医学界新聞

インタビュー

2011.06.27

interview

増加する糖尿病患者の治療に挑む
日本糖尿病療養指導士,誕生から10年を経て

小沼富男氏(順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター 糖尿病・内分泌内科教授/日本糖尿病療養指導士認定機構 理事長)に聞く


 糖尿病の基本的な治療として求められる食事療法,運動療法,薬物療法は,患者の自己管理が重要だ。そのため,それらを援助する医療者による療養指導こそが糖尿病の"処方箋"ともいえる。糖尿病患者が増加する現代にあって,医師のみでその指導を行うことは困難を極め,日本糖尿病療養指導士(CDEJ,MEMO)への要請はますます高まっている。

 CDEJ資格認定者が誕生した2001年から10年が経過。本紙では,日本糖尿病療養指導士認定機構理事長・小沼富男氏に,10年を経て見えてきたCDEJの成果や課題,そして同機構が描く今後の展望を聞いた。


各職種の専門性,職種間の連携が生きる

―― この10年間でCDEJが行う療養指導のレベルは上がりましたか。

小沼 糖尿病に関する知識の患者への提供,食事・薬剤・運動に関する指導,インスリンの自己注射や血糖自己測定の方法から,日常生活全般にかかわる相談までと,CDEJの活動は多岐にわたりますが,個々人の療養指導に必要な知識は増え,技能のレベルも年々向上していると感じます。

 CDEJの受験資格には,「継続して2年以上糖尿病療養指導の業務に従事し,通算1000時間以上の療養指導経験があること」が求められています。彼らはこの受験資格を満たすまでの期間に,糖尿病に関する知識だけでなく,糖尿病専門医の診療を間近で見ることで療養指導に求められるセンスを感じ取っているのでしょう。ここで感じ取ったものが基礎となっているからこそ,資格取得後の経験がより深く吸収され,患者さんへの指導も良質なものとなっていくのだと思います。

―― モチベーションの高い方が多く,現在では国内各地で自主的な勉強会も行われていますね。

小沼 ええ。学会や講習会への参加はもちろん,CDEJ自身がオーガナイズして,コミュニケーションスキルを磨く研修会などを開催するようになりました。資格の設立当初はここまで発展するとは想定していなかったのではないかと思います。積極的にスキルを磨いていこうという意識を感じますね。

―― どのような場面でCDEJの実力を実感されますか。

小沼 当院でもCDEJの看護師が療養指導を行いますが,繰り返して指導を行っていくことで,患者のHbA1c値のコントロールは確実に安定します。糖尿病に関する知識を持った専門家が指導に当たった結果と言えるでしょう。

 また,CDEJを交えたカンファレンスでは素晴らしいアセスメントが出てきます。当院で肥満併発患者についてカンファレンスを行った際には,理学療法士から「患者さんは運動をしているとおっしゃっていますが,患者さんの行った運動強度のレベルでは有酸素運動になっていません」という指摘がありました。こうした指摘はわれわれ医師だけではなかなか出てくるものではありません。

 このように,看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士の5職種がその専門性を活かし,連携することで,より質の高い医療を提供していくことができるのです。

社会的評価のさらなる向上をめざして

―― 現在,約1万6000人のCDEJが活躍しています()。有資格者数についてはどのようにお考えですか。

 CDEJの数(2010年6月時点)
准看護師,栄養士に対する受験資格付与は2000-04年度まで

小沼 糖尿病患者およびその予備群の人数から単純計算で考えても,CDEJは現在の2-3倍の人数がいるとよいですね。CDEJの総数は毎年約1200人ずつ増えている一方,認定更新率は約60%です。今後は総数とともに認定更新率を引き上げることが課題でしょう。

―― 更新が困難な理由として,「更新のために必要な単位の取得や講習会への参加が難しい」といった声がよく聞かれます。

小沼 ええ。単位取得の方法に関してもまだ改善の余地があるでしょうが,「e-ラーニング」の補助的な利用や,各地域のより細部にまで講習会を拡大し受講しやすい環境を整えていくために,講習会ファシリテーターを務めることができる人材の育成などを検討しています。

―― また,「CDEJの資格を持っていても社会的な評価が得られない」という声も聞きます。有資格者に対して手当を支給している施設も少ないようですね。

小沼 糖尿病専門のクリニックなどの例外を除き,公的な病院で特別な手当が支給されるところはほとんどないのが現状です。

―― 病院の収益に直接関係しない部分はなかなか認められにくいところがあるのかもしれません。

小沼 機構としても,CDEJの療養指導に対する診療報酬上の評価を得ることを課題としています。この10年間の成果から考えても,CDEJの働きが正しく評価されているとは思えません。ただ,「CDEJが増えたことが糖尿病合併症の発症・進展の防止につながった」といったアウトカムがあるわけではありません。今後,こういったアウトカムを構築し,CDEJチームによる療養指導が有効であることを示していく必要があるのかもしれません。

―― NSTなど,多職種チームによる患者へのかかわりが評価され,保険点数算定が認められているものもあります。

小沼 そうですね。やはり糖尿病患者もチームでかかわっていくべきものですから,チームでのかかわりが評価されることが望ましいですね。

 今年度の厚労省予算案に盛り込まれた生活習慣病関連の事業の中では,「糖尿病療養指導士」という文言が初めて取り上げられました(http://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/11syokan/dl/11.pdf)。診療報酬上の評価の獲得をめざす上では注目すべき点です。これまで,一部の地域で行政関係の方々と活動を共にすることはあっても,厚労省からCDEJに関する言及をされたことはありませんでした。CDEJの活動が認められつつあるということでしょう。

「施設完結型」の充実,「地域完結型」への発展

―― CDEJを取り巻く環境も変わってきました。今後,CDEJの活動にはどのようなことを期待されていますか。

小沼  糖尿病内科だけでなく,他の診療科にも糖尿病患者はたくさんいます。そのとき,そこにCDEJがいるかどうかで治療の進め方も大きく異なってくるものです。以前,当院でも糖尿病・内分泌内科以外の診療科での療養指導を成功に導いた例がありました。整形外科の入院患者のなかに,直ちにインスリン療法の導入が必要な患者さんがいることがわかりましたが,CDEJ資格を持つ整形外科の看護師の介入により,患者さんへの指導から心理的なサポートまでが上手に行われ,インスリン療法へスムーズに入っていくことができたのです。

―― CDEJが「橋渡し役」を担ったわけですね。

小沼 そうです。CDEJが院内の各科にいると,糖尿病患者を診る医師は大変助かるわけです。このように,CDEJが各自の勤務施設内で他のスタッフも巻き込み,「施設完結型」チームアプローチを充実させ,糖尿病診療をより良質なものにしてほしいと考えています。

―― 所属する施設から医療の質を向上させていくことは大切ですね。

小沼 ええ。さらに,この「施設完結型」チームアプローチの充実と同時に,「地域完結型」チームアプローチの発展にどのような役割が果たせるかを模索していってほしいと思います。

 昨今,地域医療連携の重要性が指摘されていますが,現在,各地の糖尿病医療連携の質は担保されているかといえば,そういうわけではありません。熱心な糖尿病専門医やコメディカルスタッフが一丸となってその土地の特性に合わせた医療連携を積極的に展開している地域がある一方で,十分にそれらが機能していない地域もあります。

 そのような地域では,少数の医師の力だけで医療連携の確立を試みようと思ってもなかなか難しいでしょう。ですが,一定のレベルを持つことが証明されたCDEJがそこにいることで,その地域で先導する医師たちを盛り立て,システム作りに協力していくことが可能です。すでにCDEJが役割を持って連携システム作りに協調している地域はいくつかあり,東京都の江東・墨田・江戸川の3区では「区東部糖尿病医療連携検討会」が進行しています。

 こういった活動を続けるCDEJに対して,最新情報の提供を拡大,充実させ,認定機構との相互ネットワークをより密にすることで今後も支えていきたいと思っています。

―― 糖尿病患者の増加が続くなか,多くの方が質の高い医療を受けられるよう医療連携を進めることは大事です。

小沼 そうですね。今後は高齢の糖尿病患者が増えてくると考えられます。糖尿病を持つ高齢者を診る際に求められるのは,医療の面からだけでなく,介護・福祉なども巻き込んでいくダイナミックなチーム医療です。多職種でチーム医療を行う手法を,「CDEJ」として5職種の中で学ぶのは,今後大いに役立つことだと思います。そこで学んだノウハウを,高齢者糖尿病医療から高齢者医療全般にまで発展させていくこともできるでしょう。

 特に看護師は,幅広く勉強しているので,チームを動かす上でも信頼できます。患者とのコミュニケーションスキルだけでなく,多職種間でどのような協調体制を構築することができるかを模索し,チーム医療の核となっていくことを期待しています。

MEMO 日本糖尿病療養指導士(CDEJ;Certified Diabetes Educator of Japan)
糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識を有し,医師の指示の下で患者に熟練した療養指導を行うことのできる医療従事者(看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士および准看護師,栄養士の資格を有する者。ただし,准看護師,栄養士に対する受験資格付与は2000-04年度までとする)に対し,日本糖尿病療養指導士認定機構が与える資格。2001年より認定試験が開始され,現在では約1万6000人の有資格者がいる。資格更新は5年ごと。

(了)


小沼富男氏
1974年弘前大医学部卒。88年同大第三内科助教授,94年ハーバード大ジョスリン糖尿病センター留学(文部省長期在外研究員),96年順大内科学・代謝・内分泌学助教授を経て,2000年同大内科学教授,同大医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター糖尿病・内分泌内科教授,現在に至る。日本糖尿病学会,日本動脈硬化学会,日本肥満学会,日本病態栄養学会などの評議員,日本臨床栄養協会副理事長,日本糖尿病療養指導士認定機構理事長など役職多数。

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