医学界新聞

2009.06.01

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


加齢黄斑変性

吉村 長久 執筆
辻川 明孝,大谷 篤史,田村 寛 執筆協力

《評 者》湯澤 美都子(駿河台日大病院教授・眼科学)

日本におけるAMD診療のために

 欧米には加齢黄斑変性(AMD)についての成書が何冊もあるが,これまでわが国にはなかった。その理由は,長い間わが国ではAMDの頻度が低く,眼科医の関心が低かったことと関連が深いと思う。しかし,近年わが国でも滲出型AMDが増加し,2002年には身体障害者手帳取得原因の4位を占めた。また滲出型AMDと診断されてきた疾患の中にはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が多く含まれており,日本人のAMDは病態も治療効果も欧米のものとは異なることが明らかになった。さらにインドシアニングリーン蛍光造影や光干渉断層計(OCT)による新知見が報告されるようになり,光線力学療法,抗血管新生薬など新しい治療法も導入され,AMDの臨床はターニングポイントを迎えた。そこでAMD,特に日本人のAMDについての成書の必要性が痛感されるようになった。

 このほどタイムリーに吉村長久教授と京都大学黄斑グループによる『加齢黄斑変性』が医学書院から出版された。

 本書の特筆すべき点は,第一に現在のAMDの最新知見のエッセンスが凝集されていることである。その中には京都大学黄斑グループの優れた研究結果もちりばめられている。たくさんの論文の結果は表にまとめられ,要点は図示され,大切なことだけが簡潔に記述され,読みやすいように工夫されている。また最新知見の意味や問題点が吉村教授の鋭い洞察力に基づいて解説されている。さらに内容を理解するために必要な事項も多くが図解してあり,非常に親切な本である。本書を一冊読めばAMDを理解するために必要な基礎的知識,検査,診断,鑑別疾患,日本人に多いPCVをめぐる諸問題や日本人のAMDの特徴,および治療の最前線について網羅的に理解できる。

 第二はカラー写真,蛍光眼底造影写真,OCT写真のいずれもが非常に鮮明であり,おのおのの写真を眺め,解説を読むだけでAMDとPCV,網膜血管腫状増殖のみならず,鑑別疾患についてもよく理解できる。図譜としても超一級品である。さらに治療の項では治療後の経過も写真で示してあるし,症例検討の項には治療法の選択とコメントも付記されており,日常臨床に有用である。

 AMDの研究者のみならず,AMDに遭遇するすべての眼科臨床医に読んでもらいたい,明日から役に立つ名著である。

A4・頁272 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00678-1


医療者のための結核の知識 第3版

四元 秀毅,山岸 文雄 著

《評 者》渡辺 彰(東北大加齢医学研教授・抗感染症薬開発研究部門)

いまだに問題の多い「結核」への対応を学ぶ良い解説書がここにある

 結核はなぜなくならないのか? それどころではない! 結核は過去の疾患ではなく,わが国にとってはいまだに大きな問題を孕む感染症である。年間2万数千人が新しく結核を発症して2000人前後が死亡しているのである。近年,結核罹患率(=新規患者の年間発生率,人口10万対)はようやく20を割ったが,これは先進国の北欧諸国や米国の5倍前後と高い。すなわち,わが国は決して結核対策の先進国ではなく,東欧圏などと同じレベルの中蔓延国なのである。疫学的背景としては,わが国の人口構成で高齢者が急増していることの影響が大きい。過去の高蔓延時,若いころに感染して発病せずにいたが病巣を抱えている潜在性結核が高齢者に多く存在し,そこから多数の発症が起こるとともに,結核免疫の脆弱な若年層がそれをもらって集団感染を起こすという構図が最近顕著になっているのである。若手医療者もまったく同様であり,診断のつかないまま一般医療施設を受診する結核菌排菌患者に遭遇する機会が増えている現在,若年看護師を中心とする職業感染としての結核集団発生も多い。結核は感染・発症するとその人にとっては一生続く一大事となるのであり,一般の医療職もここでもう一度「結核」を学んで対応策をしっかり考えたい。

 本書はそのような要望に応えるのに最良の解説書である。本書の第1版は2001年に出版された。わが国の結核が再増加に転じて1999年に結核緊急事態宣言が当時の厚生省から出され,同じころに明治時代から続いてきた伝染病予防法が抜本的改正を受けて感染症法に衣替えされた直後であり,時代の変化をとらえたタイムリーな企画であった。内容もわかりやすく,「結核の早期発見と効果的な治療および時代に対応した結核院内感染対策の構築をめざすために結核の何を学ぶのか?」という視点が確立されていて,一般臨床医のみならず看護師・保健師等のコメディカルにも好評を得た。2005年の改訂版は,この年の50年ぶりの結核予防法の改正を受け,結核感染のハイリスク集団が明確となってきた状況に対応してより効率的な結核対策を構築する目的があった。しかるに,2007年に結核予防法が感染症法に統合されたことを受け,本書はさらに改訂を加えてこのほど出版された。すなわち,感染症法の内容に沿いながら,潜在性結核の早期発見と治療の重要性,健診制度,必要な検査・治療,入退院基準等が解説されている。新たな知識としては従来のツベルクリン反応検査に代わるインターフェロンγ法の詳述,新たに複数の保険適用治療薬が承認された類縁疾患である非結核性抗酸菌症の解説,などが述べられるとともに,コラム欄ではさらに深い内容を知ることができる構成となっており,現場の医療者に薦めたい良き一冊である。

B5・頁212 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00660-6


DVD+BOOK
Beck&Beckの認知行動療法ライブセッション

古川 壽亮 日本語版監修・解説

《評 者》井上 和臣(鳴門教育大教授・認知療法学)

百聞は一見に如かず Beck&Beckに学ぶ認知行動療法

 この出版物は,認知療法の創始者Aaron T. Beck, M.D.(以下,Dr. Beck)とその娘Judith Beck, Ph.D.(以下,Judith)が登場するDVDと,DVDの面接全文(英語)とともに日本語版を監修した古川壽亮氏による解説が掲載されたBookから成る。

 DVDビデオ2枚組からDisc2を取り出し,パソコンに挿入する。『Aaron T. Beck1絶望感-初回面接』を再生する。画面の乱れが落ち着くと,Dr. Beckと女性患者が現れる。

 一挙に20年前にタイムスリップする。書斎がフィラデルフィアの認知療法センターになる。古ぼけた日本製ビデオデッキを操作しながら,聞き取りにくい音声に耳を澄ませた記憶が蘇る。フィラデルフィアに行かなければ見られなかった映像が目の前に展開する。

 歴史を感じさせるDVDの女性はうつ病で,すっかり絶望してしまっている。面接の導入部,「これが私の最後の望み」と患者が語り泣いたとき,すかさずDr. Beckが問いを発する。“What was going through your mind?(あなたの頭の中にはどんなことが浮かんでいましたか?)”,質問することを重視する認知療法の最も基本的な問いである。

 Book第2部の日本語訳には,「(7)ホットな認知を見逃さず,(8)-a自動思考を同定」と注記されている。Book第1部から(7)の部分を探すと,古川氏の詳しい解説を読むことができる。DVDで認知療法を目の当たりにする初学者にとって,このBookは貴重である。監修者の期待通り,「そうか,これが教科書にあったホットな認知か!」と納得することだろう。

 今度は『Aaron T. Beck2家族の問題-初回面接』をクリックして,Dr. Beckの肉声を聞きながら日本語字幕を追ってみる。この女性もうつ病で,学校で物を盗む息子と帰りが遅い夫のことで落ち込んでいる。音声は比較的明瞭に聞こえるが,字幕は簡潔で読みやすい(もちろん字幕部分はBookで読むこともできる)。面接の最後にDr. Beckがフィードバックを求めたとき,「蝶ネクタイの男性は好きじゃないけど」と患者は応じる。映像から蝶ネクタイの色まではわからないが,いつもの赤に違いないと評者は思いながら,ビデオの中の患者と一緒に笑ってしまった。

 Judithの登場するDisc1は短期精神療法シリーズの1巻である。カラーの映像が美しく,うつ病の女性患者とJudithが二重写しになる工夫などもあって楽しめる。面接の内容に関するJudithによる解説も役に立つ。彼女の得意とするイメージ再構成は必見である。5歳のころから教師になりたかったというJudithの述懐は初耳だが,認知療法という教育的な精神療法の中で夢は存分に生かされているように思える。

 DVDは198分間に及ぶ。百聞は一見に如かず。繰り返しBeck & Beckから学ぶことを勧めたい。

四六変・頁204 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00650-7


頭蓋顎顔面外科
術式選択とその実際

上石 弘 著

《評 者》鳥飼 勝行(横市大教授・形成外科学)

頭蓋顎顔面外科のバイブル

 本書は,日本におけるCraniofacial Surgeryのパイオニアであり,口蓋形成術の上石法で知られる著者による頭蓋顎顔面外科のテキストである。本書の構成は「先天異常」「発育異常」「外傷」「腫瘍」「美容外科」の5章から成る。本書では,医師と歯科医師のダブルライセンスを持つ著者の秘伝を含めた,頭蓋顎顔面外科の全範囲を,かゆいところに手が届く丁寧さと,著者独特の明快かつシャープな講義をもって学ぶことができる。

 著者は横浜市立大学および北里大学を通じての私の師であり,長年にわたり温かいご指導をいただいてきた。よく学会発表の結びなどで「今後さらに研究を重ねて……」とか「今後の研究が待たれるところである……」などのフレーズを耳にすることがあるが,そんなときに著者はよく「そんなことはこの場で聞きたくないよ」とおっしゃっていた。妥協を許さず,その場その場で最高の結果を出すよう全力を尽くされる著者らしいお言葉である。

 本書では,著者が妥協を許さず,出し惜しみせず,限られたスペースの中で頭蓋顎顔面外科の全範囲にわたり講義してくれている。初学者が知っておくべき基本から,口伝として今までなかなか活字にならなかった手術のコツまで本書で学ぶことができる。例えば本書のコラムにある,「形成外科にはレーゲル(決まり)がない-頭蓋顎顔面外科ではアイデアが重要」や,「仕事は段取り八分,見て覚えるもの」「松竹梅-術式は3つの選択肢から選べ」などは,この部分を読んでいるだけでも面白い。私にとっては著者の教えが凝縮しよみがえってくるが,読者の方々にとっても,本書を通読した後にもう一度コラムを読んでみるとさらに味わい深くなるのではないかと思う。

 本書はまさに,これから頭蓋顎顔面外科を学ぼうとする者,また既に実践している専門医らにとって必携のバイブルといえる。

A4・頁208 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00602-6


わかる! 画像診断の要点シリーズ1
わかる! 脳画像診断の要点
Direct Diagnosis in Radiology: Brain Imaging

百島 祐貴 訳

《評 者》細矢 貴亮(山形大教授・画像医学)

脳の画像診断に関する重要事項が凝縮された1冊

 今,原著『Direct Diagnosis in Radiology:Brain Imaging』と日本語版『わかる! 脳画像診断の要点』を眺めている。日本語版は,サイズが一回り大きくなりページ数も若干増えている。中を開くと,画像が大きく見やすくなり,記載が大変わかりやすくなっている。最初は,日本語のためかとも思ったが,そうではない。レイアウトが極めて洗練されているのである。当然のことだが,内容を点検しても違いはない。視覚的に格段に見やすくなっているのである。一度手にとって確かめられるとよい。

 本書は,メディカル・サイエンス・インターナショナルの「わかる! 画像診断の要点シリーズ」の先陣をきって発刊された。訳者序文に詳しく記載されている通り,極めて明快なコンセプトのもとに編纂されている。講義内容を簡潔にまとめたような形式で,徹底的に箇条書きにこだわり,内容を重要な疾患と項目に絞っている。理想のノートと言ってよい。本書が世に出てしまうと,自分でノートを作成する人がいなくなってしまうのではないか? 私が抱いた唯一の懸念である。

 疾患の記載法は,見事に統一されている。すべての疾患が,「概要」「画像所見」「臨床事項」「鑑別診断」「診断のポイントとピットフォール」の順に整然と記載されており,すがすがしい。

 この中で,「画像所見」の最初の項「選択すべき検査」と,「臨床事項」にある「臨床医に何を伝えるか?」に注目したい。「選択すべき検査」は,成書でも得てして省かれがちである。ある程度の経験者にとってはわかりきったことだからかもしれない。初学者,特に臨床経験の浅い臨床医にとっては極めて重要な事項であり,卓見と思う。「臨床医に何を伝えるか?」は,“What does the clinician want to know?”の訳である。主語が微妙に異なるが,どちらも画像診断医が何を読影すべきかを明示している。言い換えると,画像で何がわかるのかを臨床医に示しているとも言える。日常診療において,画像診断医と臨床医の双方が常に留意すべき点であろう。特筆すべき本書の特徴と思う。

 本書には,典型的かつ鮮明な画像とともに脳の画像診断に関する重要事項が凝縮されている。わからない画像に出合ったときに似たような画像を探せば,疾患の特徴や鑑別すべき疾患をたちどころに知ることができる。疾患がわかっていれば,辞典代わりに疾患の概要や画像の特徴を簡単に確認できる。初学者には初学者の,専門家には専門家の活用法がある。蔵書というよりは,常に手元に置いて活用することをお勧めしたい著書である。

B5変型・頁336 定価5,880円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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