医学界新聞

2008.12.22

パスによる,医療の包括的改革

第9回日本クリニカルパス学会開催


 第9回日本クリニカルパス学会が11月21-22日,原澤茂会長(済生会川口総合病院)のもと,大宮ソニックシティ(埼玉県さいたま市)にて開催された。クリニカルパスは,今や多くの疾患において考案され,また,診療報酬改定が追い風となり,病院経営においても重要な存在になっている。本学会でも,「包括医療への対応――クリニカルパスの真価を問う」というメインテーマが示すように,医療・医学の多様な場面についての白熱した議論が行われた。


 会長講演「DPCと病院経営――当院の経営戦略について」で原澤氏は,患者が真に満足できるサービスを提供するための,病院職員の勤務環境の改善を含めた病院経営の改革法が披露された。

 勤務環境の管理では,看護師の超過勤務の削減,紹介外来制導入による外来診察件数の調整などを実施。さらに,130の症例にクリニカルパスを導入し,DPCへの対応を図るとともに,MRI検査の時間枠を早朝や休日・夜間において拡大するなどして診療の効率を改善し,2008年にISO9001の取得を実現した。病院の運営・サービスの維持・向上に関しては,顧客・内部プロセス・財務・学習成長(人材)の視点から自己評価を行うバランスト・スコアカード(BSC)を活用することでISOの認定維持をめざすSQC(Saiseikai Quality Management)を紹介した。

連携パスで挑むがん診療

 シンポジウム「がん診療と地域連携」(オーガナイザー=北美原クリニック・岡田晋吾氏,四国がんセンター・河村進氏)では,4人のシンポジストが自院のがん診療とパスの活用状況について述べた。

 鳥羽博明氏(徳島大病院)らは,術後経過観察や緊急時の早急な対応を目的とした,肺がんにおける病診連携パスを実施。この結果病診連携が向上したと紹介した。一方,他科による治療が必要だと判断された場合には,その影響を考慮したパスが必要であると課題を語った。

 里井壯平氏(関西医大附属枚方病院)らは,消化器がんの治療連携について地域の病院と協議し,化学療法を地域医療が担う形のパスを作成。連携先に依頼する業務が拡大し,より効率的な診療が可能になったと報告した。

 同じ疾患でも,医師によって治療法が異なる場合があり,治療方法の標準化は難しい課題である。これに対し,山田実千代氏(広島記念病院)は,化学療法の手法などに応じて数種類のパスを作り,各病院と連携し,看護師が連携先を定期的に訪問して,「顔の見える連携」を図っていると述べた。

 パスの運用に医師会が協力し,抗がん剤の使用状況ごとの連携を行う取り組みもなされている。長島敦氏(済生会横浜市東部病院)らは,胃・大腸がんに対するパス原案を作成し,医師会との話し合いを経て,連携の方法について一人ひとりの医師にアンケート調査をすることで,連携につなげている。現在46施設との連携が実現しているとし,医師会との協力の効果を強調した。

 がん患者の在宅医療のための地域連携も進んでいる。白髭豊氏(白髭内科医院)は,2008年から行われている,在宅医療連携のシステム作りについて報告。在宅医療を支援する「長崎在宅Dr.ネット」には,現在138人の医師などが参加。そこでは,ネットに参加する医師の参加形態を3種備え,24時間・365日対応しているという。

パスを契機とした職域拡大

 一方,クリニカルパスの作成を各医療職者の仕事の再定義の機会としてとらえ,今までの各職種の役割を越えた業務に挑戦していこうという動きがある。ワークショップ「医療従事者の業務分担と職域拡大」(オーガナイザー=新潟大医歯学総合病院・佐藤博氏,名大・立川幸治氏)では,6人の医療職者が今後の職種連携のあり方を示した。

 医師の飯島正平氏(箕面市立病院)は,電子カルテ導入を機会に,以前は医師がカルテの大半を記入していた点を改め,各職種が可能な範囲で電子カルテ入力を分担し,医師の負担軽減・業務の効率化を図る試みを紹介した。

 退院調整看護師である岩瀬嘉壽子氏(大阪南医療センター)は,患者が安心でき,シームレスなケアを受けることができるよう,患者やその家族と医療職者が退院までの目標やイメージの共有,退院支援へ向けた各職種の連携の舵取りをしていると述べた。

 がん看護専門看護師である梅田恵氏(オフィス梅田)は,各種専門看護師の業務内容に関するコンサルテーションの経験から,がん看護専門看護師の業務拡大の一つとして,事前指示に基づく薬剤使用の判断などの症状マネジメントを挙げた。

 北村臣氏(関西医大附属枚方病院)は,医療情報技士や自らもその1人である診療情報管理士の,診療録など医療データを有効活用できる能力を活かし,パスの新規作成や修正などにおいて医師や看護師の業務の一部を担う業務モデルを提示した。

 助産師としての臨床経験を持つ新野由子氏(医療経済研究機構)は,自然の摂理としての正常分娩,スムーズな育児支援などをめざして,助産師と産婦人科医が協働していくことを課題として挙げ,養成機関での共通科目の履修などを方策とした。

 薬剤師の宮本篤氏(札幌医大病院)は,従来の薬剤師の業務を遵守・遂行した上で,バイタルサインチェックや遺伝子多型解析などの新業務を行ったり,医薬品安全管理責任者として医薬品を中心とした医療の安全管理に従事する意欲を示した。

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