医学界新聞

2009.07.20

第3回日本慢性看護学会開催


数間恵子会長
 第3回日本慢性看護学会が7月4-5日,数間恵子会長(東大大学院)のもと,「療養行動支援とその評価」をテーマに,東大本郷キャンパス(東京都文京区)にて開催された。本紙では,慢性疾患患者をいかに支援するかを多職種の立場から議論したシンポジウム「当事者/医療・福祉職チームの結成――よりよい療養行動のために」(座長=東女医大・小長谷百絵氏,東大大学院・西垣昌和氏)のもようを紹介する。

 全国で107万人いるといわれる内部障害者。身体障害者数の約3分の1を占めているものの,心臓や呼吸器など,体の内部に現れる障害であるため,その認知度は非常に低い。10年前に膠原病と肺高血圧症を併発し,現在内部障害者・内臓疾患者のための活動を続ける村主正枝氏(NPOハートプラスの会)が,自身の経験と「患者力」について語った。氏は,患者自身が前向きに病気をとらえ,正確な情報を収集し理解する力や,医学の変化に対応できる柔軟性などを持つことが重要だと指摘。その上で,よりよい医療とは双方向性の思いやりから始まるものであり,医療にかかわるすべての人が同じ場で話し合うことが必要だと結論づけた。

 HIV専門医療機関においてコーディネーターナースを務める池田和子氏(国立国際医療センター戸山病院)は,現在のHIVをめぐる現状を紹介し,複数の抗HIV薬を組み合わせる多剤併用療法が登場したことにより患者の生命予後が大きく改善され,患者ケアも変化していると報告。HIV/AIDS診療においては,臨床心理士,社会福祉士,歯科衛生士など多職種から構成されるチーム医療が不可欠だが,かえってサービス全体の統合性が失われる可能性に言及し,看護師の患者の療養全体を見渡す役割の重要性を示した。

 医療ソーシャルワーカー(MSW)の鉾丸俊一氏(東京逓信病院)は,国の方針により病院の機能分化が進んでいる昨今,特に急性期を担う医療機関では慢性疾患を抱える患者を支えることが難しくなっていると指摘。そのようななかで不安を抱える患者や葛藤する医療者の負担をいかに軽減するかがMSWに求められていると語った。また,チーム医療においては,ミクロ・メゾ・マクロレベルのよいバランスが重要だとし,各専門職の長所を生かしながら連携・協働を図っていきたいと述べた。

 麻酔科医として患者の痛みに向き合う井関雅子氏(順大)はまず,痛みは他人と共有できない感覚であり,生育歴,家庭/社会的背景,気質などに影響を受けると指摘。さらに,痛みの持続はADLを阻害し,心理的,情動的な葛藤も加わることで,痛み行動という非常に複雑化した状況に発展すると述べた。氏が携わる疼痛緩和治療では,多職種がさまざまな役割を担って治療や支援を行う必要があることから,チーム医療は必須である。特に,高齢者は痛みによるADLの低下により,臥床へと移行するリスクがあることから,理学療法を取り入れるなど,予防医学からのアプローチの必要性を訴えた。

 各シンポジストの発表後の質疑応答においても活発な意見交換が行われた。村主氏の「入院中に1人の看護師に話したことが,病棟の看護師全員へ伝わっていることに怖さを感じた」という話を受け,緩和ケアチームの一員でもある井関氏が,チーム内でのよりよい情報共有の在り方について質問。村主氏は,患者の相談や思いについては,患者自身にその情報をチームで共有してよいか確認してほしいと回答した。一方池田氏は,医療者だけでなく患者や家族を交えたカンファレンスの場を持つことも必要なのではないかと語った。

 また,村主氏が「患者はクライアントとしてチーム医療の真ん中にいるものなのか,チームの一員として同じ輪を構成するものなのか」と質問。自身は,自分のそのときの状態によって揺れ動くことから,医療者の見解を求めた。これに対して池田氏は,患者をチームの一員としてとらえているものの,難しい場面も多いと発言。井関氏は,その人の人生がよりよくなることがゴールであるため,状況に応じて最良のあり方を模索すべきではないかと述べた。

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