第43回日本医学教育学会開催
2011.08.08
医学教育の多様な発展をにらむ
第43回日本医学教育学会開催
第43回日本医学教育学会が7月22-23日,吉栖正生大会長(広島大)のもと広島国際会議場(広島市)にて開催された。今回の基調テーマは「医学教育学――その理論と実践」。医学教育学のグローバルスタンダードをにらみながら,世界各国の医学教育界のリーダーとともにわが国の医学教育の今後の多様な発展の在り方を議論する演題が並んだ。
本紙では,アウトカム基盤型医学教育の普及を促したシンポジウム,また医師国家試験の在り方を議論したパネル・ディスカッションのもようを報告する。
アウトカム基盤型教育は学びをどう変えるのか?
吉栖正生大会長 |
最初に登壇した大西弘高氏(東大)は,OBEの概要と必要性を解説した。氏は,OBEの例として,ACGME(米国卒後医学教育認可評議会)が1999年に提唱した「6つのコンピテンシー」(患者ケア,医学知識,プロフェッショナリズム,システムに基づく医療,診療の質管理と改善,対人・コミュニケーションスキル)やスコットランド医学部長会議で提唱された「カリキュラム3つ輪モデル」などを例示。従来の個別学習目標に基づく教育との相違点として特にオーナーシップを挙げ,OBEでは教育者中心ではなく,学習者中心のカリキュラムが可能になるとともに,学習者は自らの学習により責任を持てるようになると説明した。また,アウトカムが重視されるようになった理由として,社会や出資母体への説明責任が求められるようになったこと,構造やプロセスを重視した教育プログラムではアウトカムの評価に限界があることを提示し,OBEの必要性を語った。
OBEの重要な要素であるコンピテンスに基づく教育(CBME)について述べたのは田川まさみ氏(鹿児島大)。氏は,医師のコンピテンスとは状況に応じて発揮される統合された臨床能力であると説明し,学習の各段階で必要とされるコンピテンスの習得をめざすアウトカム基盤型の教育をCBMEと定義。CBMEでは個々の学習者の学習成果を多面的に評価するため,修了認定が多様化するとともに,ポートフォリオや360度評価など多彩な評価法が用いられると述べた。さらに同大でのCBME導入例を示し,医学教育におけるCBMEの普及を促した。
最後に田邊氏が,千葉大学における取り組みを紹介した。同大では,2005年に医学教育の第三者評価を受けた結果,卒業生のコンピテンス設定の必要性が指摘されたことから,OBEの導入に取り組んでいるという。氏は,(1)卒業時コンピテンスの作成,(2)順次性のある年次・科目ごとのコンピテンス・レベルの設定,(3)学習方略・評価法の作成,(4)全教育課程の検証と修正,という4段階でOBEを導入したと説明。学生・教員にOBEを周知するとともに,社会に求められる医師像からみたコンピテンシーの獲得に向けて取り組むことで教育の改善を図っていると締めくくった。
医師国家試験の在り方を考える
医師法第9条では,医師国家試験に「知識」「技能」の両方の評価が求められているが,現在の試験は知識の評価に偏っているのが実際だ。パネル・ディスカッション「医師国家試験のあり方」(座長=久留米大・神代龍吉氏,九大・吉田素文氏)では,現在の医療環境を踏まえ,よりよい医師国試の在り方をめぐって議論が重ねられた。
吉村博邦氏(北里大名誉教授)は,現在の国試の問題点として,(1)知識のみが問われているため臨床実習軽視の傾向を助長していること,(2)問題作成が教員の負担になっていること,(3)相対評価により競争試験になっていることを提示。良き臨床医・医学研究者の養成という医科大学の本来の使命を果たすため,卒前・卒後の連続した医師養成過程の中に国試を位置付けるとともに,国試は臨床問題を中心としたCBTと実習の成果を問うAdvanced OSCEに転換すべきとの考えを示した。
続いて三苫博氏(東医大)が国試の功罪について発言した。さまざまな改革により,国試は純粋な医学知識から鑑別診断に必要な能力などの思考力を問う問題へと変化してきた一方で,問題数があまりにも膨大であることが課題と指摘。個々の科目は優れているものの全体では過負担となり問題となっているという合成の誤謬に陥っていると強調した。以上から,学生が負担にならず勉強でき,かつ卒後臨床研修に必要な知識のみを問う量に問題数を減らすべきと訴えた。
医学生からみた国試について述べたのは小川元之氏(北里大)。同大の学生へのアンケートの結果,必修問題に対して不安を抱いており,問題数を増やしてでもリスクを分散したいと考えていること,不適切問題の採点方式に不公平感を抱いていることを提示。さらに,学生は一般問題・臨床問題では絶対評価,必修問題では相対評価を望んでいると報告した。
浦野哲哉氏(東海大)は,多肢選択形式の問題では技能や態度の評価を無理に行うと問題の質が低下するため,国試は臨床研修に必要な知識を有しているかを見極めるために行われるべきと提案。また呼吸器分野を例に,まれだが出題頻度が高く,コモンディジーズだが出題頻度が低い疾患が設問として扱われていることを示し,本当に臨床研修に必要な知識のみに絞るべきと,現在の国試の問題点を語った。
国試に技能評価を導入すべきと主張するのは倉本秋氏(高知医療再生機構)だ。氏は,現在の国試における技能に関連した設問は,技能に関する知識を問うているにすぎないと強調。また,共用試験へのOSCE導入や国試委員に携わった経験から,多数の「班」や「委員会」で国試の在り方を議論する現状では,制度改革には限界があると説明した。
志村俊郎氏(日医大)は,国試に臨床技能評価を導入することへの課題を語った。現在実施されているAdvanced OSCEは,大学ごとに内容や評価法が異なると説明。共用試験OSCEと同様,手技課題評価者と模擬患者の認定講習会の開催が必要であるとし,Advanced OSCEの国試導入にはまだ乗り越えるべき課題が多くあると結んだ。
最後に登壇した吉田氏は,韓国の医師国試における実技試験を紹介した。韓国では全国2か所の専用施設で,模擬患者2人が評価を行うCPX(臨床実習試験)と,医師1人が評価を行うOSCEを計12課題行う実技試験を2009年より実施しているという。さらに類似の実技試験を導入している米国,カナダとの差にも言及。医師免許制度には医療制度や臨床実習から研修への接続性など国ごとに独自性があることから,わが国に技能試験を導入する場合,大学卒業試験や共用試験との兼ね合いについての議論が必要になるとの見解を示した。
総合討論では,出題基準や技能に関する試験をどう国試に取り入れるかについて議論が白熱。「重箱の隅」をつつくような発症頻度の低い疾患を題材とした設問も現行の出題基準では作成されてしまうことから,出題基準の改善を求めるべきとの声が上がるとともに,厚労省から独立した専門職による第三者機関が国試作成を行うべきとの意見が多く出された。
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