医学界新聞

2011.02.21

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ケアと対人援助に活かす瞑想療法

大下 大圓 著

《評 者》眞嶋 朋子(千葉大教授・成人看護学)

瞑想の入り口に立つ

 本書の筆者,大下大圓氏は,2008,2009年度千葉大学の普遍教育教養展開科目「いのちを考える」の講師としてお招きし,宗教を超えたスピリチュアルケアの考え方,方法について講義をしていただいた。人の苦悩に寄り添い,その人の内側からの力を引き出す大下氏の実践例から多くの学生が大変感銘を受けたというレポートの内容は,今も記憶に新しい。

 今回出版されることとなった『ケアと対人援助に活かす瞑想療法』は,医療,福祉,教育,企業,家庭内において,心身の安定,健康増進をめざす上で活用可能な瞑想の具体的な実践方法とその理論的背景を紹介したものである。

 第I部は瞑想療法の実践編である。本格的に実践するためには,的確な指導者が必要とされているが,初心者であっても挑戦したい人であれば,瞑想するときの座り方,呼吸の仕方,身繕いなど,始める前の準備が具体的に記載されているので,本書を見ながら,瞑想への具体的なイメージが可能で,自分もやってみようかと取り組みへのハードルが下がる。

 第II部では実践事例が示され,精神保健,緩和ケア,助産・子育て期,学童期,青年期,福祉,教育の現場,企業人育成,自死予防と家族支援を行う上での方法と留意事項が紹介されている。私は昨今の大学生の問題を見聞する立場にあるので,青年期の項に関心を持った。青年期においては「この時期,一番に気をつけてほしいのは,言葉巧みなカルトからの誘いです」と述べられ,正しい瞑想活動を身につけることの大切さが強調されている。瞑想は,カルトによるマインドコントロールにより人の心を縛るものではないとして,青少年が自由な選び取りの中から瞑想の有用性を知り,実践することの大切さが示されており,大圓氏の勧める瞑想療法の妥当性が表されている。

 医療関係者は瞑想療法の効果の科学的根拠を求める者が多い。本書はその期待に応えるために,数多くの事例を用いて,瞑想療法の効果を示している。看護師に関連する内容でみると,第II部5章に,2009年に千光寺で開催された「自由な心の道場」で紹介された緩和ケアに従事する看護師のバーンアウトを回避するトレーニング例が取り上げられている。瞑想セッションに参加した緩和ケア認定看護師(13名)のアンケート結果によると,「瞑想はあなたの個人的感情(怒りとか悲しみ)などを調整するのに,有用であると思いますか」「瞑想の活用は,人生の意味や目的を考えるのに有用であると思いますか」に対し13名全員から肯定的な評価が示され,本トレーニングが効果的であることがわかる。本書はこのようなアンケートや,体験の内容の質的分析を通じて,瞑想療法による参加者の変化を詳細に例示していることは興味深い。

 本書の後半部分は理論編となっているが,瞑想法に関連するストレス研究なども紹介されており,がん医療などの代替補完療法に関心のある研究者が瞑想療法やそれに類似した方法を採用する際の参考になる学術的内容が示されている。

 また仏教のみならずユダヤ教,キリスト教,イスラム教等多くの宗教と瞑想との関連性にも触れられ,私のような仏教徒でない者であっても,瞑想に取り組むことが可能であると大変励まされた。最後の部分にマーガレット・ニューマンが本書で紹介されていることは看護研究者として感銘を受けた。大圓氏は,ケアされる者とケアする者が共に拡張され統合された意識に至ることの意義を,マーガレット・ニューマンの理論を通じて説明されている。個人の意思決定を優先する医療における現代の価値観とは異なるように思うが,個人主義的な考え方だけでは,健康支援は難しいことを痛感する。このように,本書の理論編は著者の本領域の豊富な知識と実践的技量がうかがえる。しかしながら,あまり深く頭を悩ませることもなく,本書を読ませていただきながら,静かな心になり,花や鳥や山や空の風景が心に浮かび,目を開けていても穏やかに過ごすことができ,瞑想の入り口に立った気がした。

A5・頁264 2,520円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01178-5


CRCのための臨床試験スキルアップノート

中野 重行,中原 綾子 編
石橋 寿子,榎本 有希子,笠井 宏委 編集協力

《評 者》古川 裕之(山口大医学部附属病院薬剤部長)

CRCとしての現場での経験が詰まった書

 本書を初めて手にして,白い帯に書かれた「"創造性"と"コミュニケーション能力"に優れたスタッフになるために」というフレーズが目に留まった。"創造性"と"コミュニケーション能力"は,被験者,治験担当医師,院内関連部署のスタッフ,そして,立場の異なる製薬会社やCRO(開発業務受託機関)の開発担当者の間に立って仕事をしているCRCにとって,特に重要な要件と思っているからである。

 一体どんな人たちが書いているのだろうかと思い,早速,執筆者一覧を眺めてみた。なんと,全執筆者22人のうち19人がCRCである。彼らの仕事中の様子が目に浮かんできた。そういえば,AさんとBさんとは,2010年10月に別府で開催された「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」の懇親会で話したことを思い出す。

 つまり,本書は,CRCとして実際に現場で仕事をしている人たちが書いた本なのである。彼らの経験がいっぱい詰まっているのなら,これは期待できる。

 内容を見てみる。(1)創薬育薬医療スタッフの連携,(2)チーム内の良好なコミュニケーションとトラブル予防策,(3)被験者保護とIRBのあり方,(4)臨床試験における適切なインフォームドコンセントの方法,(5)わかりやすい関連資料の作成法などについて,実例を示しながらわかりやすく書かれている。日常の仕事で直面する疑問へのヒントが満載である。目を引いたのは,本文のレイアウトである。各項目のポイントがオレンジ地で目立つように書かれている。このおかげで,文字ばかりのページでも,読んでみようという気になる。

 それにしても,執筆者のほとんどを占めているCRCの皆さんが,わずか10年あまりでこのような書籍をまとめあげるだけの実力を身につけていることを,仲間の一人として,とてもうれしく感じている。

 結論を言うと,本書は,『CRCテキストブック』(第2版,医学書院,2007年)で基礎を学び,そして,実際にCRCとして活躍し始めた人が,自分の仕事のレベルアップをめざして実践的スキルを向上させることを目的にまとめられたもの,という位置付けになる。その意味で,自己学習用としてだけでなく,SMO(治験施設支援機関)の社内教育用のテキストとしても活用できると思う。

 また,本書は"CRCのために"書かれたものではあるが,創薬育薬医療チームの一員である製薬会社やCROの開発担当者などCRC以外の方にとっても有用であることは,もちろん言うまでもない。

 日本各地で仕事をされているCRCの皆さんの進化を,楽しみにしている。

B5・頁248 3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00859-4


実践ストレスマネジメント
「辞めたい」ナースと「疲れた」師長のために

久保田 聰美 著

《評 者》松月 みどり(北野病院看護部長)

看護現場の身近な事例を理論で読み解く

 ひとことで評すれば,精緻で魅力にあふれる,久しぶりに出合った「良書」です。タイトルと書籍の内容は見事に一致しています。読者は,手にとって読み始めたときの期待以上の深い知識と納得と希望を得ることができるはずです。「ストレスから逃れるためには辞めるしかない」と追い込まれているナース,そして疲れてしまっている看護管理者は,本書に登場する身近な事例に引き込まれていくでしょう。読み進めるうちに,問題の背景を整理しながら,解決のヒント一つひとつに「なるほど!」と納得し,爽やかな気持ちになることができます。それは著者が,自ら習得した理論やモデル,経験知を通して深く考察しているからだと思います。

 臨床看護現場のどこにでも見られる事例が,適度な分量の物語になっていて,リアルでとても共感できます。そして続く事例の解説は理論的に考察されているのですが,よく噛み砕いた平易な文章で記述してあり,誰でも理解し納得できます。「あれ! これで終わり……。この理論についてもっと詳しく知りたいなあ」と感じると,その項の最後には参考文献が記載されています。高級レストランでとても行き届いたサービスを受けたときの心地よさと豊かな気持ちを読者は味わうことができるでしょう。また,随所に盛り込まれたコラムも魅力的です。

 完成度の高い,こなれた文章で構成された書物に久しぶりに出合えた感動があります。著者の久保田聰美さんのメンタルヘルス事業の産業カウンセラー,保健師や病院看護師としての経験,大学院(博士)での学習成果などがうまく融け合って,この本に詰まっているのです(それと,久保田さんの元気のもとも)。理論と実践をつなげることに強いこだわりを持って書く。その意気込みが端々にあふれています。臨床看護実践家をはじめ多くの方に読んでほしい,お勧めの一冊です。

A5・頁176 2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01190-7


《シリーズ ケアをひらく》
その後の不自由
「嵐」のあとを生きる人たち

上岡 陽江,大嶋 栄子 著

《評 者》内藤 聖子(紀伊國屋書店新宿本店・心理学書コーナー担当)

生き延びるための本がここにある。――書店員からの手紙

 書店や出版業界の方ならおわかりになるかと思うが,たいていの新刊は薄茶紙に10冊ほどのまとまった数ごと梱包されている。この「ケアをひらく」シリーズの新刊である『その後の不自由』について事前に何の情報も持ち合わせていなかった私は,ある日やってきたその薄茶紙の梱包を解き,タイトルを見てしばし戸惑った。

――『その後の不自由』の「その」って何? 「不自由」って何?
 その疑念は私の心を直ぐにとらえて離さない。飛んで火にいる夏の虫,とはこのことだ。私はまんまとこの本の魔手にかかったのだ!

「女性性」へのアプローチに目を見張る
 なぜ私があんなにも息苦しかったのか,なぜ他人の責任を取ることに使命感を抱いていたのか,なぜ何事よりも彼を優先していたのか,なぜ友だちの意見が冷たく感じられたのか,なぜ孤独が痛いほど身に染みるのか。そして今なぜ変化を恐れているのか――。

 私は真面目で親切な書店員のフリをしているが,実は「共依存」であり,「うつ病」である。だから厳密には,本書で対象とされている依存症当事者とは言えず,その援助者でもない。しかしその周縁に位置している者として,私がここ幾年かの体験のなかで抱き,突きつけられ,直面せざるを得なかった,これらの「なぜ」への答えがここにあった。

 本書は,薬物依存症の当事者であり「ダルク女性ハウス」の施設長でもある上岡陽江氏と,ソーシャルワーカーでありカウンセリングルームや社会復帰施設「それいゆ」を運営している大嶋栄子氏の共著である……と簡単に紹介してしまうと取りこぼしてしまう,傑出した独自性や刮目すべき実践が,ここにはふんだんに盛り込まれている。とりわけ,その「女性性」に特化した彼女たちの取り組みには蒙が啓かれた。

カラダとつきあい,《ふつう》を獲得する術
 なかんずく第3章の「生理のあるカラダとつきあう術」,この章での取り組みは,数ある当事者研究のなかでも類を見ないほど傑出している。女性が毎月迎える生理とそれに伴う体調や気分の変化は,至極当たり前のようでいて,依存症者たちにとってはどこかに置いてきてしまった出来事なのだ。

 生理をテーマに選び,その研究を行うことで,当事者たちは「カラダとつきあう練習」をした。これがいかに意義深いことか。なぜなら,《ふつう》が依存症者の彼女たちにとっては抽象的な概念でしかなかったから。

 彼女たちは入浴や掃除,炊事といった,いわゆる「日常生活」や,誕生会やお正月などの行事を通じて《ふつう》を具体化させた。そのなかで少しずつ自分をケアする方法を獲得していく。すなわち,生き延びる術を身につけたのだ。

 私の手元にある薄茶紙を脱皮した本書は,色とりどりのマーカーとたくさんの付箋に彩られた「わたしだけの本」へとすっかり変貌を遂げた。本書を携えつつ,これからも何とか生き延びていければと思っている。願わくは,ほうぼうで今も自らの心身に翻弄されつつ生きる困難を抱えている依存症当事者の皆さんやそのご家族,援助者の方々にもこの本を伝播させたい。生き延びるための本が,ここにある。そのことを伝えたくて,私は今日も,真面目で親切な書店員のフリをするのだ。

A5・頁272 2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01187-7


パスでできる!
がん診療の地域連携と患者サポート

岡田 晋吾,谷水 正人 編

《評 者》小西 敏郎(NTT東日本関東病院副院長)

地域連携の具体的な進め方がわかる好著

 2010年4月の診療報酬改定でがん診療においても,地域連携を行えば診療報酬が加算されるようになった。胃がん・大腸がん・肺がん,乳がん,肝臓がんのいわゆる5大がんに前立腺がんを加えた6種のがんが対象である。都道府県がん診療連携拠点病院や地域がん診療連携拠点病院では,地域連携の診療計画書(地域連携クリティカルパス,以下連携パス)を患者に渡せば,患者一人につき退院時の1回のみであるが750点を加算できる。また紹介を受けた診療所では,毎月1回300点を加算できることになった。

 しかし,手続きの面倒さに比べて決して大きな額ではない。この程度の加算額では,拠点病院もクリニックも,経営上のメリットからがん診療連携を積極的に推進することにはならないだろう。また,地域連携は東京や大阪のような大学病院が多数存在する地域では,医師同士に大学や医局のつながりがないので進めにくいのが実態である。いわゆる医師同士が顔の見えない関係では連携が困難である。また再発の可能性の高い進行がんの場合は紹介しにくい,受けにくい,と言える。

 がん患者の手術後も中核病院で術後にフォローするのでなく,地域の診療所でフォローすることがそれぞれの医療施設で大きなメリットがあるとともに,患者自身が地域連携を歓迎するようにならないとがん診療の地域連携は難しい。この難点を克服するツールが連携パスである。岡田晋吾・谷水正人氏編集の『パスでできる! がん診療の地域連携と患者サポート』が好評であるのは,5大がん+前立腺がんにおいて,連携パスを用いた地域連携について,図表・シェーマを多く用いて,わかりやすく具体的に紹介されているからと考える。

 岡田氏は,函館でクリニックを経営する立場で,複数の基幹病院と連携パスを用いてきめ細かい親切さで評判の良い地域連携を実際に進めている。また谷水氏はがん臨床研究事業「全国のがん診療連携拠点病院において活用が可能な地域連携クリティカルパスモデルの開発」の研究代表者であり,実際に四国がんセンターの統括診療部長としてがん患者の連携診療を連携パスにより進めている。

 本書は,なぜがん診療に地域連携が必要か,地域におけるネットワークの構築の紹介に始まり,今回診療報酬加算の認められた5大がん+前立腺がんについての地域連携の実際が具体的に紹介されている。またがん再発時や終末期の緩和医療・ホスピスとの連携も紹介されている。執筆者は医師だけではなく,看護師,地域連携室職員,そして保険薬局の立場からも地域連携の進め方が紹介されている。5大がん+前立腺がん,それぞれのがんでの実際にどのような連携パスをいかに作成し,どのような成果が得られているか,理解できる。そして東京・横浜・四国と都会と地方の連携の特徴が読み取れるので,全国の医療者にわかりやすく書かれている。これからがん診療の地域連携を進めようとしている医療者にとっては,必読の好著である。

A4・頁160 4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00883-9

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