医学界新聞

連載

2011.07.11

もう膠原病は怖くない!
臨床医が知っておくべき膠原病診療のポイント

◆その2◆
膠原病における自己抗体の考え方と使い方(1)

高田和生(東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 准教授)


2932号よりつづく

 膠原病は希少疾患ですが,病態はさまざまな臓器におよび,多くの患者で鑑別疾患に挙がります。また,内科でありながらその症候は特殊で,多くは実際の診療を通してでなければとらえにくいものです。本連載では,膠原病を疑ったとき,膠原病患者を診るとき,臨床医が知っておくべきポイントを紹介し,膠原病専門診療施設での実習・研修でしか得られない学習機会を紙面で提供します。


 自己抗体は膠原病の象徴です。本来免疫寛容が成立しているはずの「自己」の分子に対して抗体が形成される機序は神秘的であり,新たに見つかる自己抗体により複雑怪奇な膠原病の病態が解き明かされていくのは痛快です。しかし,膠原病の本質は自己抗体が引き起こす病態のみでなく,自己抗体産生に至る素地も同様に,いやそれ以上に重要で,自己抗体はその副産物にすぎず,病態形成に何ら関与しない場合もあります。そのため,自己抗体の感度・特異度は必ずしも高くなく,注意して解釈しなければ自己抗体に振り回されてしまいます。
 そこで,今回から2回にわたり,膠原病診療における自己抗体の考え方と使い方を学びます。1回目の今回は総論として「自己抗体の産生機序と病態への関与」を,次回は「臨床アプローチにおける使い方」を取り上げます。

(!)同じ機序で産生された自己抗体でも病態への関与はまったく異なる

 自己抗体は,産生機序・病態への関与ともにそれぞれで異なります。また,同様の機序で産生された2つの自己抗体でも,一方は病態形成維持に強く関与し,他方はまったく関与しない場合もあります。

■自己抗体の病態への関与

(?)自己抗体は常に病態に関与している?

 自己抗体には,(1)病態形成・維持に関与せず,または明確な見解がないもの,(2)直接細胞膜表面や間質に存在する対応抗原に結合し,対応抗原が存在する細胞や組織に障害を来すもの(過敏反応のクームス分類におけるII型),(3)(2)の亜型で細胞膜表面の受容体に結合しアゴニストまたはアンタゴニスト作用を引き起こすもの(同じくV型),(4)対応抗原と形成する免疫複合体が組織に沈着して障害を来すもの(同じくIII型)などがあります。

 具体例をに記します。膠原病でみられる自己抗体の多くは細胞内(特に核内)分子に対するものなので,自己抗体が対応抗原に容易にアクセスできず,結果的に病態形成・維持にまったく貢献しないもの((1))が少なくありません。

 自己抗体の病態への関与の例

■自己抗体の産生機序

(!)分子擬態による交差反応は少数派

 病原菌や腫瘍細胞などに対して産生された抗体が,ヒトに存在する似通った分子にも結合し病態を引き起こす,いわゆるmolecular mimicry(分子擬態)とそれによる交差反応はとてもわかりやすい機序ですが,このように受動的な自己免疫現象は実は少数派です。実際,膠原病でみられる自己抗体の多くには,「非自己」の分子に対する抗体にみられるような獲得免疫の産物であることを示す特徴(クラススイッチや親和性成熟)が多くあります。

 また不思議なことに,ヒトには2-6万種のタンパク質が存在しますが,自己抗体が作られるのは1-2%ほどにすぎません。免疫制御機構を破壊した動物モデルで産生される自己抗体も,ヒトの膠原病でみられるのとほぼ同様なものに限られます。つまり膠原病でみられる自己抗体の多くは,何らかの特性を持つ限られた「自己」の分子に対する能動的な免疫反応の産物なのです。

(!)「自己」の分子は通常獲得免疫を惹起しない

 免疫寛容が成立しているはずの「自己」の分子がなぜ獲得免疫を惹起するのでしょう? 「自己」の分子が獲得免疫を惹起するにはいくつかの障害が存在します。膠原病でみられる自己抗体の対応抗原の多くは細胞内(核内)にあり,細胞死(アポトーシス)においても細胞外に漏れることなくマクロファージに処理されます。よって,まず何らかの形で抗原提示細胞がそれら分子にアクセスを得る必要があります(A)。

 また獲得免疫形成の起爆は局所における抗原提示細胞の賦活であり,そのためにはToll様受容体(TLR)などのパターン認識受容体の賦活が必要ですが,通常これら受容体はウイルスや細菌などの菌体形成分子パターンを認識するものです(B)。

 さらに,抗原提示細胞が所属リンパ節で抗原提示をしても,それに親和性を持つTリンパ球やBリンパ球に巡り合う必要がありますが,胸腺や骨髄におけるnegative selectionにより,自己抗原に高い親和性を持つものは淘汰されています(C)。その他にも調節性Tリンパ球や未熟樹状細胞による寛容維持機構が存在し,「自己」の分子が獲得免疫を惹起しにくくなっています。

(!)膠原病では「自己」の分子が獲得免疫を惹起する

 膠原病でみられる自己抗体の対応抗原である「自己」の分子には,上述した免疫機構を維持できなくする特性があります。まず,それら分子の細胞内(核内)分布は一見無秩序に見えますが,その多くが細胞のアポトーシスの際に細胞膜が形成する小疱(apoptotic bleb)内に集められます。その後マクロファージを主とする機構により処理されるのですが,全身性エリテマトーデス(SLE)ではこの処理機構に異常があるため,抗原提示細胞がそれら「自己」の分子にアクセスを獲得し得ます(Aの破綻)。

 抗原提示細胞膜上のTLR-7はウイルスRNAにより賦活されますが,複数の自己抗原を構成要素として持つスプライソゾームや核内低分子リボ核タンパク質の根幹を成すRNAはウラシル含有率が高く,ウイルスRNAに似た特性を持ちます。また,抗原提示細胞膜上のTLR-9は細菌DNAにより賦活されますが,薬剤誘発性ループスを引き起こすプロカインアミドやヒドララジンなどはDNAのメチル化を抑制し,細菌DNAに似た特性をもたらします。そのため,Aの破綻によりこれらにアクセスを得た抗原提示細胞は賦活され得ます(Bの破綻)。

 さらに,「自己」の分子に高い親和性を持つリンパ球はnegative selectionにより体内には極めて少数しか存在しませんが,A,Bの破綻などにより「自己」の分子が長期にわたり繰り返し抗原提示されるため,いずれ自己親和性リンパ球が抗原提示細胞に巡り合い,獲得免疫の構築に動員され得ます(Cの破綻)。それら以外にも,「自己」の分子の構造や電荷の特性,内因または外因性のBリンパ球活性上昇,調節性Tリンパ球機能低下などの関与も獲得免疫の惹起に貢献している可能性があります。

(!)「エピトープ拡大」は能動的な免疫反応がある証

 上述したように,膠原病でみられる自己抗体の多くは分子擬態などによる偶然の産物ではなく,「自己」の分子なのに免疫機構がそれらを「非自己」ととらえてしまったがために,その排除を目的として能動的に築く獲得免疫の産物なのです。その象徴が「エピトープ拡大」です。ヒトがある病原菌による感染症を患ったとき,病原菌の菌体成分Aに対する抗体では不十分な場合,菌体成分BやCに対しても抗体が作られます。混合性結合組織病(MCTD)でみられる抗RNP抗体とSLEに特異的な抗Sm抗体という二つの対応抗原は,共に分子複合体「U1-RNP」を構成しています。MCTDからSLEに移行する患者は多いですが,その場合まず抗RNP抗体が先にみられ,その後抗Sm抗体がみられるようになります。

 シェーグレン症候群(SS)でみられる抗SS-A抗体と抗SS-B抗体についても同様で,それぞれの対応抗原は同じ核内低分子リボ核タンパク質を構成しており,SS患者では必ず抗SS-A抗体が先行します。抗ヒストン抗体と抗DNA抗体もヌクレオゾームを構成します。このようなエピトープ拡大現象は,能動的な免疫反応の証なのです。

つづく

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