほど奥の深い臓器です。その発生,解剖,不整脈の機序などを学ぶほどに興味と愛情が増し,自分が循環器医であることに喜びを感じます。井川修先生による『臨床心臓構造学』は,先生が長年培ってこられた心臓への愛情,不整脈への愛情,そして患者さんへの愛情の集大成だと思います。先生の持っている構造学,不整脈学への情熱がひしひしと伝わってきます。

 今まで,ほとんどの不整脈を専門とする医師はAnderson/Becker,Netterなどの解剖学者による教科書を参考にしていたと思いますが,本の知識を臨床へ応用するのは個々の読者にゆだねられていました。つまり,内容を理解して応用できるかは読者の力量次第だったと思います。

 この本では井川先生が基礎と臨床の懸け橋となり,臨床医にも非常にわかりやすく,即時に臨床応用できるような解説がされています。不整脈のカテーテル治療を専門とうたう医師は世界中に多いのですが,井川先生ほど,心臓の解剖から機序,治療のためのテクニックを知り尽くした上で,わかりやすく解説できる医師はいないでしょう。

 総論で先生が,"循環器疾患を考える場合,「心臓構造・解剖」の窓を通してそれを見ると,「成因・病態・治療」について新しい方向からその内容を考えることができる。「心臓構造・解剖」への理解は,「心臓形態の形成過程」をたどることでさらに深まるが,可能であればその作業を3次元的に行うと,「完成した心臓構造・解剖」への認識がさらに踏み込んだものとなる"と,述べておられるとおりだと思います。漁で大海を航海するのには地図がとても重要です。さらに漁を効率よくするためには,高性能の魚群探知機が必要でしょう。この本はまさに"最新フル装備を備えた船"のようなものです。不整脈の機序の理解,カテーテル操作の工夫,合併症予防のための注意点など,臨床医が知らなくてはならないことが満載されています。

 これから不整脈を学ぶ医師,不整脈治療を既に行っているすべての臨床医がこの素晴らしい本から学ぶものは数えきれず,不整脈医必携の本であると思います。そして,今後のさらなる不整脈治療の発展の大きなきっかけになると確信しています。日本だけにとどまらず,今後ぜひ英訳され,海外の医師にも役立つような本になることを祈念します。

B5・頁184 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01121-1


イラストレイテッド 脳腫瘍外科学

河本 圭司,本郷 一博,栗栖 薫 編

《評 者》吉田 純(名大名誉教授/中部ろうさい病院院長)

若い脳神経外科医の入門書として最適

 脳腫瘍は脳神経外科において重要な分野であり,テーマである。そしてその医療の質と内容は,近年の生命科学,情報科学,そして科学技術の進歩により,大きく変貌・発展してきた。特に病態解明や診断においては,分子生物学,遺伝子工学,そして画像工学が大きな役割を果たしてきた。一方治療においては,19世紀に欧米で開発された近代脳神経外科より現在に至るまで,中心は外科手術である。そして現在の主流は顕微鏡手術,内視鏡手術および最近導入されてきたナビゲーションとモニタリングを用いた画像誘導手術となっている。

 そのような中,脳腫瘍手術の最前線で活躍されている63名の脳神経外科医が分担執筆され,河本圭司・本郷一博・栗栖薫先生により編集された『イラストレイテッド脳腫瘍外科学』が,医学書院より出版された。

 本書を手にとってみて,私の大先輩である杉田虔一郎教授が発刊され,世界中でロングセラーとなった脳外科手術のバイブル『Microneurosurgical Atlas』を思い浮かべた。先生はすべての手術にあたり,術直後,教授室にて術中思い描いた術野のスケッチを絵具で描いていた。そして弟子達に"手術は技術ではなく,アートだ"と教え,Atlasの中の絵図には先生自身が手術した脳動脈瘤や脳腫瘍の一例一例で開発・発展させた術式が描かれていた。

 本書も,熟練した脳神経外科医が執刀した脳腫瘍手術において,術者が術中に思い描いた術式をイラストレイテッドした絵図を中心にまとめられている。本書は大きく「A. 術前」「B. 術中」「C. 脳腫瘍の手術」「D. その他の治療法」の4つに章立てされており,本書の中心となる「脳腫瘍の手術」の章では,前半は脳腫瘍手術の総論として,体位,開頭,アプローチ,顕微鏡・手術器具の使い方について現在の標準的術式,ならびに最近注目されている新手術法が紹介されている。そして後半には各論として,腫瘍型ごとの症例について,術前のMRI画像,術中写真,そして使用する手術器具とともに,イラストレイテッドされた術式を紹介している。また,局所解剖,適応,アプローチ,手術法そして術後管理について,豊富な手術経験に基づく適切な説明文が書き加えられている。

 編者らは本書を"脳腫瘍外科学"と称し,単なる手術書ではなく,脳腫瘍の外科を学問ととらえ,その全般的な知識を解説した書と位置付けているが,私も同感であり,本書は若い脳神経外科医の入門書として最適であるとともに,熟練した脳神経外科医に対しても術前の確認書として有益な本であると思う。多くの先生方の手元に置かれ,親しまれる本になることを期待している。

A4・頁272 定価16,800円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01104-4


《看護ワンテーマBOOK》
成果の上がる口腔ケア

岸本 裕充 編著

《評 者》松村 真司(松村医院院長)

口腔ケアの標準的手順と連携強化の手引書

 駆け出しのころ,指導医の青木誠先生(前国立病院機構東埼玉病院院長)に「松村君,糖尿病だろうが肺炎だろうがとにかく口の中を診ることは大事だよ」と口腔内の観察の重要性を常に教えられた。そのころの私はその言葉の本当の意味を理解していなかったように思う。時は流れ一家庭医になった今,特に在宅診療で多くの虚弱高齢者を診察するようになり,歯科治療および口腔ケアの効果を心から実感できるようになった。口腔ケアにより合併症が減り,栄養状態が改善する。何より,「口から食べる」ことによって患者や患者家族の表情は驚くほど豊かになっていく。地域で暮らす高齢者が劇的に増えている現在,適切な口腔ケアを行うことの重要性はかつてないくらい高まっている。

 一方,実際に行われている口腔ケアについては,その技量には大きな差異があるとのことである。もちろん人間の行うことなので,個人によって技量に違いがあるのは避けられないであろう。しかしその結果,口腔内の衛生環境に差異が出て,ひいては歯科疾患が進行し,そしてそれが全身状態へと影響を与えるのであれば,口腔ケアを行う医療者としては,その技術を一定の水準に保つ責任があるはずである。

 そんな中,兵庫医科大学・岸本裕充先生による口腔ケアの手順の解説書『成果の上がる口腔ケア』が上梓された。タイトルが示しているように,本書は,ルーチンワークとしての口腔ケアではなく,「成果が上がる」,すなわち「患者を良くする」ための口腔ケアをめざしている。その思想のもと,最新のオーラルマネジメントの考え方に基づいた口腔ケアの手順が,多くの図表とカラー写真によって公開されている。

 第一章では「やるべきこと」とともに「やらなくていいこと」,すなわち過剰なケア,無駄なケアについて記されている。限られた時間の中で「必要なことのみ行って」口腔ケアの効果を高めようという岸本先生の思想がここに現れている。第二章では,具体的な口腔ケアの手順が6つに整理され,さらには「口が開かない」「気管チューブが邪魔」などの,よく経験するトラブルへの対応方法が簡潔に記されている。第三章では,誤嚥性肺炎,がん治療中,妊産婦など,患者の背景別にケアを行う上で注意すべき点についてまとめられている。本書を通読することで,これまでの口腔ケアの知識はより整理され,そして本書の手順を会得することで,口腔ケアの成果をより実感できるようになるであろう。

 本書で岸本先生が提案されているように,まず標準的な口腔ケアの手順を確立し,次にその有効性を検証することでより効果的な手順が開発されていけば,さらにケアの成果が上がっていくことであろう。合わせて,より高度なケアが必要な時の歯科との連携が深まっていけば,患者の状態はさらに向上する。本書の記載を実践し,その技術を多くの地域の医療者が身につけることで,成果=すなわち患者の健康状態がより向上していくことを期待したい。

B5変・頁128 定価1,890円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01322-2


イラストレイテッド泌尿器科手術 第2集
図脳で学ぶ手術の秘訣

加藤 晴朗 著

《評 者》岡根谷 利一(虎の門病院・泌尿器科部長)

一段と冴えた"図脳"イラストで手術手順を箇条書きしたユニークな手術書 第2弾

 多数の秀逸なイラストを用いて手術手順を箇条書きにしたユニークな手術書である。注視する必要のない箇所は書いていなくて,"図脳"が"頭視(?)"した関心領域のみを描いている。確かにユニークな手術書だと思うし,さまざまな内容を網羅していてなかなか真似のできるものではない。

 加藤晴朗先生とは学生時代から信州大学の医局まで30年以上の付き合いであるが,彼でなければなかなかこのような本は書けないと思う。短距離走がめっぽう速いのと絵がうまいのには以前から脱帽していた。旅行はインドや中国,バングラデシュ,留学はエジプト,欧米は行きたがらないという"変わった(?)"アナログ人間であり,本書のイラストはまさに彼が描きためた長年の手術記録に他ならない。

 この本を眺めていると第1集もそうであるが,イラストの筆遣いがわれわれの恩師である小川秋實先生のものによく似ている。簡潔かつ明快な絵柄とカラーで理解が深まり,読者を飽きさせない工夫がなされているように思う。

 上手な手術ほど誰でも簡単にできそうに思わせるが,まさにこの手術書を読んでいると簡単に手術が終わりそうな気がしてくる。加藤先生の場合,やはり"描かずにはいられない"病気にかかっているようであり,手術室ではデジタルカメラを持ち歩きながら膜構造などの解剖を確認している姿をよく見かけた。この手術書には術野の写真は全くないのであるが,手術写真集が出せるくらい写真も所有しているはずである。もしかして次は写真集でヒットを狙うかも?

 第2集では非定型的な手術が増え,イラストも一段と冴えたものが増えたように思う。それ以上にコラムが増えたが,これも"書かずにはいられない"彼の読書歴からくるものであり,アナログ手法によるイラストと表裏一体のものであろう。

 手術のイラストを上手に描ける人は手術中の術野の見方が他の人とは全く異なるのだと思う。"絵を描くぞ"と思えば,まさに"図脳"にインプリントしておかねば手術が終わったときに頭の中は白紙解答となってしまい,さらにビールでリセットされて一日は終わりである。せめて翌日に,この手術書のイラストを写実して反省しながら勉強し直すのもよいであろう。

 先日,加藤先生に超写実主義の美術展を見に行くことを勧めた。本当は絵なのであるが,女性の髪の毛一本一本まで自然に流れていて,どう見ても写真であるという信じがたい芸術である。DaVinciのコンソールを覗くと極めて精細かつ深みのある3Dの術野が見られ感動する。よく考えればテレビがアナログからデジタルに変わったときも画像を見て驚いたし,ラパロの手術をハイビジョンで見ていると,それまでの画像は何だったのかと思ったことを思い出す。しかし間違ってはいけないのは,DaVinciにしても手術の完成度というのはあくまでも解剖をよく理解した上で無駄のない手技と手順によって規定されるものであるということであり,これは未来永劫変わることはないであろう。

 今後もこの手術書は,長く座右の書として役立つものと信じている。

A4・頁352 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01103-7


誰も教えてくれなかった
血算の読み方・考え方

岡田 定 著

《評 者》宮崎 仁(宮崎医院院長)

血算をみて瞬間的に反応できる反射神経を身につけられる

 本書は,「KYな医師」であるあなたを救う本です。

 えっ,「自慢じゃないが,空気は読める」ですって? ごめんなさい,わたしの辞書では,KYとは「血算読めない」という意味なんです。

 おや,「失敬なっ! 血算ぐらい,教えてもらわなくたって,自分で読める」なんて言ってますけど,ほんとに大丈夫ですか。そんな人に限って,貧血患者を見つけた途端に,平均赤血球容積(MCV)には目もくれず,ほぼ自動的に鉄剤を処方するような診療をしていることを,わたしはちゃんと知ってますよ。ほら,「MCVって何だっけ」なんて情けないことを言ってないで,早くこの本を買って読みましょう。

 そもそも,KYな医師ほど,血算のことを軽んじていると思います。「鉄欠乏性貧血以外の血液疾患が,自分の外来を受診するはずがない」と信じているのか,フェリチンの測定もしないで,鉄剤の大安売りをしている姿を見ると,血液内科医としてはとても悲しい。あっ,申し遅れましたが,わたしは診療所の開業医でありながら,血液内科医という,一種の「珍獣」であり,著者の岡田定先生とは,聖路加国際病院内科レジデントの先輩・後輩という間柄なんです。ええもちろん,わたしのほうがずっと後輩ですが。

 いま,「血算を読めと言われても,読み方をまともに教えてもらったことなんてないぞ」という声がどこからか聞こえてきました。まったくお恥ずかしいことですが,わたしも大学教員時代に,卒前・卒後の医学教育の中で,「血算の読み方・考え方」を系統的に教えたことはありません。めったにお目にかかることのないまれな血液疾患は熱心に講義しても,最もベーシックな血算の読み方は教えない。なぜでしょう? 答えは簡単。「誰も教えてくれない」わけではなく,「誰も教えられない」からなんです。

 一口に,「血算を読む」と言いますが,ありふれた血算のデータ,すなわち赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値,白血球数,血小板数を目にした途端に,その数字の裏に隠された意味をくみ取り,病態を解き明かしていく作業には,臨床医学全般に精通するセンスと深い経験が必要となります。さらに,血算の読み方・考え方を系統的にまとめて,実践的なテキストを作り上げるには,「わかりやすく教える」ことに関する技能や熱意を持っていなければなりません。残念ながら,これまでそういう才覚を持った血液内科医が(世界中を見渡しても)ほとんどいなかったので,「誰も教えてくれなかった」という状況になっているのです。

 では,なぜ本書の著者である岡田先生には,それができるのかという理由を説明します。第一に,聖路加国際病院の血液内科部長として,長年にわたり(つい最近まで,ほとんど一人で!)入院・外来の診療や,院内の血液疾患に関するコンサルテーション業務を続けられていること。その膨大で上質な臨床経験が,本書の土台となっています。第二に,内科統括部長として,12のサブスペシャリティーを束ねるポジションにあること。「12の専門科が1つの内科」という聖路加のよき伝統が,本書の中でも生かされており,提示されるケースは,血液内科領域だけでなく,内科全般にわたる疾患が網羅されていて,まさに壮観です。第三に,レジデント教育に対する真摯な姿勢と情熱をお持ちであること。日本を代表する教育病院の中で,若い医師たちを鍛え育てることに,特別なエネルギーを注いでこられた岡田先生のパッションを,本書のどのページからも感じることができます。このような特質を併せ持つ,たぐいまれな臨床家だからこそ,「血算の読み方・考え方」を,楽しく実践的に教えることが可能となったわけです。

 医局やわが家に漂う不穏な空気は読めるのに,毎日オーダーしている血算は読めないあなたは,岡田先生のレッスンを受けて,「生の血算をみて瞬間的に反応できる反射神経」を身につけましょう。心配はいりません。血算データのどこに注目して,どう考えればよいかという勘所は,ケースごとに明示されており,名探偵の思考プロセスを追うだけで,確かな実力を身につけることができるようになっています。さらに,随所に盛り込まれた血液疾患をめぐる物語(ナラティブ)を読むと,あなたが毛嫌いしていたはずの血液内科のことが,きっと好きになるでしょう。

B5・頁200 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01325-3


急性中毒ハンドファイル

森 博美,山口 均 編

《評 者》須崎 紳一郎(武蔵野赤十字病院救命救急センター長)

中毒を熟知し,「診断を読める」者が厳選した情報

 ベテラン救急医ならいざ知らず,「中毒」と聞くと身構えてしまうだろう。何と言っても原因物質は無数にある。日常頻度の高いマイナートランキライザーの過量服用なら,まだ診療勘もあるが,中毒には耳慣れない薬も農薬も脱法ドラッグもある。最近は「得体の知れない外国薬?」もまれではない。原因物質の情報検索には,まず医薬品なら添付文書ファイルか,それらをまとめた『日本医薬品集』が探される。医薬品以外でもWEB検索は強力で,瞬く間に(しばしば膨大な)情報がPCから打ち出される。

 でも,それらを見ても「中毒の病態」も「毒性」もはっきりせず,何より肝心の患者の「治療・対処」にはほとんど無益な記事の羅列だと気付く。もともと中毒のための資料でないのだから。結局,中毒を熟知し,「診療を読める」者が厳選した情報でなければ,量が多くても実診療の役には立たないのだ。

 本書では,例えば医薬品の収録は33種に絞られ,その一方で外用消毒薬の「マキロン®」が載せられているなど,ややもすれば偏った選択に見えるかもしれない。しかし,これまで30年間,救急に専従し急性中毒に接してきた立場で眺めれば,本書の記載対象100種の選び方は実に渋い。農薬,家庭用品,工業用薬品,自然毒と合わせて,日常の救急臨床で接する中毒物質はまず本書で網羅されていると言ってよい。この点,本書には同じ著者らによるロングセラー『急性中毒情報ファイル』(廣川書店)とその改訂が生かされていることは間違いない。

 本書は比較的コンパクトである。「ハンドファイル」との名称は携帯性を重視したものだろうが,得てして小判の冊子は,いざ開いても必要な内容が不十分で,実用性に欠けることが少なくない。不用な記載を削り必要な項目・記載に絞り込んで書き込むには,著者の経験と思い入れがなければなし得ない。総論の「中毒症候」一つをとっても他書にはない明快な解説であり,一読,腑に落ちよう。

 本書を評せば,大垣市民病院薬剤部に勤務しつつ長年急性中毒を追い,今夏,第33回日本中毒学会総会を主催された森博美先生の,中毒への情熱と執念がギュっと詰まった本である。

A5・頁320 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01426-7


消化器外科のエビデンス 第2版
気になる30誌から

安達 洋祐 著

《評 者》森 正樹(阪大大学院教授・消化器外科学)

最新文献を読み解きわかりやすく再構築した,臨床に役立つ良書

 安達洋祐先生はこれまでにいくつかの消化器外科学,あるいは医学教育に関する書籍を著してきました。それらはこれまでの本とは異なり,全く新しい視点から書かれたもので,それが多くの消化器外科医の心をつかみ,そして,この分野としては異例の増刷が繰り返されていると聞いています。

 今回,彼は国際的に認知されている一流の30誌を選び,そこに発表された論文の中から,消化器外科に関連した7200余りの論文を抽出し,読破し,項目別に整理し,そしてまとめ上げました。そしてこの本が出版される運びとなりました。

 本書は大,中,小の項目から成っています。大項目は「食道胃外科」「大腸外科」「肝胆膵外科」「手術患者」「がん患者」の5項目であり,それぞれは6つの中項目で構成されています。そしてその中項目はさらに2-6つの小項目から成っています。

 「手術患者」という大項目は珍しいため少し紹介させていただくと,「術前管理」「術後管理」「薬剤投与」「血液製剤」「保存療法」「病院規模」という6つの中項目から構成されています。6番目の「病院規模」を例にとってみると,(1)大きな病院,(2)食道胃手術,(3)大腸手術,(4)肝胆膵手術,(5)手術経験,(6)病院環境,という小項目から成っています。

 さらに「(5)手術経験」の項目を細かくみると,「外科医の手術経験と手術成績」「心臓手術経験と手術成績」「がん手術経験と手術成績」「若い外科医の手術成績」「年輩外科医の手術成績」「外科医の臨床判断」「患者への説明や助言」「医師の外見や白衣」「医師の内面や心得」といった項目が並んでいます。いずれの小項目も興味深く知りたいことばかりですが,通常はまとめるのに苦労しそうなポイントを上手にまとめて,わかりやすくしているのはさすがです。例えば,年輩外科医の手術成績は本人が思っているほどには良くはなく,頭脳と体力が乖離する傾向にあるようで,自戒させられます。

 本書には至る所に著者の細やかな心遣いがみられます。7200余りの引用論文には筆頭著者名の後に国名が記されており,どの国からの論文かがわかるようになっています。最近のグローバル化に伴い,筆頭著者名だけでは施設の所属国がわかりにくい場合が多々あるため助かります。これにより国の勢いをみることもできます。また,日本からの論文はアメリカに次いで多いため,今までに論文を発表してきた読者(消化器外科医)は自分の論文が引用されているか,調べる楽しみもあると思います。もしも今回引用されていなければ,次回の第3版出版の際には引用されるような論文を発表したい,と思わずにはいられないでしょう。

 また,「偉大な先人」と「研究のヒント」というコーナーを設けており,本書にさわやかな風を運んでいるようです。前者は消化器外科の発展をみる際,欠かすことのできない10人の日本人と20人の外国人を紹介するもので,胃カメラの宇治達郎,橋本病の橋本策,直腸癌分類のデュークス,麻酔のモートンなどが簡潔に紹介されています。消化器外科医たるもの,ぜひ知っておきたい先人ばかりです。一方,後者は著者自身の英語論文30編について短く紹介したものです。私はある時期,著者と一緒に机を並べたことがあります。その際,彼が学問的好奇心にあふれ,見るもの,聞くもの,何か新しいものはないかという視点で物事を見ること,そしてわき起こる疑問を真摯に調べ,まとめ,発表していく姿勢を垣間見てきました。このような中から英語論文として彼が発表してきたものを紹介しています。彼自身の,あいまいなものを明確にしたい,わかっていないことを明らかにしたい,との強い思いから生まれた論文であり,これから羽ばたく若い消化器外科医にはぜひ考え方を参考にしてほしいと思います。

 今回の本は著者の学問に対する真摯な姿勢によって,最新文献がくまなく読み解かれ,咀嚼され,そしてわかりやすく再構築されたものです。消化器外科医にとって真に必要な内容を含んでおり,日常の臨床に間違いなく役立つと確信しています。

 最後に本書の印税はすべて東日本大震災関係に寄附されるとのことです。あらためて犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

B5・頁532 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01376-5

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