医学界新聞

2010.02.01

医療の統合化が医療価値を向上させる

――マイケル・E・ポーター氏来日講演


M.E. ポーター氏
 医療戦略セミナー「日本の医療戦略を語る」が,2009年12月9日にマイケル・E・ポーター氏(米国ハーバードビジネススクール)を迎え東大・鉄門記念講堂(東京都文京区)にて開催された。競争戦略論の大家である氏は,近年,医療戦略について取り組んでいるという。本紙では,医療価値の向上をめざした医療サービスや制度の戦略的な設計について,日本の現状に照らしながら幅広く語った講演のもようを報告する。

 氏はまず,現在の日本の医療の問題点として医療の地域格差や医師の疲弊,医療費高騰を挙げ,「日本の医療は長年変わってこなかったが,急速な変化が求められる時期にある」と発言。効率よく最善の結果を患者に提供するため,医療デリバリーの構造を見直す必要があると主張した。医療費高騰は世界共通の問題だが,日本の場合,診療のトータルコストを考えず受診1回当たりの診療費を削減しようとした結果,患者の受診回数の増加や医師の疲弊を招いているという。これまで多くの国で医療費削減を目標とした政策が採られてきたが,診療報酬をただ下げただけでは結果的に医療の質や価値が損なわれ,問題を悪化させただけだったとし,真の医療費削減のためには患者にとって価値が高い医療を行うことが最善の策であるとの考えを示した。

 また,現在の医療は臨床医学の分類に沿った形で患者に提供され,医師は病態を中心とした教育しか受けていないとも発言。氏は,「医療は患者中心であるべき」との立場から患者における問題を中心に診療を組み立てる必要があるとし,それには患者に必要なケアを“一つのパッケージ”として考え,医療の統合化を行っていくことが重要と訴えた。統合化された医療の例としてドイツにおける頭痛治療や米国のジョスリン糖尿病センターを挙げ,類似した症例を集め一つの専門病院で検査・診断から治療までを行うことが,患者の利便性や診療の質を向上させるという。氏は,少なくとも主要な疾病に対してはそのようなシステムが必要だとし,統合化された医療が最終的に患者の価値を向上させ,医療費削減にもつながると結論づけた。

 最後に,日本が取り組むべき課題として混合診療の問題を挙げ,乳癌後の乳房再建手術では保険適用のために二度の手術が必要なのが現状だが,混合診療の解禁により一度で行うことができることを例に,患者価値の向上につながる混合診療は推進すべきとの見解を示した。

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