医学界新聞

2008.04.28



脳卒中医療の現状を直視する
第33回日本脳卒中学会開催


 第33回日本脳卒中学会が3月20-22日,橋本信夫会長(前京大・国循総長)のもと国立京都国際会館(京都市)にて開催された。「Stroke2008」として脳卒中の外科学会(会長=奈良県立医大・榊寿右氏),スパズムシンポジウム(会長=岡山大・伊達勲氏)と合同開催された本会では,脳卒中の外科学会との合同シンポジウムをはじめ,他学会,他科との連携を感じさせるプログラムが組まれた。


脳卒中領域の近年の動向

 このたびの診療報酬改定に伴い,脳卒中領域にも新たな加算が設けられた。具体的には「超急性期から回復期にわたる脳卒中医療の総合的評価」として,「t-PAによる超急性期の治療」「急性期後の入院治療」「地域連携診療計画(地域連携クリティカルパス)の対象疾患への追加」「回復期リハビリテーション病棟の質に着目した評価」の4点が対象となる。

 理事長講演「日本脳卒中学会――最近の動きと将来計画」で篠原幸人氏(立川病院)は,昨年度中の学会における新しい動きと今後の課題について言及した。氏が理事長就任翌年の2004年に提示したマニフェスト20のうち大部分はすでに達成。例えば,英文誌“J Stroke CVD”のNational Library of Medicineへの採択,他学会との連携,などが実現した。また,国民啓蒙に向けて,患者・一般向け治療ガイドラインの作成も現在進行中であるという。

 今後の課題としては「脳卒中専門医の標榜獲得」「日本からのデータ発信の強化」「脳卒中教育」などを挙げ,これらの実現へ向けての意気込みを語った。加えてこれからの脳卒中治療はチーム医療がカギとなると述べ,今後のコメディカルへの教育の必要性を強調した。

 来年は島根にて開催予定の第34回日本脳卒中学会。会長の小林祥泰氏(島根大)によれば,コメディカル向けのプログラムも盛り込む予定とのこと。あゆみは着実に進みつつある。

■脳卒中医療をめぐる問題とその対策

 今回の総会テーマである「Facing Stroke-脳卒中医療の現状を直視する」をタイトルに掲げた特別シンポジウム(座長=橋本氏,小林氏)では,脳卒中医療をめぐる問題と今後の課題が議論された。

 シンポジウムに先立ち座長の橋本氏は,脳卒中医療における需要と供給の不均衡により,現場は非常に疲弊していると訴えた。最先端の脳卒中医療と実際に一般病院で行われている医療のギャップをどう埋めていくかといった地域格差の問題や,マンパワー不足,脳卒中医療のやりがいを医学生・研修医にどう伝えていくか,また行政における脳卒中医療の今後の位置づけなどの問題を挙げ,「それぞれの立場からご意見をいただき,明日からの医療の進むべき方向について指針が得られれば」と述べた。

 はじめに本会の総会事務局より,2007年に脳卒中訓練施設を対象に行われたアンケート結果が報告された(n=579)。脳卒中治療の現状については「緊急のMRIが可能か」「t-PAの施行が可能か」という問いに対し,前者は約9割,後者は約8割がYesと回答。「大病院からの回答が多いせいもあるが高い割合」とのコメントがあった。一方,t-PAを施行する体制やスタッフ数,看護師数などに関してはまだ不十分であるとの結果を示した。また,地域における脳卒中診療について,近畿地方における公立病院の院長にアンケートを実施(n=81)。「脳神経外科,神経内科の常勤医がいるか」「急性期の脳卒中を診療する科があるか」などの問いに対して,半数以上がNoと回答するなど,地域格差の問題が明らかにされた。

国民問題としての脳卒中

 2007年の第5次医療法改正により,これまでの1-3次の階層型構造から医療連携を中心とした医療体制への転換が起こり,4疾病・5事業ごとの医療連携体制の構築が求められるようになった。それにより,地域における「切れ目のない医療」の提供を実現するための地域完結型医療が推進されている。

 伊東芳郎氏(厚労省)は,「今後の脳卒中の医療体制では,医療から介護までが連携・継続して実施されることが重要」と述べ,(1)発症後,速やかな搬送と専門的な診療が可能な体制,(2)病期に応じたリハビリテーションが可能な体制,(3)在宅療養が可能な体制,の3点を目標として掲げた。

 また,来年完全運用開始となる医療機能情報提供制度に触れた。脳神経外科領域でいえば神経脳血管領域の一次診療の可否から,クリッピング治療が24時間対応可能かといった情報まで,今後各病院が提供することになる。このような情報が提供されることを住民にも周知していきたいとし,「脳卒中の医療体制が構築できれば,他の疾患に対しても将来的に応用可能では」との見解を示した。

 医師の立場から登壇した内山真一郎氏(東女医大)は,はじめに世界における脳卒中の最新疫学情報を紹介。脳卒中は全世界で年間450万件,日本で35万件発症しており,日本を含むすべての先進国で死因の3位以内を占めている。また脳卒中はすべての先進国で成人における身体障害の原因の第1位であり,認知症の原因の第2位を占め,高齢者人口の増加と生活習慣病の蔓延により,世界の全地域で増加し続けているという現状を示した。

 そのうえで,国民に対する啓発の必要性に触れ,一般市民の脳卒中の症状の理解が不十分であり,特に脳卒中の前触れであるTIA(一過性脳虚血発作)の認知度がまだ低いことを指摘。TIAに気がついて受診すれば脳梗塞を防げるという認識を広めるべきだとした。今年から国際共同研究によってTIAの大規模な登録研究が開始される予定だという。

 中山太郎氏(衆議院議員)は政治課題としての脳卒中について問題提起。全国における患者数,専門医の数,t-PAを受けられる医療機関の分布,回復期リハ病棟の分布などの比較データを示し,地域格差を指摘した。

 また,治療だけでなく予防,市民教育,介護,社会復帰など多岐にわたる対策が必要であることからも,脳卒中は国民全体としての重要健康課題であると言及。しかし,このような現状であるにもかかわらず,日本の国会では脳卒中に対する関心が低いと指摘した。中山氏は昨年発足した「脳卒中を考える議員の会」会長として脳卒中問題に取り組んでいる。今後の脳卒中対策基本法策定の必要性を強調し,降壇した。

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