医学界新聞

2009.04.20

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


アディクション看護

宮本 眞巳,安田 美弥子 編

《評 者》多崎 恵子(金沢大助教・臨床実践看護学)

「生活の再建」をめざす看護ケアの手引き

 「アディクション」とは「生活を破綻に追いやる好ましくない習慣」を意味する。「意思の障害」としてとらえられているという。

 アディクションは一般にはあまりなじみのない用語であり,その言葉がかもし出すイメージから何となく近づきがたい印象を持つかもしれない。しかし,アディクション看護の考え方にはわれわれ看護者が共通に認識していくべき視点がちりばめられており,そのことを本書によって学ぶことができる。

生活習慣病までもがアディクション!
 本書では,アルコール依存症,薬物依存症,人格障害,暴力,虐待,共依存など,一般になじみの現象がアディクションの視点でひもとかれていく。生活習慣病までもがアディクションとして本書で取り上げられているのには正直驚いた。

 しかし読み進めていくうちに,アディクションが意思の病であり,健康教育が必要であることがわかるとなるほどと思える。糖尿病のような生活習慣病のケアにもアディクション看護の考え方は活用でき,あらためてアディクション看護の幅の広さに気づく。

糖尿病ケアとプロセスは同じ
 例えば,アルコール依存症では,苦しい離脱症状を改善させるための身体的治療がまず優先される。その後,からだが落ち着いてから断酒教育が個々に応じて展開されていく。その基本は,病気の正しい理解と回復していく技術や方法を身につける行動療法である。

 その際に,患者にとって今何が課題なのかについて,適当と思える時期にナースから意図的に伝えることが重要である。患者は自分の中でどのような欲求がぶつかり合っていて,本当のところ自分はどうなりたいのかについての自覚を深めつつ,日々の行動を自ら選択する訓練をしていかなければならない。自分の欲求の点検を通じて,自分の生命や健康を守りたい気持ちを実感することができ,行動制限や自己管理行動への抵抗感を自覚できれば前向きの気持ちがわいてくるという。

 これらのプロセスは糖尿病などにおけるケアの展開と共通性がある。また,チームを中心とした援助が不可欠なところも糖尿病ケアとの共通点である。

アディクション看護の原則は慢性疾患看護の基本
 アディクション看護の原則は,以下の4つである。
(1)患者に必要な情報について必要な時期に対話を通して一緒に考える健康教育
(2)患者の認識や希望について本音で語り合い築き上げる援助関係,そして援助契約と役割分担の確認
(3)患者の適切な意思決定とそれに基づく行動ができるような支援システムづくり
(4)患者の確かな内省に基づいて病気と生活習慣や意思との関連の理解を深めるとともに,必要な行動を継続できるような自立支援である。

 これらは看護の原則ともいえ,特に慢性疾患看護の基本となる考え方である。

患者との関係に行き詰まったナースに
 本書では,第1章で説明されているこれらアディクション看護の原則を踏まえ,第2章ではどのように看護に生かしていくのかが具体的に説明されており,読み進めやすい構成となっている。「アルコール依存症と看護」,「薬物依存症と看護」,「人格障害とアディクション」,「暴力とアディクション」,「生活習慣病とアディクション」,「家族とアディクション」,「セルフグループの不思議」の7テーマについて理解が深まっていく。

 第3章では,一般病棟にて日常的に出合う可能性があるアディクション問題について診療科ごとに事例が示され,臨床現場のナースにとってはアディクション看護がより身近に感じられると思われる。

 アディクションの視点を意識することによって,ナースが陥りやすい患者の感情への巻き込まれに気づいたり,ナース自身の生き方や傾向に気づきを得ることもできそうだ。患者との関係のとり方や患者教育の仕方に行き詰まっているナースには,ぜひ一読をお勧めしたい。本書は臨床看護師や看護教育者にとって非常に興味深く有益な一冊である。

B5・頁292 定価2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00631-6


中途採用看護師をいかす! 伸ばす! 育てる!

渋谷 美香,北浦 暁子 著

《評 者》勝原 裕美子(聖隷浜松病院副院長・総看護部長)

中途採用者へのかかわりを見直す

 看護の仕事を続けたいと思っていても,諸事情でそれがかなわぬ人たちがいる。看護の仕事に戻りたいと思っていても,二の足を踏む人たちがいる。

 そういう人たちが,看護の仕事に復帰できるように現場では諸策がとられている。しかし,正面切って議論されることは少なかった。「中途」採用者に対してのかかわりそのものが,これまで中途半端だったのだと思う。

 その中途半端さに目を向け,看護管理者の姿勢を正そうとするのが,本書のスタンスである。看護管理者や現場の教育担当者の立場からすれば,新人を育てるのは大変であり,現場になじみ業務になじむための教育システムを作り上げなければと思うわけだが,中途採用者教育に関しては同様の時間やエネルギーはかけられない。中途採用者に対して大切にすべき育成の視点は何なのか。それがわからないから,放っておいても大丈夫でしょうという論理を通そうとしてきた管理者も多かったはずだ。あるいは,中途採用者への気配りや教育を重視してこなかった管理者もいるかもしれない。

 しかし,採用するからには育てる責任がある。本書では,何に目を向けるべきなのかが,非常に丁寧にわかりやすく記されている。平易な文章ではあるが,理論的なフレーバーも随所に散りばめられており,事例も豊富なので説得力があって読みやすい。読み進めていると,これまでできていたつもりのことが,実はできていなかったのだと気づかされることもあり,その通りだとうなずくこともある。

 大学や日本看護協会での教育経験のある二人の著者が,中途採用者応援団として本書を記したのは,現場での空回りを放っておけなかったからであろう。中途採用者は根付かないのではなく,根付かせようとしていなかったのではないか。そんな視点で本書を読めば,これまで以上に,中途採用者に対して新鮮なかかわりができそうな気がしてくる。

B5・頁108 定価2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00742-9

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