医学界新聞

2010.11.15

6学会合同,基礎・臨床で白熱の議論

第18回日本消化器関連学会週間開催


 第18回日本消化器関連学会週間(JDDW2010)が10月13-16日,林紀夫運営委員会委員長(関西ろうさい病院)のもと,パシフィコ横浜(横浜市)において開催された。今回のJDDWは,これまでの日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本肝臓学会,日本消化器がん検診学会,日本消化吸収学会の5学会に新たに日本消化器外科学会が加わり,6学会で開催された。会場には約2万人の参加者が集まり,各学会の枠を越えた議論が展開された。


基礎研究の積み重ねが次代のがん治療を切り開く

林紀夫委員長
 会長講演「肝臓病研究の展望――基礎研究から臨床研究へ」では,ME的手法,分子生物学的手法などの研究方法の発展の歴史を振り返った上で,今後の肝臓病治療の鍵となる2つの要素,「アポトーシス」と「自然免疫」について林氏が解説した。「アポトーシス」の研究では,Bcl-xLとMcl-1がアポトーシス抑制作用を持つがん化促進因子となっていること,ABT-737とソラフェニブという2つの分子標的薬の併用によりこのがん化促進の流れを抑制できることがわかってきた。

 一方,「自然免疫」に関する研究では,がん抗原を添加した樹状細胞によって獲得免疫,自然免疫の両方を活性化し,抗がん効果を得ようとする試みが行われている。阪大は,こうした機能を持つ樹状細胞として「OPA-DC」を開発。2007年に先進医療として承認,阪大病院にて大腸がん,胃がんの治療に使用されている。氏はこうした基礎研究が一つ一つの臨床応用へつながっていることを示し,今後,多くの若手医師ががん研究に意欲的に取り組むことに期待して,講演を終えた。

在宅中心静脈栄養法の問題点を探り,改善へ

 ワークショップ「短腸症候群の治療:在宅中心静脈栄養法の課題と対策」(司会=女子医大八千代医療センター・城谷典保氏,東北大・仁尾正記氏)では,在宅中心静脈栄養法における感染防止,カテーテル選択,代替的な治療方法の模索など,多角的な議論が展開された。

 クローン病(Crohn’s disease: CD)は,腸管切除の繰り返しにより短腸症候群(Short Bowel Syndrome: SBS)を発症するなど,在宅中心静脈栄養法(Home Parenteral Nutrition: HPN)を導入することが多い。酒匂美奈子氏(社会保険中央総合病院)は,CD患者へのHPN実施状況について報告した。氏の施設では長期留置用のヒックマンカテーテルを主に使用している。まず,カテーテル関連血流感染症(Catheter Related Blood Stream Infection: CRBSI)の発生状況を述べ,予防策として約1年ごとの交換などを挙げた。また,見逃せない合併症としてカテーテル関連血栓症について言及。カテーテル先端を正しい位置に留置することなどを予防策として示した。最後に氏は,症例に応じたポート式カテーテルの使用,残存小腸が150 cm以上の場合におけるHPNから経腸栄養への切り替えの検討の必要性を提起した。

 内野基氏(兵庫医大)も,CD治療中にSBSを発症し,HPN実施となった症例について考察した。まず,SBSの発症リスクとして,手術3回以上,残存小腸が250 cm以下,バウヒン弁・右側結腸の切除,ストーマの造設を挙げた。氏の施設では,中心静脈カテーテル(CVC)を使用。合併症として,カテーテル閉塞,血気胸・血栓などがみられるが,感染症の際の対応は容易になったという。さらに血流感染対策としてガイドワイヤーを用いてCVC交換を行うことの有効性を示した。

 鎌田紀子氏(阪市大)は,氏の施設でHPNを行った10例について報告した。特に,慢性特発性偽性腸閉塞症の治療例について言及。この症例では高カロリー輸液下において,本来消化管の中にとどまるべき腸内細菌が腸管粘膜上皮のバリアを超えて血流やリンパ流を介して体内に移行し感染を引き起こすBacterial Translocationが発生しており,敗血症が懸念された。これに対し氏は,経胃瘻小腸留置型チューブの留置および小腸瘻増設により腸管洗浄を行うことで,敗血症の長期間予防に成功したと報告した。

 羽根田祥氏(東北大)は,カテーテル感染の予防法としてAntibiotic Lock Technique(ALT)を紹介。ALTでは,血液培養でグラム陽性球菌が同定された症例に対し,バンコマイシン25 mg/mLを1日2回,3 mLずつ10-14日間ポートより注入する。この間,ポートは注入期間終了まで使用しない。氏によると,ALTを実施した9例中8例でカテーテル感染を30日以上回避できたほか,約5割の症例で1年以上のポート維持が可能であったという。米国感染症学会が真菌感染を除くカテーテル感染の治療法として推奨していることも添えて,ALTの有用性を訴えた。

 HPNの長期施行時には高カロリー輸液用微量元素製剤の投与が不可欠である。しかし,各元素の必要量は疾患の種類や活動性により変動し,適切な投与量は確立していない。また,特にCDなどの炎症性腸疾患の悪化に伴う下痢がみられたり,小腸瘻を造設している患者では,消化管からの漏出の増加も予想され,投与量の判断は一層難しい。加藤彩氏(北里大東病院)は,CDなどの患者4症例に対して高カロリー輸液用微量元素製剤ミネラリン®を毎日2 mLずつ6か月間投与し,標準的な投与量を検討した。その結果,各微量元素の血中濃度をおおむね基準値内に維持することができ,今回の投与量の妥当性を示唆した。ただし,病態特有の吸収障害や排泄量の増加のほか,症状悪化によっても微量元素の必要量は変化するため,血中濃度の定期的な測定が必要であると付け加えた。

 東北大病院では,小腸移植も視野に,自己の消化管を最大限に活用し静脈栄養からの離脱・依存軽減,および肝機能障害を極力起こさない静脈栄養管理をめざしている。同院の和田基氏は,小児科における腸管不全治療の取り組みを紹介。移植では,2003年11月から計7例を実施してきた一方,今年7月の改正臓器移植法施行後も小児脳死ドナーからの臓器提供がないなど,厳しい現状も述べた。移植以外の治療における要点としては,腸管不全関連肝障害(IFALD)の効果的な治療薬としてω3系脂肪静注製剤omegaven®に言及。胆汁流出の改善・免疫賦活化・脂肪化の改善などの作用によりIFALDを予防・治療することが期待できるとして,本剤の国内での早期承認を求めた。

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