医学界新聞

2008.09.01



08年クリニカルパス教育セミナー開催


 2008年クリニカルパス教育セミナー「地域連携パスでできる! 患者中心の診療ネットワーク作り」(主催=日本クリニカルパス学会・医学書院)が,7月12日に大阪(千里ライフサイエンスセンター),同26日に東京(全電通労働会館)で開催された。

 2006年の大腿骨頚部骨折,08年の脳卒中など,地域連携パス(以下,パス)の診療報酬点数化の動きが続いている。医療者のパスに対する認識の高まりに加え,こうした診療報酬改定が追い風となり,本セミナーも両会場で満員となった。本紙では,東京会場(座長=前橋赤十字病院・池谷俊郎氏,北美原クリニック・岡田晋吾氏)のもようを報告する。


 最初に副島秀久氏(済生会熊本病院)が登壇し,パスの概説を述べた。氏は,ケアにおける連続性の確保,機能分化による効率化と質向上などの観点から医療における連携の必要性を指摘し,「自己完結医療」から「地域完結医療」への発展を目指すうえでのパスの有効性を強調した。次に,「バリアンス」について詳しく言及。入院時における患者の状態には個人差があり,一定の治療を終えた後の結果にも個人差が生じる。そのため,治療効果の評価には,設定したアウトカムからのズレの許容範囲を定め,柔軟に対応をしていく必要があるとした。熊本地域のパスでは,このゲートウェイ・バリアンスという評価法に基づき,急性期における初期評価で個別のアウトカムを設定し,治療にあたっているという。最後に,パス普及における今後の課題として,在宅医療とその支援体制,総合医や家庭医の制度的確立を挙げ,講演を締めくくった。

 次に,富山県新川地域の大腿骨頚部骨折地域連携パスについて,行政側および医療者側の取り組みが発表された。行政側からは,大江浩氏(富山県健康増進センター)が登壇。同地域では,新川圏域リハビリテーション連絡協議会を中心に,ワーキンググループの設置などを通してパスの普及を図り,2006年11月にパス運用を開始した。また,大江氏は,保健所が病院間の調整などでパスに参画していることを挙げ,パス運用に公的機関がかかわることの効果を示唆した。

 続いて,医療者側から島倉聡氏(黒部市民病院)が登壇。医師,看護師,ケアマネジャー,理学療法士らがリレー方式で記載していく同地域版連携パスを紹介。各病院・施設の役割分担の明確化により,急性期病院への在院日数が減少していることや,病院だけでなく退院後の在宅介護までを含めた体制により,維持期を在宅で過ごすことができる患者が増えていることなどを報告した。

 池田文広氏(前橋赤十字病院)は,乳がんパスについて報告。2004年3月,医師不足による急性期患者への対処の停滞などの乳がん外来における問題を受け,同病院を中心にパスを導入した。氏は,アウトカムの明確化や,乳腺外来と提携医の間における双方向の情報交換(周期的回帰型)など,同地域のパス導入への取り組みを紹介。最後に,乳がん再発の予防・早期発見へ向けた長期経過観察パスの確立を今後の課題として挙げた。

 最後に西徹氏(済生会熊本病院)が,熊本における脳卒中パスについて発表。脳卒中治療における地域連携の利点として,急性期治療に必要な医療機器とリハビリテーション機器を各施設ごとに備える必要がなく,経済面や機器の配置スペースの面での負担を分散できる点を挙げた。一方,治療の継続性の保証,命にかかわる病気を患うなかでの転院に対する患者・家族の不安への対応など,課題も指摘した。

 その後のディスカッションでは,異なる施設,職域間でのコミュニケーションの方法に関する悩みなど,パスを運用していくための実際面での問題が議論された。

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