医学界新聞

2008.12.15

第10回日本救急看護学会開催


 第10回日本救急看護学会が11月7-8日の2日間,明石惠子会長(名市大)のもと,名古屋国際会議場(名古屋市)にて開催された。現在救急医療においては,地域間格差や施設間格差など,生命を守る最前線だからこそ,喫緊に解決すべき課題が山積している。学会発足から10年目を迎える今回は,これらの課題に真正面から向き合うべく,「救急看護は今――救急医療の『差』のあるなかで私たちにできること・私たちがすべきこと」をテーマに掲げ,医療者の立場で何ができるのか,活発な議論が交わされた。


 近年救急医療を混乱させている原因のひとつに,時間外や夜間の救急外来に多数の軽症患者が押し寄せる“救急外来のコンビニ化”がある。幅広い年齢層,軽症患者と重症患者が多数混在するなか,治療の優先順位を判断することを目的に,専門的知識を有した看護師によるトリアージを導入する施設が注目を集めている。

 交流集会「小児救急とトリアージ」(座長=武蔵野赤十字病院・西塔依久美氏)では,小児を対象としたトリアージを導入している施設における取り組みや現状の課題が語られた。そのなかで,中筋真紀氏(松江赤十字病院)は,特に総合病院では,小児看護の経験が少ない看護師が救急外来において小児救急患者のトリアージを担うことへの苦手意識や強いストレスを感じている実態を明らかにした。

 塩路清美氏(和歌山県立医大病院)は,看護師の経験や能力の差異による患者対応の違いや,時に感情的になっている保護者の存在が現場を複雑にしていると指摘した。林幸子氏(国立成育医療センター)も,核家族化や家庭における育児能力の低下により,保護者が救急外来を「相談できる場」として受診する傾向があると言及。その上で,患者・家族の心情を受け止めながら,トリアージの過程で聴き取った情報から,看護師として介入が必要な問題を見極めることが重要だと述べた。

 細井千晴氏(埼玉県立小児医療センター)は,トリアージの目的は確定診断ではなく,「今すぐ処置・治療が必要か否か」の判断であると強調。小児救急患者評価の3要素「外観」「呼吸状態」「皮膚への循環」に基づき,全身状態を系統立てて迅速に評価する必要性を述べ,その目安を30秒とした。

 本交流集会では,トリアージにおける小児をアセスメントする能力の向上,患者対応能力の底上げという課題が浮き彫りとなったが,日本救急看護学会では,日本救急医学会,日本臨床救急医学会と合同で「トリアージナース育成検討特別委員会」を設置し,トリアージガイドラインの作成や,トリアージナースの教育システムの構築を検討している。今後,e-learningによる教育を行う予定だという。

格差是正のために明日からできること

 シンポジウム「救急医療・救急看護における格差是正に向けた提言」(座長=名大病院・山口弘子氏,山口大大学院・山勢博彰氏)では,医師,看護師,行政の立場から現状の課題が語られ,それらを克服するための2つの提言がなされた。

 ひとつは,医療政策に対する提言。「社会が救急現場に求めているのはアクセスの良さ」という岩田充永氏(名古屋掖済会病院)の発言を受け,患者受け入れ要請のホットラインを,病院全体を見る能力に長けている看護師が受けることが提案された。これについて染谷泰子氏(取手協同病院)は,病院内での責任の所在を明らかにすべきと主張。同院では受け入れを断る際は医師に相談するとともに,なぜ断ったのかを「拒否ノート」に記載し,委員会で検討しているという。小笠原恵子氏(高知医療センター)は,医師が個人の裁量で患者受け入れの可否を決めることの危うさを指摘。看護師が担うことで救急隊からの情報を多職種できちんと共有でき,断った場合にも状況分析が可能であると述べた。

 もうひとつは,医療職に対する提言として,看護師のメディカルコントロールへの参加が提案された。これについては,医師,看護師,救急隊員が連携することで職種間格差が埋められるのではないかと期待が寄せられる一方,「日々の臨床業務で精一杯」など,難色を示す意見も出された。

 また,室﨑益輝氏(関西学院大)は地域格差をなくすためには,顔の見える関係をどうやってつくっていくのかが重要と述べ,地域全体で対応するために,病院間で空床状況等の情報を共有するなど,連携システムの整備を訴えた。

 最後に座長の山勢氏が,社会のニーズに応えるためにはプレホスピタルケアとインホスピタルケアのシームレスな連携が必要だと述べ,患者-医療者間,専門診療科間,職種間等における調整役は,今後育成されるトリアージナースが担うことができるのではないかと抱負を語り,シンポジウムを終えた。

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