医学界新聞

2011.07.18

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


眼科ケーススタディ
網膜硝子体

吉村 長久,喜多 美穂里 編

《評 者》根木 昭(神戸大大学院教授・眼科学)

疾患の診断,治療選択の思考過程を学ぶ最適の書

本書は京都大学眼科教授・吉村長久氏,前同大学准教授,現兵庫県立尼崎病院眼科部長・喜多美穂里氏編集による網膜硝子体疾患,31症例のケーススタディである。執筆者はすべて,京都大学眼科の教室員および同門会員である。項目は日常よく遭遇する網膜硝子体疾患,眼底・硝子体所見や主訴から成り,典型的な症例を挙げ,主訴,初診時所見,全身および眼科的検査所見,治療と管理という診療経過順に記載されている。合間に囲み記事として,まず症例のポイントの要約や,そこから考えられる鑑別診断,検査結果からの疾患の理解がまとめられている。次いでポイントとして検査結果の読み方,注目すべき点,関連疾患との鑑別の要点などがまとめられ,さらにメモとして確認事項や現在の論点,最新知識が取り上げられている。最後にはこの疾患を勉強する上でキーとなる文献を,その貢献内容とともに網羅してある。

 本書の特徴は,各症例が初診時から結末まで,担当医の思考過程に沿って経時的によく整理されていることである。まさに紙上の症例検討会であり,眼底所見や画像所見をどのように表現したらよいか,どう読んだらよいか,その結果をどう解釈していくのかという判断の模範が示されている。何より特筆すべきは,最新の光干渉断層計(OCT)や造影などの画像所見と肉眼的眼底所見が美しい写真とともに経時的によく対比されている点であり,読み進めていくうちにまるで学生時代のCPC(clinico-pathological conference)を受けているような錯覚に陥った。もちろんそれはOCTの進化のおかげであるが,CPCでは最終末の病理組織所見が主体であるのに対し,OCTでは疾患の経時的な,ある意味光学的顕微鏡所見にも匹敵する構造的変化を把握でき,組織標本を超える情報力を提供している。これは網膜硝子体という透光組織で初めて可能なものであり,本書はその特色を最大限に利用して疾患病態を解説した新しいタイプの眼科教科書といえる。

 加齢黄斑変性やポリープ状脈絡膜血管症,中心性網脈絡膜症等の項目は著者らの教室が最も力を入れている領域であり,言葉の解説から最新の病態の考え方まで,簡潔明瞭に解説されている。代表文献の解説も大いに有用である。黄斑浮腫や黄斑前膜に対する治療効果の解説,手術治療効果の現実的評価にも好感が持てる。サルコイドーシスや急性網膜壊死,アミロイドーシスなど,まぎらわしい疾患への考え方,対処の順序に加え硝子体サンプルの採取方法等実践的知識もあって,臨床医のニーズによく応えている。後半には網膜剥離症例の手術選択方法,難治例対策にも触れてあり,手術医にとっても興味深い内容である。最後の付録にある画像の基本ルールも用語を整理する上で有用である。本書が全体にわたって理解しやすいのは,多くの施設の共著ではなく,同門による執筆のため,考え方や執筆スタイルが統一されていることによると思われる。

 本書は日常遭遇するほぼすべての網膜硝子体疾患を網羅しており,その診断と治療選択に至る思考過程の教科書である。若い人には症例の診方,病巣の表現方法,プレゼンテーションの仕方の手本となるであろうし,専門医にとっても日進月歩の知識を整理する上で最適の書である。美しい画像写真は特筆ものであり,行間が広く読みやすい。ケーススタディとされているが,網膜硝子体疾患の最新の実践的教科書といえる。このような企画を思い立ち,実現された編者に拍手を送りたい。是非とも皆様にもご一読されることをお勧めしたい。

B5・頁272 定価13,650円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01074-0


PT・OT・STのための
脳画像のみかたと神経所見 [CD-ROM付] 第2版

森 惟明,鶴見 隆正 著

《評 者》石川 誠(医療法人社団輝生会理事長/全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会会長)

PT・OT・STも大きく変貌を遂げねばならない

かつてリハビリテーション医療の対象疾患は骨関節系が主流であったが,いつしか脊髄損傷,頭部外傷,脳卒中等の中枢神経系の疾患へと移行していった。ところが,脳という「神経の中枢」はブラックボックスと言われたように,解明された部分は極めてわずかで,大部分は未知の臓器であったことから,中枢神経系のリハビリテーションは科学として成立しにくい時代が続いていた。脳神経外科医,神経内科医,精神科医,リハビリテーション科医などの臨床家,さらに神経科学にかかわる多くの学者たちの長年の努力により,ひところに比べれば脳の解明は格段に進んできた。とはいえいまだにブラックボックスであることに変わりはない。

 かつて,多くの臨床家による詳細な神経所見や行動観察,剖検所見等のすり合わせにより,大脳の機能局在論が一世を風靡した時代があった。19世紀の後半のことである。その後100年が経過した20世紀後半にはX線CTが登場し,新たな局面を迎えることになった。さらにMRIやPETなどの新鋭機器が開発され,未知の分野が徐々に解明されつつある。画像診断の進歩により新たな事実が続々と確認されているのである。

 小生が若いころ,脳はほかの臓器とは異なり,再生しない臓器の代表と教え込まれたが,画像診断と同時に神経可塑性の研究も進み,脳は変化し得る臓器として誰しもが認めるところとなった。今後は,かつての不可能が可能に塗り替えられる時代が続くことと思われる。

 事実,人間の自然回復能力とそれを育むリハビリテーション医療の発展により,障害を持った方々の運動や動作,行動が予想をはるかに超えて回復を示す例はまれではない。その裏側には,構造的かつ機能的な脳の回復が間違いなく存在するはずである。宇宙のような無限の脳という臓器を科学的に解明し,人類がさらに幸福に過ごせる社会をつくるためには,専門医や脳科学者だけでなく総力戦が必要なのである。すなわち,PT・OT・STも大きく変貌を遂げねばならない。こうした時代にあって,『PT・OT・STのための脳画像のみかたと神経所見』(第2版)の出版は,まさに時宜を得たものと言えよう。

 本書は,神経解剖と神経所見に始まり,豊富な具体的症例を鮮明な画像とともに提示し,Q & Aもこまめに付してあり,何よりも難解な神経をわかりやすく説明し,読みやすいことが特徴である。さらに画像に関しては自学自習用のCD-ROMも添付するなど,懇切丁寧に作られた力作である。脳神経外科の大家である森惟明・高知大学名誉教授と大ベテランのPTである鶴見隆正・神奈川県立保健福祉大学教授の共著である本書は,臨床にかかわるPT・OT・STにとり,現場ですぐに役に立つことは間違いない。脳疾患を持つ患者さんに対応する多くの若きPT・OT・STが座右に置いて日常的に利用するのに最適な本であると考える次第である。

B5・頁160 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00703-0


睡眠障害国際分類 第2版
診断とコードの手引

米国睡眠医学会 著
日本睡眠学会診断分類委員会 訳
日本睡眠学会 発行
医学書院 販売

《評 者》伴 信太郎(名大大学院教授・総合診療科)

診療現場でひもときたい1冊

本書は,少なくとも睡眠薬を処方する機会のある医師(ということはほとんどの医師ということになるだろう)が参照できるところに常備されるべき本である。

 その内容は,I.不眠症,II.睡眠関連呼吸障害群,III.中枢性過眠症群,IV.概日リズム睡眠障害群,V.睡眠時随伴症群,VI.睡眠関連運動障害群,VII.孤発性の諸症状,正常範囲と思われる異型症状,未解決の諸問題,VIII.その他の睡眠障害,付録.睡眠障害以外の疾病として分類される諸病態に伴う睡眠障害,から成り,それぞれの章には3-15項目の異なる睡眠障害の疾病・症候・病態についての解説がある。内容からもおわかりのように,一部の睡眠の専門家を除いては,最初から終わりまで通読するような書物ではない。(すべての項目を数えてみると)88ある項目名を頭の片隅に置いておき,それらのことに関して診療現場で疑問が生じたときに参考図書としてひもとくとよい。

 それぞれの項目の中では同義語/基本的特徴/随伴特徴/患者統計(有病率など)/素因・誘因/家族的発現様式/発症・経過・合併症/病理・病態生理/睡眠ポリグラフ・その他の検査所見/診断基準/臨床的・病態生理学的亜型/未解決の事項と今後の課題/鑑別診断の順に記載され,例えば「寝言sleep talking」という項目では,「小さな子どもの半数と成人の5%に認め,明確な遺伝的影響がある。ほとんどの症例では重症な精神症状(病理)は伴わない」ことがわかる。また,記述が全体的にこの形式で統一されているので大変読みやすい。さらには,本書のこの記述の順序がわかれば,各項目を読むときに,時間的余裕に応じて,興味のある部分だけ読むということも可能である(例えば,診断基準と鑑別診断だけ拾い読みするなど)。

 本書は,睡眠関連の病態の診断に関しては現在の世界標準であるが,やや無味乾燥であることは否めない。そこで,睡眠研究の第一人者の櫻井武先生(金沢大学医薬保健研究域医学系教授)の書かれた『睡眠の科学』(講談社ブルーバックス,2010)と併せて読むことをお勧めしたい。『睡眠の科学』で睡眠に関する興味をそそられながら,診断基準を読んでみると興味が倍加することは間違いない。

 最後に訳文は,非常に読みやすく違和感は全くなかった。

 『国際頭痛分類第2版』(医学書院,2007)と同様に,診察室やカンファランス室には少なくとも1冊は常備しておくべき本である。

B5・頁296 定価6,300円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00917-1


前頭葉機能不全 その先の戦略
Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド

Yehuda Ben-Yishay,大橋 正洋 監修
立神 粧子 著

《評 者》中島 八十一(国立障害者リハビリテーションセンター学院長)

最高レベルの治療法であるRusk通院プログラムを詳述

なぜこのような病気にかかってしまったのか,なぜこのような障害をもってしまったのかというわだかまりの次に訪れるのは,最高の治療はどのようなもので,それはどこで受けられるだろうかという自問自答である。時間や費用といった制約をすべて外して,とことん病気や障害に取り組んだ結果,このように優れた治療成績が得られた,というような報告があれば瞠目すべきものがあるし,それを知ることは痛快ですらある。

 本書のサブタイトルにある「Rusk通院プログラム」は,ニューヨーク大学Rusk研究所脳損傷通院プログラムのことであり,Yehuda Ben-Yishay博士により創始され,外傷を主として,後天性脳損傷により前頭葉機能が著しく低下した患者を対象としている。本書はくも膜下出血で「前頭葉機能不全」になった日本人男性がニューヨークでRusk研究所に通い,望むべき成果を手にする過程を夫人が克明に綴った体験記的性格の書である。その分量はB5判で300ページに足らんとする。夫人はピアニストにして大学教授である。したがって医学的立場の方ではないが,その優れた筆力で書かれた訓練風景と訓練内容には医療専門職にある者をして納得せしめるものがある。

 神経心理ピラミッドとは,前頭葉損傷で失われる機能のすべてを「神経心理学的リハビリテーションに取り組む意欲」から始め,「自己同一性」の頂点に到るまで,下位の欠損は上位にあるすべてに影響を及ぼすという観点で分類した9つの階層を視覚化したものである。下から上へと「気づき」が進むことを治療の目標としている。実際に一人の患者が歩んだ一つひとつの階層を克明に書き著した個々の章は,認知リハビリテーションを自ら手掛ける専門職にあっては相当な知恵袋となるはずで,日常業務に役立つヒントを多く盛り込んでいる。

 ともあれRusk研究所は非常に徹底している。通院プログラムへの参加を認められるには書類審査を経た後に,2日または4日をかける評価がなされ,これにパスする必要がある。また,脳損傷は不可逆的なもので,治療は元通りになることをめざすのではなく,自立,社会的適応,就労・就学,情緒的適応,自尊心などをできうる最高のレベルまで引き上げることをめざすとしている。そのような過程を経てRusk通院プログラムの成果を実感したことが本書を著したゆえんであろう。そればかりかRusk研究所が求める家族のかかわりを図らずも伝えることになった。家族にも訓練プログラムに濃密に加わることを求めるということは,なかなかできないものである。

 全貌を窺うことが必ずしも容易ではないRusk研究所の通院プログラムを,ここまで訓練内容に踏み込んで詳細に記述した本書はそれだけでも大変貴重であり,今の社会でできうる最高レベルを示しているといえるのではないだろうか。

B5・頁312 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01180-8


専門医をめざす人の精神医学 第3版

山内 俊雄,小島 卓也,倉知 正佳,鹿島 晴雄 編
加藤 敏,朝田 隆,染矢 俊幸,平安 良雄 編集協力

《評 者》山下 格(北大名誉教授)

わが国の精神医学,関連分野の総力が結集された成果が一冊に

本書第3版の発刊を心からお祝いしたい。この本は歴史を背負っている。初版は学園紛争以来の卒後研修の遅れを取り戻すため,精神医学講座担当者会議の54人が執筆し,1998年に刊行された。どこか老教授が新人に講義をする雰囲気がある。その後日本精神神経学会の専門医制度の発足(2005年)に合わせ,専門医が習得すべきminimum requirementsの指針として,現・前教授115人による第2版が2004年に出版された。前版より対象項目を大幅に増やし,教科書的な形式を整えている。そして今回,848ページにわたる第3版が生まれた。執筆には広く各分野の権威130人が参加し,第2版の半数以上の項目で執筆者が交替し,同一人の場合も見直しが行われた。このような経緯からも,本書の内容,目標,存在価値が知られるであろう。差し当たり専門医が研修すべき事項に視点を置いているが,実際には広く精神医学の臨床全般にわたる最近の知見とともに,それを支える神経科学,心理学,文化・社会学などの諸側面の研究成果や基礎的理論,さらに精神科救急や安全管理,福祉・法律・職場や学校の精神保健など,身近で実践的な諸問題まで取り上げている。

 その意味で本書は,現在わが国の精神医学および関連分野の関係者の総力を結集した成果といえるであろう。その編集・執筆に当たった方々のご努力に敬意を表するとともに,本書が多くの精神科医の書庫の宝となることを願うものである。

B5・頁848 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00867-9

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