医学界新聞

連載

2009.06.22

漢方ナーシング

第3回

大学病院を中心に漢方外来の開設が進む今,漢方外来での診療補助や,外来・病棟における患者教育や療養支援で大切にしたい視点について,(株)麻生 飯塚病院漢方診療科のスタッフと学んでみませんか。

五感を駆使しながら患者さん全体をみるという点で,漢方と看護は親和性が高いようです。総合診療科ともいえる漢方診療の考え方は,日常業務の視点を変えるヒントになるかもしれません。

漢方外来における診察,診療補助の実際(2)
-外来での診察の実際と診察介助のポイント

三潴忠道/小池理保(飯塚病院漢方診療科)


前回よりつづく

 今回は漢方医学的な診察の実際を,外来の初診患者を例に,医師・看護師の視点を織り交ぜながら順を追って紹介します。

診察室の環境を整える

 まず,漢方診療科では冷えの強い患者さんが多いため,診察室の温度管理には大変気を配っています。

 毎回の診察時にはすべての患者さんに腹診を行うので,特に夏季の冷房はなるべく最小限に抑えて扇風機で対応するようにしています。また季節を問わず,冷えの強い患者さんのためにひざ掛けの貸し出しも行っています。

 暑がりの職員にはつらいかもしれませんが,患者さんの体調を最優先に考慮します。

漢方医学の四つの診察法

 漢方外来では,初診時は診察時間が1時間にも及ぶこともしばしばで,脈や腹,舌などを丁寧に診察していきます。

漢方医学における診察法――四診

望診:視覚による情報収集(顔色や舌診)
聞診:聴覚(グル音や振水音)と嗅覚(便臭)
問診:病歴と自覚症状(問診表)
切診:触診(寒熱),脈診,腹診

 漢方の診察法は四診といって上記の四つに分けられます。診察の手順は表1の通りですが,今回は,望診,聞診,問診について説明します。

表1 漢方外来での診察の手順

望診

 目で見て診察する望診は,患者さんが診察室に入ってこられるときから始まっています。顔色が悪ければ冷え症,つまり漢方医学的には“寒”があり,赤ければ“熱”の存在を疑います。目に勢いがなかったり歩き方や動作が緩慢であれば,“虚”,つまり生体反応の虚弱な状態や,生体を巡る“気”の異常の一種である“気うつ”などを疑います(表2)。

表2 望診(視覚)と舌診の1例

看護のポイント
顔色・粘膜や爪の状態をみるので化粧やマニキュアはしない方が望ましい。また舌や舌苔の色・形状をみるので舌磨きはしないように説明する。

聞診と問診

 続いて患者さんからお話を伺います。このとき,同時に声の張りがよければ“実”つまり充実した反応状態ですし,時には呼吸音や咳の性状なども含め,耳からの情報収集をします。これを聞診といいますが,体臭や呼気の臭いなどもこれに入ります。おおむね,強い臭いは漢方医学的に“熱”があるときに出現します(表3)。香水などの使用は診察をしにくくします。

表3 聞診(聴覚と嗅覚)

看護のポイント
香水やコロン,匂いのある化粧類は,なるべく避けていただくよう説明する。

 問診は主訴や病気の経過の確認など,西洋医学と同様の部分も多くあります。特に漢方外来では,慢性・難治性の方が受診されることが多く,既往歴や家族歴なども丹念に尋ねるようにしています。また,漢方医学的には病気というより病人の状態把握が重要ですので,受診の動機となった症状や事柄以外に,全身の症状や体調なども大切です。

漢方医学における問診の特徴

 漢方医学の問診として特徴的な点は,病気に対する生体反応の状況,つまり漢方医学的な病態――“証”といいます――を重視する点です(表4)。例えば,長期の闘病などで体力が衰えた病人は,生体反応が弱って体温の産生も不十分となり,顔色も青白くなって冷えを訴えがちです。いわば陰気な病態(陰証)です。その反対は陽証です。

表4 漢方医学的な病態

 漢方医学的な冷えを“寒”といいますが,その有無と程度は重要な問診のポイントです。寒がり,冷えると症状が悪化する,風呂などで温まると症状が軽減する,などは寒の存在を疑わせる症状です。陰証か陽証かは,漢方診断ひいては治療薬の選択に大きく影響する重要なポイントです。

 また,生体のバランスを重視する立場から,摂取にかかわる食欲や口渇など,排泄としては大小便や発汗の状況を尋ね,異常があればそれを修正する方向で治療を考えます。女性では月経やその周期に関することも重要です。例えば,月経周期によって症状が消長するときには,体を巡る赤色の液体である“血”の異常による病態が疑われ,血の流通を改善する漢方薬が用いられます。

 そこで,気管支喘息,アトピー性皮膚炎や湿疹などの皮膚疾患,関節リウマチ,うつ状態など,どんな病気の患者さんでも,成人女性であれば月経や性周期に関する問診は必須となります。これら全身状態をもれなくチェックして病態を把握するために,独自の問診表である健康調査票を用いています。特に初診時には,診察前に250以上の項目に記入していただいていますが,それでも問診には時間がかかります。

看護のポイント
問診表がきちんと書けているか,診察前にチェック。既往歴,家族歴などは整理しておいていただくように説明。全身のバランスを診るために,受診のきっかけとなった症状や病気に関連がないこと,女性の場合月経関連事項も聞かれることを事前に説明。

 以上,今回は漢方医学の外来初診時における,望診,聞診,問診について解説しました。次回は,漢方医学の診察方法で最も特徴的な方法といえる切診(脈診,腹診を含む)を中心に解説します。

つづく

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