医学界新聞

2008.03.03



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

医療者のための喘息とCOPDの知識

泉 孝英,中山 昌彦,西村 浩一 編

《評 者》土屋 智(土屋内科医院院長)

ガイドラインに準じた治療・管理をするために

 『医療者のための喘息とCOPDの知識』という新刊本は,近年増加している喘息とCOPDといった慢性の気道・肺病変,両方にスポットをあてて,標準的治療を中心に最新の知見をわかりやすく紹介,解説されている。筆者らの実際の豊富な臨床経験に基づくわかりやすい本であり,『喘息予防・管理ガイドライン』や『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン』といったガイドライン本だけでは専門的になりすぎて,一般の医師が読むには意気込みが必要であるが,この本を読めば特に専門的な知識がなくともガイドラインに準じた治療や管理ができるようになっている。さらにこの本では,Q and A方式になっているので,辞書のように使用して必要なところだけ読めば,診断・治療の疑問に的確に答えを探せる工夫がされており,一般診療で呼吸器疾患を扱う医師,開業医が診察室の傍らに置いておく本としてうってつけである。

 特にすばらしいのは標準的治療の中心となる吸入療法の薬剤や吸入補助具(スペーサー)が図解入りで解説されている点である。吸入治療は吸入方法を正しく患者に説明し,患者もまたそれを守って初めて十分な効果が得られる治療である。せっかくよい治療がなされながら,うまく吸入ができずに効果がないと誤解する患者や,ステロイド吸入に拒否感のある患者に対して,数ある吸入薬を適切に選択し指導していくうえで非常に助けとなる内容となっている。これは日常診療の現場ですぐに役立つと思われる。

 もちろん治療だけではなく疾患の概念,診断,その他の最新の知見が網羅されており,フロントライン,さらにはこぼれ話的な歴史発掘,日本の先人研究者たちの紹介など,最後まで興味深く読める。

 一般診療で呼吸器疾患を扱う医師に,これから呼吸器専門医をめざす若い医師に,そして知識の整理,再確認の助けとして呼吸器専門医にも,ぜひお薦めしたい一冊である。

B5・頁288 定価3,990円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00391-9


イラストレイテッド
ミニマム創 内視鏡下泌尿器手術

木原 和徳 著

《評 者》筧 善行(香川大教授・泌尿器科)

ミニマム創が患者さんに届ける低コスト・安全・低侵襲

 ミニマム創内視鏡下泌尿器手術は後腹膜を主戦場とする泌尿器外科医の発想の賜物と言える手術法である。解剖学的指標に乏しい後腹膜腔を,層構造を注意深く意識しつつ疎な結合組織を押し広げた先に広がる予想外に広い手術空間,そして薄黄色の脂肪組織に包まれた標的臓器を同定した時の安堵感,これらは泌尿器科医が等しく共有するものである。木原和徳先生の考案されたミニマム創内視鏡下泌尿器科手術は今,静かに,しかし確実に実践する術者や施行を希望する患者を増やしている。

 著者である木原先生は,この手術手技は根治的腎摘除術と前立腺全摘除術が二大基本手術操作で,この二つができれば泌尿器科のmajor surgeryはほとんどがミニマム創でアプローチ可能となると強調されている。私自身は前立腺全摘除術でしか施行経験がないが,おそらくその通りであろうということは理解できる。

 初めてミニマム創で根治的前立腺全摘除術を施行した時のきっかけは忘れてしまったが,現在ではわれわれの施設の前立腺全摘除術のおよそ80%が本法で施行されている。患者さんが術後何となく楽に離床されていく様子や,創部感染が少ないことなどを肌で感じたことが続けている理由のように思う。しかし,当初はこんな窮屈な気持ちで最後まで完遂できるのか,という不安が大きかった。木原先生の考案されたPLES鉤(R)は当時入手できておらず,ノットスライド(R)のみで開始したが,細径金属吸引管を2本使用することでほとんどの手技が容易にできることに気がついてからは,一気にストレスがなくなったように思われる。本書では,木原先生自身が試行錯誤された末に考案された工夫が随所にちりばめられ,初めてミニマム創手術にトライされる方にもできるだけストレスのないように懇切ていねいな図説がなされている。と同時に,ミニマム創手術だけではなく,通常の開放手術や体腔鏡手術にも共通する重要な解剖学的事項も解説されていて,一般的手術書としても大変参考になるものに仕上がっている。

 泌尿器科手術の多くは癌に対する手術である。癌の根治性に関する議論がなおざりにされてはならないのは言うまでもないが,外科的治療がますます低侵襲化する傾向は間違いない。他の外科系領域でも,ミニマム創手術と類似の発想・手法で「ミニラパ手術」「吊り上げ手術」「鍵穴手術」などといった名称で開発・研究が進行している。体腔鏡下手術もロボットの導入や立体視の可能な内視鏡の登場などで一層の進化を遂げつつある。今後,低侵襲手術がどのような方向へ進むのか,最終的に無創手術のような形態に一極化していくのかいまだ予測はできない。また,ラパロとミニマム創の二股状態の,私のような優柔不断なものには,ロボット体腔鏡下手術も大変魅力的であるのは偽らざるところである。しかし,現時点ではあまりに高価であるのも事実で,それに見合うほど患者さんにメリットがあるのか,と問われると誰も明確な証拠は示せないのが事実であろう。ミニマム創手術はちょっと「窮屈」という欠点はあるものの,「低コスト」「安全」「低侵襲」という長所を多くの患者さんに享受させてあげるため,本書が大いに活用されることを願ってやまない。

A4・頁152 定価14,700円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00481-7

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