医学界新聞

寄稿

2009.08.10

【視点】

下肢・足病の治療には集学的アプローチが必要である

大浦武彦(廣仁会褥瘡・創傷治癒研究所所長)


 糖尿病性足病変や動脈硬化に起因する末梢動脈疾患(peripheral arterial disease;PAD)がわが国で急増している。全国には,人口から推察すると660-760万人ものPAD患者がいるとみられている。PADは重症化すると下肢切断に至る可能性が高く,患者のADL,QOLのみならず生命予後にも重大な悪影響を及ぼす。しかしながら,わが国では下肢・足病の治療は医療の谷間とも言える状況にあり,日の目をみていない。

 現実には,下肢・足病に悩む患者はどの診療科を受診し治療を受けるべきかわからず,既存の診療科としても下肢病変や足病の専門的知識や治療技術を持っていないので,ほとんどその場しのぎの治療しかできず,実際には下肢の損失で終わらず生命まで失うケースも少なくない。

 PADの治療には,3つのグループの集学的アプローチと素早い治療が必要である。すなわち,循環器科,血管外科,形成外科の治療グループ,基本疾病を管理する糖尿病内科,腎臓内科,透析科,リハビリテーション科など基礎疾患治療グループ。次いで,看護師,血管診療技師,義肢装具士などのコメディカルグループの協力のもと,集学的に治療・ケアを行う。

 PADの悪化は早く,わが国における現在の医療システムの中では素早い対応ができにくい。診断から,循環器科もしくは血管外科への転医,そして血流改善手術までに早くても1か月以上はかかってしまう。その間,PADはみるみるうちに悪化し,下肢の救済はできず切断に至っている。

 米国では糖尿病患者は推定2100万人で,そのうち15%の315万人が足潰瘍の既往あるいは潰瘍を有しているといわれている。また,年間約8万2000件の下肢切断が行われている。下肢切断の予後は,健常者に比べ糖尿病患者では30-40倍も悪い。循環障害の治療は現在では血管内治療が増加しており,バイパス手術は減少している。

下肢救済は人間の尊厳維持の基本

 人間が人間らしさを保つためには2本足で立ち,歩けることが重要で,人間の尊厳を保つためにはこれが必要になる。歩行し,運動することが身体を丈夫にし,排泄を自分で行い,関節拘縮をなくし,脳血管障害,冠動脈疾患をはじめあらゆる疾患を改善し予防する。

 今回新たに発足した日本下肢救済・足病学会のめざすところは,前述のように集学的なアプローチでかつ素早い治療を確立することであり,これにより下肢・足病を救済し,患者のADLやQOLを高め,人間の尊厳を維持することである。

◆第1回日本下肢救済・足病学会創立学術集会は2009年9月26日,パシフィコ横浜にて開催される。
 http://www.jlspm.com/2009/index.htm


大浦武彦氏
1957年北大医学部卒。78年より同大医学部形成外科学教授。同大附属病院長を経て,2002年より現職。北大名誉教授。日本褥瘡学会初代理事長。日本下肢救済・足病学会会長/理事長。

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