医学界新聞

連載

2010.05.10

知って上達! アレルギー

最終回
アレルゲンの回避――通年性アレルゲン

森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)


前回からつづく

 さて,何度も繰り返しになりますが,アレルギー治療で最も大切なことは何でしょうか。抗ヒスタミン薬の使い方? ステロイド薬の使い方? いえ,アレルゲンを避けることではないでしょうか。理論的には,アレルゲンに曝されなければアレルギーは起こりません。

 本連載を通じて強調してきたアレルギー治療の考え方を図にまとめました。アレルギー疾患の治療では,“アレルゲン回避”を基盤にドンと据え,その上に“ゆっくり炎症を抑える薬”,さらにその上に“すばやく症状を抑える薬”を置いて考えます。

 アレルギー治療の考え方

 “ゆっくり炎症を抑える薬”は,アレルギーの本態である炎症を抑制するステロイド薬,ロイコトリエン阻害薬などです。特に,局所ステロイド薬は鼻炎・喘息・アトピー性皮膚炎において,有効性と安全性から第一選択とすべき薬剤です。“すばやく症状を抑える薬”は,抗ヒスタミン薬,気管支拡張薬,交感神経作動薬などです。

 薬剤治療より重要とも言えるアレルゲン回避のためには,代表的なアレルゲンについての知識が役立ちます。季節性アレルゲンについては本連載第5回(本紙2841号)で述べたので,今回は,まだ取り上げていない通年性の吸入アレルゲンについて取り上げます。

ネコ

 カナダのある島ではネコが駆除され,1974年以降ネコは1匹もいないにもかかわらず,その約20年後に全住民に皮膚テストを施行したところ,その20.1%がネコ抗原に陽性であったことが報告されています1)。ネコがいなくなって20年経っても,まだネコのアレルギーが存在するのです。これは,まだ島内に存在しているネコアレルゲン,または外部から持ち込まれるネコアレルゲンによる寄与が考えられています。

 ネコ抗原は髪に付着しても運ばれるといわれ,ネコを飼っている家の子どもと,そうでない子どもでネコに対する皮膚テストの陽性率に有意差がなかったという報告もありますし,一度もネコの持ち込まれたことのないスペースシャトルにネコ抗原が見つかったという話もあります。ネコ抗原はあまりにどこにでも存在するため,「うちはネコを飼っていないので,ネコアレルギーはありません」とは言えないのです。ネコへの感作があると,喘息が重症となる危険性が高くなるので,この点からもネコには注意が必要です。

イヌ

 イヌは,アレルギー的観点から見ればネコより良性です。アレルゲンも,ネコほど普遍的に存在するわけではありません。幼少時にイヌが周囲にいた環境で育った場合には,アレルギー疾患の発病を抑制させる効果があるという見方が主流です2)。これは,農場で育った子供たちにアレルギー疾患が少ないことと似た機序,つまり排泄物などに接する機会が多くなることで,Th1が活性化されることが関与しているかもしれません。一方,ネコについてはこれが当てはまらず,アレルギー疾患の発病リスクを高めるという報告が多いようです。

 ペットアレルギーではペットを除去することが原則ですが,これは現実的ではなく,医師のアドバイスに従う患者は少ないことが知られています。ペットを飼っている方ならその気持ちは理解できると思います。手放せないなら,できるだけ家の中に入れない,それが無理なら寝室に入れない,というようにするべきでしょう。また,空気清浄機は,空気中のアレルゲンを減少させて,小児の喘息を有意に改善したという報告3)があり,使用を勧めるのもよいかもしれません。

ダニ

 ここでいうダニとはハウスダストに含まれる塵ダニで,100種類以上存在しますが,アレルゲンとしてはヤケヒョウダニ,コナヒョウヒダニが代表的です。属名をDermatophagoidesと言いますが,語源は「dermato(皮膚)+phagoides(食)」です。皮膚を食べるとは言っても,塵ダニは直接,人を噛んだりはせずに,ホコリの中のフケやアカを食べています。米国では,最も頻繁に感作されているアレルゲンとされ,その重要性は言うまでもありません。

 ダニは水を飲まず,体表から水分を吸収するため,空気中の湿気が必要です。私が以前住んでいたコロラド州デンバーは標高1600mのところにあり,湿度が低く,ダニの生息に必要な50%を超すことがほとんどないため,通常ダニは屋内で生存できません4)。このデンバーの医療機関で皮膚検査をした患者さんがダニに対して陽性だと,ほかの都市に住んでいたことがわかったりします。ダニアレルゲンを避けるには高地居住が理想的と言えそうですが,それは難しいので現実的に考えます。

 ダニは吸入抗原ですが,大きく重いため,空中に舞うというより,寝具やカーペットに付着しています。このため,空気清浄機の効果は低く,寝具の頻繁な洗濯,掃除機をかける,布団乾燥機を使うほうが効果的です。また,ダニが高密度に見られるカーペットやぬいぐるみなどを除去することも効果的でしょう。

カビ(真菌)

 カビに感作されていると,喘息の重症度が高くなる傾向にあります。例えば,屋内の黒カビは大抵クラトスポリウムですが,このカビへの感作があると,持続性喘息のリスクは5倍になると言われます5)。アスペルギルスに対するアレルギーは,喘息発作,好酸球増多,中枢性気管支拡張,肺浸潤影などを特徴とするアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(Allergic Bronchopulmonary Aspergillosis;ABPA)の原因としても知られています。

 ダニがいない地域はあっても,人が住んでいてカビが存在しない地域はありません。カビを環境中からゼロにすることは不可能に近いのですが,家中の目に見えるカビを薬品で除去し,湿気を低くすることで,喘息・鼻炎の症状が改善したという報告があります6)

 以上,代表的な通年性アレルゲンについてお話ししました。効果的だと考えられるいくつかの方法を挙げましたが,その曝露を完全に避けるのは不可能に近く,通年性アレルゲンはアレルギー医の悩みのタネです。

 しかし,アレルゲンの特性を考えて対処するという姿勢は大切です。アレルギー疾患を考える上では,各種アレルゲンについての知識はとても役立ちます。その勉強を続けていく上での楽しみの一つが,今回取り上げた吸入アレルゲンをはじめとした,生物を相手にできることです。私だけでなく,生物や自然の好きな方は多くおられると思います。生物の勉強を考えれば,よりアレルギーを考えることが楽しくなると思います。

 さて,「知って上達! アレルギー」も今回が最終回となります。拙いお話にお付き合いいただき,どうもありがとうございました。計14回の連載を通して,雑学的な視点からのアレルギーの紹介,限られた時間でできる質の高い診療の方法の提案などをさせていただきました。何か一つでも皆様の知識として残り,お役に立てたとしたら,大変うれしく思います。

(おわり)

参考文献
1)Chan-Yeung M, et al. Sensitization to cat without direct exposure to cats. Clin Exp Allergy. 1999 ; 29(6): 762-5.
2)Simpson A, et al. Pets and the development of allergic sensitization. Curr Allergy Asthma Rep. 2005 ; 5(3): 212-20.
3)van der Heide S, et al. Clinical effects of air cleaners in homes of asthmatic children sensitized to pet allergens. J Allergy Clin Immunol. 1999 ; 104(2 Pt 1): 447-51.
4)Moyer DB, et al. House dust mites in Colorado. Ann Allergy. 1985 ; 55(5): 680-2.
5)Cazzoletti L, et al; Therapy and Health Economics Group of the European Community Respiratory Health Survey. Asthma severity according to Global Initiative for Asthma and its determinants: an international study. Int Arch Allergy Immunol. 2010 ; 151(1): 70-9.
6)Burr ML, et al. Effects on patients with asthma of eradicating visible indoor mould: a randomised controlled trial. Thorax. 2007 ; 62(9): 767-72.

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