医学界新聞

連載

2011.02.07

「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.2] 最高のパフォーマンスを引き出すために

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

I have a patient with pancytopenia, which has been thought to be due to SLE. However, I suspect a possible bone marrow issue, such as aplastic anemia.
(SLEによるとされている汎血球減少症の患者がいるんだけど。でも,再生不良性貧血か何かの,骨髄性疾患じゃないかと思って。)

Okeey Dokeey!! I will see her tomorrow.
(了解! 明日診るよ。)

 

 いつも陽気な血液腫瘍内科医との,電話でのやりとりである。この病院で内科レジデンシーを修了した私にとって,彼は当初アテンディング医(指導医)であった。レジデンシー修了後,その彼が最初に言った言葉が,

You should call me by my first name from now on.
(今日からは俺のことをファーストネームで呼べ。)

 である。暗に,「これからは同じアテンディングとして,チームの一員だから」と示唆しているのであった。その言葉通り,その後彼とは,ずっと互いにファーストネームで呼び合う,非常に仲のいい友人となった。日本の庭園好きが高じて自宅にオーダーメイドの日本庭園をつくり,"ジャパニーズ・コイフィッシュ"を何匹も飼ってはその世話に余念がない,いつも明るく冗談ばかり言っている御仁である。

 連載第1回目で,私はふたつの課題を挙げた。ひとつは「ホスピタリストとは何か?」であり,これに対し前回,いくつかの観点から答えてみた。もうひとつは「ホスピタリストシステムは現在,急速に伸びつつある。なぜか?」という問いである。さらに言えば,この連載の根底に流れる問い,それは「本物のホスピタリスト」の条件,である。これらの課題に答えるために,今後さまざまな切り口から,ホスピタリストの役割をさらに深く掘り下げたいと思う。中でも今回は,病院内における医療チームの構築,そしてそのための中心的役割,という点について述べてみたい。それによって一体,どのような利点が生まれるのだろうか。

 先に挙げた汎血球減少症のケースを見てみたい。この場合,患者はもともとSLEを持っており,汎血球減少もそれによるものとされていた。しかしわれわれホスピタリストは,常に総合的に考え診療を行う。この場合,そこで思考を止めることなく,骨髄性疾患に考えを広げる必要があった。

 その際,ある一定レベルまでは血液内科の知識を持って患者管理を行う。つまり病棟管理というシンフォニーの中で,血液内科というパートを自分で担うことになる。さしずめ,オーケストラの指揮者が,一曲の中でバイオリンのパートを自分で担うようなものだ。

 汎血球減少のこの患者の場合であれば,診断のための詳しい現病歴,既往歴等の聴取,そして種々の検査はホスピタリストが「演奏」可能だ。いやむしろ,ここがわれわれの腕の見せどころと言ってよい。ただ,さらに専門知識や検査,例えば骨髄穿刺が必要と判断した場合,ここで初めて専門の血液内科医に,コンサルタントとしてそのパートを担ってもらう。患者管理の全責任は,診療チームの指揮者として,その後もわれわれホスピタリストが負うことになる。最高のパフォーマンスを引き出すべく,病棟患者管理の「タクト」を常に振り続けるわけだ。

 これにより,血液腫瘍内科医の彼は,その本業である血液疾患の治療に全力を注ぐことができる。患者やその家族へのケア,もとの既往であるSLEの管理,ナースや他のコメディカルとの密なやりとり,あるいは,退院後のフォローやプライマリ・ケア医への連絡など,これらはすべてわれわれホスピタリストの責任である。

 また一方で,コンサルトの仕方も問題となる。すべての分野をただコンサルトするだけならば,それは患者の丸投げであり,単なるゲートキーパーである。一方,もし必要なコンサルトが遅れれば,それは患者の入院日数の延長,あるいは病態の悪化という形で返ってくる。適切なコンサルトワークが,常に求められることになる。

彼から携帯に電話が入った。

There are a bunch of blast cells in her bone marrow!!
(骨髄中,芽球細胞でいっぱいだぞ!!)

What!!
(ええっ!!)

 

 診断は,AML(急性骨髄性白血病)であった。その前段階を疑った私にとっても,やはりショックな内容である。患者は,まだ40歳代の女性である。保険もない彼女が,十分な治療を受けられるよう,ケースマネジャーやソーシャルワーカーと,密なディスカッションを持つ必要がある。さらにナースにも診断を告げ,メンタルな面でのサポートの必要性を述べた。幸い件の血液腫瘍内科医は,保険の有無で患者の受け入れを断ったりする御仁ではない。それが,最も大きな救いであった。

 患者にとっても,総合医であるホピタリストが中心になって管理する意義は大きい。もしこの患者が,病院内でも以前からの膠原病医やプライマリ・ケア医に管理されていたとしたら,この白血病は見逃されていた可能性が大きい(残念ながら,保険のない人向けのクリニックでは,このようなPoor Managementの頻度が比較的多い)。総合的に患者を診るからこその利点と言える。

 ホスピタリストの役割とその利点を,以下にまとめてみた。もちろん,病院診療を奏でる医療チームのメンバーは,医師だけではない。前述のように,ナース,コメディカル,そして患者自身もチームメンバーとなる。次回は,その点に焦点を当ててみたい。

Real Hospitalist虎の巻
ホスピタリストの役割とそれに伴う利点(1)

 全人的,総合的内科管理による偏りのない診断。病院内リソースに精通した適切なコンサルトワークと,コンサルト医やコメディカルとの密なコミュニケーションによる医療チームの構築。それに伴う,コンサルト医の専門分野への特化。

ホスピタリストユニット廊下にある,十字架に磔付されたキリストの像。ミッション系病院であるSt. Mary's Health Centerには,病院内のいたる所にキリスト教関係の絵画や像があり,これもそのひとつ。時折こうして,患者やその家族が眺めている。入院中の,愛する家族の回復を祈っているのだろうか。

つづく

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