医学界新聞

対談・座談会

2011.04.11

座談会

新『消化器腫瘍WHO分類』から考える
日本の病理戦略

下田忠和氏(国立がん研究センター・がん対策情報センター)
中村眞一氏(前岩手医科大学教授/三菱化学メディエンス 病理・細胞診センター)
坂元亨宇氏(慶應義塾大学医学部 教授・病理学)
福嶋敬宜氏(自治医科大学教授・病理学)=司会


 2010年10月,10年ぶりに改訂された『消化器腫瘍WHO分類(第4版)』(WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th edition)がWHOより公表された。この新しい消化器病理のスタンダードの作成には,上部消化管,下部消化管,肝臓・胆道,膵臓の各分野のワーキンググループに日本からも病理医が参加し,日本発の疾患概念も取り入れられるなど国際標準化に大きく貢献した。ただ一方で,日本と欧米にはいくつかの病変で概念上のずれがあるのも事実だ。

 本座談会では,2009年12月にフランス・リヨンで開催されたWHO分類最終コンセンサス会議(以下,リヨン会議)に出席した4人の病理医を迎え,改訂された新分類の最新情報と消化器病理の国際動向を議論。国際分類作成における日本の病理医の役割と戦略を展望する。


『消化器腫瘍WHO分類(第4版)』
福嶋 2000年の第3版発行から10年,このたび『消化器腫瘍WHO分類(第4版)』が発行されました。

 まず,ご担当領域ごとに今回の改訂のポイントをご説明ください。

焦点は「早期病変」の取り扱い

下田 私は上部消化管領域を担当しました。今回この領域では,「intraepithelial neoplasia」と分類される早期の腫瘍性病変が大きく取り上げられ,治療法まで踏み込んだことが最大の変更点です。また,わかりにくかった「神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumour)」の分類が膵臓も含めて明確になりました。以上の2点がポイントです。

中村 私は下部消化管,大腸を中心に改訂に携わりました。この領域は第3版をほぼ踏襲したものとなりました。ただ上部消化管と同様,これまで炎症性腸疾患に関連した異形成という意味で用いられていた「dysplasia」という用語が,今版では炎症性腸疾患に限らず早期病変で使用可能となったため,何を具体的に示しているかわからず私自身戸惑っています。

下田 「dysplasia」の定義は今回新たな問題として浮かび上がりましたね。定義があいまいなため異形度分類や精度管理ができないとの議論から,今版では「intraepithelial neoplasia」が"消化管上皮性腫瘍診断のための国際コンセンサス分類(ウィーン分類)"1)に準じて記載されました。しかし,診断名としての「dysplasia」が残されたことが問題になっていると考えられます。

福嶋 原因はそこですね。このほか下部消化管で新たな動きはありましたか。

中村 「serrated lesions」という分類が新設され,非常に珍しい「micropapillary carcinoma」や「serrated adenocarcinoma」といったタイプの腫瘍も取り入れられました。今回特にうれしかったのは,「粘膜内癌(intramucosal adenocarcinoma)」という用語が"日本では"という注釈付きながら認められたことです。

福嶋 そこは日本の主張が通った部分ですね。坂元先生,肝臓と胆道分野の解説をお願いします。

坂元 肝臓腫瘍の大半は肝細胞癌です。ですから他の臓器よりも分類はシンプルですが,肝細胞癌の早期癌と前癌病変に関するコンセンサスが明確に記載され,「early hepatocellular carcinoma」という用語が正式に認められたことは大きな進歩でした。これまで日本の概念や分類が国際的にはなかなか認められてこなかったなかで,これは極めて意義深かったと思います。

 実は,このコンセプトは第3版にも掲載されていました。しかし前回の改訂では,疾患の遺伝子に関する知見が新たに追加された分,本来WHO分類が果たすべき用語や分類の標準化のための議論が十分になされず,あまり注目されなかった経緯がありました。第4版は,2009年のコンセンサス2)を追認する形となったので,世界の肝臓病理のスタンダードになると思います。

 また胆道では,消化管と同様に上皮内腫瘍という概念が取り入れられ,嚢胞性疾患なども含めて膵臓との類似性を意識した分類となり,より実情に合うように改訂されたことがポイントです。

福嶋 早期肝細胞癌のコンセプトは第3版でも採用されたのに,あまり引用されてきませんでしたね。

坂元 ええ。第3版とほぼ同時期に,早期癌の概念を否定した米国消化器病学会を中心とする「Working Party分類」が報告され,肝臓領域ではダブルスタンダードとなっていました。

 こうした背景のなか,神代正道先生(久留米大名誉教授)らが中心になって国際会議で繰り返し議論し,結果的に10年近い年月を経て今回の合意形成へと至りました。病理医の議論を後押ししたのは,日本のエコーや造影CTによる画像診断です。欧米でも画像診断に対応して,臨床現場で日本と同じような病変の診断が必要となったことも影響し,今回につながったと思います。

福嶋 今回の改訂までには多くのステップがあったのですね。

 私が担当した膵臓では,消化管・肝臓よりも改訂項目は少なかったと思いますが,日本から報告されていた「intraductal tubulopapillary neoplasm」という粘液を産生しない膵管内腫瘍の一群が,1つの分類として認められたことが大きなポイントです。これにより,行き場のなかったいくつかの症例がうまく収まるようになると思います。

 また,IPMN(intraductal papillary mucinous neoplasma)やMCN(mucinous cystic neoplasma)の定義の変更もありました。膵臓では他の消化管と異なり,以前から上皮内癌や非浸潤癌の概念が認められていたのですが,今回は米国側の考えが強く反映されたためか消化管側に近寄り,浸潤がない場合は「IPMN with (*) dysplasia(*にはmild,intermediate,high gradeなどの異形成の程度が入る)」として「carcinoma」を用いない形式となりました。MCNも同様です。このような消化管との用語統一の動きによって,むしろ病理学の進歩と逆行してしまったのではないかとも感じます。

■「経験の有無」が日本と欧米を隔てる

福嶋 各領域の改訂ポイントを伺うと,「早期病変」の取り扱いが最もcontroversialな部分で,今後も重要となりそうですね。

下田 リヨン会議の前に行われた2009年9月の会議で,早期病変である粘膜内・上皮内腫瘍性病変の取り扱いや分類の議論がなされ,"浸潤がないものは癌と診断しない"と,特に米国側が強硬に主張しました。

 その背景には欧米の病理医の早期病変の経験の少なさがあったのですが,欧州側は,日本の豊富な経験と病理学的解析に基づいたウィーン分類を無視するわけにいかないと反論してくれました。そこで私は,浸潤にかかわらず高度異形を示す上皮内病変は癌と記載すべきであると主張しました。その結果,ドラフトではそれが記載されていたものの米国側の賛同は最後まで得られず,高度異形上皮内腫瘍は日本での非浸潤性上皮内(粘膜内)癌と同じ,という記載にとどまりました。

 この経緯を振り返ると,早期癌に対する「経験の有無」が日本と欧米の大きな差となり,この差が解決されない限りコンセンサスは得られないだろうと思います。

福嶋 その意味では,そういった病態があることを臨床側に気付かせるためにも分類の作成が必要です。分類が臨床側にも注目されれば,まわり回って病理医の理解につながる可能性もあると思います。

下田 その可能性は大いにあります。例を挙げると,バレット腺癌や潰瘍性大腸炎の癌では極めて異形の低い浸潤癌(低異形度上皮内腫瘍に相当)があることを米国の病理医も知るようになりました。そのような特殊な癌では浸潤が見られなくても既に癌として治療を行っています。

分子病理の取り入れも進む

福嶋 分子病理学の進展は,今回の改訂にも大きな影響を及ぼしていますね。

中村 分子病理の知見から,以前は遺伝性非ポリポーシス性大腸癌(HNPCC)と呼ばれていた疾患がリンチ症候群と名を変えました。これは,アムステルダム基準という臨床的な基準で診断されていたHNPCCの病因がミスマッチ修復遺伝子変異であることが明らかとなり,本疾患研究に功績のあったヘンリー・リンチにちなんだ病名が復活したことによります。

福嶋 分子病理を背景とした疾患概念となったわけですね。

中村 はい。このほかにも,以前は「hyperplastic polyposis」と呼ばれた疾患が「serrated polyposis」に変わるなど,より詳細に分類されてきています。

福嶋 肝臓では細胆管癌が分子病理の進歩から,stem cell featureを有する混合型肝癌に分類されましたね。

坂元 ええ。ただ肝臓では,大腸ほど分類ははっきりしていません。分子マーカーによる分類が本当に臨床的な意味を持つかは,さらなる検討が必要だと思います。

福嶋 一方,これまで腫瘍ではなくhyperplasticと考えられていた病変でも,分子異常により腫瘍性が疑われるものが出てきました。

中村 本当に腫瘍性病変かは論議の残る部分です。私個人としてはそのような見方に反対しています。

坂元 私も中村先生と同意見です。「遺伝子変異があるから腫瘍性病変」といった議論が行われましたが,そういった判断を病理医が安易に行うことは反対です。

中村 遺伝子は盛んに討議され,大腸では組織学的なgradingと遺伝子学的な要素であるhigh level of microsatellite instabilityが同時に並べられた表3)も掲載されました。しかし,これでは分類の趣旨がわからなくなってしまいます。

福嶋 種類の違うものを同じ土俵に置いているようなところは,確かに気になります。

坂元 それでも今回は,本当に臨床病理学的に意味のある分子病理知見を選んで載せるという流れがあり,前版よりは成熟してきたと感じています。

WHO分類ができるまで

福嶋 本日ご出席の先生は私を含めリヨン会議の出席者です。下田先生は第3版に続いて2回目の参加ですが,出席者や編集担当者はどのような流れで選ばれるのでしょうか。

下田 編集にかかわる人選の詳細は私も知りませんが,WHOが各国から各臓器の専門家を抽出した後に,まず臓器ごとに責任編集者が決められます。その後さらに細かく,例えば各臓器で扁平上皮癌や腺癌などの分類ごとにそれぞれの執筆責任者が決まり,その責任者が数人の執筆者を指名します。

福嶋 出席者については,30人のうち11人が米国人で,アジアからは日本人4人のみでアンバランスな人選だと感じました。世界のスタンダードをめざすといっても,一部の人間の影響が大きいのだなと思いました。

 私は初めての参加でしたが,一通り制作の流れを経験して最も驚いたのは,発行までの時間の短さです。十分なディスカッションのないまま流れでまとまってしまったと感じられる部分もありました。

下田 編集・執筆期間の短さは私も感じています。原稿執筆期間は3か月で,書き上げたらすぐ執筆責任者に送ります。そしてwebで原稿を公開し,内容を議論するweb会議を行いました。そこでの意見に基づいて執筆責任者が修正を行い,そのひと月後のリヨン会議で各領域の責任者が最終的なドラフトを作成しました。

 リヨン会議では,最初の全体会議で決めた方針に従って臓器グループごとにドラフトの再点検をして仕上げていきました。そこで初めて掲載する写真も決まります。仕上がるとまた全体会議を開催し挙がった疑問点を議論する,ということの繰り返しが3日間行われました(写真)。

写真 リヨン会議のもよう
〈左〉膵臓グループの作業風景。
〈右〉全体会議では,30人が一堂に会し臓器横断的な概念などが話し合われた。

福嶋 膵臓の分類では,web会議の段階で新しい疾患概念の追加や不適当なものを削除する作業が多少行われたものの,最初から枠組み自体は決まっていたと感じました。

坂元 新しい疾患概念の取り扱いは,シニアエディターと呼ばれる臓器ごとの責任者が決まった時点でかなり決まってきますね。

福嶋 中村先生は今回の会議で何か印象に残ることはありましたか。

中村 私は,今版に大腸の粘膜内癌を取り入れたいと思っていました。そこで,事前にその写真と日本の病理診断基準を米国人の編集責任者に送ったのですが,彼がその写真に感銘したようで掲載につなげることができました。

福嶋 実物を見せるのがいちばんですよね。しかし,そういったプロセスは会議ではほとんどありませんでした。

中村 ええ。概念の話ばかりで,症例を見ながらのディスカッションは最後の写真選びのときのみでした。

福嶋 思い返すと,早期病変の議論でも写真を見ながらディスカッションができればもう少し違った流れになったかも知れませんね。

下田 おそらくもっと早くまとまったでしょう。米国の病理医の頭の中には「浸潤のないものは癌ではない」という固定概念がありますから,言葉だけでは頑なに拒否してしまうわけです。ですから,もう少し実際の組織像と臨床所見(特に内視鏡)を見て,そこでコンセンサスを得た概念を載せる形にする必要がありますね。

福嶋 もう一つ,病理医のみが出席者であったことも気になります。臨床医がいないため,臨床的な視点が少し足りないのではないかとは感じられませんでしたか。

坂元 臨床的な特徴も分担執筆項目には含まれますが,ページ数を減らすという方針により,病理に関連するエッセンスのみとなってしまいました。

 先に述べたコンセンサス2)では,工藤正俊先生(近畿大教授)から画像で経過を追った症例と病理との対応などを繰り返し提示してもらいました。臨床からの視点はやはり説得力がありますし,臨床医が加わらないと本当に意味のあるものはできないと感じます。

福嶋 欧米側も,臨床医が参加すると変わってくるでしょう。ただ現状では,日本の病理医は臨床医の代弁を担うことも必要になりますね。

教科書としてのWHOブック

福嶋 WHO分類には,腫瘍分類のほか病理の教科書としても使用可能という特徴がありますが,その点についてはいかがですか。

坂元 WHO分類には,発展途上国も含め世界で使用可能という使命があるため,分子病理学的な解析が行えないような地域でも使える分類,言わば最先端と汎用性の両面を追求した内容とする狙いがあるようです。

 この点において,肝臓領域で特に第3版との違いを感じたのは,細胞診が取り上げられたことです。肝臓の細胞診は日本ではほとんど行われませんが,組織診ができず吸引細胞診のみ実施可能な国もあることから記載されました。さらにリヨン会議では,アルゴリズムの作成に最も時間をかけました。経験の少ない方でもわかりやすい診断のアプローチを示すためです。このような取り組みはやはりWHOでないとできないので,今回の大きな成果ですね。

下田 WHO分類は,ブルーブックと呼ばれた初版と第2版では分類を記載するだけでしたが,第3版から分類だけではなく,その詳細な内容と診断に直接役立つ説明や写真を加えた現在の形式となり,アトラス的な要素も含まれてきました。

福嶋 多くの情報が記載され,WHO分類は病理医の部屋に必須の書籍になったと思います。

 一方,臨床医は日本の「癌取扱い規約」などとの使い分けも必要ですよね。

下田 「WHO分類」と「癌取扱い規約」の内容は大きく異なります。臨床現場では癌取扱い規約を,海外の雑誌に論文を投稿するときはWHO分類などを使用すればよいと思いますが,それぞれどこが異なるかをきちんと頭に入れて,使い分けていく必要があります。

 日本でも胃癌に関しては,UICC分類との整合性をできるだけとるようになってきています。ただ世界では,少なくとも胃ではWHOの癌組織型分類はあまり使われていません。したがって,世界のどの国でもWHO分類との乖離があるのが現状です。

福嶋 WHO分類は,論文に登場するすべての腫瘍の掲載をめざしたように,網羅性を重視しています。ですから,矛盾をはらむ可能性があることは認識しておく必要があります。

アジアでのコンセンサスが重要となる

福嶋 多くの動きがあった今回の改訂ですが,10年先にはおそらく次の改訂が待っています。日本のプレゼンスが反映されない部分もまだありましたが,次回改訂に向け日本の消化器医療にかかわる医療者は,どのような国際戦略をとればよいでしょうか。

下田 それは何よりも英語で論文を多く出すことです。今回,胃では新しい概念として胃型腺腫(幽門腺腺腫)が腺腫の1つとして記載されましたが,これは日本からの論文がきっかけです。

坂元 私も同じ意見です。WHO分類では,論文となっていない情報は絶対に載りません。論文は最低限の前提ですが,コンセンサス会議の場で急に新しい提案をしても受け入れられることはないため,日ごろから日本の概念や分類について,欧米の医師とface to faceで話し合うことが大事です。

福嶋 国際学会も増えてきているので,そういう場でのコミュニケーションが大切ということですね。

坂元 ええ。できれば臨床医や画像診断医も加わって,直接標本を見ながらディスカッションができるとよりよいですね。

 また,アジアの診療レベル・画像診断レベルは急速に向上しています。欧米の臨床医や病理医と直接議論するのはさまざまな面で困難ですが,疾患が似ているアジアであれば日本の学会と同じ感覚でできるので,アジアの中での会議を頻回に行うことが有益だと思います。今後は中国も加わって,アジアでのコンセンサスを得ていくことが,欧米と議論する上でも大切なステップになると思います。

福嶋 いきなり米国と議論すると背景となる概念の違いからも困難が予想されるので,アジアからというのは実際的な提言ですね。

下田 アジアはますます重要になるでしょう。私は約20年前から,韓国の医師と交流を進めてきました。臨床医と病理医が一緒になった議論を通じて,韓国での消化管病理診断はいまや日本とほぼ同等となっています。

■「若者よ,海外に出よ」

福嶋 国際的な仕事は今後より多く求められますが,将来を担う若手病理医にぜひアドバイスをお願いいたします。

中村 昨年ノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生が「若者よ,海外に出よ」と受賞会見で述べましたが,外国に行くことは外国を見ることと同時に,振り返って日本を見るというもう1つの見方があるので,若手医師や研究者にはぜひ一度海外に出てほしいなと思っています。

坂元 私も同感です。若手のなかには外国の学会に演題を出したがらない人もいますが,ぜひ外国に出て行ってほしいと思います。また,日本の強みでもある「標本を丁寧に見る」ことを,ぜひ自信を持って行ってほしいです。

福嶋 私は米国に留学し,病理医の守備範囲の違いや診断基準の違いを肌で感じました。また外国の医療現場を実際に見ると,「日本のほうが優れている点も少なくない」という気付きにもなります。日本だけでなく外国の医療についても見識を深めることで,その延長線上にWHOを含めた国際的な活躍の場があるように思います。

 最後に下田先生,お願いします。

下田 いちばん大切なことは,病理医であっても患者さんを治療するチームの一員であるという認識を持つことです。臨床医とも絶え間なくディスカッションを行い,その議論を基にまた標本を見る。そこには,必ず何か訴えかけてくるものがあるはずです。

 そうした疑問を解決しようとする機運が出てくれば,研究をすればいい。そしてその成果を,外国に行って下手な英語でもいいのでどんどん発信していくことが大事です。

 われわれは日本のことばかり主張する傾向がありますが,やはり相手を知った上でこちらの立場を強調することが大切で,そのためには外国へ行かなくては駄目です。このような活動によって理解が生まれ,必ず納得してもらえるようになると私は思っています。

福嶋 まさにおっしゃるとおりだと思います。

 本日はWHO分類の改訂をテーマに,消化器病理の国際的戦略まで伺ってきました。良い点も不十分な点もまだたくさん含まれると思われるWHO分類ですが,腫瘍分類として国際的に最も影響力のあるものには違いありません。そう考えると,せっかく日本の消化器病理は世界の最先端を走っているわけですから,「認められない」とむくれるよりも海外の人たちに少しでも理解してもらうことを戦略的に考えるべきだと思います。そのためには,日本の臨床家や研究者だけでなく海外の研究者とのコミュニケーションも大事にしていかなければならないという強いメッセージがありました。

 豊富な経験からのさまざまなお話,どうもありがとうございました。

(了)

参考文献
1)Schlemper RJ, et al. The Vienna classification of gastrointestinal epithelial neoplasia. Gut. 2000; 47(2) : 251-5.
2)International Consensus Group for Hepatocellular Neoplasia. Pathologic diagnosis of early hepatocellular carcinoma: a report of the international consensus group for hepatocellular neoplasia. Hepatology. 2009; 49(2) : 658-64.
3)WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th edition. IARC. p138. Table8.01.


下田忠和氏
1968年北大医学部卒。卒後同大大学院,国立がんセンター研究所,慈恵医大病理学教室を経て,94年国立がんセンター中央病院臨床検査部病理医長,2009年より現職。消化管病理研究に従事し食道癌,胃癌,大腸癌取扱規約作成に携わる。編著に『国立がんセンター大腸内視鏡診断アトラス』(医学書院),『外科病理学』(文光堂)など。UICC病理パネリスト。PCLジャパン病理細胞診センター特別顧問。

中村眞一氏
1971年岡山大医学部卒。76年同大大学院医学研究科修了。浜松医大,高知医大,岡山大を経て,88年浜松医大病院病理部助教授。92年文部省在外研究員として英国St. Mark's病院に勤務。93年岩手医大教授。退職後,DPR株式会社を経て2011年4月より現職。日本病理学会評議員,日本消化器病学会評議員,胃癌取扱い規約委員。編著に『消化管病理標本の読み方(第2版)』(日本メディカルセンター)など。

坂元亨宇氏
1985年慶大医学部卒。89年同大大学院医学研究科修了。財団法人がん研究振興財団,国立がんセンター研究所病理部,同部長を経て2002年より現職。肝臓の早期癌,多段階発癌,分子診断に関する研究に従事。日本病理学会評議員,日本癌学会評議員,日本肝臓学会評議員,NEDO「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/病理画像等認識技術の研究開発」サブプロジェクトリーダーを務める。

福嶋敬宜氏
1990年宮崎医大卒。国立がんセンター中央病院医員,米国ジョンズ・ホプキンス大研究員,東医大講師などを経て,06年東大大学院准教授。09年より現職。日本病理学会評議員,「Pathology International」常任編集委員。編著に『臨床に活かす病理診断学(第2版)――消化管・肝胆膵編』(医学書院,2011年4月発行予定),『その「がん宣告」を疑え』(講談社)など。

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