医学界新聞

2009.08.10

第18回学術集会の話題から――――


 タウンホールミーティング「DES開発における世界の中の日本――日本からの発信のために Part1 DESデバイスラグの現状を探る」[座長=医薬品医療機器総合機構(PMDA)・池田浩治氏,スタンフォード大・池野文昭氏]では,DES(薬剤溶出ステント)など医療機器の日本への導入に際し,欧米と比較して年単位のタイムラグが生じていることから,解消に向けた施策やデバイス認可の鍵となる臨床試験などについて,医師・企業・行政各々の立場から提言がなされた。


より早く,より新しい治療法を届けるために

学会3日目のライブデモンストレーションの模様
 まずPMDAの鈴木由香氏が行政の立場から発言。PMDAでは昨年提示されたアクションプログラムに基づき,審査期間短縮のために今後5年で35名から104名まで医療機器の審査人員を増やすという。また,医療機器の新規性に応じて3レーンに分類し審査する3トラック制の導入,短期審査方式など審査手順を多様化し,5年間で現状の21か月から14か月まで短縮を図る。PMDAへの申請前の期間短縮のためには,審査基準の明確化や,開発早期・治験終了前の相談制度を充実させることで一定の事前評価を可能にしたいと語った。

 企業サイドからはジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社より,韓国・中国・インド・オーストラリアにおけるDES承認要件の概要について調査報告があった。通常最も早く認可がおりるEUでのCEマークの取得は,4か国すべてで要件とされている。Local type testingは韓国と中国で必要とされ,自国での治験は,インドでは既に必須化,中国でも今後要求される方向とのことで,日本と同様,治験実施期間の短縮が今後の課題になると予想されるという。

 医師の立場からは三氏が登壇。日野原知明氏(米国・セコイア病院)は,米国でもEUと比較してデバイスラグが問題化していることを指摘。理由として,臨床試験の前段階としての試験実施届の承認審査が厳格であり,さらに組織内の治験審査委員会からプロトコルの承認を受け,それに厳密に従って手技,患者を登録する必要があることなどを挙げた。しかしそうした厳格な基準がありながら米国で大規模臨床試験が多数実施されているのは,症例・手術数が豊富であり,資金が潤沢でResearch coordinatorsなど人的インフラも整備されており,医師の負担が少なく質の高いデータを収集できるためとのことだ。

 続いて齋藤滋氏(湘南鎌倉総合病院)が,日本の市中病院における臨床試験について自身の経験から意見を述べた。かつてほぼ大学病院のみで行われていたPCI(経皮的冠動脈インターベンション治療)の臨床試験だが,手術数の多い市中病院で実施したほうがより科学的な研究に資するという考えから,氏は1998年,院内に最初の標準作業手順書を策定。RAPID studyを皮切りに,いくつかの臨床試験を実施し模索を続けている。現在進行中のPLATINUMはDESで初の世界同時治験だが,このような世界標準の治験を積み重ねることが,臨床試験の標準化につながっていくとした。

 木村剛氏(京大)は,日本における臨床試験の理想形について見解を語った。重要なことは,臨床的な適切性を失わずに,一流の学術誌に掲載されうるレベルのデザインであること。また,デバイス市販後の医師主導型研究については,全員登録のRCTで早期に開始し,非劣性デザインを用いて長期の有効性と安全性に関して評価すること,などの条件を挙げた。

 登壇者は一様に,より早く新しい治療法を患者に届けるにはデバイスラグの解消が急務であると訴えた。そのために大切なのは,患者を囲む開発者と医療従事者,審査者の相互理解,協調体制であることが改めて確認されたシンポジウムとなった。

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