医学界新聞

2009.04.27

東京都の救急医療を救うには

「東京都の医療崩壊を防ぐには」シンポジウム開催


 シンポジウム「東京都の医療崩壊を防ぐには」が3月26日,東大鉄門記念講堂(東京都文京区)にて開催された。

 都は昨年11月に,(1)救急患者の迅速な受け入れの実現を目的とした地域救命センター(仮)の設置や一時受け入れ・転送システムの導入,適切な病院選定を行うコーディネーター等の配置,(2)搬送時や院内におけるトリアージの推進,(3)救急医療の適切な利用に向けた都民への情報提供や相談事業の充実,からなる「救急医療の東京ルール」を発表した。

 さらに,今年3月には母体救命対応総合周産期母子医療センターの運用を開始。指定を受けた昭和大病院,日赤医療センター,日大板橋病院では,産科,新生児科の病床の確保,両診療科医師の24時間体制に加え,麻酔科,脳外科などのオンコール体制等を確保し,重症産婦の受け入れに対応するという。本シンポジウムでは,医療者,患者,行政という三者が一堂に会し,今後のさらなる打開策が議論された。

 まず,矢作直樹氏(東大病院)が同院の救急医療について,一般患者の流れを円滑化し救急患者の受け入れが可能となるよう,入退院管理センター医師の設置や各科診療実績の評価,地域医療連携の推進,院内危機管理体制の整備などを行い,地域医療に貢献すべく日々改善していると述べた。

 猪瀬直樹氏(東京都副知事)が率いる東京都周産期医療体制整備プロジェクトチームは,2月10日に東京都周産期医療協議会に対して診療可否情報と患者情報連絡票の簡素化,3月17日には国に対してNICUの診療報酬の大幅な引き上げと,国庫補助制度の充実を提案したという。氏は後者について,NICU1床あたりの運営にかかる年間所要額を4174万円と試算。医業収入と補助金を財源とすると約750万円の赤字額が発生するとし,診療報酬と補助制度の充実を訴えた。

 濱邊祐一氏(都立墨東病院)は,現在患者の重症度・緊急度の病院前診断が患者家族や救急隊に委ねられていることがオーバートリアージにつながっており,それが医療者の過負荷となっていると指摘。また,CCUネットワークや脳卒中ネットワークなど,システムが複雑化するほど医療機関間での押し付け合いが起きると述べた。これらの改善策として,救急部門のER化を提言し,行政のさらなるリーダーシップを求めた。

 中井章人氏(日医大多摩永山病院)は,周産期の救急医療における短期的な対策として,周産期ネットワークのブロックの見直しや周産期施設の拡充,二次救急を担う総合周産期施設の負担軽減のためのコントロールセンターの創設やコーディネーターの配備を求めた。スーパー総合周産期施設の認定については,母体救命救急において想定される年間患者数をほぼカバーできるとし,一定の評価を示した。

 医療ジャーナリストの伊藤隼也氏は,世論調査等の結果を挙げ,患者は救急医療に対して非常に不安を抱いていると指摘。現在専門分野別,医療機関別に分断され,報われているとは言い難い医療者個々の熱意をシームレスにつなげる体制整備の重要性を説いた。

 続いて東京都救急医療対策協議会のひとりとして「救急医療の東京ルール」をまとめた石原哲氏(白鬚橋病院)が「すぐに対応できない選定困難事例約2万7000件をいかにスムーズに搬送するか」という東京ルールの原則を説明。さらに,患者は医療の質,フリーアクセス,ロープライスを求めるが,この3つは共存し得ないと語り,都民への啓蒙の必要性を訴えた。

 猪口正孝氏(平成立石病院)は,二次医療機関の勤務医が過酷な勤務体制により疲弊していると述べ,さらに患者が専門性を強く求めることからどんな患者でも受け入れるという意識にはなりにくいと指摘。東京ルールによる地域救急センターの設置について,これらの表面的な対策により,センター自体が疲弊し,制度疲労につながることへの危惧を示した。

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