医学界新聞

2010.04.05

慢性腎臓病シンポジウム開催


シンポジウムのようす
 慢性腎臓病(CKD)シンポジウムが3月11日,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催された。この日は「世界腎臓デー」であり,会場では,行政・医療者・患者ら8人が,CKD治療成績と患者のADLのさらなる向上をめざして意見交換を行った。

 最初に登壇した中田勝亘氏(厚労省健康局疾病対策課)は,同省が進めるCKD対策を紹介した。まず,CKDは初期ならば進行の予防が可能であると指摘。その上で2008年の「今後の腎疾患対策のあり方について」報告書などに基づき,かかりつけ医,コメディカルを含めた医療者へのCKD教育を進めるとともに,国民への啓発を進める考えを示した。

 続いて,CKD治療の専門家として槇野博史氏(岡山大)が登壇。わが国のCKD患者は約1330万人に上り,病気が進行すれば透析が必要になるだけでなく,心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす。これらの点を踏まえて氏は,生活習慣病をCKDハイリスク疾患と位置付け,国民に注意を喚起した。

 生活習慣病がハイリスク疾患ならば,予防の鍵は食生活。そのような観点から,石川祐一氏(日本栄養士会)が,CKD予防のための食生活のポイントなどを示した。一つ目のポイントは,エネルギー摂取の管理。BMIを適正体重の指標に,「3か月で体重5%減」をめざした無理のないダイエットを呼びかけた。もう一つのポイントは塩分摂取。「醤油などはかけずにつけて食べる」ほか,「レモンや酢,香辛料などで代用する」など,減塩対策を示した。

 患者の目にはわが国の腎臓病対策はどう映っているのか。宮本髙宏氏(全国腎臓病協議会)は,自身も血液透析を28年間受けている立場から発言。「日本の透析医療は世界最高水準」と,透析の進歩を評価した。一方で,腎臓病は「病態がかなり進んでから自覚症状が出る」と紹介し,予防・進行防止策を求めた。

 地方でもCKD対策が進んでいる。代表地域の1つである愛知県からは,稲葉明穂氏(愛知県健康福祉部)が登壇。同県では2008年に「慢性腎臓病(CKD)対策協議会」が発足。大学病院,国保,患者,医療者などが所属し,レセプト解析による疫学調査などを進めている。そして同協議会の自慢が,普及啓発活動だ。医療者への講習会のほか,街頭キャンペーンによる市民啓発などを行っていることを紹介した。

 熊本県は全国平均の1.4倍の透析患者を抱えており,毎年約300人(全国平均は約200人)が透析を開始している。これを受け熊本市で行われているCKD対策を山内信吾氏(熊本市健康福祉局)が紹介。その一つが早期発見の推進で,特定健診に血清クレアチニン検査を追加し,同健診の受診を勧めている。また発症予防として,CKDハイリスク者への保健指導,eGFRが50未満の人などに対し,受診を奨励。病診連携も進めているという。医療現場からは,連携に対する良い反響があるという。

 渡辺毅氏(福島医大)は,生活習慣病の予防法として運動療法を紹介。「辛くない・足腰負担をかけない・飽きない」を目標とした「三ない運動」を呼びかけた。一方,CKDと診断された場合は,食事療法・運動療法を医療者の指導のもとで行うとともに,薬物治療を開始・継続することを勧めた。さらに,CKDが進行した場合にも,薬剤の開発により治癒あるいは進行防止が可能であり,治療をあきらめないよう訴えた。

 腎不全まで進行した場合にも,選択肢は透析だけではない。相川厚氏(東邦大)は,腎移植について紹介。生体腎移植・献腎移植の5年生着率がそれぞれ91%,79%であることを示した。また,生体腎移植は低侵襲な腹腔鏡手術で行われ退院が早いこと,腎臓提供によるドナーの健康への悪影響が少ないことを示し,腎移植の有効性を訴えた。一方で,腎移植を行っても正常な腎臓は1つだけであるため,患者は依然,CKDに該当することが多いとし,継続的な健康管理が必要であることを付け加えた。

 最後に,公衆衛生の立場から高橋進氏(腎臓病早期発見推進機構)が登壇。氏は今やCKDは世界の公衆衛生の脅威であると指摘。腎臓病の早期発見のためのプログラム「KEEP JAPAN」の確立などを進めている。この検査は,指定の1か所の施設でのみ実施されること,世界各国のデータと合わせて解析されることなどの特徴を持つ。氏は,同検査の高リスク患者には血圧と血糖値のコントロールが不十分なケースが多いことを明かし,早期発見・重症化防止のためには「高リスク集団を対象に,尿中アルブミンおよびeGFRを測定すること」が重要であるとした。

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