医学界新聞

2011.01.31

基礎から治験まで,国内完結型創薬へ

愛媛大病院が臨床試験第I相専用病棟を開設


POC試験やFirst in human試験に注力

野元正弘氏
 愛媛大学医学部附属病院臨床薬理センター(以下,センター)に,臨床試験第I相専用の病棟“Phase I Unit”(病床数:16-24床)が新設された。同Unitは,各種検査機器を豊富にそろえている上に,病院の救急部へ徒歩3分の距離にあり,試験実施中の緊急事態にも迅速に対応できる。高度な試験を安全に実施することが可能だ。被験者の受け入れは昨年11月末から既に始まっており,今後は,試験薬を臨床応用できる分野を探すPOC(Proof of concept)試験や,人体へ投与されたことのない試験薬を扱うFirst in human試験などに積極的に取り組んでいくという。

 センターは,2000年に前身である創薬・育薬センターが発足し,現在は野元正弘センター長のもと,専任の医師1人,看護師4人,薬剤師2人,臨床検査技師1人,事務職員2人のスタッフ構成で運営している(そのほか,兼任フタッフとして医師3人,薬剤師3人,臨床検査技師1人)。これまでセンターのCRC Unitが実施してきた臨床試験第II-IV相のCRC業務と共に,治験の早期進展をめざす方針だ。

 昨年12月4日に愛媛大医学部(愛媛県東温市)にて開催されたPhase I Unit開設記念講演会では,同大学長の柳澤康信氏,同大病院長の横山雅好氏が謝辞を述べたあと,玉上晃氏(文科省),椎葉茂樹氏(厚労省),川合眞一氏(日本臨床薬理学会),仲谷博明氏(日本製薬工業協会)が登壇。祝辞を述べるとともに,行政・学会・企業のそれぞれの視点から今後の創薬・臨床試験の方向性・問題点が示された。続いて,金澤一郎氏(日本学術会議)が講演。日本の創薬研究推進に必要なこととして,(1)厚労省と医薬品医療機器総合機構に分割されている薬事行政の一本化などを含めた制度改革,(2)謝礼の支払いを含む被験者へのインセンティブの提示,(3)医師の治験参加奨励策の推進,(4)副作用の存在も含めた育薬の思想の国民に対する普及,を挙げた。

高校生へのメッセージ「健康と経済を支える創薬へ」

 最後に野元氏が登壇。Phase I Unit設立にかかわった関係者らに感謝の言葉を述べるとともに,新薬の早期承認により患者の健康に貢献する強い意思を示した。さらに,今後の日本経済における創薬産業の重要性に言及。これは,将来のわが国の担い手として講演会に招待した高校生たちに対するメッセージだ。まず氏は,わが国の戦後の経済は加工貿易によって発展してきたが,今後は創薬産業を中心とした知的技術集約産業の成長が経済の発展を左右すると予想。

 しかし,現在のわが国の創薬は,基礎研究の段階では有望な創薬シーズが豊富に見つかっているものの,その臨床試験は海外で実施され,商品化に結び付けられていない現状がある。

 その要因として氏は,大学・研究機関の臨床試験参加率の伸び悩みを指摘。こうした現状を変えるため,研究者として創薬研究や臨床試験に積極的にかかわり,日本経済のさらなる発展に貢献してほしいと述べ,会場に集まった高校生を激励した。

 また,「創薬は,製薬会社,研究者,そして国民の協力があって初めて可能になる」として,臨床試験における被験者の安全管理の徹底ぶりを紹介し,国民の臨床試験への協力を求めた。

 愛媛大では,地域医療機関との多施設共同治験の実施・マネジメントを目的として2004年に「愛ネットワーク」を立ち上げ,欧米レベルの迅速な治験の実現に取り組んでいる。わが国の創薬・治験のモデルケースとして,今後も注目が集まりそうだ。

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