医学界新聞

2009.06.01

音楽とウェルネスの美味しい関係


演奏するPhilomusicotherapeuticaのメンバー(左より金森氏,飯塚氏,岩田氏,市江氏)
 4月25日,タワーホール船堀(東京都)での第48回日本生体医工学会大会(会長=東京電機大・福井康裕氏)において,オーガナイズドセッション「音楽とウェルネスの美味しい関係」(オーガナイザー=東北大・市江雅芳氏)が行われた。

 音楽を聴くこと,あるいは自ら演奏することで,心身の機能回復や症状の改善をはかる音楽療法は,今,医療現場で注目を集めている。今回のセッションでは,「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」ほか3曲の演奏を交えつつ,さまざまな見地から音楽が心身に及ぼす効果についてわかりやすく分析,解説がなされた。

 演奏・口演を行ったのは,2008年に結成した弦楽四重奏団,Philomusicotherapeutica(フィロムジコ・セラポイティカ=“音楽医療を愛する”)のメンバー4氏。全員が医療に従事しており,医療への音楽の役割を高めるために活動している。

 産科医である金森圭司氏(恵愛病院)は,ヴァイオリニストとしてNHK交響楽団などで活動後,医学部を受験し医師となった自身の経歴を紹介。医師も演奏家も,患者あるいは聴衆に喜んでもらうことが最終目標であることに共通点があると話した。

 プロの演奏家で,音楽療法士である飯塚三枝子氏(国立病院機構京都医療センター)は,脳卒中の機能回復リハビリテーションの一環として音楽療法を導入している。氏は,失語症患者に対して言葉の母音を強調し,歌唱のように発声させることで発語を引き出すメロディック・イントネーション・セラピーや,記憶障害の患者に10曲以上をスライドを入れ替えるように次々と歌唱させて,記憶力の回復を図るフラッシュソング・セラピーなど多彩な音楽療法を紹介。また緩和ケアの領域で,合唱や演奏で室内を音の波動で満たし,患者の痛みを和らげる音空間ハウスも構想中とのこと。

 これらに共通する目的は,患者の文化や芸術(音楽)への欲求を刺激することで,人間性・社会性を回復し,生きる希望を取り戻すことだという。

 今回ヴィオラを演奏し,音楽医療研究会の会長としても活躍する岩田誠氏(東女医大)は,脳による音楽の認知が,ほかの芸術活動の認知とどのように異なるかを解説。大脳半球の外側を知性脳,内側を情動脳と大まかに分けると,言語の認知・意味理解は知の領域でなされ,音楽は情の領域で認知される。喜怒哀楽そのものをつかさどる回路は,情動脳の領域内で,側頭葉の前部から前頭葉の下部をつなぐ「Yakovlevの回路」と呼ばれる部分であり,芸術に触れたときには,その情報がこの回路に伝わり情動反応が起こる。ただ,その際知性脳における意味理解を伴わず,直接情動脳に働きかけられるのは,芸術の中では音楽だけであり,ゆえに氏は,音楽は情に直結するアートであると結論づけた。

 オーガナイザーである市江氏は,イングリッシュホルン,チェロの実演を交えながら,楽器演奏の脳や身体への効能について語った。リコーダーなどの管楽器は呼吸機能の促進に役立つ。また弦楽器の音程を定め,音量を調節する作業には,運動野から記憶野まで脳全体がかかわる。氏は,楽しんで演奏することが,いつのまにか心身の健康(ウェルネス)につながることが理想だと語った。

 この後,指定発言として林豊彦氏(新潟大)による,リコーダー演奏とその構造・歴史についての解説もあり,弦・管さまざまな楽器の美しい音色に会場が包まれるセッションとなった。

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