医学界新聞

2010.06.21

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


人体の構造と機能 第3版

エレインN. マリーブ 著
林正 健二,小田切 陽一,武田 多一,淺見 一羊,武田 裕子 訳

《評 者》佐伯 由香(筑波大大学院教授・看護科学)

解剖生理学を楽しく学び,理解できるテキスト

 1997年に本書の初版が出版され,そのときにも書評を書かせていただいた。当時,今まで日本では見たこともないテキストだと大変驚いた記憶がある。あれから10年以上が経ち,第3版の発刊に至り,あらためて本書の良さを認識する次第である。

 初版のときにも書いたことであるが,著者のElaine N.Marieb氏は看護師である。もともと動物学博士号を取得した後,解剖生理学の講義を担当していた。その授業を受講している学生に看護学生がいたことから看護学に興味を抱き,看護師の資格を,さらには看護学修士号を取得した経歴がある。教師としてどのように教えれば膨大な解剖生理学の知識を理解させることができるか,興味を持ってもらえるか,また逆に学生としてどのように教われば理解できるか,両方の立場を同時に経験している。このような経歴が本書を作成する動機付けにもなり,理解しやすい内容へとつながっている。

 初版から一貫して言えることであるが,図が非常にわかりやすい。カラーでその色使いもさることながら,複雑な組織や構造もできるだけ本当の組織に近い状態で,かつ理解しやすいように描かれている。第3版では,その図に加えて顕微鏡写真も一緒に掲載されている。細胞や組織など,直接肉眼で見ることのできない構造物でも,写真と図によって容易にイメージできる。

 また,各組織が障害された際の代表的な症状や疾患を説明している「ホメオスタシスの失調」も本文と色を別にして区別しているため,前版よりも読みやすくなっている。これによって正常な構造と機能,そしていろいろな疾患やその病態生理との関連性が理解しやすくなっている。第2版で加わった「もっと詳しく見てみよう」も,第3版ではより最新の知識・情報が加わり,内容が充実している。

 さらに第3版では原書にある「Focus on Careers」が「関連職種をのぞいてみよう」として追加掲載されている。米国とわが国では医療職者の種類や役割は異なっているものの,現在の日本の医療を考える上で大いに役立つ情報である。

 看護学生になっていきなり解剖生理学の膨大な知識を覚えようとしても,嫌気がさしてこの科目が嫌いになるだけである。正常な人体の構造がどのような位置関係にあって,それぞれどのように働いているのか,それらに何らかの異常が起こるとそれぞれ特有の症状が出現する,異常な検査値が出る,さまざまな疾患へとつながる。これらがすべてつながっていることが理解できれば,きっと解剖生理学も興味を持って「理解」しようとしてくれるのではないだろうか。看護学生に限らず,再度人体や疾患に関する基礎を学ぼうとする人にとって,本書はそのきっかけとなるテキストである。

A4変型・頁656 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00956-0


《シリーズ ケアをひらく》
技法以前
べてるの家のつくりかた

向谷地 生良 著

《評 者》中島 美津子(医療法人財団健貢会 東京病院)

「?」から「!」へ「ケアの原点」に帰れる本

虫かごの虫と自然の虫
 唐突ではあるが,本書を読み終わり思い当たった出来事がある。私の幼少時代,大きな家庭菜園をひとり切り盛りしていた祖母のことだ。私は作業をしている彼女のそばに座り,よく話をしていた。祖母はいつも,「感謝の気持ちを忘れたら,なぁ~んにも育たん」と言って,ブロッコリーについた虫に何かぶつぶつと話しかけながら,割り箸でつまみ出していた。虫をただ気味悪がる当時の私には,言っていることがよくわからなかったが,そのときの祖母の温かい笑みはとても印象に残っている。

 大人になり看護の世界に入ってからというもの,臨床現場でのOJTが,そして大学での看護教育現場では,看護学生が,なぜか虫かごの中にいるような閉塞感を覚えた。そんな思いを胸に抱いていたあるとき,とある研究会で,農学博士のTさんと出会った。穏やかな口調,そして温かく真剣な眼差し。今までの思いから直観的に,「農業の営みって,看護の営みそのものですよね」とお話ししたところ,「おもしろい発想ですね」と大きくうなずいてくれた。それ以来Tさんとは農業と看護の共通性についてよく話をするようになり,とてもお世話になっている。

「ケア」と「農と脳」の重なり
 なぜこのような話を思い出したかというと,著者の向谷地生良氏が,本書でケアと農の共通点について,いくつか言及しているからだ。

 向谷地氏の人間としての「ケアの原点」に戻る活動をつづった本書は,あらためてヒトはさまざまな他者との交わり――一見雑草だらけの荒地のようであるが,実はさまざまな要素を含む土壌のようなもので,そこには一つひとつの生き物の営みとそれを他者の経験として認めている立派な生態系がある――があって初めて,自己(ひとつひとつの生き物)を認識できるのだという土壌(多様な他者)の大切さを,実にやさしく書いている。

看護師は何をしすぎ,何をしてこなかったのか
 本書では,今の現場で忘れ去られている真の意味での「当事者」意識を取り上げている。向谷地氏は「医学=囲学=囲う,看護=管護=管理,福祉=服祉=服従という言葉に象徴される精神医療の構造とそれを支える社会をいかにかえていくか」「当事者を一方的に支配したり,保護・管理することは,当事者から『苦労という経験』を奪い取ること」といった,あくまでも当事者が「決して解決を求めているのではない。現実の生きづらさに対処するための立ち位置を探している」という認識のもと,驕れる医療者の誘惑をいかに断ち切るかということについて語っている。

 私が目を奪われたのは,まずい対応で治療困難となり,べてるの家に来た当事者たちをめぐってこれまでの常識を覆すようなべてるの家でのかかわりが語られた部分である。著者は彼らの生き方を表現する中で,専門家が当事者を「根拠なく信じる」ことの大切さやこれまでの医療者の誤った思い込みや勘違いなど,「看護師は何をしすぎ,何をしてこなかったのか」についてやんわりと触れていく。

 本書は,精神医療関係者のみならず,患者とかかわるすべての医療者に「ケアの原点」を再考させるきっかけとなるであろう。「良心的な精神科医ほど多剤大量に走る」「ケアの現場は聴きすぎていた」など,言葉だけでは「?」と思ってしまうような見出しが並び,どこから読んでもあっという間に引き込まれ,読後には必ず「ストンと胸に落ちる感」がある。感動という言葉を使ってしまえば,あまりにも淡白だ。すっきり,いや,ほっとする,そのうえドキドキする,いったい何と言い表せばよいのか。これこそ,今,看護の現場に不足していることを言い当てていると確信した。

A5・頁252 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00954-6


マーガレット・ニューマン
変容を生みだすナースの寄り添い
看護が創りだすちがい

マーガレット・ニューマン 著
遠藤 惠美子 監訳
ニューマン理論・研究・実践研究会 訳

《評 者》渡邉 眞理(神奈川県立がんセンター医療相談支援室長/副看護局長)

自らの看護の核心をつかむ

 本書は,マーガレット・ニューマン博士の,『Health As Expanding Consciousness』(1994年)から13年後に出版された著作の全翻訳本である。私は本書のタイトル『変容を生みだすナースの寄り添い――看護が創りだすちがい』に大変ひかれ,その内容に深く感銘を受けたので,皆様に紹介したい。

 私はがん看護専門看護師として,また看護管理者として,看護の質が関心の的であるが,今日の慢性的な看護師不足に加え,平均在院日数の短縮化や医療の高度化により,看護師は多忙を極め,看護を見失い,疲弊感を抱いている場合が多いように感じている。

 一方このような状況の中にあっても,看護の質を維持し,向上させようと,“看護の見える化”など,さまざまな取り組みを実施し模索し続けていることも知っている。私は,後者のあり様を大いに支持したいと考えているのであるが,そのためには“看護とは何か”という問いをしっかりと探求する必要がある。

 本書の特徴の一つは,実践家看護師に熱い視線が注がれ,ニューマン理論に導かれた研究的姿勢と実践を重ねた看護プラクシスについてよりわかりやすく説明され,看護とは何かが説き明かされていることである。

看護とは,その瞬間に心をこめて寄り添うこと――
それは変容を生みだすナースの寄り添いである(中略)

寄り添い,それは相手を気遣って深く関心をそそぎ
理解しようとすることを伝え
響き合う意識であるナースの最高位の姿である

(本書「日本語版へのメッセージ」より一部抜粋)

 ニューマン博士は,私たちのケアリングとは,疾患だけに目を向けるのではなく,またそれを排除しようとするのでもなく,疾患を包み込み,そしてそれを超えた“健康”の概念と結びつかなければならないことを強調している。がん看護に携わる看護師の中には,患者やその家族が,疾患の苦しみの真っ只中でも,自分の内部に潜む力に気づき,その力を使って,より自分らしく変容し,成長していく姿を知っている者は多いであろう。この患者や家族の姿は,看護の視点から言えば,健康の過程であり,この過程を助けることができるのは,看護師の“心をこめた寄り添い”なのだ,とニューマン博士は主張している。

 本書には,この寄り添いについて,具体的な実践事例をもとに詳しく記述されているので,実践家である看護師は,自分の看護についての考え方や患者・家族へのかかわりの在り様を意識的に問い直してみることができる。

 さらに,患者や家族の看護に苦悩している看護師や看護チーム,彼らを支援しようとしている看護管理者,また看護教育の場も対象に,“その瞬間に心をこめて寄り添うこと”が相互の成長へとつながることが示唆されている。がん看護専門看護師としての私自身について言えば,がん患者・家族が苦悩の中にあるとき,パートナーとして寄り添い,どのようなときでも患者・家族一人ひとりが納得のいく意思決定ができるよう,また耐えがたい現実に立ち向かえるよう共に歩んでいくことを大切にしている。また一人ひとりの看護師や看護チームが,自分たちのがん看護実践を意味付ける体験ができるような支援と,その看護師らを支援する看護管理者への支援を大切にしてきている。本書を読み進めるほどに,自分が追求してきたことの意味付けができ,これでよいのだという確信を得ることができた。

 読みやすく翻訳されてはいるが,それでも難しいところに出合うかもしれない。そのようなときには,そこをとばして次に進み,また戻って読み直せばよい。さらに新たな意味が生まれ,納得でき,やがては自分の看護の核心をつかむことができるであろう。資料の「質問とコメンタリー」では,日々の看護実践でニューマン理論を活用するための数多くのヒントが記載されているので,この部分も本書の理解を助けてくれるであろう。貴重な1冊として推薦する。

A5・頁180 定価2,730円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00934-8


チーム医療のための呼吸ケアハンドブック

工藤 翔二 監修
木田 厚瑞,久保 惠嗣,木村 弘 編

《評 者》佐々木 英忠(秋田看護福祉大学長)

呼吸ケアの重要性を最先端のエビデンスに基づいて解説した貴重な参考書

 ケアという言葉が盛んに用いられるようになったのは十数年前からである。従来,在院日数の制限がなく長期療養ベッドもお構いなしであったが,医療費の高騰を避けるため,社会的入院ともいうべき長期療養患者は病院から締め出されることとなった。それにより,大病院であればあるほど急性期疾患の患者のみを診療するという建前のもと,在院日数は短ければ短いほどよい病院であると評価されるようになった。

 呼吸器病床では,酸素吸入のためだけに入院しており在宅に戻せないCOPDをはじめとする患者にかなりの病床を占められていたが,在宅酸素療法の導入によって,長期療養患者は退院可能となり,他科の在院日数短縮の方針と歩調を合わせることができた。

 ここで病院は急性期疾患を専門に診療するという大前提が整ったが,患者(特に高齢の患者)は急性期を乗り切っても直ちに回復するわけではなく,社会復帰となればさらに程遠いという実態が待っている。医学の粋を集めた専門集団である大病院が,急性期を乗り切ってもまだ回復には程遠い患者に対して,退院後はどうぞ好きなようにしてくださいと,いわば投げ出すことは,すこぶる実態にそぐわないことになる。多くの患者は退院後に完全に回復するまで,または回復しなければそれなりの療養が切り離せない。

 このような退院後の患者の療養には医療と看護・介護の両輪が必要となってくる。従来は医療の確立に多くの時間と労力が割かれ,看護・介護にはそれぞれの専門職の細々とした努力はあったが,医療に携わる専門職の目は向けられていなかった。しかし,例えば在宅酸素療法が,これまでのどの薬物療法やその他の医療行為よりもCOPDの延命効果として寄与するなどのエビデンスが明らかにされるに及んで,看護・介護は医療と同等に重要な役割を持つことが明確になってきた。

 本書は,早くから医療と共に看護・介護を重要視してきた,日本の呼吸器学分野の最前線でご活躍されている医療専門職の方々によって書かれている。呼吸ケアの重要性について今日得られる最先端のエビデンスに基づいて解説された貴重な参考書である。内容は平易でわかりやすく,呼吸器に携わるチーム医療をスムーズに行うための参考書となっている。

A5・頁312 定価4,410円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00793-1

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