医学界新聞

寄稿

2008.02.04



【寄稿】

米国における一般内科とその研修システムについて

谷口 俊文(St.Luke's-Roosevelt Hospital Center内科レジデント)


 これまで米国における一般内科については言及されることがあるものの,詳細に関してはなかなか情報を得ることができない状況にあった。米国における一般内科の研修をする機会に恵まれたので,日本における内科のシステムとの違いを中心に米国の「一般内科(General Internal Medicine)」とその研修システムを解説させていただきたい。

 米国における一般内科医はおおまかにプライマリ・ケアとホスピタリストに分けることができる。ホスピタリストとは病棟専属医のことである。従来は外来をやりつつ自分の患者が入院した際には病棟へ足を運ばなくてはならなかったが,ホスピタリストを導入することにより,プライマリ・ケア医は外来に集中し,ホスピタリストは入院患者に集中するができ,効率化を図ることができるようになった。

 一般内科医にはプライマリ・ケアなど外来のみを行う医師,ホスピタリストとして外来を持たない医師,自分の外来患者が入院した際に外来の前後の時間を利用して病棟も管理する医師などそのスタイルは様々である。どのようなスタイルの一般内科医になるにしろその守備範囲は広く,それらに対応できるように一般内科に特化した研修が必要である。

プライマリ・ケアにおける一般内科医

 日本の内科研修において外来研修はほとんど整備されていない。総合診療部におけるプライマリ・ケア研修も始まったばかりである。ここでは一般内科におけるプライマリ・ケアの研修に関して取り上げたい。

プライマリ・ケア外来は完全予約制,急性疾患は救急に送る
 外来は施設によって差はあるものの,週に1回のペースで半日の研修をしているところが多い。病棟のローテーション中は午後にプライマリ・ケアの外来がある。プライマリ・ケアの外来は日本での「総合内科」外来と似て非なるものである。基本的に完全予約制であり,慢性疾患の管理,各専門医への紹介,予防接種や定期検診など医療の中心を担う。

 日本と違う点は,急性疾患を基本的には救急に送るということであろう。Walk-Inと呼び,予約なしでプライマリ・ケア外来で患者を受け入れることもあるが,その場で検査や点滴が必要と判断された場合にはそのまま救急に患者を送る。プライマリ・ケアと救急の棲み分けがしっかりできているためこのようなことが可能である。24時間受け入れ可能な北米型救急のシステムだからこそ成り立つシステムであろう。

 診断のついていないような初診の患者は,基本的にはこの外来の予約を取って受診する。場合によってはWalk-Inで受診することもあろう。どうしても具合が悪く予約まで待てない場合は,直接救急外来を受診することもある。

 定期検診に関しては,プライマリ・ケアの守備範囲は広い。身体検診や血液検査,尿検査はもちろんのこと,乳癌検診で乳房の触診および自己検診の指導,子宮頚癌検診(PAP Smear),内診などの婦人科検診もプライマリ・ケアの外来で行う。直腸癌検診すなわち米国では大腸内視鏡(便潜血では不十分)のスケジュールを管理,前立腺癌検診として直腸診とPSAの計測なども重要事項である。インフルエンザのワクチン,肺炎球菌ワクチン(Pneumovax),破傷風などの予防接種を行うのもプライマリ・ケアの仕事である。これらはすべてガイドライン,U.S. Preventive Services Task Forceから出ている推薦事項に従い,エビデンスに基づいて患者管理をする。そのためプライマリ・ケアにおいても最新の知識をアップ・デートしておく必要がある。

外来のブロック・ローテーションとCommunity Based Practice
 週に1回の外来の他に,私の病院では1年間に4週間のブロック2つ(計8週間)の外来ローテーションが存在する。午前中はプライマリ・ケアの研修を行い,午後はプライマリ・ケアに役立ちそうな他科の外来にて研修を受けることができる。自分の将来の予定によって調節可能であり,感染症専門医を志望する私は,HIV外来や皮膚科外来における研修を多く入れた。

 その他,私のプログラムの外来研修ではCommunity Based Practiceという枠がある。これは週に半日この外来ブロック期間中に近くの開業医と一緒に働き,実際に独り立ちした際の患者マネジメント,保険請求,訴訟対策などを学ぶことができる。

 プライマリ・ケアの外来では,個々の患者をより統合的に管理しているように思う。なお,小児科・産婦人科なども診ることのできる家庭医(Family Practice)は一般内科のプライマリ・ケアよりもさらに守備範囲が広い。専門医志向の強いNew Yorkなどの大都市では,成人であれば一般内科医をかかりつけ医として持つ患者が多い。州によっては家庭医が幅を利かせる。同じ米国とはいえども地域差があるようだ。

ホスピタリストとしての一般内科医

 一般内科研修の中心となるのはやはり病棟である。入院を必要とする患者は重症患者が多く,学ぶことが多い。幅広い知識を身につけることができるように病棟ローテーションも工夫されている。ここではまず,ホスピタリストとしての一般内科医がどのように機能するかを説明したい(図1)。

 基本的にすべての内科患者は「一般内科」に入院すると考えればよい。そしてプロブレム・リストごとに,必要に応じて各専門医にコンサルテーションを行うのである。そのため患者のマネジメントは一般内科医に委ね,各専門医は自分の得意分野に集中することができる。コンサルタントは一般内科医に推薦事項(Recommendation)を伝える。そのRecommendationに基づき,患者の背景などを考慮しながら一般内科医が治療方針の最終決定を下す。

 例えば,消化管出血の患者がいたとしよう。ERにてICUにおける管理が必要ないとされた場合,一般内科病棟に入院する。そして一般内科のチームが消化器内科医にコンサルテーションをする。内視鏡のスケジュールや投薬内容などを一般内科医と消化器内科医の間で相談しながら決定する。この患者が非常にコントロール不良の糖尿病であり,一般内科医の管理ではコントロールしきれないと判断された場合,内分泌科にコンサルテーションしてもよい。内分泌科医はRecommendationを一般内科のチームに伝える。同じ患者が救急を受診した際に心電図変化のない胸痛を訴え,トロポニンがわずかに上昇していたとしよう。するとやはり循環器内科医にコンサルテーションすることになるだろう。実際,消化管出血にて入院した患者の虚血性心疾患のマネジメントは難しい。

 このように,一般内科医は内科入院患者管理の中心を担う。市中肺炎,喘息,蜂窩織炎などCommon Diseaseの多くはコンサルテーションなしで治療し,退院させている。

 この際に実際の労働力として活躍するのが,一般内科のインターンとレジデント,そして研修医とほぼ同様の機能を持つPhysician Assistant(医師助手)やNurse Practitionerである。研修病院でない場合は,このPhysician AssistantやNurse Practitionerが実際の病棟をホスピタリストの指示のもとに切り盛りすることになる。

いかに幅広い内科の知識を研修で身につけるか

 私の研修する病院では一般内科のチームの他に,内科病棟にHIVチーム,循環器科チーム,腎臓内科チーム,老年病内科・緩和医療チームが存在し,一般内科研修医(レジデント)は各チームを2-4週間ローテートすることになる。指導医は各専門医,そしてそのマネジメントをアシストするためにフェロー(専門科研修医)がチームに加わることがある。これらのチームの指導医やフェローは基本的に内科専門医(ABIM: American Board of Internal Medicine)保持者であるが,どうしてもその専門分野のマネジメントに目が奪われてしまい,統合的に患者を管理する仕事はレジデントが中心になることがしばしばある。しかし,疑問や問題点が生じた場合にはすぐに上級のレジデントや集中治療専門医に相談できるシステムが整備されている。

 私の病院の内科プログラムは,腫瘍内科に関してはMemorial Sloan Kettering Cancer Centerで研修を行うことになっている。米国で常にBest Cancer Hospitalを争うこの病院の腫瘍内科入院は,われわれの病院の内科インターンおよびレジデントにより管理されている(この病院はわれわれの病院の他に複数の病院からインターン・レジデントを集めている)。ここでも基本は同じで,腫瘍内科の指導医(血液腫瘍,消化管腫瘍など細分化されている)が腫瘍内科のフェローと一般内科レジデント,インターンを率いてチームを構成している。プロトコールに従った化学療法の入院は,指導医の指示のもとNurse Practitionerが患者を受け持つ。患者管理は基本的に内科レジデントに任される。プロブレム・リストごとに必要に応じて各専門科にコンサルテーションするのは同じ。問題が生じた場合にはすぐに腫瘍内科のフェロー,内科のチーフレジデントや集中治療専門医に相談できるシステムが整備されている。

 内科入院の患者が重症化した際にはICUにて管理されることとなる。この場合には患者の管理は内科医の手を離れ,集中治療専門医に委ねられる。米国の集中治療医は重症患者に特化しているが,その中で横断的に患者を診ていくジェネラリストの役割も果たしていると私は理解している。私の病院では内科ICUは集中治療専門医,フェロー1名,レジデント4名,インターン4名で運営されている。プロブレム・リストごとに,必要と判断された場合は各科の専門医にコンサルトする。例えば急性腎不全で透析が必要とされた場合は,腎臓内科医にコンサルトする。消化管出血の患者でICU管理が必要と判断された際には消化器内科医が集中治療医からコンサルトを受け,ICUにて内視鏡を行う。このようなICUローテーションが1年間に4週間ある。

 CCU(Coronary Care Unit)も同様に研修する。ただし,CCUでは循環器疾患に特化しているため,患者の状態が重症化して様々な合併症をきたしたような場合は循環器科の手を離れ,その管理を集中治療医に委ねることになる。このような方針は施設により異なるであろう。

内科コンサルト

 一般内科医のもうひとつ重要な仕事として「内科コンサルテーション(Medical Consult)」があることも知っておく必要があるだろう。

 これは外科や精神科など他科に入院した患者の内科疾患の管理を任される。例えば精神科に入院した患者の高血圧・糖尿病の管理などを任せられる。術前評価も一般内科医の守備範囲である。虚血性心疾患のリスクを判断し必要に応じて負荷試験やカテをRecommendationする。何も循環器疾患に限ったことではない。インスリン療法,経口糖尿病治療薬を術前にどのように管理すればよいのか,血小板数の低い患者の術前評価,COPDの患者の術前管理,心房細動にてワーファリンを服用中の患者を術前にどのように管理すればよいのか。これらはすべて外科医が一般内科医にコンサルテーションを行い,一般内科医はRecommendationを伝えることとなる。

 このように棲み分けを行うことにより自分たちの得意分野に集中することができるのが,米国医療システムのよい一面である。

日本との違い

 日本との決定的な違いは前述の通り,病棟にて各専門科の患者を基本的には持たないということである。既存の日本の医療システムにホスピタリストとしての一般内科医を立ち上げたとしても,小規模の病院で各科の専門医がいない状況を除けば,どの科にも当てはめることのできない,いわゆる“はざま”の疾患ばかりの病棟になってしまう恐れがある。やはり各科を横断的に診ることのできるシステムが望ましい(図2)が,医療従事者のマンパワー,医療経済,保険請求の仕組み,各科専門医の数に制限がないこと,コンサルテーションがあまり一般的でない現状を考えると,そのまま日本の医療に同じような一般内科医のシステムを導入することは困難である。

 しかしながら医師不足が叫ばれる昨今,総合的・横断的に患者を診ることのできる医師はやはり必要であり,このような医師は日本の既存のシステムにない違う考え方と幅広い知識を身につける必要がある。これは各専門科を数か月ローテートして身に付く臨床能力ではない。やはり一般内科専門の研修が必要である。

 

 以上,一般内科(General Internal Medicine)について概念的・理想的な話は避け,なるべく具体的に綴った。

 最後に,私は米国における一般内科研修の詳細をブログという形式で研修開始と同時に残している。また米国臨床留学を志す医師を応援する意味を込めて,USMLE対策の仕方,英語の勉強方法などを紹介している。ぜひとも参照していただきたい。

URL=http://blog.livedoor.jp/med_nyc/


谷口俊文氏
2001年千葉大卒。武蔵野赤十字病院,在沖縄米国海軍病院を経て,05年よりColumbia大附属St.Luke's-Roosevelt Hospital Centerにて内科研修を開始。現在3年目内科レジデント。08年7月よりWashington University in St.Louisにて感染症科フェローの予定。将来はHIV/AIDSを中心とした感染症医として国境をとらわれずに活動したいと考えている。

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