医学界新聞

連載

2009.10.26

漢方ナーシング

第7回

大学病院を中心に漢方外来の開設が進む今,漢方外来での診療補助や,外来・病棟における患者教育や療養支援で大切にしたい視点について,(株)麻生 飯塚病院漢方診療科のスタッフと学んでみませんか。

五感を駆使しながら患者さん全体をみるという点で,漢方と看護は親和性が高いようです。総合診療科ともいえる漢方診療の考え方は,日常業務の視点を変えるヒントになるかもしれません。

正しい薬の飲み方って?

持尾佳代子(飯塚病院薬剤部)


前回よりつづく

薬剤部のようす(さまざまな生薬が用意されている)
 当院薬剤部では,漢方診療科開設時より漢方薬の調剤を開始しました。2000年より外来に関しては原則として院外処方となり,現在では入院患者さんの調剤を中心に行っています。ただし,院外薬局でも院内製剤や,院内と同じ漢方薬を取り扱っているため,退院後は外来でも継続して処方することができます。また,外来で初めて煎じ薬を処方されるときは,院外薬局で煎じ方の説明を行っていますので,漢方診療科と院外薬局との会議も定期的に行い,情報を共有しています。

 入院では,煎じ薬による治療を行います。週に2回総回診があり,基本的に回診後に次の回診までの処方がオーダーされます。処方オーダー後,生薬を取りそろえ,薬剤師2名で確認し,調剤を行います。漢方薬の変更後に症状の変化などがあれば,緊急で処方を変えることもあります。

 今回は,正しい漢方薬の服用方法について,写真も交えて解説します。

漢方薬の剤型による分類と飲み方

図1 漢方薬のさまざまな剤形
 漢方薬にはいろいろな剤形があります(図1)。剤形別の飲み方について,以下に述べます。

(1)湯(とう)
 漢方治療で使う薬を生薬といいます。生薬は,自然界において薬としての効果が発見されている植物・動物・鉱物に,使いやすいよう乾燥・粉粋などの簡単な操作を加えたものです。漢方薬の多くは,漢方医学的な理論・方法によって数種類以上の生薬が組み合わされたものを,ひとつの単位(方剤)として用います。例えば,葛根湯は葛根,麻黄,桂枝,芍薬,生姜,大棗,甘草という7種類の生薬が一定の比率で構成されています。これらを水から煮出したものが湯(煎じ薬)です。煎じ方などについては後述します。

(2)丸(がん)
 丸剤は生薬を粉末にし,主に煉蜜(ゆっくり加熱して水分を飛ばした蜂蜜)で丸めた漢方薬です。比較的慢性の病態で多く用いられます。当院では桂枝茯苓丸,八味地黄丸を院内製剤として作っています。丸剤は噛んだり舐めたりして服用します。常温で溶けやすいため,冷蔵庫で保管します。

(3)散(さん)
 散剤は生薬を粉末にしたもので,そのまま服用します。酒に混ぜる(当帰芍薬散),重湯に混ぜる(五苓散)などの指示がある場合もありますが,現在はそのまま服用することが多いようです。当院では当帰芍薬散末を院内製剤として作っています。

(4)料(りょう)
 丸や散にすべき方剤の生薬を粉にせず,そのまま煎じて用いる場合,料といいます。五苓散料,当帰芍薬散料,桂枝茯苓丸料などがあります。

(5)エキス剤
 エキスとはextractつまり抽出物のことで,特に有効成分を抽出した固形あるいは半固形薬を指します。煎じ薬の水分を飛ばし,乾燥した残渣を製剤化したのがエキス剤です。エキス剤も顆粒,粉末(散),錠剤,カプセルなどに製剤化されています。

 エキス顆粒に関しては,一包を約100mLの白湯に溶き,湯に戻して服用します。エキス顆粒はそのままでは飲めないの? と聞かれることがよくありますが,インスタントコーヒーを粉のまま飲むようなものですし,温めて服用しないと効果がない場合もあります。香りが大事という説もあり,最近の研究では,溶いて飲むと麻黄や附子などのアルカロイドの吸収が速やかになり効果的という報告もあります。

 また,エキス剤には賦形剤として乳糖が含まれることが多く,日本人に多い乳糖不耐症の方の場合は,下痢が見られることがあります。

漢方薬の煎じ方

図2 土瓶で生薬を煎じる
 当院では,入院患者さんの漢方薬を薬剤部で煎じて交付しています(図2)。煎じ薬は1日分ずつ煎じます。原則として,土瓶と電熱器を使用します。患者さんが自宅で煎じる際には,ホーローやガラス,ステンレスの鍋ややかんなど,イオンが溶け出したりして薬に影響する可能性のないものなら可としています。一般的な煎じ方ですが,水約600mLと1日分の生薬を土瓶に入れ,蓋をせずに40分間電熱器で加熱します。出来上がりの量は約300mLとなり,これを1日3回に分けて服用します。また,必要に応じて出来上がりの量を調節することがあります。

 一方,烏頭(うず)というトリカブトの根を用いた生薬があります。烏頭は特に鎮痛作用が強いのですが,毒性もあります。毒性は加熱により減弱するため,烏頭含有方剤は安全を考慮して60分間煎じます。

 煎じ終わったら茶漉しなどで濾し,冷蔵庫で保存します。お茶と同様,長く温かいところに置くと味が変わります。冷蔵庫でも時間が経つと味が変わるため,一般の煎じ薬は72時間(煎じて3日)を過ぎたら廃棄します。

服用時間

 漢方薬は,原則として空腹時に温めて服用します。天然成分からできており穏やかな作用の薬が多いので,十分に作用を発揮させるためには他の飲食物と胃の中で混ざらないほうがよいからです。理想的なのは食前30分以上か食間ですが,患者さんの生活に合わせての服用でも可です。

 入院患者さんに関しては原則として「分3」(1日3回)の場合は10時,15時,20時,「分4」(1日4回)の場合は6時,10時,15時,20時に統一しています。外来でも基本的には同じです。2種類以上の漢方薬を服用する場合は,一緒に服用すると効果が弱くなることがあります。時間を離すために,一方を食前に飲んだら,もう一方を食後に服用するなど工夫します。

服用方法

 煎じ薬はコンロや湯煎,電子レンジで温め直します。温度が下がって析出した沈殿物は飲んだほうがよいため,よく振って1回分に当たる量を摂取します。

 例外的に悪心があると,湯気など温かいものに対して嘔吐を催しやすいので,このような場合は冷やして服用します。例えば,悪阻に対する小半夏加茯苓湯などは,冷たくして飲まないと飲みにくいことが多いようです。また,病態の熱性が強く冷まさなければならないときは,冷たくして飲むこともあります。例えば,鼻出血や脳内出血を起こしたときなどは,冷やして服用するとされています。

 特殊な飲み方として酒(温めた日本酒少々)で服用することがあります。当帰芍薬散や八味地黄丸などは飲みやすく,効果が出やすくなります。また八味地黄丸は,ひどく弱って胃腸の弱いような人では胃にもたれたり,下痢になったりすることがありますが,盃一杯ほどの酒で服用すると,そういった副作用も出現しにくくなります。

 また,太陽病期のような急性期(インフルエンザの初期など)には,服用方法が特に大切です。漢方薬は食間または空腹時投与が原則ですが,治療はできるだけ早く開始する必要があります。服用間隔は臨機応変に,時には3時間ごと程度に服用することもあります。温めて服用することも重要で,水で服用しても効果がなかった小青竜湯を,お湯で溶いて服用したら数分で鼻水が止まった,などの例もしばしばあるようです。漢方薬を服用したあとは外気に当たらず,少し汗ばむ程度に保温します。

患者さんへの指導

 当院では,入院患者さんに薬剤管理指導を行っています。退院時,漢方薬の煎じ方および服用方法の説明を必ず行います。入院後,烏頭含有方剤へ変更になることも多く,入院前と煎じ方が変わることもあるため,烏頭中毒を防止するためにも十分な説明が必要です。また,日常生活では決まった時間に服用することが難しくなることもあり,患者さんのライフスタイルに合わせた服用方法を説明しています。

つづく

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