Vital sign(2)脈拍・呼吸(川島篤志)
連載
2010.12.13
小テストで学ぶ “フィジカルアセスメント” for Nurses
【第3回】Vital sign(2)脈拍・呼吸
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
今回は「Vital sign」小テストのパート2として「脈拍」と「呼吸」を学んでいきます。
■脈拍
(9)
脈拍を記載するとき,意識して「不整脈」の有無を確認する習慣を持ち,医学的介入の要否が判断できるようにしましょう。「reg. irreg.」=定期的に乱れる=定期的に脈が飛ぶのは期外収縮です。虚血性心疾患後ではない単発性のものには医療的な介入は不要です。一方,全くデタラメに脈打っている「irreg. irreg.」は心房細動であることが多く,この場合は循環動態が安定しているか,Rate controlや抗凝固療法の適応が検討されているかなどをチェックする必要があります。HR:Heart Rateは心拍数,PR:Pulse Rateは脈拍数ですが,違いはわかりますか? 心房細動では,HR>PR,つまり心拍出が脈としてとらえられていないこともあるので確かめてみましょう。
(10)
教科書には各末梢血管の触れ方について記載がありますが,日常診察では一般的に不要です。一方,各種カテーテル検査の際には,末梢動脈(多くは足背動脈でしょうか)のチェックは必須事項です。四肢末梢で,片方が金属のように冷たいなど極端に左右差がある場合には,急性動脈閉塞症が疑われ,原因として心房細動を伴っている可能性も高いです。一般に疼痛を伴いますが,脳血管障害後などで痛みを訴えられない患者さんもいます。
(11)
問題文に挙げた場合以外でモニター心電図を付けるのは,不整脈の出現を危惧する疾患があるときです。代表例は失神発作(心原性,特に不整脈を疑う場合のチェックは48-72時間を推奨)や電解質異常(特に低/高カリウム血症)などです。ルートが多すぎると不穏・せん妄が生じたり,ベッドで過ごしがちになるなどADL低下の原因となりうるため,モニター心電図が不要だと判断したら医師に中止の提案ができるとよいですね。
■呼吸
(12)
呼吸数は,器械では測れないため測定は面倒なものです。だからこそ,症例検討で呼吸数が出てくると,Vital signを重要視していることを実感します。
呼吸数は○回/分と表記されますが,多くの方は△秒×□で計算していると思います。△の秒数は人によりますが,患者さんとしゃべっていては数えられませんし,血圧を測るなど何かをしながらでは集中できません。つまりある程度両者が無言で動かない時間が必要で,それが例えば30秒間続くのは意外と苦痛です。そこで自分なりに測定のスタイルを確立しておくことを勧めます。筆者は心臓の聴診のふりをして測ったりしています。20回/分,もしくは30回/分以上なら異常の可能性が高いので,直感的に早いかどうか感じ取れることも重要です。
(13)
呼吸抑制を来す薬剤では,ベンゾジアゼピン系に代表される睡眠薬とオピオイドが重要です。オピオイドの血中濃度の治療域,中毒域は理解していますか? 特に導入を始めたばかりでタイトレーション中の場合(思わず過量投与の可能性あり)や貼付剤を始めた場合(吸収が予測し難く過量投与の可能性あり)は要注意です。
また,徐々に呼吸が出現→減少→無呼吸を繰り返すチェーン・ストークス呼吸では,測り方次第で多くも少なくもなってしまいます。教科書的には重症心不全のときにも出現しますが,その際には他の徴候でも気づきます。臨床的に見られるのは,陳旧性のものも含めて大脳半球の障害で起こるものです。
(14)
SpO2 (経皮的動脈血酸素飽和度)90%は動脈血酸素分圧60Torrに相当し,多くの場合90%以下ならば悪いと判断できます。では,93%ではどうでしょう? 大切なのは,1)患者背景,2)呼吸数,3)酸素条件,です。1)は,若い健常者が93%ならば明らかに悪いですが,(16)で後述するような低酸素血症を呈する慢性肺疾患などでは良好すぎるかもしれません。2)は,同じSpO2 93%でも,呼吸数16回/分か,32回/分かで話は全く違ってきますよね。3)は当たり前のことですが,意識してプレゼンテーションや記録ができることが重要です。Room airで93%なのか,酸素をマスク下で投与されているのかでも意味合いが違います。
(15)
気胸の患者さんでは酸素投与による窒素勾配を作ることで改善が早くなるため,本人が嫌がらなければ高濃度の酸素を吸ってもらう場合があります(詳細は成書参照)。
また一酸化炭素中毒の患者さんも,一酸化炭素遊離のため高濃度酸素投与が必要になります。厳密には高圧酸素,または気管挿管下に高濃度酸素投与が求められますが,そこまで対応するのは,搬送先がないという事情なども含め難しい施設があるかもしれません。
終末期の患者さんでは「SpO2が正常」でも呼吸苦を訴えることがあります。原因は心因性を含め多岐にわたる可能性があるので「問題ないです」で済まさず傾聴することも求められます。
(16)
CO2ナルコーシスの病態生理は理解していますか? 本連載でも今後取り上げる予定です。前述のようにSpO2の目標値は患者背景によって異なり,慢性的に経過している患者さんは88-90%でも呼吸苦を訴えません(理論は成書参照)。ただ,循環動態が不安定なときや急に悪化したときには,何かが起こっている可能性があるので,総合的に考えてください。
(17)
酸素濃度はSpO2で測定・推定可能ですが,CO2濃度は通常測定できません(手術室・集中治療室などで人工呼吸器管理下では可能)。CO2が急激に貯留すると震えや意識障害が出る場合もありますが,判断は困難です。ただCO2の貯留は低換気によるものであり,低換気を起こしやすい胸郭運動があるかどうかは推定が容易です。具体的には肺気腫で見られる体格,呼吸筋の筋力低下,呼吸補助筋(胸鎖乳突筋・斜角筋)の発達・使用,肺結核関連手術後の胸郭変形,亀背などから推定できます。本来ならバケツの取っ手のように外側・上方に動く胸郭が,動いていないのがわかります。
また日本では,肺気腫の原因は圧倒的に喫煙です。喫煙者に「やめないと知らないよ」と言うのではなく,「ニコチン依存症」という病気ととらえ適切に対処するスキルが医療従事者に求められます。薬物支援やカウンセリングを行う外来を紹介することも重要です。
(18)
いびきの止め方は知っていますか? 「いびき」は舌根沈下などによる気道狭窄によって起こるもので,下顎挙上法で改善します。睡眠時無呼吸症候群の評価が必要か,気管挿管や一時的な経鼻エアウェイの挿入など気道確保が必要か検討します。
*
次回は「Vital sign」小テストの締めとなる「意識」と「体温」を学びます。頑張りましょう!
(つづく)
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