医学界新聞

連載

2010.11.08

レジデントのための
クリティカルケア入門セミナー

大野博司
(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科)

[第8回]

■人工呼吸器の使いかた(2) 初期設定と人工呼吸器モード


2898号よりつづく

今回は,人工呼吸器の初期設定と基本的なモードの使いかたです。筆者の施設ではドレーゲル社のSavina®(ザビーナ)が標準機種として使用されており,ここでは主にSavinaでの用語で記載します。


CASE

 意識障害でER来院した,ADL自立の45歳男性。酸素10 L/分でSpO2 95%,血圧140/60 mmHg,心拍数80/分,呼吸数12/分,体温35.5℃,GCSスケールE1V1M3,いびき様呼吸。薬物中毒による意識障害でICU入室。舌根沈下による上気道閉塞および不穏状態で呼吸不安定なため,気管内挿管,人工呼吸器管理となった。身長170 cm,体重80 kg。人工呼吸器はSavinaでBiPAPモード。FIO2 1.0,吸気時間1.5秒,呼吸回数12/分,吸気圧15 cmH2O,圧支持10 cmH2O,PEEP 5 cmH2Oの設定。ピーク圧15 cmH2O,プラトー圧13-15 cmH2O,1回換気量500 mL,pH 7.42,PaO2 320 cmH2O, PaCO2 38 cmH2Oであった。

ルーチンでの人工呼吸器セッティング

 クリティカルケアで人工呼吸器を使用する状況はいろいろありますが,術後覚醒遅延や薬物中毒での気道確保は最も多い使用理由として挙げられます。

 この場合の人工呼吸器管理の目的は無気肺の予防ということになります。1回換気量としては,7-10 mL/kg(予想体重)として,目標とするpH(7.35-7.45),PaCO2(35-45 cmH2O)は正常範囲,PEEP(positive end-expiratory pressure:呼気終末陽圧)を付加する場合は肺胞虚脱防止で3-5cmH2O程度とします。

人工呼吸器の初期設定

 人工呼吸器で設定が必要な項目は,(1)モードの設定,(2)酸素濃度(FIO2),(3)1回換気量(VT)・1回吸気圧(Pinsp)・圧支持(PS,pressure support),(4)吸気時間(Tinsp)・呼吸回数(f),(5)PEEP,の5つです。

 換気方法には量換気と圧換気の2通りがあり,また標準的な人工呼吸器のモードには,A/C(assist control),SIMV±PS,CPAP±PSの3つがあります。Savinaでは,圧でのA/Cは「BiPAP」,量でのA/Cは「IPPV」となります。

 FIO2の設定では,低酸素は原則として避けなければいけないので100%で開始し,持続的な高濃度酸素暴露による肺障害を予防するため48-72時間以内に50%以下をめざします。

 次にVT,Pinsp,PSを決定します。重要な原則である「分時換気量=1回換気量(VT)×呼吸回数(f)」を考慮した上で,VTを6-10 mL/kgになるように設定します。VTを考えるときは,常に予想体重で計算する必要があるため,以下の式より予想体重を求めます。

男性:50+0.9×〔身長(cm)-152〕
女性:45.5+0.9×〔身長(cm)-152〕

 また圧換気では,Pinspが前述のVTになるよう設定しますが,大部分のケースで「10-15 cmH2O」とすることでそれが可能となります。自発呼吸に対するPSを付加する場合は「5-20 cmH2O」で追加し,自発呼吸時の1回換気量および呼吸パターンを観察して適切な値に設定します。

 Tinsp,fの設定でも,「分時換気量」の原則に従い,吸気時間・呼気時間の比を正常の1:2を意識して設定します。この場合,Tinsp 1.0-1.5秒,f 8-12/分とします。

 最後にPEEPの設定を行います。PEEPは一般的に肺の虚脱を防ぐ,または虚脱した肺を広げる目的で「3-5 cm H2O」で使用します。特にうっ血性心不全では,肺水腫の軽減を目的に「10 cm H2O(CPAPモード)」程度用います。PEEPを下げるときは特に注意が必要で,6-8時間ごとに「2-3 cm H2O」を目安に徐々に下げることを意識します。

 以上の5項目を設定した上で,特に人工呼吸器による肺傷害予防の視点から,以下の3つの目標を明確にして人工呼吸器管理を行います。

(1)VTは10 mL/kg(正常:5-8 mL/kg)を超えないようにする。
(2)プラトー圧が30 cmH2O以上にならないようにする。
(3)48-72時間以内にFIO2が50%以下になるように設計する。

※ピーク圧は気道内圧,プラトー圧は肺胞内圧を表す(図1)。

図1 量換気でのピーク圧とプラトー圧

 二酸化炭素貯留の改善には,肺胞換気を増やす目的でVT,fをアップします。酸素化の改善には,FIO2とPEEPの増加,換気改善(換気不全で酸素化が悪い場合),体位ドレナージ・リクルートメント・腹臥位などによるオープンラング,を行うことがあります。

 クリティカルケアでの重要なポイントに,酸素化の問題が実は循環不全による換気・血流不均等(V/Qミスマッチ)であった場合,循環の改善とともに酸素化も改善することがあります。特に敗血症性ショックでは早期目標指向型治療に従い,呼吸不全でも初期輸液を惜しまないことが大切です。

人工呼吸器の代表的なモード

 圧換気ないしは量換気を選択した上で,気管内挿管・人工呼吸器管理となった原疾患から,(1)人工呼吸器管理の期間はどの程度か,(2)患者呼吸メインか人工呼吸メインか(サポートをどの程度考えるか),を考慮してモードを決定します。自発呼吸よりも人工呼吸を優先させたい(呼吸管理初期)場合は,A/CないしはSIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation,同期式間欠的強制換気)を,そしてできるだけ自発呼吸を残したい(離脱が近い)場合はCPAP(continuous positive airway pressure,持続陽圧気道圧)ないしはSIMVを選択します(図2)。

図2 呼吸様式と換気モード

 A/Cは,すべての吸気において設定したVT,Pinspを送り込むモードです(図3)。長所は呼吸努力が減少することで呼吸補助を受け,呼吸筋疲労の改善が期待できること,短所としてはVTが患者の要求量と適さないと,不適当な過換気や呼吸努力が増加する可能性が挙げられます。

図3 A/C(補助・調節換気)の気道内圧パターン

 SIMVは,A/CとCPAPの中間に位置付けられます(図4)。Savinaでは,SIMVは量換気ですので,圧換気としてSIMVを選択する場合,BiPAPモードで呼吸数を減らしていきます。SIMVは,設定したfの分だけ自発呼吸に同期して量換気を行うため,fを多くするとA/Cに近づき,少なく設定するとCPAPへ近づく特徴があります。またSIMVだけでは足りない場合,適宜PSを行って自発呼吸をサポートします。長所として正常の血行動態であれば循環への影響が少ないこと,短所にはA/Cと比較して呼吸仕事量が増加する点が挙げられます。

図4 SIMVの気道内圧パターン

 最後にCPAPですが,これは吸気・呼気を通じて気道に一定の陽圧がかかるのみで,すべて自発呼吸で呼吸数が維持されるモードです(図5)。CPAPだけでは換気補助が足りない場合,適宜PSを追加します。長所として自発呼吸で換気でき,離脱に近い患者の人工呼吸器管理ができること,短所には,自発呼吸が弱いもしくはない患者で使用不可能な点が挙げられます。

図5 CPAPの気道内圧パターン

ケースを振り返って

 薬物中毒による意識障害で気道防御能が破綻しており,気管内挿管の適応となります。ルーチンの人工呼吸管理を行えばよく,予想体重は66 kgです。圧換気であるBiPAPモードを選択し,1回換気量500mL(7.6 mL/kg)は妥当,血液ガス分析でpH,PaCO2も正常範囲となっていますので,現在の呼吸器設定で問題ないと考えられます。

Take Home Message

(1)人工呼吸器の初期設定に必要な項目を理解する。
(2)人工呼吸器のモードについて理解する。

つづく


参考文献
1)小谷透編.臨床ですぐに役立つ人工呼吸の知識.真興交易㈱医書出版部;2004.
2)Chatburn RL. Classification of ventilator modes : update and proposal for implementation. Respir Care. 2007 ; 52 (3) : 301-23.

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