医学界新聞

2010.08.30

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《JJNスペシャル》「治る力」を引き出す
実践! 臨床栄養

東口 高志 編

《評 者》平田 公一(札幌医大教授/外科腫瘍学・消化器外科学 日本静脈経腸栄養学会理事長)

NST活動に必携
完全型チーム医療への教典

 本書を読み終えてみると,さすが東口高志編とうならされた。同氏の高邁な精神性と教育力の高さを反映し,気遣いの余白も実に適切,各ページの文字とともに説得力のある図や表の提示が,次のページを読みたいという欲求をかき立てるのである。知識が感性的に身に付きやすい教育図書となっている。知らず知らずのうちに,おのおののページに向ける眼力にいっそう力が加わってしまう。そのような工夫が施されている。また,素晴らしい専門家が多くの共著者陣として並んでいる。

 昨今,NST活動に対する評価は高く,保険診療にも大きく反映されたことは周知のことである。その質を支え,チーム医療を向上させるにはもってこいの書であり,そして時宜を得た発刊と言える。多くの医療従事者や教育担当者は日々の勤務の中で負担を背負いつつ,前進を続けている。その努力の結果として,医療の原点とも言える「ヒポクラテス医学」の心と信念を日常臨床の場に導入,普及しようとする各種医療職の考え方にさらに向上がみられる。そのような全国的な努力のなされている今日,本書による具体的で良質な臨床栄養学の次世代も読んだ提案は,次への目標設定と励みを提供していると考える。ありがたいことである。

 さて本書を一読した後の第一印象として,編者・執筆者である東口高志先生と共著者の方々の医療への信念が,読者である医療実践者に「ヒポクラテス医学の心」をチーム医療の基本に置くべしとの理念を強く訴えようとしていることが,一貫して伝わってきたことが挙げられる。

 同時に,「全く異質の新しい考え方を導入し,多くの医療者にその体得と早期実践を」との要望も直感できる。新しいチーム医療の在り方を知ってもらいたいとの思いが本書には込められている。学ぶ者に従順的姿勢の重要性を訴え,「忠実に素朴に病状を観察しようとする姿勢の重要性」を勧めている。

 共著者の先生方の今日に至るまでの多年にわたる経験,特に消化器外科医や緩和医療あるいは広く臨床栄養学での実践的苦労から得た熟考性,そして生来から有する才能が,編者が求めた該博な企画の一つひとつに答える形となっており,それぞれの項目における「真髄」にしっかり触れた解説文と図が駆使され,NSTを担当する者の胸を強く打つ内容がいずれのページでも完結している。

 同時に厳格な雰囲気の中で,常に努力せよとの天の声とも言える教示的な表現を各所に垣間見ることができる。患者を自然体で診ること,疑問に対しては学問をすることがいかに大切かをも訴えている。未来のために想像する力,潜んでいる既存の能力を導き出すとともに,臨床栄養学の真髄を伝えようとする緊張感と熱気を込めた心意気が伝わってくる。併せて医療者としての道徳・哲学,医療者として身につけておくべき当たり前の礼儀・規律についても指導展開をしている。

 まずは,臨床栄養学の知識整理,そして手工業的な技術への深い理解を核心に設定し,私心を退け配慮,慎み,威厳,平静,判断,清潔,知力,自由,忠誠などを勧めている。若い医療従事者にわかりやすく解説することに配慮し,その中で人として豊かな関与をすべきことも唱えている。

 このように医学教育指導者における臨床栄養学の教育法の在り方と今後の方向性を広く示唆した貴重な書と言える。われわれに何が要求されているのか,何をすべきかを教えてくれる名著である。

AB判・頁312 定価3,780円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01030-6


イラストレイテッド外科手術 第3版
膜の解剖からみた術式のポイント

篠原 尚,水野 惠文,牧野 尚彦 著

《評 者》坂井 義治(京大大学院教授・消化管外科学 )

洗練を極めたイラストと的確な解説による比類なき外科手術教科書

 篠原尚先生・他著による『イラストレイテッド外科手術』(第3版)を手にした。初版,第2版ともに購入したものの残念ながら既に私の手元にはない。研修医に貸したまま戻って来ないのである。彼らがボロボロになるまで毎日この本で手術の予習・復習をしている姿を見るにつけ,“自分で買えよ”とは言えず,そのままになってしまった。年代を越えてこれだけ愛読されている外科手術書がほかにあるだろうか?

 あらためて第3版をめくる。時代の趨勢で器械吻合のイラストが増えているものの,胃癌手術の際の十二指腸切離・吻合や脾臓脱転操作のイラストを見ると,私自身も県尼(兵庫県立尼崎病院の略称)で指導を受けた牧野尚彦先生の手術操作が蘇る。それほどに著者篠原尚先生の感性がイラストに凝集,注入され,写真とは異なる“実際”を描写しているともいえる。

 デジタル技術の進歩と内視鏡手術の普及により,昨今の学会のビデオセッションは立ち見が出るほどの盛況である。しかし,ふと考えてしまう。これほど頻繁にビデオセッションが開催されているが果たしてどれほど参加者の技量向上に役立っているのだろうか? アニメを見るのと同様に他人のビデオを見ているときは,能動的な思考をする時間が許されない。目の前を美しい映像が流れていき,あたかも自分もできるような気持ちになるが,その場面の詳細を後で思い出すことは極めて困難である。もちろん記録されたDVDを繰り返し見ることで詳細なイメージを記憶にとどめることは可能ではあるが……。

 それに対して,鮮明な静止画は見る者に想像し思考する時間を与えてくれる。さらに恩師牧野先生が本書【初版の序】に記載されているように,“強調と省略とが程よくミックスされて洗練されていった”イラストは臨場感とともに最も重要なポイントを明確に教示してくれる。そのイラストが的確な言葉による解説付きであるなら手技のエッセンスの把握はなおいっそう容易となる。

 的確な言葉を使うことは難しい。しかし,本書第1章の【プロローグ】の“筋膜fascia”の解説や“「AとBの間に筋膜は何枚あるか?」という議論は時として無意味である”との説明を読むと,著者が読者に具体的なイメージを形成してもらうために,どれほど慎重に“的確な言葉”を選択したかおもんぱかることができる。

 著者に天性の画才があることは周囲の誰もが認めている。しかし,それ以上に彼が費やした手術記録記載の時間,その反復推敲の時間と努力は想像を絶するものであろう。その努力にただただ敬服するのみである。外科研修医ばかりでなく,私も含めた“経験ある”外科医も今一度,外科手術教科書として比類なき本書を手に取り,外科手術教育を再考したいと思う。

A4・頁500 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01023-8


そのまま使える医療英会話[CD付]

仁木 久恵,森島 祐子,Flaminia Miyamasu 著

《評 者》曽根 博仁(筑波大大学院教授/内分泌代謝・糖尿病内科)

「医学英語」とは異なる「医療英会話」

 言うまでもなく,英語はすでに医療の世界にも深く入り込んでおり,われわれは日本にいても,日常的に英語の教科書を読んだり,英語の論文からエビデンスを抽出したり,時には国際学会で英語の発表をしたり,英語論文を書いたりもしている。最近では多くの若い医師や医療従事者が,このような英語による読み書きやフォーマルなプレゼンテーションをうまくできるようになってきた。医学英語教育の充実や留学経験者の増加も寄与しているのだろう。しかし,このような書き言葉をベースにした医学英語に精通していても,外国人の患者さんが来ると結構苦労する,というのが私自身を含む多くの医療従事者にとって正直なところではないか。英語圏であれば,子どもでも知っているような症状を表す言葉がすぐに出てこなくて,もどかしい思いをすることが多い。難しい専門用語が通じにくいのは日本人患者さんでも同じであるが,簡単な表現への言い換えは英語では実際にはなかなか難しい。

 多くの若い医師が研究目的で留学するが,そのような人が英語によるコミュニケーションで困るのは,専門用語を駆使した仕事上の会話でなく,むしろ研究室内の世間話や,銀行やスーパーマーケットなどでの日常会話である。診察室における患者さんとの会話もそのような日常会話の延長線上にあり,いくら英語の論文をnative speakerと同じように読み書きできても,それだけでうまく英語による診療をこなせるわけではない。海外での診療経験を持たない大部分の医療従事者にとって,英語による診療のトレーニングあるいは診療現場での参照に最適なのが本書である。本書には,医師のみならず,看護師,技師,医療事務担当者など医療関係者の多くがそのまま使える便利な表現がコンパクトにまとめられている。付属のCDも手近にnative speakerの教師のいない環境では便利な学習ツールである。

 本書をみると,診察室英語は決して特殊で難しいものではなく,むしろ高校までの英単語に必要最低限の医学英語を加えればよいことがわかる。そして,われわれが英語の教科書や論文を理解するために,ラテン語やギリシャ語由来の難しい「医学専門用語」や論文表記に特有な「科学英語」ばかり暗記しているうちに,実はそういう簡単な表現(医療英会話とでも言おうか)を忘れてしまっていることに気付く。

 「医学英語」とは全く異なる「医療英会話」の教育も現場では少しずつ導入されている。筑波大学でも今年度から医療面接のロールプレイを含めた授業が始まっており大好評であると聞く。筆者らの時代には考えられなかっただけにうらやましい限りである。今後は日本医療の国際化に対応するために,栄養指導や服薬指導なども含めて多くの医療従事者の養成に必要な科目になるであろう。

 本書は,同著者によるさらに詳しい姉妹書『そのまま使える病院英語表現5000』とともに,各外来ブースや病棟に一冊ずつ備え付けられているべき本である。『そのまま使える医療英会話』で基本となる表現をできるだけ暗記しておき,『そのまま使える病院英語表現5000』を必要に応じて辞書的に使えば,多くの診療場面は対応可能であると思われる。今までは緊張して冷や汗をかきながら診察していた外国人の患者さんを迎えるのが少し楽しみに変わる一冊である。

A5・頁128 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00878-5


骨・関節X線写真の撮りかたと見かた 第8版

堀尾 重治 著

《評 者》北山 彰(川崎医療短大准教授・放射線画像検査学)

医学と撮像技術の融合

 『骨・関節X線写真の撮りかたと見かた』の第8版が発刊された。本書で自らが学び,かつ大学教育で使用させていただいている読者の一人として,本書の感想を述べる。

 画像診断では,一枚の画像に隠された多くの情報を読み取ることが必要である。そのためには三次元の正確な正常解剖はもとより,そこに生じる疾患の形態学的特徴を熟知する必要がある。本書は画像検査法の技術的理論に基づいて,画像を読影するための基本的な人体解剖と,そこに発生する疾患の病理病態をわかりやすく教えてくれる。

 本書の特筆すべきことは,すべての画像がスケッチで描かれていることである。この種の書物では,通常は単純X線画像にしてもX線CT画像,MRI画像にしても実際の臨床画像が掲載されるが,本書ではすべての画像が著者による詳細かつ的確で美しい細密画で描かれているのである。初めて見る読者は,多少,奇異に思われるかもしれないが,これには著者のこの本に対する真摯な姿勢と一つの重要な思いが込められている。

 実際の臨床画像では,写真濃度,コントラスト,解像度,粒状性などの画像因子,または,撮影時の整位などによって画像の良し悪しが左右される。しかも,適正な画像であるからといって,目的とする観察部位がその画像の中で障害陰影もなく明瞭に観察されるとは限らない。放射線画像のスペシャリストである著者はそのことを熟知しており,本書ではあえてすべての画像を細密画に置き換えることによって,実際の画像では観察しにくい構造物も詳細かつ明瞭に描出し,読者に理解しやすく,わかりやすいように工夫しているのである。ここまで画像の掲載にこだわり,時間を費やして,読者の立場に立って画像が描かれ,掲載された書籍は私の知る限り他に類をみない。

 この本の著者,堀尾重治氏の初めての著書が1971年に発刊された『骨単純撮影法とX線解剖図譜』(医学書院)である。A 4判306ページから成る大きな書籍であるが,著者の美しく正確なX線画像の細密画と解剖図の数々に目が引き留められる。今回紹介する『骨・関節X線写真の撮りかたと見かた』の原点がここにあることがわかる。

 今回の第8版の発刊は,1986年の初版発刊から24年が経過して7回目の改訂となる。このことは,本書が近年の画像検査法,画像モダリティのすさまじい進歩にもよく対応し,内容が古くなることなく,多くの読者に愛され,読み続けられてきたということを如実に示している。実際にそれぞれの改訂によって,順次,X線CT画像,MRI画像が追加され,それに伴い,骨から筋肉,神経へと領域が広がり,それらに関係した疾患,病態画像の追加が行われ,内容の充実が繰り返されてきた。特に今回の第8版では,病理変化から画像に生じる微妙な濃度変化に関係した項目が重点的に追加されている。

 本書は今までと同様に,また,さらに多くの整形外科,画像診断をめざす医学生および駆け出しの医師,そしてこの領域の画像検査に携わる診療放射線技師に,良い教科書・参考書として喜んで受け入れられることを確信する。私は本書に医学と撮像技術の融合をみたような気がする。

B5・頁480 定価6,510円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00994-2


婦人科病理診断トレーニング
What is your diagnosis?

清水 道生 編

《評 者》八重樫 伸生(東北大病院副院長/産婦人科教授)

婦人科腫瘍専門医に最適な病理診断のテキスト

 本書の特徴は,各疾患・病態が4ページでまとめられていること,各疾患のトップページに質問形式で臨床データと病理像のカラー写真が提示され,その裏ページに解答があるQ&A形式をとっていること,その後2ページで病態と病理学的事項などの簡明な解説があること,全体を通した書式の統一が素晴らしいことなどにある。以下,本書を通読した直後の率直な感想を述べる。

病理医と臨床医の共通理解のために

 日本婦人科腫瘍学会では卵巣がん,子宮体がん,子宮頸がんの3つの治療ガイドラインを発刊し,数年ごとに改訂を繰り返している。ガイドライン作成委員長をしながらあらためて感じることは,「治療のスタートは常に病理診断にある」ということである。

 一方で,科学の進歩に伴い,婦人科腫瘍の領域でも疾患の病態理解は年々変化し続けており,それをフォローしつつガイドラインに反映していくことは重要である。例えば,子宮頸部病変でいえば悪性腺腫と分葉状頸管腺過形成(LEGH)の概念がそうであるし,卵巣の境界悪性腫瘍での浸潤性インプラントがそうであろう。こういった疾患概念の提唱や病理診断基準の変化を理解する,病理医による的確な病理診断が治療のスタートになり,臨床の場にも即座に反映される。

 つまり,治療ガイドラインというものは,病理診断が共通でかつ的確であるという前提のもとに作成されているわけである。そして,病理医と臨床医がともに疾患概念を正確に理解し,疾患の共通理解のもとに診療を進めることが重要である。そのためのテキストが必要となるのは言うまでもないが,本書の素晴らしい病理写真の数々と秀逸な解説がそういった役目を果たすのではないかと考える。

婦人科腫瘍専門医試験のために

 日本婦人科腫瘍学会では,5年前から婦人科腫瘍専門医試験を行っている。婦人科腫瘍専門医制度は主に臨床医を育成するためのものであるが,その要求する到達目標はたいへん高く,幅が広いものである。修練カリキュラムをざっと眺めてみると,臨床腫瘍学の総論的事項,婦人科腫瘍の診断と進行期決定,婦人科腫瘍病理組織・細胞診診断,婦人科臓器の疾患とその評価法・治療法の選択,婦人科腫瘍に関連する手術などがあり,これらすべてを網羅して修練することは並大抵のことではない。専門医を取得する者の多くが産婦人科専門医を取得した後のいわゆる一般的な産婦人科臨床医である。忙しい日常診療の合間にこのような幅広い知識をどう得るか,特に病理診断トレーニングをどう効率よく受けるかという点は大変重要である。

 これまでも病理医のためのテキストのようなものは多く刊行されていたと思われるが,婦人科腫瘍専門医向けに最適と思われる婦人科病理診断のテキストはなかったように思う。Q&A形式をとる本書は,まさにそういった婦人科腫瘍専門医をめざす先生方のバイブルになるのではないだろうか。

B5・頁364 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00734-4

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