医学界新聞

2011.01.31

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


肝胆膵高難度外科手術

日本肝胆膵外科学会高度技能医制度委員会 編

《評 者》齋藤 洋一(神戸大名誉教授/肝胆膵外科学会第二代理事長)

修羅場にあっても安泰な精神状態を維持できる座右の書

 日本肝胆膵外科学会は,この領域に携わるアクティブメンバーで構成された専門医集団の学会として発足したものであります。この領域の高難度な手術をより安全かつ確実に行える外科医を育てることを目的として,2008年2月の理事会で「高度技能医制度」が生まれました。

 この領域の先達にはいわゆる黄金の手を持つ外科医が少なからず存在していましたが,国民の要請に応える体制づくりのためには,常にこのような技術を駆使できるhigh volume centerの設置や,きめ細かい指導教育体制の確立が急務とされてきました。各学会を中心に種々の診療ガイドラインが作成され,各疾患に対する共通の認識が持たれるようになりましたが,外科技術面での巧拙の認識や独特のコツについてはまとめられたものがないのが現状であります。

 このような要請に応えて日本肝胆膵外科学会高度技能医制度委員会の手により作成した指導書が本書であります。これまでこの面での知識・情報の取得に苦労してきた,まさに現役バリバリの高度技能医とも言うべき人たちが魂を込めて書き上げたのが本書と言えるかと思います。

 内容は多年にわたる経験と失敗を踏まえた解決策が簡明に記されており,特に留意点が章の冒頭に重要ポイントとして明示されています。また,各章ごとにDos & Don’tsとして手技の進行に応じたチェックポイントの要点が記されているのも嬉しく感じます。先輩たちから口酸っぱく言われたことや,自らが工夫したことがColumnとして記され,現場意識を盛り上げてくれるとともに息抜きのひと時を与えてくれています。各章に短く簡明に記されているので,これから手術に臨む術者が一読しておけば,修羅場にあっても安泰な精神状態を維持できる座右の書とも思いました。

 これからこの途にチャレンジする若い外科医にとっても,また指導に携わる上級医にとっても必読に値する書としてお薦めしたいと思います。

 本制度の発足に当たっては,高田忠敬理事長ほか役員の皆さまの数々のご努力があったと思いますが,制度実施の評価を見ることなく2010年8月に亡くなられた東京女子医大名誉教授 故 羽生富士夫初代理事長のご冥福を祈るとともに,生前私たちに示された外科医の情熱をこの制度で受け継いでいかれることをお祈り申し上げて,推薦の文といたします。

B5・頁324 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01042-9


子宮頸部細胞診ベセスダシステム運用の実際

坂本 穆彦 編
坂本 穆彦,今野 良,小松 京子,大塚 重則,古田 則行 執筆

《評 者》半藤 保(日本細胞診断学推進協会理事長)

現場で困惑している関係者のための書

 子宮頸部細胞診をめぐる最近の動きは目まぐるしいほど急速である。それは以下の理由によっている。

 分子生物学の進歩によって,ここ30年余の間にHPV感染による子宮頸がんの発がん機構の一部が明らかになり,これを細胞診断学に採り入れる必要性が生じた。1988年12月以来,数回にわたるNCI(米国国立がん研究所)主催のベセスダ国際会議の成果を「ベセスダシステム2001」として,子宮頸部細胞診に活用することになった。本来この会議は細胞診の解釈を臨床医に明確,かつ適切に伝えることのできる細胞診報告システムの作成を目的とするものであった。

 日本では,1997年のパパニコロウクラス分類を改良した細胞診日母分類が広く利用されてきたが,日母分類にも不合理な点があった。そのため,2007年12月には,日本産婦人科医会(旧日母)が従来の日母分類を廃止して,「ベセスダシステム2001」による報告様式を採用することを決定した。その背景には,国際化の波に乗り遅れることは学問的進歩を阻害しかねないため,欧米基準との整合性を図る必要もあった。

 日本では早くから問題とされながら放置されてきたことであるが,ベセスダシステムの採用によって標本の適・不適を明確に臨床家に伝える報告書が作成されることになった。しかしながら,HPV感染と関連した新しい病名であるSIL(扁平上皮内病変HSIL/LSIL),ならびに明確にSILと判定できないASC(異型扁平上皮細胞)症例や,わが国で検討が不十分なAGC(異型腺病変)など新しい概念も登場し,診療の現場では,いち早く解決しなくてはならない問題が生じた。さらに,最近,各細胞診検査機関で多用されている液状処理検体や,HPVワクチンの問題とも複雑に絡んで混乱に拍車をかけていた。

 本書は,このような変革期にあって,現場で困惑している多くの関係者の悩みを解決するために企画されたと言える。ベセスダ国際会議に日本臨床細胞学会を代表する委員の一人として参加された坂本穆彦先生が中心となり,この方面では名実ともにご高名な仲間たちとともに,問題点を明確に整理したことは誠に時宜を得たものである。比較的短期間にこのような新しい子宮頸部の細胞診に関する報告様式をまとめ上げたことは,変革の兆しが見え始めた当初から国際的潮流をしっかりと見つめ,その合理性を思索した上で,しかも豊富な細胞診の実務経験と膨大な資料を持ち合わせ,かつ,多くの専門書出版を手掛けたものでしか成し得ないことである。本書は豊富な写真が要点つきで,わかりやすく解説されている。多くの初学者にとっても容易に理解できる内容になっていることが特徴である。

B5・頁224 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01051-1


PT・OT・STのための
脳画像のみかたと神経所見 [CD-ROM付]第2版

森 惟明,鶴見 隆正 著

《評 者》石倉 隆(大阪保健医療大教授・理学療法学)

脳画像初学者の最初の1冊

 脳画像の読影・読像を講義科目に据えているPT・OT・ST養成学校がいまだに少数派であることから,PT・OT・STにとっては脳機能や脳画像の読影・読像は,自学自習しないと獲得できない知識や技術である。しかし脳科学の進歩は,脳機能の知識や脳画像の読影・読像技術を“習っていないから知らなくてもよい”知識や技術にはしてくれない。現代の脳神経疾患リハでは,脳損傷部位を脳画像で確認し,障害が脳損傷部位の機能局在や体部位局在と合致するか否かを照合することは重要な評価であり,脳機能の理解や脳画像の読影・読像は必須の技術となっている。

 では脳機能の知識や脳画像の読影・読像技術をいかに自学自習していくのか。脳機能解剖学,脳画像診断学などの専門書を読みあさるのも一考であろう。しかし脳機能や脳画像に親しみのないPT・OT・STにとっては,その知識量の多さに圧倒され徒労に終わってしまうかもしれない。そこでまずは1冊目の自学実習書としたいのが,森惟明先生,鶴見隆正先生の手による『PT・OT・STのための 脳画像のみかたと神経所見 第2版』である。

 本書は,脳機能の知識や脳画像の読影・読像技術をPT・OT・STにもわかりやすく解説してある。長年,PT・OTの養成教育に携わり,PT・OTの医学的知識の水準を熟知された両先生であるが故の視点であろう。本書は大きく,I.基礎知識編,II.症例編,III.治療編から構成されている。基礎知識編では脳画像の理解の必要性,脳解剖の要点,脳画像検査の種類,神経所見のとらえ方を簡潔にまとめてある。本編の理解は,膨大な脳機能の知識を得るための入り口として,まずは脳に親しむためのスタートとして初学者に大変有用である。症例編では,脳卒中,頭部外傷,脳腫瘍など,リハの対象となる脳神経疾患の症例を63例も提示し,各疾患には病態生理や治療の要点が示され,画像を“じっくりみる”だけでなく,“理解しながらみる”工夫がなされている。治療編では,薬物療法,手術療法,理学・作業・言語聴覚療法の要点がまとめられている。全編にわたって各章の重要事項をまとめた「要点BOX」,素朴な疑問を解説し自学自習に大いに役立つ「知識の整理Q & A」,最新知見を提供する「Column」が配置され,短時間で知識の整理ができるようにも工夫されている。圧巻は付属のCD-ROMで,印刷画像とは全く違ったリアリティをもって画像が提供されている。昨今,フィルムに起こした脳画像よりもモニターを通じて脳画像を読影・読像する機会が増えており,現場で画像を見ているかのごとく錯覚する。また各症例は問題形式となっており,画面上でマウスカーソルを動かすと読影・読像のポイントが示されるなどの工夫がされ,自学自習に最適である。

 脳科学,脳機能を根拠にしたリハが今後ますます発展していく中で,脳機能の知識や脳画像の読影・読像の重要性とそれをリハに活用していくことの必要性をPT・OT・STに実感させる1冊である。

B5・頁160 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00703-0

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