医学界新聞

連載

2009.06.08

研修病院見学ルポ
~いい病院のええとこ取りをめざして~

【第2回】麻生飯塚病院

水野 篤(聖路加国際病院 内科)


前回からつづく

特色

やはり教育は総合診療科で担っている!!
総合診療科:チームでは,10年目以上のスタッフの医師がリーダーとして機能。カンファレンスもかなり時間をかけて施行し,プレゼンテーションの教育もあり。「Share」の精神で教育用PowerPointが即座に閲覧可能(200タイトル程度とのこと)。
内科としての外来研修は原則3年目以降であるが,2年目以降は希望で可能。

Profile
病床数:1116床(一般978床,精神138床)
救急車受入れ台数:6824台/年(2008年実績)
救急受入れ人数:4万6427人/年(2008年実績)

◆Opening
 病院近くのホテルに宿泊し,6時30分にすっきりと起床できた。土産物などを持ちながら,指示通り人事課に向かう。早めに出発したが,病院内で迷子になりなんとかぎりぎりで人事課に到着した。やはり初めての病院は地図を見ていてもまったくわからない……。人事課の方により総合診療科カンファレンスに案内していただいた。

総合診療科のカンファレンス風景
◆総合診療科の朝カンファ
 カンファ室に到着したときには,すでにOne Pointレクチャーが終了しかけており聞き逃した。「救急での対応」といったような話であったが,朝,人の集まりが悪いときなどはOne Pointレクチャーをさらっとスタッフの医師が追加してくれるとのこと。「せっかく早く来た人が損してはね,ちょっとお得でしょ」と,スタッフの話。

 いよいよカンファレンスが開始。決められた順番で,まず1年目の医師がプレゼンテーションを行う。司会は6年目医師。やさしい口調で難なくまとめ上げる。症例は59歳の女性。低K血症があり紹介受診となったということ。質問の中で時折ひと言レクチャーが入る(低K血症と低Mg血症の関連など)。続いてROS(review of systems)から鑑別疾患の臨床推論。ここはかなり多くの鑑別疾患を挙げていた。このへんのまとめ具合は担当医師のセンスである。ようやく身体所見となり,検査をどうするかなど,いろいろとdiscussionが行われた。検査結果を見てさらにdiscussion。1時間半にわたりカンファは繰り広げられた。最後に司会より低K血症のOne Pointレクチャーが入り終了。時間をかけているのがよくわかった。これが毎日続くのはかなりすごいシステムである。まさに教育のためのカンファということである。症例の選択方法は特にないが,持ち回りで入院症例などで診断がついていないものが上がったりする。その場合,確定診断がつかずすっきりしないことも多いが,勉強にはなる。

◆病棟回診
 その後,チームの見学をさせていただいた。チームは4チーム。スタッフ,後期研修医,初期研修医の3人で構成。筆者が参加したチームは後期研修医がもうスタッフ寄りの6年目の医師であった。患者ごとにproblemを挙げ,新たな変化についてのみdiscussionを行う。当日の血液検査も9時30分には結果が出ており,非常に早い印象を持った。1年目の研修医は6時30分ごろに病棟に来て,受け持ち患者は大体10-12人とのこと。病棟回診ではナースステーションから病室に行き診察。予想通りではあるが通常のスタイル。患者ごとに身体所見を後期研修医が初期研修医に教えるという形。雰囲気としてもベッドサイドで教えるという姿勢を持っているように感じた。総合診療科としてのしっかりとしたスタイルである。

 病棟の印象は,予想より古い建築物であり,企業ベースで運営されている病院という見学前に持っていたイメージとは異なっていた。興味を持ったのは,「心身合併病棟」という特徴のある病棟があること。3階建てで,1階,2階は精神科の入院病棟,3階は内科などでの不穏の問題や,精神疾患がある患者の内科疾患での入院などに対応している。昼間の開放感がある窓際に患者さんみんなが集まっており,長期療養型病院から介護老人福祉施設といった施設に似た環境で,印象的であった。急性期病院においてこのような病棟が存在するのは機能分化の意味でも相当すごいことである。病棟のnurse managerは温和な方で,いろいろとお聞きしたいこともあったが,時間の都合上あまり聞けなかったのは残念だった。また研修内容の話に戻るが,他科も含め,入院患者全員の症例検討はないとのこと。市中病院という形の施設では,忙しいためかやはり毎日の回診がベースとなるのであろう。筆者が在籍した神戸市立中央市民病院や京大病院では症例検討を行うことが普通であったが,やはり病院ごとにやることが異なる。

◆昼のカンファレンス
 昼食時にもカンファレンスを開いており,スタッフの医師による講義という形で行われていた。この日のテーマは「黄疸」。昼食を食べながら講義を伺った。他科のスタッフ同士でもかなり盛り上がっていたが,研修医には少々難しすぎるかもしれないと感じた。

◆その他
 病棟回診の後は救急外来を見学したり,またスタッフの医師や総合診療科の井村洋部長とお話しする機会があった。非常に熱心な方ばかりで個人的にもmotivationが上がった。スタッフの清田雅智先生とはプレゼンテーションについて盛り上がって話をし,氏のプレゼンテーションや診断についての熱い意気込みを伺った。また,是非ともどこかでお話を伺いたい。

 このほか,つれづれなる話ではあるが,内科の集合としては週1回内科カンファレンスとしてスタッフが教育する場があるということであった。今回の見学は昼のカンファレンスのみで,内科全体の集合を見学していないため詳細はわからない。ロッカーは各自に配給されるということであるが,机は研修医室では共有のものだけで,パソコンは数台置いてあった。後の回で報告するが,聖隷浜松病院も研修室を作る際にこの病院を参考にしたらしい。加えて,「Share」の精神で教育用PowerPointが研修医で管理されており,みんなが勉強しやすい環境が作られていた。

◆聖路加国際病院との共通点
 総合診療科がここまで発達している部分は,聖路加とは異なるが,共通点としては研修医が後輩を教えるときなどにやはりPowerPointを使って教育できる点がある。聖路加でもこれまでの先輩方が作成したコアカンファレンスなどの資料が閲覧できる環境を用意しており,これはどの病院でも重要なことであるなぁと感じた。

Point!
教育は(救急)総合診療科が中心であり,全員がローテーションをする。そのスタッフが熱い思いをもって研修医を迎える。これの繰り返しであるが,スタッフの人数が足り,気合が続く限り教育病院としての人気はかなり続くと思われる。

つづく

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