医学界新聞

2008.09.01



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


免疫学の巨人イェルネ

宮坂 昌之 監修
長野 敬,太田 英彦 訳

《評 者》山鳥 重(神戸学院大教授・人間心理学)

さまざまなことを考えさせてくれる巨人イェルネの伝記

 本書の主人公ニールス・イェルネ(Neils Jerne;1911-1994)は1984年,「免疫系の発達と制御の特異性に関する理論とモノクローナル抗体の生成原理の発見」に対してノーベル医学・生理学賞を与えられた免疫学者である。著者トーマス・セデルキスト(Thomas Soderqvist)は受賞直後の公開講演を聞いて,彼に興味を持ち,生前の本人との頻回のインタビュー,記録魔の本人が残した膨大な資料,学術誌への発表論文,研究仲間・知人・家人から聞き出したエピソードなど,膨大な資料に基づき,10年の歳月を費やして本書を完成している。評者はまったくの門外漢で,彼の業績について何の評価もできないが,本書に序文を寄せているわが国の免疫学の泰斗,多田富雄氏によると,彼は「近代免疫学の最後の傑出した理論家,預言者,伝道者」で,免疫学の「帝王」と呼ばれた人である。まさに知的巨人なのである。

 著者は伝記の草稿を時々,当のイェルネに読んでもらって意見を聞いていたらしいが,本人自身が面白がって読むばかりで,何か注文をつけるというようなことはほとんどなかったという。たった1つの反対は,伝記の題名に提案された「逃れようとする何たる抗い」に対してだったらしいが,本人の死後,デンマーク語で出版された原著は,結局この題が採用されている。この「逃れようとする何たる抗い」が,デイビッド・メル・ポール(David Mel Paul)によって「自伝としての科学:ニールス・イェルネのトラブル人生」という題名で圧縮・英訳された。本書はその翻訳である。

 デンマーク語版題名や英語版題名が示唆するように,イェルネは行動の振幅が大きく,相当に型破りな人間だったらしい。常識的な学者の範畴を大きくはみ出した彼の生き様に科学的創造力の源を見ようとする試みが本書である。

 両親はデンマーク人で,ロンドンで生まれた。5人きょうだいの4番目である。幼少期の一時期をデンマークの曽祖父母に預けられて過ごし,ついでオランダに移り,ここで大学(ライデン大学数学・物理学科)を卒業した。その3年後,23歳のときに今度はデンマークに移動して,コペンハーゲン大学医学部に入った。しかし臨床研修を終えてようやく医師資格を獲得したときにはすでに36歳になっていた。この間,会社に勤め,研究所に勤め,恋をし,結婚し,子供をもうけ,浮気をしている。

 32歳のときに,デンマーク国立血清研究所標準化部門の秘書に採用されたのが,その後の彼の研究人生を決定した。秘書ながら研究活動に参加し,翌年には最初の論文を発表している。37歳で血清研究所の研究助手となり,本格的な研究生活に入る。40歳で“Nature”に論文を発表し,一躍注目を浴びる。この年,標準化部門の研究室長になった。45歳で研究現場を離れ,ジュネーブの世界保健機構(WHO)生物資料標準化部門医務官という行政職に転ずる。51歳で米国ピッツバーグ大学微生物学教室主任教授となる。しかし,米国は彼の好みでなく,わずか4年でフランクフルトのウォルフガング・ゲーテ大学教授とエールリヒ研究所所長としてヨーロッパへ戻る。

 57歳のとき,スイス,バーゼルに設立予定のホフマン・ラロッシュ免疫学研究所の開設準備責任者に招かれる。彼はこの仕事に情熱を傾け,2年後の開所時から所長として10年をバーゼルで過ごす。蛇足ながら,わが利根川進氏がノーベル賞受賞研究を行ったのがこの研究所で,この時期のことである。69歳で所長を退き,パリのパスツール研究所顧問となるが,わずか1年で辞め,南フランスの広壮な邸宅に隠棲し,ここで没した。83歳であった。

 彼は実験を嫌い,思索を好み,少ない実験から得られたデータを前に徹底的に考えたという。熟考するため,論文の発表はいつも遅れに遅れた。部下が早く完成してくれと懇願することがしばしばであった。学問的視野は広く,彼の最大の業績とされる「免疫のネットワーク理論」にはウィーナーのサイバネティクス理論や,チョムスキーの言語学理論が組み込まれているそうである。生物学の統一理論を構想していたという。彼のネットワーク理論はバーゼル研究所の研究体制に生かされているという著者の見方は面白い。さらにこの理論誕生のきっかけはデータそのものより,むしろ彼の個人生活にあるという指摘も面白い。個人や特異な性格に惹かれる傾向,個体間の確率的な衝突として人と人の出会いを見る傾向がそれだという。

 彼は読書家で,それも哲学を好み,キェルケゴール,ニーチェ,ベルグソンに親しんだ。小説ではプルーストを愛した。この知的な精神は,生涯「優越者の微笑を持って相手を眺めることに満足した」という。

 私生活は,彼がそれを不幸と感じたかどうかは知らず,客観的にはかなり荒れたものである。最初の妻は自殺に追い込まれているし,2番目の妻は,夫と子どもを捨ててまで彼のもとに奔ったのに,ついに彼の精神生活に場を占めることはなく,離婚している。彼の死を看取ったのは,2番目の妻と離婚後,わずか3か月で結婚した3番目の妻であった。しかも,この3回目の結婚生活の時期にも,彼は別の女性と親密な関係を始め,第3子をもうけている。最初の妻との間の2人の息子のうち,1人が本伝記の作成に協力しているが,父親に対する眼は決して温かいものではない。

 彼を熱狂的に尊敬する人も多かったが,嫌う人もまた多かったらしい。著者自身はどうも後者に属し,本書全体に嫌な奴イェルネというトーンが響いているように思うのは評者の読み過ぎか。彼が人を愛するということを知っていたのかどうか,著者は疑っている。彼は常に何かから逃れよう逃れようとしていたのではないかというのがセデルキストの解釈である。

 本書は精読を要求するが,それに値する内容を持っている。生きるとはどういうことか,愛するとはどういうことか,研究するとはどういうことか,学問するとはどういうことか,さまざまなことを考えさせてくれる。ぜひとも,多田富雄氏の名著『免疫の意味論』(青土社)との併読をお勧めしたい。

(おことわり:出来事と時間との関係を分かりやすくするため,西暦年でなく年齢を用いて彼の経歴をなぞったが,生年を基準に引き算しただけなので正確ではない。)

A5・頁488 定価4,830円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-250-00238-7


図解 骨折治療の進め方 第3版

小野 啓郎 監訳
山本 利美雄,宮内 晃 訳

《評 者》角南 義文(竜操整形外科病院院長)

頭と“こころ”に効く骨折治療の座右の書

 骨折の治療では,骨折の発生したメカニズム,目に見えない合併損傷,その肢を再建するのにいかに生体力学的知識を応用するかなど,いわば自分の頭と“こころ”で治療方針を決める機会の多い奥深いものである。

 そのためには,解剖学,生理学,生体力学を学んでおき,症例検討会で平素から各骨折の整復・固定,機能訓練(保存的にしろ,手術的治療にしろ)のイメージトレーニングを心がけておかねばならない。

 本書には新しく著者,訳者が加わり,内容は約100頁増量しており,X線像が一部明瞭なものに取り換えられ,CT像も入った。図版には網かけをして一段と見やすくなっている。前半には骨折と骨折治療の基本的事項,後半は各論の中にAO分類が適宜挿入されている。

 日本でも増えている老人大腿骨頚部骨折では,基本的なDHS固定の詳細とは別にMultipleピンニング法,人工骨頭,THA,この版ではバイポーラ人工骨頭,ガンマネイル法も紹介されている。

 上腕骨近位部骨折ではNeer分類も紹介されているので,大腿骨転子間骨折の安定型,不安定型と,実際の治療に役立つEvans分類もAO分類以外にも挿入してもらいたかった。

 本書はもともと医学生を対象にしたものとのことであるが,「骨折治療の基本手技を実際の手順通りに絵入りで解説」「保存的治療を基本に-とりわけ子供の骨折を重視」「成人の長管骨骨折では保存的治療と観血的治療の両者に目配りを」(監訳者の序)が理解しやすく解説してあり,医学生どころか整形外科医,特に初心者に大いに役立つものである。

 私どもが初心者であった頃は,De PALMA“The Management of FRACTURES and DISLOCATIONS”が急患時に慌てて見入った書であった。本書はこれに類しているようであるが,総論と各論各章の絵とは別に,解説をよく読んでから図を見て考えることをお薦めしたい。急患を目の前にして,絵だけを見て治療にあたるべきでない。それは骨折治療の“こころ”ではない。

 本書を読むと,若き日にCharnley“THE CLOSED TREATMENT of COMMON FRACTURES”を読んだときの考える悦びと感動を思い出す。

 骨折治療を志すすべての医師の座右の書としてお薦めしたい。

B5・頁440 定価7,560円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00025-3


精神科身体合併症マニュアル
精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の診療と管理

野村 総一郎 監修
本田 明 編

《評 者》保坂 隆(東海大教授・精神医学)

すべての医師のために患者の心身両面を統合した評価・治療を知る

 本書には「精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の診療と管理」と副題がついているが,まさにタイトルそのままのポケットサイズの気の利いたマニュアルである。今の世代にはマニュアル的な本が好まれる,という意味ではなく,現場に求められる診断の手順や具体的な対処方法を知るには,まさにこのようなスタイルがベストなのである。

 私は90年代の初めに野村総一郎教授に初対面した。先生がまさに立川共済病院において,日本で初めてのMPU(Medical Psychiatry Unit)を開設した直後だった。ご自分でもおっしゃっていたが,MPU開設以後,「忙しい」を通り越して,体重が激減してしまったとのことであった。私は1988年に日本総合病院精神医学会の設立をお手伝いし,リエゾン精神医学を極めるべく90-92年に米国留学を終えた直後だったので,MPUには格別の関心があった。

 少し理屈っぽい話をする。精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者を,誰がどこで診ていくべきかという問いには,(1)一般病棟で身体医と一緒にリエゾン精神科医が診ていく,(2)精神科病棟で身体医の応援を受けながら精神科医が診ていく,という2つの形態がある。野村教授のMPUは後者の代表であり,日本では画期的な試みであった。当時のこの業界ではメディカル・サイカイアトリーとかMPU(Medical Psychiatry Unit)と邦訳せずに用いていたが,本書ではそれらに対してメディカル精神医学,心身統合病棟という訳語が使われている。本邦でMPUが精神科医の努力で運営されれば,精神科入院レセプトの点数は跳ね上がり,精神科の入院費は低いという理由で病棟を閉鎖することもなくなるはずであろうが,そう簡単なことではなかった。それには,精神科医に相当の身体管理能力が求められるからである。このMPUの議論のはるか後に始まった新医師臨床研修制度により,理念的には,精神科医にそのくらいのスキルは身についたのかもしれないが,やはり経済的な理由で,精神科病棟の閉鎖が続いているのは,実は国民的な損失である。

 本書によれば,米国でMPUがある期間に急増したのは,精神科側にとっての経済性だった。そのため,Managed Careが始まった90年代以降,厳しく査定されるようになったという。日本でも,仮に精神科医にある程度の身体医学的な技術が身についたとしても,医療費の増収はあるにしても,医師数の確保などの問題は残るだろう。たまたま,本書が作られた立川共済病院は,1981年に始まった東京都の「精神科患者身体合併症医療事業」に最初から参画していることも,その発展と成功の遠因になっているのかもしれない。この合併症対策の流れは依然として問題は多いが,MPUの実績に加えて,病床機能分化における合併症ユニットの提言(厚生労働科研費:保坂班)や,日本総合病院精神医学会からの要望(診療報酬問題委員会:藤原委員長)を受けて,平成20年度の診療報酬改定の中に合併症加算が新設されたことも付記しておく。

 さて本書の内容は,このようなMPUの歴史的な意義について触れた後に,例えば救命措置,中心静脈路確保などの基本的な手技に加えて,病院間の搬送の仕方など他の書籍では扱えない現場での必要事項などのほか,一般医が読んでもよい身体疾患への治療手技が「精神疾患を合併した場合の特殊性」の観点から述べられている。その意味では,合併症対策を目指している精神科医や精神科病院や総合病院精神科に役立つばかりでなく,一般医学を目指す研修医にとっても他に類を見ない参考書になるだろうし,精神障害者の身体合併症を受け入れてくれている一般病棟の医師らにとっても極めて有益な書籍である。

 一般医も患者の心の側面を診なければいけないし,精神科医も身体的な側面を診られなければいけない。つまり本書には,すべての医師は患者の心身両面を統合して評価・治療できなければいけないという野村教授の強い意志が現れているのである。

 私は著者らの多くを,いろいろな機会で知っている。彼らはすべて優秀な立川共済病院MPU同窓生であり,野村イズムの信奉者として今日も全国で合併症医療に邁進している。

B6変・頁440 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00605-7


臨床研究マスターブック

福井 次矢 編

《評 者》新保 卓郎(国立国際医療センター研究所 医療情報解析研究部部長)

臨床研究を成功に導く入門書

 本書は臨床研究の実践に必要な事項を簡明に記載している。研究の計画やデータの扱い方,解析や統計の考え方,論文の書き方,倫理的問題に至るまで紹介している。治験やランダム化比較試験のような多施設共同の大研究を,いきなり勧めるものではない。臨床現場の身近な疑問に,1人ひとりの医師やスタッフが臨床研究を通じて答えを見いだすための方法を記載している。著者は聖ルカ・ライフサイエンス研究所の臨床疫学センターを中心とした臨床医や研究者である。従来臨床疫学の一般的な話題については,優れた教科書や論説が出版されてきた。また臨床研究の進め方に関して海外からはHulleyやHaynesなどの優れた教科書もある。しかし国内からは臨床研究の実践に関する類書が少なかっただけに貴重である。本書は臨床研究の実務的なノウハウに触れている。このような問題は,実際に研究を始めてから困ることが多い点であった。

 EBMの流れの中で臨床医にとって重要なのは,いかにエビデンスを利用するかのみではない。今や,いかにエビデンスを生むことに参加するかも問われているのだろう。エビデンスを上手に利用して患者の問題解決につなげるスキルを磨くためには,エビデンス作りを自ら行うことが優れた方法である。臨床研究の実施は,臨床医のスキル向上の方法の1つであろう。臨床研修必修化の中で,医局や大学とは半歩離れた立場から若い臨床医がキャリア形成を進めている。どのようにして臨床の技能を磨き続けることができるのか,その方法が模索されている。

 臨床研究は1つの道筋であろう。臨床医個人のスキル向上につながり,ひいては病院全体の診療の質の向上につながる。また臨床研究は,臨床医のみのテーマではなく,看護師,薬剤師,技師の方にとっても診療の質を向上させる方法となりうる。

 多くの臨床医が診療を積み重ねる中で,実は豊富なデータを持っている。電子化された記録や,優れたソフトの登場は解析を容易にした。あとは問題意識と,研究のためのスキルと,多少の時間があれば解析可能である。研究のためのスキルをどのように修得するのか? 本書を臨床研究の入門書の1つとして利用していただきたい。本書は著者らの豊富な経験に基づいた記述がなされており,読みやすい。一般論のみに終わらない記載もよい。実際の研究の遂行ではいくつものバリアに遭遇する。本書等を利用し,挫折ではなく,成功体験を持っていただくよう期待している。

A5・頁320 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00609-5


こどものリハビリテーション医学 第2版

陣内 一保,安藤 徳彦 監修
伊藤 利之,三宅 捷太,小池 純子 編

《評 者》土肥 信之(兵庫医療大教授・リハビリテーション医学)

小児リハの動向と問題を凝縮した1冊

 本書のルーツは雑誌『総合リハビリテーション』の特集号(1987年)であるが,今回9年ぶりに改訂され第2版として出版された。その背景には医学・医療の進歩や,こどもを取り巻く環境の変化,また障害者自立支援法の成立など法制度の大きな変化がある。全体は,10章から成り64人の執筆者から成っている。

 第1章の序論では,こどもの障害学,療育の原点/歴史的変遷/今後の方向,障害児をめぐる情勢/法制度,地域療育システム,通園療育,就学指導,家庭・親支援,障害と虐待について解説されている。こどもを取り巻く理念や環境の変化がうまくまとめられている。

 第2章の発達の診断・評価/治療では,運動,精神,言語,ADLについて新しい発達評価も織り交ぜて分かりやすく解説されている。治療は理学療法,作業療法,言語治療,心理療法の4分野から成る。中でも作業療法はその理念や手法とともに,多くの写真も載せられている。

 第3章は運動系障害である。脳性麻痺,二分脊椎,神経筋疾患,骨関節疾患,四肢の先天奇形と切断,分娩麻痺と定番の疾患群が並ぶ。概してオーソドックスな内容であるが,各所で行われている治療動向を知るにはよい。

 第4章は精神系障害がまとめられている。まず,発達障害児の療育総論,次いで知的障害,ダウン症候群,自閉症,注意欠陥/多動性障害,てんかんの項目が並ぶ。中でも自閉症は多くの紙面が割かれており,文献も数多く掲載されている。自閉症を取り巻く問題の難しさと広がりを示すものであろう。

 第5章の感覚系障害は視覚と聴覚の2本立てであり,こどものリハビリテーションへの重要性からみて,章として独立させたことは,編者らの識見である。

 第6章は重症心身障害である。社会との接点を考える上で,呼吸や栄養,嚥下など医療的なケアとそのシステム作りの重要性の高い障害である。具体的に書かれており,参考になる。

 第7章は心疾患,気管支喘息,腎疾患,水頭症,頭部外傷,熱傷,児童虐待,次いで,第8章は口腔ケア/摂食指導である。第9章は補装具/環境整備で,装具,福祉用具,住環境がその内容である。これらの新しい分野,最近注目を浴びている分野の基本的事項から応用まで述べられ,その概略を知ることができる。

 第10章は関連知識として,神経生理学的検査,脚延長,筋電義手,先天異常,遺伝カウンセリング,小児難病,NICU,性の問題など最新のトピックスが解説されている。

 以上,この書は,幅広く現在の小児リハビリテーションに必要な項目が網羅されている。通覧すると,今おかれている小児リハビリテーションの問題と動向がよく分かる。また文献も多く記載されているので,手がかりに調べることができるなど,小児リハビリテーションにかかわる多くの医療職に,入門書であり参考書として利用価値の高い本といえる。

B5・頁488 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00342-1


プロメテウス解剖学アトラス
頸部/胸部/腹部・骨盤部

坂井 建雄,大谷 修 監訳

《評 者》小澤 一史(日医大大学院教授/生体制御形態科学)

解説書,教科書的な要素が増え臨床に直結する内容も豊富になったアトラス

 『プロメテウス解剖学アトラス』の第1巻として「解剖学総論/運動器系」が刊行されて以来,それに続く「頸部/胸部/腹部・骨盤部」の出版を,まだかまだかと大変に待ち遠しかったのは私だけではないだろう。第1巻でその図の美しさ,精密さがすでに示されていたわけであるから,続編の質が極めて高いことは想像に難くなかった。実際に,本書を手にとり,そのページを開いて,思わず「にんまり」としないわけにはいかなかった。

 「解剖学総論/運動器系」ではその名の通り,「アトラス」としての役割が高い本であると感じたが,今回の「頸部/胸部/腹部・骨盤部」ではアトラス的な要素はもちろんであるが,「解説書」「教科書」的な要素が多くなり,特に基礎科学として解剖学的な見地から内臓学を学ぶとともに,臨床医学に直結する内容が豊富に散らばっており,工夫がなされている様子がよく分かる。

 例えば間接喉頭鏡の観察像,呼吸による肺容積の変化や力学的な影響,胃粘膜の内視鏡像,種々のX線画像,臓器と神経支配の図などが「ここ!」というポイントに示され,学ぶ楽しみを引き出そうとする著者の思いがにじみ出ている。内臓系が中心ということもあり,発生学的な説明や生理学的な機能面での解説も多く見られ,充実した「アトラス」になっている。

 最終章で扱っている「各器官に分布する神経・血管・リンパ管」では,非常に簡潔に単純化した内臓と神経,血管,リンパ管との関係が示されている。 この単純化された関係図を見ながら,詳しい教科書の記述を読めば,これらの仕組みを能率よく身につけることができる。まさに「自ら学ぶ」ための道標としても利用でき,解剖学における少人数のチュートリアル的学習などにも活用できると感じた。

 さて,全体を見渡して感じたもう1つの点は,アトラスの図と解説が余裕をもって配置されており,適度な「空き」のスペースが設けられていることである。解剖学を学ぶ学生,医師,医療関係者,さまざまな学習者には,このスペースを大いに有効利用し,自分なりの学習情報を加えたりして,自分だけの,または自分流の『プロメテウス解剖学アトラス』を作成してもらいたいと思う。

 私自身,すでにこのスペースを利用して,例えば組織学的なプラスアルファ,生理学的なプラスアルファ,分子生物学的なプラスアルファ,臨床的なプラスアルファを書き込み,オリジナルなプロメテウス作りにはまりつつある。次の「頭部/神経解剖」も本当に待ち遠しい。

A4変・頁392 定価11,550円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00571-5


Dr. ウィリス ベッドサイド診断
病歴と身体診察でここまでわかる!

G. Christopher Willis 執筆
松村 理司 監訳

《評 者》宮城 征四郎(群星沖縄臨床研修センター長)

臨床医学の天才によるジェネラリスト必読の書

 このたび,医学書院から『Dr.ウイリス ベッドサイド診断』という臨床医学書が出版された。監訳は京都の洛和会音羽病院院長の松村理司先生が担当し,実際には若い医師たちがかかわって翻訳に汗を流した力作である。最後の索引欄まで合わせると実に700ページに迫る,すぐにベッドサイドで役立つ臨床本である。

 Dr. Willisは知る人ぞ知る臨床医学の天才である。評者の45年余りの医師人生の中でも,彼のような臨床の天才にめぐり合えたことは誠に幸せと思う。評者は,沖縄県立中部病院時代,内科指導医としてカナダから赴任してきた彼と30代の頃に5年間,共に過ごした経験がある。彼はそのころ,既に40代半ばであった。ボルネオのジャングルで開業した経験もあるらしい。

 実は彼は医師であるとともにキリスト教の伝道師でもある。伝道の傍ら医学を勉強したという経歴の持ち主である。世界のどこにでも出かけ,伝道の傍ら医学を教育する毎日であったという。共に過ごした5年の後,彼はロックフェラー医療団の一員としてエチオピア大学に赴任し,臨床を指導していたと聞く。

 その後,当時舞鶴市民病院で教育指導に当たっていた松村先生のたっての願いを聞き入れて,再び日本に来たわけである。松村先生とは5年ほど共に過ごしたと聞いている。そういうご縁もあって,彼の個人的な臨床指導書が松村先生一派によってこのたび翻訳の運びとなり,出版されたのが本書である。

 その原書がかつて出版されたという話を筆者は聞いたことはない。したがって,日本語になった本書こそが,日の目を見ることになったおそらく最初であろう。

 評者は,沖縄県立中部病院時代は呼吸器疾患を中心とした臨床に携わっていたので,当時,彼の指導書に触れたのは呼吸器疾患に限られていたのであるが,ここに記されている内容を見ると呼吸器,循環器,神経,消化器,内分泌,筋骨格,皮膚,血液,体液・電解質すべてに及び,記載がないのは免疫,感染症,腎臓・膠原病などごくわずかな項目のみである。

 しかし,これらの項目についての記載がないからといって,彼がこの分野について不得手であったわけではないと思う。常々彼は筆者に免疫部門だけは新しい学問なので十分にはまだ追いついていないと,口癖のように言っていたことを思い出す。そういう意味では彼は本当の今でいう「ジェネラリスト」であり,彼が記載している各項目に目を通してみると,われわれ日本で専門家と自認している医師にとって驚くべき内容が記載されているのを見出す。例えばバイタルの解釈では血圧だけの数値症例を10ほど述べているが,それだけから臨床診断が成されていて,生理学を究めていなければ,到底,われわれには思いつかない診断名が挙げられている。

 専門家各自が自分の分野の項目に目を通すだけで,彼の臨床家としての天才ぶりが分かるはずだし,また,勉強を通じて1人の医師が,その人生において,これだけ広い分野の知識と技術を習得できることのモデルとして,本書を読むことには大きな意味がある。

 ことに内科のジェネラリストを目指している若い人々には必読の書である。筆者は自信をもってここに推薦する。

B5・頁720 定価6,825円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00033-8

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